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井上泰平調教助手

昨年は牝馬三冠を制覇し、ジャパンカップでオルフェーヴルを撃破。本年緒戦はドバイシーマクラシックで2着と好走しながらも、過剰には称賛されなかったあたりが年度代表馬の宿命だが、この宝塚記念で4歳世代の牡馬ツートップであるフェノーメノとゴールドシップと初めての3強同時出走を迎えるジェンティルドンナ(牝4、栗東・石坂厩舎)。再び頂をとるための決戦を控えた井上泰平調教助手に、愛馬の仕上がりを伺ってきた。 。

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ドバイのレースと調整を振り返って

-:ドバイの前走(シーマクラシック)は結果的に2着でしたが、結果はコースレコードだったんですね。その時の馬場状態が日本の馬場と比べてどうだったか、教えてください。

井上泰平調教助手:はい、レコードでしたね。馬場は芝の密度も濃かったので、時計の掛かるような馬場だったと思うんですよ。下もクッションが良かった印象です。

-:それは柔らか過ぎて、日本馬が走りにくい馬場ということではありませんか?

井:初めて走る感覚ではあったと思いますけれど、日本の馬場のようにちょっと硬い感覚ではなかったので。

-:ちょっとメリ込む感じの?

井:ソフトな感じで、柔らかい感じですね。開幕週の函館、札幌の洋芝で、もうちょっと芝の密度を濃くしたような……。

-:あれよりも濃いんですか?札幌とか、函館の開幕週は結構、芝が濃いですからね。

井:濃いですけれど、この間、阪神に行って、結構キレイに見えたでしょ。あれでも全然違うなと思いました。日本の馬場の方が高速馬場だと思いますね。

-:日本の馬場の方が芝の密度が薄くて、路盤が硬いところをダイレクトに踏みしめる感じですか?

井:まあ、そうですね。スピードは出ると思いますね。

-:レコード決着で勝ち時計自体は2分27秒でした。結果的にセントニコラスアビーにうまく逃げ切られたというか。

井:そうですね。勝ち馬を讃えたいですね。

-:その時のジェンティルドンナというのは十分に力を出せるコンディションでしたか?

井:別に調子が悪かった訳ではないですしね。

-:それだけ日本と変わらないコンディションを維持できたというのは何か理由がありましたか?

井:輸送が上手くいったのが大きいと思いますし、そこに尽きるかなと思いますね。



-:ジェンティルドンナは坂路で調教をしている馬じゃないですか。その馬がドバイのフラットな馬場で同じように調整できた秘訣というのはどういうポイントに感じますか?

井:滞在期間が短かったので、そんなにシビアに考えなくても、大体の負荷を掛けて行けば上手くいくというのは分かっていたので。

-:その辺は乗っている感覚で?

井:(石坂)先生の指示もあって、「大体、コレぐらいで乗れ」と。

-:以前、先生にも聞いたんですけれど、最初の芝コースで追い切る時にカラーで幅を詰められて、それが狭過ぎて、先生が「これじゃ走れない。追い切りができないからもっと広げてくれ」というオーダーを出したと言っていたんです。

井:そうなんです。馬場のちょうど真ん中にポールが立っていて、その間を抜けていくというコースだったんですけれど、追い切りの時はそれを外側に、外ラチ沿いに外のポールを置いてもらって。だから、真ん中を走るというよりも外ラチ沿いを走るという風にしてもらったので、そこからハミ出してはいけないというよりも、外ラチ沿いをいつもと同じように。まあ、ちょっと狭いんですけれど、やれば良いなということで。

-:最初はどれぐらい狭かったんですか?

井:幅が4メートルもなかったです。それもコーナーをずっと同じ幅で回っていっちゃっているので。どうしてもコーナーリングというのはストレートで走ってる訳じゃないので、ちょっと内に入ることもあるんですけれど。それが最初、“コレ、通れんのかな、無理ちゃうかな”と思ったんですけれど、馬も戸惑いながらも通過してくれたんで良かったんですけど。

-:ということは、最終追い切りだけ、もうちょっと外ラチ沿いに広げてくれと?

井:外ラチ沿いにして、広げてくれたんですけれど。まあ、それは通れましたね。

-:そういうNOと言えない日本で、日本人は何でもかんでも向こうに言われたまま受け入れてしまうことがあったんですけれど、ココにきて、自分から主張して馬のコンディションをちゃんと保てるように手を打つことができるようになってきたんですね。

井:まあ、それは先生が何回も行ってらっしゃるのでね。

-:前に角居厩舎で取材をさせてもらった時にウオッカが鉄(蹄鉄)でしたか「急に日本の蹄鉄がダメだと言われて、困った」という話をされてたんですけれど、そういう意味で海外で戦うのと、日本で戦うのでは全然、違う意味での難関がありますよね。

井:そうですね。人間が慌てないことが一番なのかなと思います。

-:日本のジャパンCを勝っているジェンティルドンナですから、もちろんドバイでも人気になって。

井:スゴい人気でしたね、ハハハ(笑)。

-:それに報いる走りができたけど、相手が非常に良い競馬をしたという感じで?

井:この間(6月の英・コロネーションカップ)も勝ってましたもんね。強い馬だと思います。

-:それでも、これで世界水準に十分ある馬だというのは世間の方も認められたと思うのです。

井:でも、勝つのが当たり前みたいな空気が流れて、それがスゴく悔しかったです。



コース適性と理想の馬場状態

-:今回の宝塚記念は(取材後にオルフェーヴルが残念ながら回避してしまった)、ジェンティルドンナとゴールドシップ、天皇賞(春)を勝ったフェノーメノですからね。担当者の方からすれば、おもしろいと言っている場合じゃないんですけれど。

井:みなさん一生懸命仕上げてくると思うんで。牝馬だし、胸を借りるつもりで頑張りたいと思いますけどね。

-:どうですか。今回も強力な牡馬相手に戦う心境は?

井:厳しい戦いになるでしょう、それは。まあ、スゴくタフな競馬になるだろうし。

-:阪神コースでは桜花賞を勝っていますが?

井:坂は気にしないと思うんです。坂路も結構動くし、そういう非力なタイプの馬じゃなく、パワーもスピードもあると思うので。ただ、阪神の内回りというのがね。でも、逆に言えば、前のポジションが取れる馬だし、そんなに悲観するようなコースでもないと思います。

-:ジェンティルドンナほどの馬になったら、右回り、左回り、阪神、京都という舞台は?

井:中山はどうかなと思うんですけれど、あんまり良い馬場じゃないんでね。

-:ベストはパンパンの良馬場で競馬をするのがあの馬にとっては理想ですか?

井:良いと思います。

-:去年、ジャパンCを使うのか、エリザベスを使うのか、という選択があったと思うのですが、結果的にエリザベス女王杯は雨のドボドボの馬場で、京都の馬場の中でもココ最近ではないぐらい悪かったんですけれど、あのレースが終わった次の週ぐらいに先生が「ジェンティルドンナは(運を)持ってる。あんな馬場で走らなくて良かった」と言っていた記憶があるんですが、今の時季は梅雨じゃないですか。それでも、こんなおかしな快晴が続いているんですけれど、これから降るよりはやや硬めのコンディションが残ってくれた方がジェンティルには良いという感じですかね?

井:と思うんですけどね。でも、雨が降ったら降ったなりに得意な馬はいると思うんですが、悪い馬場ということに関してはみんな同じ条件なんで、それはジョッキーもそういうのを考えて乗ってくれると思うので。





-:兄弟はどうでしょう?

井:姉のドナウブルーはこなしますね。

-:ドナウブルーはスゴくこなすじゃないですか。京都の最終、ミルコが乗った時ですかね。コレは悪いなという感じだったんですけれど、意外や意外、スイスイ伸びてきたと。

井:ドナウブルーは走り方が掻き込みタイプなので、そういう下が悪い時もグリップを利かせて走れると思うんですよね。

-:それに比べてジェンティルは言葉で表現するとどんなタイプとみますか?

井:どっちかと言うと、もっとスッ、スッと行くタイプなんで。あんまり掻き込むという感じじゃないので、どっちが良いと言うと、良馬場の方が良いんでしょうけどね。

-:ジェンティルの方がもうちょっと軽いタイプで?

井:パワーと素軽さがあるような……。エンジンが大きくて、軽い走りをするタイプだと思うんですよね。甲高い音が走っていくような感じの馬な気がしますね。その悪い馬場が苦手という訳ではなくて、シッカリとトルクもありますしね。

ジェンティルドンナの井上泰平調教助手インタビュー(後半)
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【井上 泰平】Taihei Inoue

大阪府豊中市出身。9歳から乗馬を始め、高校生時代に国体を優勝。必然の流れにより大学では馬術部に入る。卒業後は美浦分場に2年間勤務。アイルランドの研修などを挟んだ後に競馬学校へと進学し、中村均厩舎からトレセン生活をスタート。その後は開業直後の角居勝彦厩舎で調教主任を務め、大久保龍志厩舎では持ち乗りから攻め専に転身。後の名門厩舎の基盤を築く。
32年に渡る馬乗り人生の中で、現在モットーにしていることは「馬との信頼関係を築くこと。分かりあえたかなと思っても、また違うのかなとそれの繰り返し」と。石坂正厩舎の屋台骨を支えるベテラン調教助手。