和田正道調教師"

2018年2月いっぱいで定年を迎える和田正道調教師

●開業から35年、地道に積み上げた671勝

2018年、定年によりまた1人、現場から離れる調教師がいる。和田正道調教師、70歳。早くから海外競馬に目を向けたパイオニアで『ミスター競馬』と呼ばれ、三冠馬シンボリルドルフを育て上げた伝説のホースマン・野平祐二元調教師(故人)の薫陶を直接受けた一人である。恩師が定年引退して20年近く。検量室前パトロール隊員は、プロモーションやゴッドオブチャンスなどを育てた"職人"に話を聞いた。

和田道師は常にスーツ姿で物腰の柔らかい紳士的な空気をまとう。亡き師について聞くと「野平先生は『ミスター競馬』。馬に対する接し方はホースマンの鑑でした。勉強させてもらいましたし、多くの影響を受けました。気持ちの難しい馬のなだめ方が上手い人で、馬の気持ちが分かる人。馬の気持ちになって走らせることができる人でした」と懐かしんだ。『野平イズム』を受け継ぐ現役のトレーナーは、レイデオロの藤沢和雄調教師、ホエールキャプチャの田中清隆調教師と、さらに数少ない存在となる。

厩舎解散まで残り2週間。今週日曜(2月18日)はクインズミラーグロ(牝6、美浦・和田道厩舎)で小倉大賞典(G3)に挑む。「ミラーグロはどんどん馬が良くなってきました。最初は体質も弱かったのですが、成長力がある馬です。まだこれから、さらに成長する可能性があります。小倉は初めてですが、合うと思いますよ」。2006年にトップガンジョーで勝った新潟記念(G3)以来の平地重賞制覇へ手応えを口にした。

騎乗予定の丸田恭介騎手は、師への恩返しに燃えている。クインズミラーグロとは初コンビだが「2年半前(2015年)の紫苑Sで、僕は2着のホワイトエレガンスに騎乗してミラーグロに負かされてしまいました。その頃からこの馬には器用なイメージがあります。うまく溜めてスパっと切れていましたし、脚のある馬だなと。コース形態的に小倉は好きなんです。小倉大賞典もダコールで惜しい2着をしたこともありますし、器用なタイプの馬なら小回りの良さを生かせるので、レースのイメージが作りやすいんです。ハンデも軽いでしょうし、いいところを見せてもらえるんじゃないかと。今回は期待のほうが大きいですね」。

和田道厩舎と丸田騎手とのコンビといえば、新潟直線1000mのアンゲネームを思い出す。テン乗りで1000万下を勝ち、準オープンも突破してアイビスサマーダッシュにも出走した。丸田騎手は言う。「先生が『丸田は直線の1000mが上手い』とおっしゃってくれていて、よく乗せてもらいました。物腰も柔らかな方です。定年まであと少しですが、そのタイミングで乗せていただけるのは光栄です。何度も勝たせて頂いていますし、今までの感謝の気持ちを、結果で恩返しすることができればと思います」と意気込んだ。

クインズミラーグロ"

クインズミラーグロで06年以来の平地重賞制覇を狙う

和田正道厩舎は今年で開業35年。積み重ねたJRAでの勝ち星は671(2018年2月13日現在)に上る。ここまで数多くの苦労があったと推察されるが、師から返ってきたのは意外な言葉だった。

「苦労ですか?苦労したことは私の調教師人生でないですね。調教師という仕事が合っているんですよ。そんな仕事をさせていただいて感謝しています。楽しい、充実した人生を歩ませてもらって、数えきれないくらい色々な人に助けられて……。一言では表し切れない感謝があります」。

●最高の職業「調教師人生で苦労したことはない」

調教師を"天職"ととらえる師は、定年が近づいても積極的に海外サラブレッドセールに馬を買いに行く『行動派』だ。「飛行機に乗ってアメリカに行って、向こうで車を運転して、いい馬を見て回る。これが好きなんですよね。買える、買えないはその時の状況によりますが、いくつになっても、これは『趣味』と言えることです。嫌々行くわけではない。とにかく馬がいるところにいる、私はそれが好きなんですよ。その全てが楽しみでした。欲を言えばもう少しやってみたいですが、規定ですから。もちろん一緒に仕事していた人や馬と離れるのは寂しいです。でも遅かれ早かれみんなに来ること。仕方ない」。現場を離れるのは、どこか名残惜しそうだ。

しかし、『和田厩舎』としての夢は受け継がれる。息子の和田正一郎調教師は障害レースの絶対王者・オジュウチョウサンを育て上げるなど、着実に実績を残している。「厩舎として順調にきていますし、真摯な仕事ぶりが皆さんの支持を得てこういう結果が出ていると思います。さらに成長していって、成長株の厩舎になってほしいです。これからも楽しみですね。極めて楽しみ。どんどんいい厩舎になっていくと確信しています」。そう語る表情は師であり、父でもあった。

予定では、ユキノアイオロスと臨む来週2月25日(日)の阪急杯(G3)が最後の重賞挑戦となる。今年で10歳を迎え、デビューから75戦を走った愛馬について「9歳でオープン入り。偉い馬だと思います。6歳で準オープンに上がってから、ずっとキーンランドCを使いたかった。今年のキーンランドCまで現役をやりたかったな(笑)。ファンの皆さんには長い間応援していただき、感謝感激です!」と笑顔を浮かべた。あと2週間、和田道師は全力で駆け抜ける。

和田正道調教師"

パドックで騎手に声をかける和田正道調教師