続・北北の話(10/17)

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 秋の気配がしっかりと漂い始めました。と、言うより競馬にドップリと浸かる日々を送っていると、秋華賞、菊花賞など、レース名でいち早く季節を感じるようになっています。

 「まるで去年のレースをビデオで見ているような感じでしたよね」

 残り少ない学生生活を競馬三昧で謳歌している東京生まれの北大生が、ポツリと呟きました。毎日王冠でウオッカは2年連続の2着。それも逃げて差されるという、昨年同様のレースぶりでした。

 「まあ、ウオッカらしい、ということでしょうけど」と学生君。

 「ユタカ(武騎手)もレース後に苦笑いしていたよ。男勝りというか、難しい気性の馬だからなあ。確か、去年も同じようなことを言っていたはずだが、無理に折り合いをつけようとしてケンカしたくなかった、ということなんだけどさ」TC社のN記者の報告です。

 この日、N記者はちょっとご立腹の様子です。馬券の負けはいつものことですが、この日の理由は他にありました。「まったく、何を考えているんだか。競馬は単なる数字遊びじゃないんだよ」というのは、今週からJRAが発売するクイックピック投票についてのN記者のご意見です。

 このクイックピック投票、サッカーのtotoや、ロト6でお馴染みの、コンピューターが勝手に買い目を選んでくれるという代物で、自分で1頭だけ軸馬を指名することもできるとのこと。あくまでも試験的な発売で、年内、GIレースが開催される競馬場での限定発売。つまり、今週は京都競馬でしか買えない訳です。

 「そうですかね。これはこれで面白いと思いますよ」この日の馬券反省会に加わっていたSS社のK記者が反論しました。K記者は目下売り出し中の若手ですが、競馬だけではなく競輪、競艇、オートレースもたしなむという点では、S社のH記者にも負けないハード・ギャンブラーです。

 「そりゃあ、競馬の醍醐味は緻密な推理ですけど、いろいろ推理してもどうしても煮詰まっちゃって、最後の結論が出ない。そんな時には、自分の好きな数字にこだわったりすることって、ありますよ」とK記者。

 「だからね、それはいいのよ。馬券ファンにはそれぞれ独自の理論、買い方がある。数字にこだわるのもOKよ、験を担いだりもするさ。でもなあ、胴元がやっちゃいかんよ。馬券ファンを馬鹿にしている。馬券は人知が及ばない領域にあるんですよ、いくら考えたって当たりませんよ、と言っているようなもんじゃないか」とN記者。

 「困った時の神頼み、いやこの場合はコンピューター頼みか。サイコロ転がして買い目を決めるよりも、スマートでいいでしょう」若いK記者もなかなか引き下がりません。

 こんなやり取りを聞いていた学生君「あの人向きの馬券ですよね」と、すすきの馬券連の負け組馬券師、某飲食チェーン店の店長氏を皮肉ってニンマリです。

 「そう言えば例の婚カツ、東京競馬場でもやるんですよね」とK記者が話題を変えましたが、これまたベテランのN記者には面白くないことなのです。

競馬を楽しみながら交際相手を選ぶ、というなんとも今風のイベントで、京都競馬場で先日開催されて男女各50人が参加し、10数組のカップルが誕生したとのこと。

「若いファンの獲得に躍起になっているんですよね、JRAは。いろんな仕掛けが目立って増えていますよ」とK記者。

「まさか、お前も参加しようと思っているんじゃないだろうな。競馬場でできあがったカップルなんて、ろくなもんじゃないぞ」とN記者は独身のK記者に牽制球を投げましたが、ハード・ギャンブラーのK記者のこと、取り越し苦労のようでした。

「ギャンブルはあくまでも個人プレーですからね。競馬好きの彼女なんて、最悪ですよ」とK記者は頼もしいお言葉です。

「彼女と競馬でデートねぇ、僕にも関係ないですね。さてと、秋華賞はブエナビスタの3冠達成シーンをしっかり見届けますよ」と学生君。どうやら、今週末は京都競馬場に乗り込むようです。

「史上3頭目の牝馬3冠か…。内回りの京都2000メートルじゃあ、危ないな。3冠じゃなく、3度目の正直で今度こそ、レッドディザイアの雪辱だ」とN記者。

「いいえ、今年もドカンと荒れますよ。去年の3連単、1000万円馬券とまではいかなくてもね。関東に刺客がいるんです。栗田厩舎のクーデグレイス!!」とK記者は、大穴狙いです。このクーデグレイス、実は不肖・ミスターYも密かに狙っているのです。話は古くなりますが、1987年、連戦連勝のマックスビューティが圧倒的人気を集めて3冠(当時はエリザベス女王杯)にチャレンジしました。「メジロラモーヌに続く2年連続の快挙!!」といった感じの予定原稿を書き上げてレースを見守ったものでしたが、すべては無駄になりました。栗田師が送り出したタレンティドガールが、スパっと切れて優勝。競馬に絶対はない、ということを思い知らされたレースでした。さてさて、歴史は繰り返す…のでしょうか。(第59話終了)