2018年シーズンをジョッキーはどう感じたのか。JRAでは年間115勝をマークし、関東トップ。皐月賞も制し、日本ダービーでは自身初となる馬券圏内など、決して誇れない成績だったわけではない戸崎騎手。しかし、リーディングに輝いたクリストフ・ルメール騎手は216勝を挙げたように大きく水を開けられるなど、どこか物足りなさを欠いたのも事実だろう。今回は騎乗馬の話題を主とした毎週末の内容から離れ、2018年を回顧するロングインタビューを実施。不振の中で見出した新たな発見とは。また、気になるライバルたちの存在などについて、タップリと語っていただいた。

不振の序盤戦 “気付けない自分”に気付いた2018年

-:2018年、1年間はJRAで115勝、NARで6勝。皐月賞制覇などもありましたが、改めて振り返っていかがでしたか。

戸崎圭太騎手:正月明けて重賞3連勝で、今年は違うなという気持ちでしたし…。

-:ボクは当時の話を覚えていますが、「今年は違うな」と思う部分には、その前に改めて何かあったのですか。

圭太:例年1月、2月が良くないので、休んでいる間から少し気持ちを昂らせるといいますか、普段の年末年始に比べると、体を動かすことも多めにしましたし、そんな中で勝てたので“今年は違うかな”という感じでしたけどね…。

戸崎圭太

▲2018年の月別成績

-:「お酒も控えた」という話はされていましたね。そして、3日間開催の重賞制覇は史上初だったらしいですね。

圭太:3日で重賞があるのもなかなかないですし、騎乗するのも難しいですからね。その後がまた例年通りというか、なかなか勝てず…となりましたけどね。

-:振り返れば、1月は10勝されていましたね。その重賞3つを除いたら7なので、あまり多くないかもしれないですけど、2月が8勝、3月が4勝で、4月は16勝でした。

圭太:リズムが狂っていったというか、ダメな時でしたよね。ダメな時というか、去年の秋くらいから、ようやく自分の中で噛み合ってきたというか、“まだまだやれるぞ”という思いであったので。勝ち鞍的には、馬がよく走ってくれれば勝てちゃうことはあるのでね。そういった面でも、去年は色々勉強になった年でしたね。去年というよりも、今までのことを振り返れる年になったなと。去年をキッカケに今年は、という思いはありますよね。

-:僕は毎週お話をさせていただいているのですけど、逆に毎週伺っていると分かることもあれば、分からないこともある感じですが、いま振り返って1月、2月、3月は気分的や精神的にはどうだったと思いますか?

圭太:その時は“気付けない自分”というのがやっぱりいるんですよね。だから、ずっとやっていることは同じでしたし、ただ勝てないというので…。それは、やっぱり勝てないと気分も乗らないですし、勝つことが僕の中では一番だと思っているので、その中でもやっていることは間違っていない、と思いながらやっていましたけどね。

-:昨年は8月も4勝と振るわなかったわけで。

圭太:はい。

-:8月は騎乗馬を見ても、あまり良い馬が回っていないなあ、今週はコラムの話題づくりが難しいなあと思うことがありました。

圭太:勝てないな…という思いがありましたよ。騎乗馬に関しては、そんなこともないとは思いますけど、徐々にやっぱりそういうところ(乗馬のレベル)はありますよね。去年より一昨年の方が良いのは事実だと思いますし、段々評価が下がっているというのは自分でも感じていましたしね。それは、結果が出ていないので当たり前のことで、というのはありましたけどね。

戸崎圭太

▲中山金杯・フェアリーS・シンザン記念を制し、幸先はよく映ったが…

-:マネージャーとして、バレットとして、一番、身近で観られてこられた熊野さん的には客観的に見られていて、いかがでしたか。

熊野マネージャー:どこがどうというのではなくて、去年の2月、3月を見ていると、勝てないなとは確かに思いました。だから、当時も(本人から)色々聞かれましたけど、競馬の仕方は別にそんなに言うことはないというか、あとは自分の感覚というか、バランスの話になってくると、下手なことは言えないので。「ああじゃない、こうじゃない」と言うのが一番ドツボにはまってしまうことがありますから。

-:例えると、野球の世界でもスランプの人に打撃フォームをアレコレ教えると、逆にもっと分からなくなったり。

マネ:そうですね。だから、何が悪いとか、ここが悪いからとか適当なことは言えないので、もう見守っているしかなかったというか…。明らかに仕掛けが早いとか、ここの進路の取り方はこうじゃないんじゃ?などは言うことはありますけど、あまりそういうことに関しては、人それぞれというのがあるので。そこを言ってあげなきゃいけない立場かもしれないですけど、僕にはちょっとそれは難しいですね。勉強不足ですね。

-:熊野さんも元騎手とはいえ「経験数が違うからあまり言っても…」と、前もおっしゃっていましたもんね。

マネ:分かる感覚なら良いのですけど、技術的なことはやっぱり人それぞれ乗り方も違えば、重心やバランス…一概に言うのは難しいですよね。

圭太:それは色々勉強しないと。

マネ:下手に言えないですよね。

圭太:だからこそトレーナーという職業がある訳であって。

戸崎圭太

-:でも、真の競馬のトレーナーは現代にはなかなかいないんじゃないですか。

圭太:いないでしょうね。自分が勉強していく中で、それも感じていますよ。

マネ:手脚の長さが違ったりしますからね。あれだけ成績を残してるからといって、体型も違う(ジョアン・)モレイラの乗り方をすれば、同じように馬が走ってくれるかと言ったら、また別だと思うんですよね。騎座の位置がどうとか、鐙の踏み方が、もっと重心が前じゃないなどなど、そんな適当なことは言えないですよね。

-:最近でこそ、他のジョッキーは動作解析をされる方をつけたりされるそうですね。

マネ:動作解析や科学的な見地から言えるなら良いと思うんですけど、僕にそこまでの知識はないので、言えないですよね。

-:それ自体も合っているかどうか分からないですからね。

マネ:分からないですよ。それは、やっぱりバランスや重心を考えた時に、科学的なもので根拠があるじゃないですか。それならそれを言った上で、本人が納得するとか手応えを感じるのであれば、薦めれば良い話であって、難しいですよね。

戸崎圭太
失っていた、おろそかにしていた勝利へのプロセス

-:もう少し具体的におっしゃっていただくと、去年1年間で、気付いたところはどんなことだったのでしょうか?

圭太:具体的には説明しきれないですが、「精神的」にも色々取り組んでいましたし、また勝つようになれるという自信もありました。常々、その意識を持ちながらやっての結果だったんですけど、そんな中で精神的な部分は “勝たなきゃ、勝たなきゃ”と思うが故に慌ててしまって、重心が崩れていっちゃったり、馬への対応が崩れていっちゃったり、コンタクトが崩れていっちゃったり…。

競馬は馬ありき、展開ありきのことなので、勝つということよりも、そっちが先決じゃないですか。勝つのは結果がついてくることであって、もちろん結果は求めるんですけど、それを逆算していった時には、やっぱり勝つことばっかり先に求めて、その「勝つためには」ということを疎かにしていたというのが、僕にはあって、だから冷静ではなかったんですよね。集中も出来ていなかったですしね。

-:「集中」というワードは、少し前にもおっしゃっていましたもんね。

圭太:はい。勝つことばっかりに意識が行って、それまでの過程、プロセスが雑だったというか、やっぱりそこには繋がらないですよね。「勝利」は一つ一つ段階を踏んでいっての結果でありますから。それは去年感じたことで、そこは“精神的に崩れている”部分でしたよね。だから、勝つことに慌てないということだったり、技術的な面では重心の位置だったり、乗り方だったり…。具体的に言うのは、もう少ししてからかな…。

戸崎圭太

-:もう少ししたら、詳しく語られると。

圭太:そうですね。言ってもいいのですが、今はまだやっている途中なので。

-:今のお話でも、普段よりは詳しく語ってもらっていますけどね。しかし、申し訳ないですが、そもそも周りが聞いても分かる領域ではないような。

圭太:技術的なものは、本当に見えない領域ですからね。熊野さんも言いましたけど、やっぱり分からない部分じゃないですか。でも、自分ではここが変わったなとか、変わっているなというのは感じる部分はありますし、それをもっともっと高めていければなと思いますよね。今は海外の騎手がたくさん来るので、それを目の前で見て勉強出来るということは、幸せなことだなと思いますよね。だから、今は日本の騎手もレベルアップしていますし、若い子なんかはドンドン海外の競馬を観て、勉強してもらいたいなと思いますし、勧めたいですね。自分がもっと若かったら、絶対に行っていますね。

-:今のところ、行く話はないですか。

圭太:たとえいま行ってもダメですね。まずやることがあるので。

「地方競馬でリーディングを獲らせていただいて、中央でも獲らせていただきました。それに自惚れていたというか、甘えていた部分というのはあって…。だから、今こんなことを勉強しなきゃいけないんだ、とすごく感じていますね。それに気付けたということはすごく幸せですし、自分を成長させて高められるだろとも自分に期待しています」


-:改めて行こうという時があるかもしれないということですか。

圭太:う~ん、考えてはないですけどね。やっぱりそれに追っ付いていないですよね。だから、今まで地方競馬でリーディングを獲らせていただいて、中央でも獲らせていただきました。それに自惚れていたというか、甘えていた部分というのはあって…。だから、今こんなことを勉強しなきゃいけないんだ、とすごく感じていますね。それに気付けたということはすごく幸せですし、自分を成長させて高められるだろとも自分に期待していますし、(恩師である)川島(正行)先生をはじめ、本当に色々な人のお陰で勝てていたという、中身は薄っぺらい中でやっていたんだな、とは去年感じましたね。

-:改めてそれを思うようになったのはいつ頃だったのですか。

圭太:去年の秋過ぎくらいじゃないですか。今までも、やっぱりリーディングを獲れたことも自分の力じゃないし、良い馬に乗せてもらって勝てたことで。周りへの感謝はありましたけど、その中で自分のことに置き換えた時に、自分はリーディングだと、キチッと勝てているんだ、と思っているだけで、自分のことは何も知らなかったですし、どれくらい自分が技術を持って、どれだけのパフォーマンスがあるのかというのを考えたこともなかったので。そこを考えさせられる部分があって、すごく成長出来るキッカケを感じられた年ではありましたね。

-:それは、自問自答してそういう風に思えるようになったのですか。

圭太:そうですね。

戸崎圭太

-:誰かとしゃべったのがキッカケで、気付いたということではないのですね。

圭太:昔は本当に本を読まなかったんですけど、最近は色々な本を読んで、そういうところでも気付かされました。自分は何をしていたんだろうな、という。

-:具体的にどんな本ですか?

圭太:色々読んだので…(笑)。でも、けっこう読みましたよ。移動の時も常に、最近はずっと読んでいますよね。考え方だったり、スポーツ選手だったり、サッカーだの野球だの、色々な人の。それこそコーチングの本だったりとか、すごく気付かされる部分がたくさんあって、今まで本当によくリーディングを獲らせていただいていたなとは改めて感じましたね。

-:逆に、その状態で獲れたということは、今の状態だったらもっと上に行けるということですね。

圭太:今じゃまだ自信はないですけどね。ただ、成長していますし、今後も成長出来るというイメージは出来ていますね。

戸崎圭太

-:野球選手なら打率や打点、ホームラン数で、ある程度パフォーマンスの指標が出来るので、分かりやすいと思うんですけど、ジョッキーの場合はやっぱり馬ありきじゃないですか。その中で自分はそう思っていても、周りがそう思ってくれない時がある訳じゃないですか。なかなかそれって感じ取ることは簡単じゃない気がするのですが。

圭太:だから、まずは周りからどう思われたいとかというのはないですね。いや、なくなりましたね。その中でもやっぱり勝つことが一番の仕事だと思うというか、結果。勝たなければいけないと思っているので。その中でのバランスというか、自分が成長出来れば、そこでまた結果を求めていく、まずは自分を高めていかなきゃいけないな、ということかな。

-:もちろん勝つことを目指すことは変わりないということですね。

圭太:勝つことが一番なんですよ。

-:その過程が今までとは違うということですね。

圭太:全く違いますね。

(聞き手:競馬ラボ・小野田)

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