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田重田静男厩務員

田重田静男厩務員(栗東・佐々木晶三厩舎)


昨年の宝塚記念は女傑ブエナビスタを完封してレコードで快勝。秋緒戦のオールカマーも圧勝してアーネストリー時代到来を思わせたが、続く天皇賞(秋)の惨敗を機にもがき苦しんでいる。しかし、そこは歴戦のつわものを育て上げてきた佐藤哲騎手&佐々木晶厩舎のコンビで、春のグランプリ連覇に向けた臨戦過程に抜かりはない。今回は同馬の取材ではお馴染みの田重田静男厩務員に復活への手ごたえを伺った。


「年齢的な衰えは感じないですね。 今ちょうど熟しているところではないでしょうか」


-:近走はあまり良い結果が残せていないアーネストリーですが、まず昨年の有馬記念について振り返って下さい。

田重田静男厩務員:ウ~ン、(結果を)残せてないね。リズムが良くないね。まあ、いろんなアクシデントと言いますか、天皇賞(秋)は大外枠でシルポートについていってしまう可哀想なレースになりましたし、有馬記念はハナに立ってしまうチグハグなレースになりました。アーネストリーにそぐわないレースが続いてしまっている感じがしますね。有馬記念でハナを切った時、ジョッキー(佐藤哲三騎手)は「周りを気にして集中して走っていない。フワーとしていた」ということでした。やはり集中力が途切れてしまうと力を出せないと思います。前に馬を置いた方が、集中力が途切れないという面がありますから。

-:前々走の大阪杯についてはどのように判断されていますか?

田:正直使えただけ良かったという感じでしょうか。有馬記念を使った後は放牧に出さずに厩舎で調整していましたが、元々右前にあった骨瘤を庇う(かば)ことで左肩に影響が出てしまい、調教が出来ませんでした。常歩(なみあし)は大丈夫でしたが、速歩(はやあし)をすると左前脚が出ないような状態でしたから。だから、何とか体を造って使っただけという感じでしたね。そうしないと宝塚記念に間に合わない可能性もありましたから。無理してでも1回使うことで馬が良くなってくることを期待しました。馬場(稍重発表)も向かなかったですけど、装鞍所ではウチの馬はデキの面で他よりも劣っているように見えましたし、それを考えると(0秒5差の6着は)頑張った方じゃないかなと思います。

-:馬体重(530キロ)は好走時と変わらなかったですが、どのような感じだったのですか?

田:ダボーンとした感じでしたね。筋肉がなくて絞まりのないダボーンですね。同じ530キロでも中身の伴わない530キロだったと思ってもらったら良いと思います。

-:前走の鳴尾記念ですが、調教からは上昇気配が窺えたのですが、状態はいかがでしたか?

田:8分ぐらいには持っていこうと思っていましたが、状態は良かったですよ。まあ、ここが本番ではなかったので、少しぐらいは太くても良いかなというのはありました(+6キロ)。先生(佐々木晶三調教師)とはプラス4キロぐらいかなという話をしていたのですが。

-:鳴尾記念のレース内容についてどう感じましたか?

田:アーネストリーのレースじゃなかったので、ちょっとガッカリしました。前に行きたかったと思うのですが、早めに閉められてしまったみたいですね。自分的には1番枠は良いなと思っていたのですが、結果的には仇になってしまいました。まあ、有馬記念でハナに立たされてしまったということも頭によぎったのかもしれませんね。でも一番後ろからよく5着まで追い上げたのではないでしょうか。切れる脚のある馬ではないのに、あの上がり(33秒3)だったわけですから。

-:左肩の不安は解消されたと見て良いのですね。

田:左肩の違和感は全然ありません。大阪杯を使った後には解消されていたので、鳴尾記念に向かうにあたっての過程では強い調教を施して、攻めていけたということです。大阪杯の時は恐々と、それこそ1本1本慎重に15-15を何本も積み重ねていくといった調教過程でした。だからビッシリやったのは実質1本だけでしたからね。



-:アーネストリーにとって大阪杯を使えたということは大きかったと。

田:そうそう。良かったですね。本当は大阪杯で70%ぐらいには持っていきたかったのですが、60%もしくは65%ぐらいまでしか上げられなかったです。馬は良くなってきていると思いますし、(宝塚記念は)去年勝っているレースですからヒケを取らない体の造りに持っていきたいですね。

-:7歳という年齢的な面についてはいかがでしょうか?

田:年齢的な衰えは感じないですね。今ちょうど熟しているところではないでしょうか。馬体の張りもありますからね。僕らも最高の状態に近づけたいと思って仕上げていくのですが、馬もそれに応えようという気持ちがある半面、躊躇してしまうところもあります。だから人間の側がもうひと押ししてあげることが重要ですね。まあ、年齢的なことは考えていないですね。

-:長い間、一線級相手に高いパフォーマンスを見せられる秘訣は何でしょうか?

田:数を使っていないことが良いのではないしょうか。実質年齢は7歳だけど、精神年齢は7歳ではないですね。体に触れた時の仕草なんかも5歳ぐらいにしか感じないですからね。精神的にもまだ若いですし、もう一花咲かせられると思いますよ。


「本来の力さえ出し切れれば、 レコードタイムで走れる力を持っている馬ですから」


-:明日(13日水曜)の1週前追い切りはどんな形になりそうですか?

田:いや、明日はやりません。

-:え、それはまた何故?

田:1週前は金曜日(15日)にやる予定です。金曜日に追い切る方が、土曜日に休ませて、日曜日にまた軽く乗れますから。鳴尾記念からの間隔が短いこともありますし、今週やらない訳にはいかないので……。日曜日にソコソコの時計を出してしまうと次の日が全休日になって状態を確認できなくなってしまいますから。やっぱり追い日の翌日は運動で状態を見極めたいというのがありまして、先生もそういう考えです。

-:金曜日はジョッキーが跨っての追い切りですか?

田:いや、厩舎サイドでやります。ジョッキーが乗るのは来週の本番だけだと思います。今週1本やって来週も1本という感じです。坂路で53秒か54秒切るぐらい、タイム的にはそんなに出さないと思います。体は出来ているので、太らさない程度の調教です。カイバで加減はしたくないですから。ウチのテキは「今週はやらなくて良いやろ」と言っていたのですが、私はやらないと太ると思ったのでやって欲しいと言いました。それなら、いつになるか、ということで金曜日になりました。-4キロの532キロが目標体重です。



-:人気がどれくらいのところになるかはわかりませんが……。

田:去年(6番人気)と同じぐらいの人気なのではないでしょうか。でも、本来の力さえ出し切れれば、レコードタイムで走れる力を持っている馬ですから。あと雨は降って欲しくないですね。脚質的に好位差しになるので、下がぬかるんでいると邪魔になるからね。どうしても内目を走る馬でもありますし、外目を走るわけでもない。パンパンでなくても良いので、乾いた馬場でやりたいですね。

-:蹄の形から重馬場適性について、どうみていますか?

田:あんまり上手じゃないかな。蹄は深くもないけど浅くもないかな。まあ、どちらかと言えば浅い方かな。

-:体系的にはグラスワンダー産駒が見慣れないということもあり、独特なアーネストリーの形というか。これぐらいの距離を走るにしては、マッチョな体型ですよね。パワータイプでスピードの持続性がある。

田:本来、長距離向きの馬はシャープな体型をしていますからね。だから冬場はキツイのではないでしょうか。筋肉質だし、発汗をしにくいので、新陳代謝が悪くなるのでしょうね。アーネストリーは汗をかくことで、筋肉もほぐれて気持ちが昂ってくるようなところがありますから。

-:エンジンの中にオイルが回りきって、動き始めてくるというか。今年の宝塚記念も錚々たる馬が顔を揃えますが、ある程度、脚質的には有利ではありますよね。

田:そうですね。確実に逃げる馬がいて引っ張ってくれる展開になれば良いのですが。この馬は重賞5勝していますが、勝った時は確実に逃げてくれる馬がいたから。前に行って好位に付けられる展開が理想ですね。正直2番手の形が理想です。その辺りはジョッキーも良く知っているので、ハナに立つことは躊躇するのでしょうね。

-:自分の形にこだわるには、前走の敗戦が逆に好結果を生むのではないでしょうか?

田:こだわれるかもしれませんが、現場でやっている人間からすれば、負けることでアーネストリーという馬の値打ちを下げたくないというのが本心です。まあ、確かにこの宝塚記念のためにここまでやってきた訳ですから、今までの鬱憤を爆発させたいですね。

-:田重田さんも、ここへ向けて、毎日電気をあてたり、ここまでに努力されてきたわけですからね。あとはあまり枠が外じゃないといいですね。

田:できれば内枠で、相手の出方を見ながら好位で競馬が出来れば理想的だと思います。2番手で慌てることなく、後ろの出方を窺う形ですね。勝ち負けを狙えると思いますし、狙っていきたいと考えています。連覇したいですね。

-:パドックでの気配、特徴について教えて下さい。

田:勝ち負けしている時はパドックでも集中しています。グッと気が入っていても、変に力んで歩かない方が良いと思います。力みがあると空回りしてしまう恐れがありますから……。逆に負けている時はキャロキョロして集中できていないことが多いように思います。馬場入りの時は気合が乗ります。怖いぐらいですね。だから今回も先出しの予定です。他の馬と一緒に馬場入りさせるのは無理ですね。それこそ集中力が途切れて、ただのパニクった馬になりかねません。早めに馬場に出して、自分のリズムで返し馬をしてポケットで落ち着かせた方が良いですからね。

-:体調は万全と考えてよろしいでしょうか?

田:ええ。あとは体調維持と微調整で良いと思います。まあ、それが一番大事だと思いますが……。

-:最後にアーネストリーを応援してくれるファンにメッセージをお願いします。

田:見ていて下さい。巻き返します。その言葉に尽きます。

(写真・取材)高橋章夫




【田重田 静男】Shizuo Tajyuta

1955年1月10日生まれ。 久保厩舎からこの世界に入る。S47年の京都牝馬特別など10勝したセブンアロー等をこれまでに担当してきた。現在はオープン馬のダノンスパシーバも担当。 息子は池江泰寿厩舎で調教助手として活躍している。