関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

小滝崇調教助手

これまでの大味な競馬から、人気になりつつ秋華賞では内回りの懸念もされていたデニムアンドルビーだが、やはりプラスにはならなかったという結果。しかし、その実力はライバル陣営すらも認めるところで、エリザベス女王杯では4頭出し角居厩舎勢の大将格に推されることは間違いない。近親には同レース勝ちのトゥザヴィクトリーを筆頭に、重賞勝ち馬がズラリ。小滝崇調教助手が、超良血のお嬢様が愛される訳、愛したくなるキャラクターである所以などを聞かせてくれた。

条件的に好転する外回りの2200m

-:秋華賞は1番人気でしたが、残念な結果になってしまいました。1つのテーマとしては位置取りも気になりましたし、もう1点は良馬場の時計勝負になった時にどのような競馬をしてくれるかという楽しみもあったのですが、小滝さんから見たデニムアンドルビー(牝3、栗東・角居厩舎)はどのような印象でしたか?

小滝崇調教助手:よく頑張ってくれたなと思います。あんなに後ろから無理な競馬をしても、あれだけ走れるわけですから。馬の調子も悪くなかったので、相手の馬が強かったということで、納得はしています。ゲートを出る出ないや、馬場の形態などはレース毎につきまとうものなので、前回はそういう競馬だったと思うようにしています。

-:この馬のことをスタミナ勝負に向く馬だと言うファンもいるのですが、結局4着まできているじゃないですか。着差(2馬身)もそんなにありませんでしたし。1番人気だと、ジョッキー心理として、どうしても早めに仕掛けないといけませんからね。

小:仕掛けざるを得ないのかなとは思います。内田さんも勝負に出るにはコレしかないという感覚でいたみたいです。後ろからの競馬をするしかない馬なので、最善だったのではないかと思います。

-:そう考えると、人気してあのような競馬になるよりは、流れが向くのを待てるという意味で、エリザベス女王杯の場合、コースも今度は外回りになります。

小:正面スタンドに目一杯直線があるので、めちゃくちゃ速くはならないですしね。馬券を買うファンならもっと詳しいんでしょうけど、2200mの外回りコースの方が競馬はしやすいだろうなとは思います。

無駄肉のない相変わらずの状態

-:そこで重要になってくるのが、今のコンディションなのですが、使った後の状態、体の変化というのはどういう風に感じますか?

小:秋華賞で無理しながら目一杯の競馬をしましたけれども、いつもと一緒で、そんなにへこたれている風もないです。体の線は競馬を使ってきているので、少しずつ細くはなっていますが、ガレたということもないですし、逆に締まったという感覚で、精神的に変わったなということもないです。とにかく1番良いことは、引き続き歩様が凄くいいですね。前はよく硬くなることがあったのですが、今回はそういうところが見受けられないですね。

-:レースで強い負荷が掛かった後に硬くなるということですか?

小:目一杯、力いっぱい走るので、その分ですね。じきに取れてくるのですが、それが今回はなかったですね。



-:体重うんぬんではなく、筋肉の質的に、強い負荷に耐えられるような体に成長してきたということですね。

小:前は乗り出しとかでコツコツしていることもあったのですが、今回はそういう心配が全然なかったです。それなりにケアもしているのですが、馬がどんどん強くなっているのかなという気はします。

-:体重的にはどのくらいの変動なのですか?写真を見たのですが、若干細くはなっているけれど、柔らか味というのは感じられます。

小:数字的には446です。秋華賞の1週前が448くらいだったので、同じ1週前に446なので、少しずつなだらかに締まってきている、線が細くなっているくらいですかね。そんなに気にはならない数字です。

-:一気に10キロポンと減ったみたいなことはないんですね。

小:もともと減り幅が少ない馬なので。

-:あの馬の気性的な落ち着きというか、まったりできる部分があって、ちゃんと餌も食べられるという強みがあるからですか?

小:もちろん、性格的なものもあるんでしょうけど、体にあまり無駄な肉がないんだと思うんですよ。減りようがないんだと思います。

-:体脂肪が元々少ないんですか?

小:触っていても、脂肪というものがあまり感じられないですね。だから、移動しても減り幅が知れているという。小ぶりですけど、凄くスタイルがいいですよね。

凄く大事に育てられてきた馬

-:今日も坂路で乗られていましたが、ピッチ走法の馬の方が、坂路では時計が出るじゃないですか。デニムアンドルビーはフットワーク的にどのような感じで坂路を走っているのですか?

小:小柄ですし、ピッチではあると思うんです。脚元を取られることはまずないですし、真っ直ぐひたすら。乗り味は脚が着いている感覚というよりも、ボールが弾んでいるような感じです。一歩一歩を感じる、というよりは、浮いている感じです。

-:僕も写真でしか判断しないので、ピッチ走法とか硬い馬は常に着地している写真が多いし、弾む馬は四肢まとまって宙に浮いている写真が多いです。

小:一瞬で地面から離れているんだと思います。



-:凄くスナップの利いた走りですか?

小:案外、トルク重視なのかもしれないです。ドドドドと一気に走るスピードはあるかもしれないですね。

-:長く足を使うということですね。

小:重たい馬場でももちろん、パワーもあると思うので、しっかり脚を付けて走ってくれるので、急加速ができるのかな、と。そこからのトップスピードがどこまで伸びるのかはわかりませんけど。

「前は凄く強いですね。後ろは女の子らしくシュッと細が長い感じはしますけど、胸前から肩先にかけてのボリューム感が凄いんです」

-:前足や肩の筋肉が発達していないと、滑ってしまうので走りにくいと思うのですが、乗っていてどう感じられますか。

小:前は凄く強いですね。後ろは女の子らしくシュッと細が長い感じはしますけど、まず言えるのは胸前から肩先にかけてのボリューム感が凄いんです。もちろん、お尻も他の馬に比べたら立派ではありますけど。

-:そういう点をパドックで見るファンには注目して欲しいですが、紙面用の写真は横から撮るので、けっこう身体が薄っぺらく見えるものなんですよね。けれど、デニムアンドルビーが坂路の角馬場で歩いている姿を見たりすると、立体的に見えるじゃないですか。そういうところで、身体の良さを判断して欲しいですね。

小:付くべきところに付いている、“ボン・キュッ・ボン”といいますか(笑)。のっぺりとしたスタイルではないですよね。

-:それでいて、この馬には精神的な落ち着きがあって、ゴチャゴチャした坂路の角馬場でも、あんまり取り乱すことがないイメージがありますが、それはどうしてでしょう?

小:持って生まれたものかもしれないですけど、凄く大事に育ってきた馬なんだなということがわかりますね。人間のことが凄く好きですし、出産から育成まで可愛がってもらって来たんだなあと。実際に厩舎でもそうですよ。

-:トレセンの環境は、馬にとっては厳しいものだと思いますけど、それでも性格が変わらないのは体力があるからこそなんですかね?

小:余裕はあるんだと思います。周りの馬が暴れていても一頭だけフラフラ歩いていけるんですよ。でもパワーは凄いので、たまに暴れたりすると手がつけられないくらい、落ち着くのに時間がかかりますね。数ヶ月に1回くらいなんですけど、その時は大変です(笑)ガタイのいい馬なんで、なかなか……。めったにないですけどね。



-:ファンが見られるのはパドックから返し馬になりますけど、そこで注目して欲しいところがあれば教えて下さい。

小:やっぱり、パドックではしっかり歩けているかどうかが一番気になりますね。オークスの時は若干しんどかったのか、いつもの歩き方より窮屈かなという感じで、実際に引っ張っている感覚がフローラSの時とは違いました。

-:それは、身体の出が悪いということですか?

小:G1の舞台になると、パドックの中に馬主さんなどもいますから、それでイレ込みもあったのかもしれませんが、前に前に気持ちが乗りすぎているような気がしました。

-:エピファネイアなんかも、菊花賞でパドックに入ってきたときには、体重を後ろにかけないといけないという場面もありましたね。

小:突っ込んでくるような歩様になっている時は「力が入ってるなあ」という感じに僕はいつも思うので。秋華賞では、グイグイと歩く感じはありましたけど、そこまでは気にならなかったので、リラックスして歩けているかどうかを見てもらえるといいかなと。

-:小滝さんが持っている引き手を見て判断すればいいですか?

小:前回はある程度、余裕がありました。あとは返し馬に行くと、結構周りの様子を窺う馬なので、僕としては何度も走っている競馬場なんだからもう少しマジメに走ってほしいなと思っています。いつも内田さんに気合いをつけられていますからね(笑)。

デニムアンドルビーの小滝崇調教助手インタビュー(後半)
「ゲートの一歩目に繋げるための工夫」はコチラ→

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【小滝崇】 Takashi Kotaki

小学生の時にエアダブリンやナリタブライアンのレースを観て、競馬の仕事に就くことを目指す。とりわけエアダブリンは高校の夏休みに牧場まで見に行ったほど。
卒業後はノーザンホースパーク、現ノーザンファーム空港牧場、山元トレセンでそれぞれ働き、23歳でトレセンに配属になり野元昭厩舎に配属される。
思い出に残っている馬はエーシンコンファーとエーシンジャッカル。
解散後は現在所属している角居勝彦厩舎に異動して現在に至る。
持ち乗り助手として、デニムアンドルビーを担当している。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。