競馬YouTuberとして一躍名を挙げ、各媒体に引っ張りだこの佐藤ワタルが、地方&海外レースを展望。若くして人並み外れた知識量、分析力を披露する。
【中山記念】難敵倒して『偉業達成』へ!覚醒したマイネルハニーに勝算アリ!?
2018/2/21(水)
中山記念で3連勝を狙う柴田大知騎手とマイネルハニー
●師匠の同日東西重賞制覇に燃える
無念……。その一言に尽きる。1回東京競馬最終週。東京競馬場のうどんを愛してやまない検量室前パトロール隊員は、このうどんと再会できるのがあと2ヶ月後というショックを引きずったまま取材に動き回った。うどんのことを思い出すだけで涙が出そうになる。
そんなどうでもいい話は置いておいて、今週から中山・阪神開催が始まる。開幕週の注目は、関東のベテラン調教師にとって実に31年ぶりとなる同日東西重賞制覇だ。
この"偉業"に挑むのは、中山記念(G2)にマイネルハニー、そして阪急杯(G3)にディバインコードとそれぞれに有力馬を送り込む栗田博憲厩舎だ。パトロール隊員が生まれる前の1987年、共同通信杯をマイネルダビテ、きさらぎ賞をトチノルーラーで制して以来のチャンスが巡ってきた。
特に中山記念に出走を予定しているマイネルハニーは、弟子である柴田大知騎手が鞍上ということもあり、調教師にとっても力が入る一戦だろう。もちろんジョッキーも気合十分。大知騎手は「師匠のところの馬ですし、また一緒に重賞を勝てたらいいですね。しかも同日重賞2勝、そうなったらいいですね」と力を込めた。
マイネルハニーは昨年12月のディセンバーS、今年1月の白富士Sと2連勝中。鞍上は「以前より大人になってきたというか、落ち着きが出てきましたね。前は競馬場に来ると結構テンションが上がってしまうところがあり、パドックで跨ったらもう気が入ってしまって、返し馬から一生懸命走るところがありました。そのあたりが落ち着いてきて、ゲート裏でもすごくリラックスしてくれています。だから競馬に行って力を出してくれるようになったと思います」と、愛馬の成長を感じ取っているようだ。
マイネルハニーと初めてコンビを組んだのは、デビュー4戦目の若竹賞(6着)からだ。しかし、それ以前から注目していたという。「新馬の時からスゴい馬だなと思いながら見ていました。僕は乗っていませんが、先々さらに良くなってきそうな馬だなと。若竹賞で初めて騎乗しましたが、身体は同世代ではしっかりできていたほうでしたね」と早くから素質を感じていた。しかし、大きな課題があった「なかなか気性面が……。一生懸命になりすぎちゃうところがあるんです。気持ちのほうを抑えられず、ゲートでも落ち着かなくて。あの頃は色々課題がありましたね」と、ここまでの道のりを振り返る。
しかし、そこから明るいトーンで「スタッフの皆さんが毎回気をつけてゲートの練習をしてくださって、調教も工夫してきたのが今に繋がっていると思います。徐々に気持ちのほうが大人になってきて、今が一番いいかもしれませんよ」と手応えを口にした。
●「今なら我慢してくれると思う。中山のほうが合う」
先行して持ち味を発揮するマイネルハニーにとって、今回は"難敵"がいる。ヴィブロス、ペルシアンナイト、アエロリットのG1馬ではない。「中山記念にはマルターズアポジーがいますね」。そうパトロール隊員が話すと、大知騎手は「ああ、あの馬はちょっと速すぎますね……」と苦笑いしながら言った。 「前走とは違う形になると思いますが、今なら我慢してくれると思います。どうしても馬と並んでいると一生懸命になり過ぎるところがありましたし、スタートも出たら速かったので逃げる形をとっていましたが、もう抑えが利かないということはありません。東京も悪くはないですが、中山のほうが合う馬ですよ」。そう語る表情は、レースを心待ちにしているようだった。
レース後、検量室前でジョッキーのコメントを聞いていると、それぞれ個性があって面白い。じっくり馬の挙動や成長について説明してくれる内田博幸先生などがその代表例だが、大知騎手もまた、「らしい」コメントがよく聞かれる。
大知騎手のレース後コメントは、9割以上の確率で、まず最初に「いい馬ですよ」「よく走ってくれていますよ」という言葉で始まる。どの騎手も心の中では思っていることだが、このジョッキーが必ず最初に口にするのは馬へのリスペクト。そして記者にコメントした後、すぐオーナーに時間をかけて説明する。これは珍しい光景ではない。大知騎手にとっては当たり前と言える光景だ。
先日はこんな光景も目撃した。東京競馬場の検量室前はファンエリアとガラスで仕切られているが、メインや最終が終わりジョッキーたちが帰宅の途につく際、ファンの皆さんはよく手を振っている。よくC.ルメール騎手らが手を振ってそれに応えているシーンを目にするが、大知騎手は手を振るファンたちに立ち止まってお辞儀しているのである。
その場面に遭遇したことを伝えると、「いつも応援してくださっているファンの皆さんは最後まで待っていてくださるので……。本当にありがたいですよね。応援してくれるのは力になりますから」と、恥ずかしそうな顔を浮かべながら理由を語った。この姿勢が、多くのファンを惹きつける要因なのだろう。
長年にわたって取材するベテランのトラックマンや記者たちは、大知騎手についてこう口をそろえる。「真面目で素晴らしい男だと思う。たまにレースに熱くなり過ぎて検量室で悔しさを爆発させている時もあるが、それだけ勝負に熱い男なんだよ」。そう言わしめるジョッキー、柴田大知。自らの手で師匠の偉業を達成しようと気合十分に中山の開幕週を迎える。
白富士Sで連勝を飾ったマイネルハニー
プロフィール
佐藤ワタル - Wataru Sato
1990年山形県生まれ。アグネスフライトの日本ダービーを偶然テレビで観戦して以降、中学生、高校生、大学生と勉学に勤しむ時期を全て競馬に費やした競馬ライター。『365日競馬する』を目標に中央、地方、海外競馬の研究を重ねている。ジャンルを問わない知識は、一部関係者に『コンビニ』とまで評されている。早稲田大学競馬サークル『お馬の会』会長時代に学生競馬団体『うまカレ』を立ち上げたり、北海道の牧場などに足繁く通うなど、若手らしい行動力を武器に、今日も競馬を様々な角度から楽しみ尽くしている。現在はサラブレ、一口クラブ会報などでも執筆中。血統派で大の阪神ファン。甘党でもある。