ジム・ボルジャーとエイダン・オブライエンの明と暗[和田栄司コラム]

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29日のアイリッシュダービーにはダービーの1/2/3着馬が揃った。8連勝と通算11勝目を目指すバリー・ドイルのエイダン・オブライエン調教師は、ダービー馬ルーラーオブザワールドとフェスティヴチェアの2頭出し、勿論圧倒的1番人気は3戦3勝でダービーを制したルーラーオブザワールド、1.8倍である。

これに続く2番人気はダービー2着馬、直前にゴドルフィンが電撃トレードしたリバタリアンの4.5倍、マイル路線に変更してセントジェームズパレスSを勝ったドーンアプローチに代わってジム・ボルジャー調教師が送り出す期待のトレーディングレザーが7倍で3番人気、ダービー3着馬ガリレオロックが10倍の4番人気で続いた。

グッドトゥファーム(堅良)の馬場、好スタートから先頭に立ったラルストンロードがトップオブザヒルまで続く長い上りを6馬身差でリードして行く。ゴドルフィンのペースメーカー役キャポロッシャズが2番手、その後ろは7馬身開いてトレーディングレザー、後ろはシュガーボーイ、ガリレオロック、リトルホワイトクラウド、リバタリアンが固まってルーラーオブザワールドは8番手、そして最後方フェスティヴチェアの順。

トップオブザヒルを過ぎて下りにかかり残り5ハロン標識から2番手のキャポロッシャズが動き、3ハロン残して先頭に立つ。4コーナーを回り、内を突いたのはフェスティヴチェア、対照的にリバタリアンは大外を回らされて最後方、その前にルーラーオブザワールドがいるがやはり外を回らされた。

今度は直線残り1.5ハロンでトレーディングレザーが抜け出す。ガリレオロックも追って残り150ヤードで2番手に上がるが、内に突っ込んで窮屈になったフェスティヴチェアが残り1ハロンで外に出し、ゴール前50ヤードでキャポロッシャズを交わし3番手に上がってゴールする。結局は前が止まらない競馬でルーラーオブザワールドはキャポロッシャズから6馬身差の5着、リバタリアンは8着と惨敗した。

5戦5勝、G1・2勝、2歳時の成績だけで引退したテオフィロ産駒の牡の3歳馬トレーディングレザー。ジム・ボルジャー調教師の娘婿ケヴィン・マニング騎手は1992年のサンジョヴィに続く2度目の優勝で、因みに2分25秒60のレコードはこのサンジョヴィが持っている。トレーディングレザーの勝ちタイム2分27秒17は2001年のガリレオの2分27秒10に次ぐ3番目に速い時計だった。

ジム・ボルジャー調教師は、トレーディングレザーが母ナイトヴィジットの父シンダーからのスタミナを受け継いでいると固く信じていた。ドーンアプローチがダービーを使わなければ、トレーディングレザーがダービーを使っていたと話す。2歳でG3オータムSを勝ち、今季は初戦となったG2ダンテSがリバタリアンの2着、愛2000ギニー3着の後、前走は古馬とのマイル&クォーターの混合の準重賞を使って3馬身半差で圧勝していた。これで通算成績は8戦4勝、2着2回、3着1回である。

これに対してルーラーオブザワールドのジョセフ・オブライエン騎手は「今日は早い段階から最悪の事態になることを恐れていた。残り5ハロンから、私が望んだと同じようなことを彼は感じていなかった。馬にとっては、チェスター、エプソムとここ、3つのレースを使ったことは如何にも多過ぎたように思える」とアットザレーシズのインタビューに応えた。

エイダン・オブライエン調教師は「彼は少し休みを取って、秋に戻って来るつもりです。恐らくマイル&クォーターのレースになるでしょう」と話した。あのエプソムのダービーの時とは全く逆の立場になったボルジャー調教師とオブライエン調教師、そしてボルジャー調教師はマイル路線に転向したドーンアプローチが、サセックスSとジャックルマロワ賞、2つのマイルG1をどちらも使うことを明かした。


海外競馬評論家 和田栄司
ラジオ日本のチーフディレクターとして競馬番組の制作に携わり、多岐にわたる人脈を形成。かつ音楽ライターとしても数々の名盤のライナーを手掛け、海外競馬の密な情報を把握している日本における第一人者、言わば生き字引である。外国馬の動向・海外競馬レポートはかねてからマスメディアで好評を博しており、それらをよりアップグレードして競馬ラボで独占公開中。