続・北北の話(10/31)

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半年ぶりの北海道はしっかりと「冬近し」の風情でした。急な出張で乗り込んだすすきのネオン街は、あいにくの雨模様ということもあって、心なしか寂れた感じで目に飛び込んできました。

「たった半年でそんなに変わる訳ないっしょ。まあ、政権が交代しても景気は良くならないし、日本ハムがパ・リーグ優勝、日本シリーズって言ったって、3度目ともなると経済効果はたかが知れている。元気が出る材料が少ないのは確かだけどね」某飲食チェーン店の店長氏は、相変わらずのご様子。すすきの馬券連の面々、そして道営競馬の元調教師、H氏も加わって開催された不肖・ミスターYの歓迎会、店長氏はいつも通りのハイペースでしっかりとご酩酊です。

「店長氏は馬券経済も破綻しそうですからね」と学生君が冷やかします。

「馬券経済ねぇ、これほど効率が悪い物はないんだがねぇ」H元調教師が相槌を打ちます。“半世紀”以上、歳の差があるのですが、学生君とH元調教師はなかなかウマが合うのです。

「Hさんはいいよねぇ、今は悠々自適、馬主免許も取って、持ち馬は続々勝ち名乗りってんで」ご酩酊の店長氏は絡み酒になってきました。

「勝った、と言ったって、下級条件じゃあ15万円しか入らんのだよ。まあ、地方競馬の馬主経済はどこも同じようなもの。とにかく無事に回数だけは使ってもらって出走手当をもらわんとね、飼い葉代が出ないんだ。現役の頃は、馬主さんに迷惑をかけないようにと走らない馬でも一生懸命レースには出すようにやりくりしたもんだよ」とH元調教師。引退してもうすぐ2年、敏腕調教師でならした頃のことが懐かしそうです。

「引退したと言っても、生活は全然変わらんのだよ。毎朝、息子の厩舎に行っているからね」とH元調教師。ご子息が調教師家業を引き継いでいるから、H氏の活動の場所はまだまだあるというわけです。

「そうそう、元気なうちはせいぜい早起きした方がいいよ。やめると急に老け込んじゃうからねぇ。でもさぁ、邪魔にされないようにせんとね」店長氏が皮肉ったところで話題が変わりました。

「で、天皇賞、面白いレースになりますよね、きっと」と学生君。

「なんだよ、どうせウオッカで堅い、なんて思っているんだろ?」と店長氏も膝を乗り出してきました。

「もちろんです。ここを勝てば7冠!!あのシンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ディープインパクトに並ぶんですよ、しかも牝馬で!!」

「7冠だろうが、何だろうが、そんなありきたりの結末にはなりっこないね。秋華賞も菊花賞も雪辱、逆転、がキーワードだったんだから」

ライバル同士の学生君と店長氏のやりとりはヒートアップしていきます。

「で、勝つのはスーパー上がり馬、シンゲンだ。オールカマーは3着だったが、得意の東京コースならガツンと来るんだ」というのが店長氏の結論です。

H元調教師が割って入りました。「ちょっとお付き合いがある音無君の2頭だな。オウケンブルースリと、カンパニー。どっちも最高の出来に仕上がったとのことだから」と、ニンマリです。

「えっ?道営の星、コスモバルクは買わないでいいんですか?、っと」店長氏が絡みますが、そんなことにはお構いなしに、3連単の鬼氏が久々のご託宣です。

「オールカマー、毎日王冠、朝日チャレンジCと、ここのところの古馬戦線はスローペース症候群なんだな。その反動が天皇賞で一気に出る。オールカマーで最も脚を余していたドリームジャーニーが突き抜ける」。ウオッカの連覇、7冠達成なるか、で盛り上がる秋の天皇賞ですが、北の大地に生息する反骨の馬券師たちは、それぞれの逆転ドラマを思い描いているようです。(第61話終了)