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内田博幸騎手



このコンビをなくして秋競馬は盛り上がらない!天皇賞(春)でまさかの敗戦から一転、宝塚記念は大胆な先行策で3馬身差の圧勝。いよいよゴールドシップ(牡4、栗東・須貝厩舎)が京都大賞典で秋の緒戦を迎える。今回はパートナーとして当人同士でしか分からない感覚的な部分、この中間の感触、来年を見据えての願いなど、人情味溢れるエピソードを内田博幸騎手が語ってくれた。

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内田博幸騎手の最終追い切り後のコメントはコチラ⇒


圧巻の復活劇を振り返る

-:ゴールドシップについて、内田ジョッキーにお話を伺ったのは宝塚記念前でした。天皇賞(春)で敗れた後だったということで、話を聞きにくい面もあったのですけれど、内田さんの話の中で印象的だったのが“馬はやっぱり動物だから、その日の気持ちもあるから、毎回100%のパフォーマンスを出すことを望んでも、馬がかわいそうだよ”という話でした。宝塚記念の日のゴールドシップの機嫌や気分はどのような感じだったのですか?

内田博幸騎手:馬がヤル気になっていたので“コレは大丈夫だな”という気持ちはあって、勝ち負けはレースが終わってみなきゃわからないのですが、“走れる状態でいるな”というのはレースをする前に感じ取れましたね。

-:宝塚記念は、ゲートを出て最初の100mぐらいが勝負の分かれ目だったんじゃないかなと思うんです。その時の内田ジョッキーの心境と、それに応えたゴールドシップの反応はどうだったのですか?

内:スタートをして、それほど早く前には進んでないんですけどね。でも、ちょっと強引でも良い位置にと。まあ、頭数も多くないですし、外枠なのもあって、わざわざ後ろに下げてジッとして、いつものような競馬をする必要もないかなと思いました。この馬のスタミナを信じて、あり得ないとは言わないまでも、今までそんなに先行したことがないのに、馬にちょっと強引な競馬をさせた感じはありましたよね。

-:“コレはちょっと無理に行き過ぎてゴールドシップの機嫌を損ねたらどうしよう”と心配をしながらライブで見ていたんですが、乗っている感触としたら、そこまでゴネてるとか、嫌がって前に付けているという感じではなかったのですか?

内:いや、調教をやっていてもヤル気になっていたんです。少々無理をしても、この馬だったら耐えられるだけの能力があるので。





-:それだけの調教を積んできたと?

内:距離も短いし、2200に対応するにはやっぱり、ある程度の強引な競馬も必要じゃないかなと思いました。それはこの馬のスタミナを信用しての行動でもあったし、“このまま負け続けていく馬ではない”ということを知ってもらいたいという気持ちもあったしね。

-:騎手としてはあの作戦はかなり根性がいるというか、あらかじめ想定をしていないと絶対にできないことだろうな、という気がしたのですが。

内:でも、正直に言って、当日までどう乗るかというのは考えてなかったですね。僕はほとんどの騎乗がアドリブなので。今日はこの方が良いんじゃないかな、というね。それでも、“スタートが普通に決められたら”という気持ちはありました。ただ、スタートが今イチ決められなかったら、そんな強引なことをしてもしょうがないし、普通に出ることは出たのでね。二の脚はいつも通りスッと付く馬じゃないから。外枠だし、“コレなら少しこの馬にヤル気になってもらおうかな”という騎乗でした。

-:今後に繋がりそうな一戦で、勝利よりも前半の位置取りを取れたということが大きかったと思います。やっぱり、外枠だったというのがあるんですね。あれが1枠とか2枠で、前に馬がいた場合はあのようなレースはできましたか?

内:確かにできないでしょうね。それは運が良いんですよ、馬自身も。運も実力の内ですから、運を引き入れられる馬なんだと思います。枠順もそうだし、頭数もそうだし、天侯もそうでしょう。やっぱりそういうのも含めて、全体的にゴールドシップが勝つ舞台が揃ったということだったんでしょう。だからこそ、これだけG1を勝って来られたんでしょう。強いだけじゃ勝てないし、運も味方して勝って来られたんじゃないかなと。なかなかG1を何個も勝っていくというのは難しいことですからね。何がスゴいと言ったら、有馬記念と宝塚記念の両方のグランプリを獲ったことじゃないかなと思いますよ。やっぱり強い馬という証明をした一戦だったし、両方を勝てるということはスゴいなと、改めて感じています。

-:ファンも内田ジョッキーも同時にホッとした一戦だったと思います。

内:勝ち続けても、その時のレースが勝てれば、やっぱり嬉しさよりもホッとする気持ちの方が強くなりますしね。これだけ人気して支持されれば、良い結果で終わりたい、という気持ちと、自分よりも関係者や応援してくれているファンのためにも何とかしなきゃいけない、という気持ちの方が強くなるんでね。それに応えられたということに安心できたということですよね。

-:強運の持ち主であるゴールドシップが選んだジョッキーが内田ジョッキーだったと。色々な人が乗られてきて、内田ジョッキーに巡り合ったという幸運があるんですね。

内:僕も運が良かったんでしょうね、そういった馬に巡り合えたということは。僕もケガ明けだったので足掛かりになってくれたし、内田という存在を関係者の人たちに印象付けたレースをしてくれた馬なのでね。まあ、感心するぐらい、同じようなパターンのレースをしない馬ですね。共同通信杯の時は、いつも後ろから行っている馬が3番手に行って、ああいった今までにないレースをしてくれたと思ったら、皐月賞では、後ろから行って長く良い脚を使う感じになって、みんなが通らない内を通って、あり得ない勝ち方をしてくれて。ダービーでは成績が上手くいかなかったかもしれないですけど、菊花賞ではあり得ないロングスパートでねじ伏せてね。その後の有馬記念もスタートが良くなくて、後ろからポツンという感じになって、アッという間に3~4コーナーで上がってきて。



主戦から見るゴールドシップ

-:キャラが強い個性派なんですけど、ゴールドシップのことをカワイイというファンもいます。内田さんからファンに向けて、本当のゴールドシップはこういうキャラなんだよというところを教えて下さい。

内:ゴールドシップは芦毛馬ですからね。芦毛馬というのは他の馬よりも我が強いというか、ちょっと個性的というか、変わった一面を持ち合わせているんでね。頭が良いんだか、頭が悪いんだか、よく分からない面が(笑)。意外に馬自身が人よりも上を行っている場合が多くて、芦毛になると、更にその上を行くことがあるんです。

-:内田ジョッキーにも上から目線で来るんですか?

内:来ることもあるでしょうね。だから、逆にコッチもそうならないように乗らなきゃいけないです。

-:それでいて馬に任せるところは馬に任せて?

内:それはそうですね。だから、頑固なところはスゴく頑固だし、暴れたらちょっと手に負えないぐらいの大暴れをします。外から見たらカワイイと思われますけど、実際にこの馬に接して、近くにいたらね。やっぱり競走をさせていますからね。獰猛な部分がかなりあると思います。そういうのがなければ、競馬でああいったことはできないですからね。どの馬も多少なりともそういう部分は持っているかもしれないですけど、そこを全面に出す馬なんです。

-:それも我々ファンにとっては魅力なんです。今回もゴールドシップには(調教で)3週続けて乗られているんですね?

内:そうですね、はい。





-:今朝(9/25)の追い切りは時計的にはあんまり速くなかったんですけど、内田ジョッキーの感触をファンに教えていただきたいです。

内:この馬は時計じゃないので。いかにこの馬が良い状態で走る気になっているか、最後の直線で一番スピードが乗った時の背中から首、トモにかけての全体のバランスが、どういった走りになっているか、それが一番大事です。その中で、今日は良い走りをしていたと思いますね。時計はそんなに速くないんですけど、最後は12秒半ぐらいで来ていて、その12秒半のスピードが物凄く体を使って走って、物凄く良い走り方をしていたので、悪くないなという気はしますけどね。

-:京都大賞典に向けて来週もう1本追えますからね。

内:そうですね、もう1本あるので。

-:すでに良い状態にあって、休み明けを迎えるということですね。

内:その前の週にも、表(CW)である程度の時計は出しています。その時の感触もかなり良かったです。今週は今週で、ジャスタウェイを見ながら良い感じで併せられたので、順調に来ていると思います。力は出せると思うので、そのことを考えながら騎乗していかなきゃいけないですね。



来年の凱旋門賞を見据えて

-:時期的にも凱旋門賞が目前です。やっぱり凱旋門賞でゴールドシップと内田ジョッキーのコンビを見たいという願いがあるのですが、もちろん馬場適性は合いそうなんですけども、内田ジョッキー本人からしたら、どんなイメージですか?

内:この馬は物凄く調教とか色んな面で苦労している馬なので。だいぶ大人になってきたので、取りあえず今年は国内で頑張って、本当に強いゴールドシップで行ってくれれば、先にそういったモノが見えてくるんじゃないかと思います。それは馬主さんや調教師さんみんなが話し合って、どうしていくかということを決めていく訳ですけども、ヨーロッパの深い馬場は確かにゴールドシップも合うと思いますしね。

-:ヨーロッパのトップジョッキーの中に内田博幸が混じって。

内:乗ってみたいですね。

-:日本人もやるぞというところを、日本人の代表として見せて欲しいという気持ちがありますから、それは馬主さんとか関係者だけじゃなくて我々ファンも、そういう風に持っていくようにしたいんですけどね。

内:ぜひ、そういう風に。自分自身も、どこに行っても結果が出せるようなジョッキーを目指して常に勉強をして、色んなコースをシッカリと体に焼き付けたいです。

-:ゴールドシップの強さばっかりが目に付きますけども、この馬の一番の良さはやっぱり、ケガをしていないということですね。

内:強さですね。それはやっぱり、スゴいことだと思いますけどね。

-:それを今年1年もキープして、このまま来年に繋げて欲しいです。

内:そうですね。そうしたら本当に楽しみですね。

-:また、G1直前にお話を聞かせていただきたいので、よろしくお願いします。

内:こちらこそ。よろしくお願いします。

宝塚記念前・ゴールドシップについてのインタビューはコチラ→





【内田 博幸】Hiroyuki Uchida

1970年 福岡県出身。
1998年 大井競馬からデビュー。
2008年 JRAへ移籍。
JRA初騎乗
1993年7月25日 2回新潟4日2R ワカバトウショウ
JRA初勝利
2002年4月21日 3回東京2日1R イルラーゴ


■最近の主な重賞勝利
・13年 宝塚記念/13年 阪神大賞典
(共にゴールドシップ号)
・13年 ローズS/13年 フローラS
(共にデニムアンドルビー号)
・13年 ヴィクトリアマイル(ヴィルシーナ号)
・13年 目黒記念(ムスカテール号)
・13年 弥生賞(カミノタサハラ号)
・13年 NZトロフィー(エーシントップ号)
・13年 エルムS(フリートストリート号)
・13年 ダイヤモンドS(アドマイヤラクティ号)


公営・大井競馬所属から1989年に騎手デビュー。
的場文男、石崎隆之騎手らが全盛期の時代に頭角を現すと、2004年に年間385勝(他、中央では28勝)を挙げて、初の南関東・地方競馬全国リーディングを獲得。 また、鉄人・佐々木竹見の年間505勝の記録を2006年に更新。同年には地方524勝、中央61勝という並外れた成績を残し、翌年には地方所属ながらNHKマイルCでピンクカメオに騎乗し、中央G1初勝利を挙げた。
07年には08年度のJRA騎手試験を受験を決意。当時の規定で、1次試験は免除となり、晴れて、08年3月1日付けでJRA騎手となる。その後の活躍は周知の通りだが、2010年にはエイシンフラッシュで日本ダービーを制覇。一昨年は大井競馬で頸椎歯突起骨折の重傷を負い、長期休養を余儀なくされたが、ゴールドシップとのコンビでG1の舞台でも活躍。完全復活をアピールしている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。