-JCD&鳴尾記念-平林雅芳の目

トピックス


日曜阪神11R
JCダート(GⅠ)
ダ1800m
勝ちタイム1.50.6

トランセンド(牡5、父ワイルドラッシュ・栗東、安田厩舎)

※※トランセンドが逃げ切ってJCダート、初の連覇!!

気迫で行き切ったトランセンド。ポイントは最初のカーヴの1コーナーまでの入り。外枠をものかわダッシュを利かせたトランセンドが、一番先にカーヴに到達。そこで多少ごたついたが後はスムーズ。一度も先頭を譲らずに直線まで来て、最後は2馬身の差をつけてゴール。見事昨年に続いての連覇をなしとげた。今年GⅠを3勝。負かされたのは、ドバイでのヴィクトワールピサと大井でのスマートファルコンの2頭だけ。充実の1年であったトランセンド。見つめる先は・・。

いつも阪神競馬場では、パドックを馬主サイドの真反対にある報道関係席で観させていただいている。大体、傍では川田重幸氏が同じように馬を一生懸命みている場所だ。意見交換の場でもある。
そしてトランセンドがいつになくコズミがないのに気が付く。南部杯の時などは非常に硬い歩きで周回するトランセンド。それが、返し馬ではまったくそんな硬さは見られず、ウソの様にスムーズに走れていく馬。それが今回のパドックでは、実にスムーズで何の違和感も持たない。そこをお互いに見ていた。
そしてワンダーアキュートが、いいはずなのに14キロ増はどうしたものか・・と。実に筋肉がモリモリといい体のアキュートだ。

パドックの周回を終え馬場入り。一番先にエスポワースシチーがキャンターで過ぎて行き、次にラヴェリータの白い体が過ぎていった。しばらく後から続々と4コーナー奥のポケットへと走っていく馬たち。トランセンドが最後にいい感じで走って行く。思わず後ろの方で一般ファンが『トランセンドがスゲェいい走りで行くぜ~、クビをぐっと下げて』と言う。いや、本当におっしゃるとおり、いい雰囲気での返し馬であった・・。

ファンの手拍子に押されたファンファーレの生バンドの後のゲート入り。スタンド前からのスタートで、大勢の眼の前だ。開いた瞬間に内でラヴェリータ。外で黄色い帽子、ワンダーアキュートが大きく躓いた様だ。内でポンとエスポワールシチーが出た。《あ、行くのだな~》と思う間もなく外からニホンピロアワーズトウショウフリークと2頭が出て行く。いや、その外をトランセンドが鞍上の藤田Jが押して押して一番前へと出て行く。内が一番先に到達するのは当然。エスポワールシチー、外のトランセンドの間にニホンピロアワーズ、そしてトウショウフリークが挟まる感じとなった。カーヴを廻りながらトランセンドがズ、ズ、ズッーと先手を取って行く。

その後はエスポワールシチーとトウショウフリークが2番手を並走でふたつめのカーヴをも廻って行った。やや首を外へ傾けたトランセンド。《ドバイの時もこんなだっけ・・》と思いながら見つめる。4番手にニホンピロアワーズ、その内目にラヴェリータがいる。
向こう正面に入った。もう藤田ペースでの逃げである。こうなると天下一品な逃げを展開だ。ラヴェリータがなお順位を内から上げてニホンピロアワーズに並んで行く。ダノンカモンが中団の外目、ワンダーアキュートは後ろの方でフリソの内にいる。スタートでやや進路がなくなって後ろからとなったテスタマッタが一番後ろ。トランセンドとエスポワールシチーの間は1馬身と少しある。

ユッタリとなって流れている。3コーナーへ入る前に後ろで動きが出る。テスタマッタが順位を上げていく。『馬群が凝縮されました。前半の1000メートルが1分1秒を切りました。1.00.8で去年よりは遅いペースです』と3コーナー過ぎに場内アナウンス。

その声を合図にしたかの様に、エスポワールシチーが少し間隔を詰めてトランセントに半馬身ぐらいに迫って行く。トウショウフリークにラヴェリータも続く。テスタマッタが7番手ぐらいの好位の外まで来ている。さらに馬群は固まり出して、最後のカーヴへと入って行く。
トランセンドとエスポワールシチーの差がほとんどなくなった。その後ろの白い馬体が目立つ手応えで待つ。ラヴェリータだ。エスポワールシチーの外にダノンカモン、テスタマッタも続いている。その直後にヤマニンキングリーも見える。

そして直線へと入ってきた。コーナーリングでまた内の馬と外の馬との差が出来る。空いた3番手にラヴェリータが入ってきた。トランセンドとエスポワールシチーの間が一瞬開いた感じだ。ラヴェリータがトランセンドの内を狙う。そして残り1ハロンを過ぎた。そこまでが一番後続馬が接近していた時間だろう。
ここから藤田Jの左ステッキが連打されて少しずつ差が開いて行く。一旦2番手に上がったかのラヴェリータ。エスポワールシチーも姿勢を低くしての追い合いだ。
もう完全に前はトランセンドが2馬身と差を開いている。2着争いはと見ると、外の橙の帽子、ダノンカモンとヤマニンキングリーの伸びよりも、馬の間を黄色い帽子、ピンクの勝負服が凄い勢いで前へ迫ってくる。ワンダーアキュートの伸びが桁違いにいい。

トランセンドがもう流し気味の動きでゴールを通過。その2馬身後ろを、エスポワールシチーの内を鼻面を併せる形でワンダーアキュートが入った。ラヴェリータが4着に粘り、ダノンカモン、ミラクルレジェンドと差なく続いた。
昨日の雨上がりの馬場でも52秒台。今回の阪神もかなり時計のかかるダートである。昨年の勝ち時計から1秒7も遅い勝ち時計だ。

しかし重厚な競馬内容と思えるトランセンドの逃げ。ポイントは最初のカーヴであろうか。エスポワールシチーも逃げるつもりでの入りだが、藤田Jの気持ちがそれを上回ったもの。やはりインタビューにもあったが《逃げた時の方が内容がいい》との思いが《逃げ》の手に出たものだろう。その気迫が最初の難関の1コーナーの入りとなって、そこを凌げばもう後はマイペースにしての《藤田逃げ》を展開。最後の1ハロンが13.2ながら、トランセンドを脅かす伸びを見せる馬がいなかった。気迫の逃げ、気迫の勝利であろう。

おそらく『俺の馬がいちばん強い』の気持ちで乗ったと思える。GⅠこそ一番強い馬が勝つレースなのであるから・・・。そして思いは昨年の雪辱、ドヴァイである。


土曜阪神11R
鳴尾記念(GⅢ)
芝外1800m
勝ちタイム1.45.6

レッドデイヴィス(セン3、父アグネスタキオン・栗東、音無厩舎)

※※今年、重賞を3勝目。レッドデイヴィス復活戦を勝利!!


ミッキーパンプキンの逃げは十分にあるだろうが、ダノンスパシーバが並んで行くとはビックリな展開。さすがにそのままでは収まらないはずで、4コーナーに入ったあたりで後続にドッと迫られる。残り1ハロンで後続がドッと詰寄る。そこを早めに仕掛けたレッドデイヴィスが先んじてゴールへ向かう。サダムパテックフレールジャックがもうひとつ伸びきれない。ゴールで猛追したショウナンマイティだったが、クビ差捕え切れず。レッドデイヴィスが7ケ月ぶりを勝利で飾ったものであった・・。

検量室の後ろで、ジョッキー控室の入口のところにあるパトロール・ビデオ。そこを大勢の報道陣と見上げていると、佐々木晶師が大きな声で囲まれながらやってきた。『いや~。参ったわ~。あんな指示を出してないよ~。ジワっと行って終いを生かしてくれ、だったのに・・』である。その後刻には池添Jが『せっかく行けたのに、同じご夫婦の馬が来るなんて!!・・』と絶句していた。そうなんです。そんなメチャクチャな流れになってしまった様です。

で、レースをビデオやらいろいろと見て振り返ってみる。2コーナーの奥からのゲート。一番出が良かったのはダノンスパシーバである。ダンツホウテイも先行馬で当然にいい。しかし真ん中から押して出て行く。サダムパテックも3番手に取り付く。
外にダノンスパシーバだ。フレールジャックと続きカリバーンが内、外にレッドデイヴィス。ショウナンマイティが内にいて、最後方がスマートギアで1馬身遅れだ。

1ハロンを過ぎたあたりで、ダノンスパシーバの鞍上ムルタJが、内を見ながら前へと出てくる。そこでサダムパテックが少し下げる。2番手を行っていたダンツホウテイも後ろを見ながら下げて3番手になる。
前へミッキーパンプキンが先頭で1馬身あるかないかで、2番手にダノンスパシーバ。少し空いてダンツホウテイで、サダムパテック4番手。その間隔で3コーナーを廻っていく。

前は先ほどよりも間隔が狭まって、半馬身差ぐらいでダノンスパシーバがミッキーパンプキンに並びかげんで行く。その後ろとは3,4馬身と差が空いた。その後もさらに前は並んでほとんど馬体を接する様にして、最後のカーヴへと入ってくる。後ろもだいぶ馬群が凝縮してきて、最後方のスマートギアもほとんど前とは差がない。

カーヴを廻って直線に入ってきた。ピッタリと馬体を併せている前の2頭。そこから3馬身ぐらい遅れての2番手グループ。内からダンツホウテイ、サダムパテック、その外にヒットジャポット。真後ろにレッドデイヴィスがいて、その内にフレールジャック。
最後方のスマートギアが思いっきり外へ出したのが見える。外廻りと内廻りの空間の間に各馬が追い出す。ダノンスパシーバが体半分、前へ出た様子。そして急接近する。

残り1ハロンでは横に5頭ぐらいが並ぶ。もうダノンスパシーバは吸い込まれそう。外のレッドデイヴィスの勢いが一番いい。押して押して前へ出すデムーロJ。左ステッキが唸る。内のサダムパテックの伸びが案外に悪い。後ろからショウナンマイティの脚色がいい。レッドデイヴィスが先頭で粘る、その内でサダムパテックが盛り返し気味で伸びる。外をショウナンマイティが猛追する。ゴールでチラっと外を見たデムーロJのレッドデイヴィスが、クビ差先んじてのゴールだった。最後の1ハロンが12.2。確かに阪神はゴール前の坂が利いて時計はかかろう。だが、このクラスで淡々と流れれば、最後はもっと切れが出る馬場でもある。

久々で馬体が20キロ増だったレッドデイヴィス。でも休む前が16キロ減。太くも見えなかったし最終追い切りもゴール前は弾けていた。ショウナンマイティはやっぱり距離短縮がいい結果に出て、最速の上がりで来た。この馬らしさが出た一番であっただろう。
それにしてもサダムパテック。もっと切れる馬ではなかったか。今日は案外な伸びであった。フレールジャックも少し馬体が華奢に見える。《競馬は生きている、レースは生ものだ・・》と今回も痛感させられるものであった。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。