高橋摩衣のインタビュートピックス「マイが聞く!」田中博康騎手

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クィーンスプマンテに騎乗してエリザベス女王杯を制し、初のG1タイトルを手にした田中博康騎手にお聞きしました。


高:
田中騎手、G1初勝利おめでとうございます。どうですか?G1を勝って。

田:徐々に実感が湧いてきた感じですね。美浦トレセンに戻ってからも、大勢の方から「おめでとう」と声をかけていただいて。電話やメールもたくさんいただきました。

高:ゴールしてすぐはどんな感じだったんですか?

田:何か…「ん?」って…。「えーと、このレースって何だったっけ?」みたいな(笑)。

高:かなり頭が真っ白になっていたんですね(笑)。レース後は号泣されていましたけど、まさか自分でも泣くとは思わなかったんじゃないですか?

田:いやー、岩田(康誠騎手)さんに声を掛けられたら、もう…。

高:スイッチが入っちゃいましたか。

田:岩田さんには夏からお世話になっていましたからね。今年の夏は、初めて一人で北海道で乗っていたんですけど、その時に岩田さんにいろいろと面倒を見ていただいて。あと、栗東へ行った時にはご自宅に招待していただいたり。

高:そうなんですか。

田:エリザベスの当日も、レース後に3回くらい電話をいただいて…。本当に感謝しています。

高:そんな岩田騎手から声を掛けられて、つい込み上げて来たんですね。以前、シルクメビウスでの初重賞勝ちインタビューをさせていただいた時の「周りから『それほど嬉しそうに見えない』と言われました」っていう話が印象に残っていたので、田中騎手が泣くなんて意外でした。

田:シルクメビウスの時も嬉しかったんですけどね。周りの方には、あまりそうは見えなかったみたいですね(笑)。

高:今回はまた違った喜びの味わいで。

田:そうですね、クィーンスプマンテに乗せていただくまでに、いろいろな経緯がありましたからね。ずっと乗り続けていたわけではないですけど、未勝利戦で勝たせてもらっていましたし。今回もオーナーにいただいたチャンスを活かしたい気持ちが強かったので、本当に嬉しかったですね。

高:オーナーのグリーンファームさんにとっても初G1ですよね。

田:それもまた嬉しいんですよね。いつも応援していただいているので。

高:京都大賞典とエリザベス女王杯の両方に騎乗する事は、早くから決まっていたんですか?

田:はい。結構、早い段階からその2レースをセットで依頼していただきました。

高:今回のエリザベスでは「何が何でも行くつもりだった」ってコメントをされていましたけど、京都大賞典の時も「この馬は逃げた方がいいんじゃないかな」と思ったんですか?

田:それはもちろん思いました。プリキュアがいなければもっと粘れていたんじゃないかなっていう手応えを感じました。だから京都大賞典が終わった後は「プリキュアがいなければいいな」とか「今度は絶対に行きたい」ってずっと考えていたんです。

高:ところがエリザベス女王杯でまた一緒になって。

田:最初は、エリザベスにプリキュアは出ないっていう事になっていたんですけどね(笑)。やっぱり出る、となりましたけど、僕は「絶対に行く」と決めていました。

高:でも、そのプリキュアの存在が、今回は逆に功を奏したという面もあったんじゃないですか?

田:それはあると思いますね。プリキュアがピッタリ2番手にいてくれたおかげで全てが上手く行ったような気もしますよ。僕の馬もプリキュアもそんなに断然の実績がある2頭でもなかったし、後続としては、いずれ下がってくるだろうと思っちゃうんじゃないですかね。自分からは動きたくないでしょうし、誰か動いてくれ、という感じだったんじゃないですか?

高:ペースとしては良い感じで来ているという気持ちでした?

田:はい、直線に向くまではいろいろ考えて冷静に乗れました。

高:どんな事を考えていたんですか?

田:「手前をしっかり替えて」とか「いいリズムで走れているな」とか、そういうのを自分で確認したり考えたりしながら乗っていました。良い感じで直線に向けたな、と思った後はもう必死で追いました。

高:最後の直線でも、後続とだいぶ差がありましたけど「これは行ける」と思った瞬間はありますか?

田:最後の2、3完歩ですね。その時は、もう何も来ないというのが分かったので。それまでは「行けるんじゃないか?」という感覚は無いですよ。もう必死になって追っていましたから。

高:後続の足音は聞こえました?

田:聞こえなかったですね。ただ、プリキュアの事は常に気配を感じていましたけど。

高:スタンドの歓声はどうでした?

田:大きかったですね。凄かったですよ。


高:その歓声の沸き方で、後ろから何か突っ込んで来ているんじゃないか、とか思いませんでした?

田:そうですね、強い馬がいたので。

高:その大歓声を聞きながらゴールを先頭で駆け抜けて。私もビックリしましたけど、多くのファンが驚いたと思います。

田:人気は無かったですから、馬券を当てているファンも少なかっただろうし、レースを観ているお客さんからしたら盛り上がりにくいレースだったと思いますけど、僕はそれを気にしている場合じゃなかったですね(笑)。

高:アハハ(笑)。

田:表彰式が終わってインタビューを受けた時に「応援してくださってありがとうございます」とか言ったんですけど、果たして競馬場で観ていた人のうち、何人が僕を応援してくれていたのかなって、ふとインタビューが終わった後に考えて。…大していなかったんじゃないかな、と(笑)。

高:11番人気ですからね。あまり人気が無かった事でプレッシャーも少なかったりしましたか?

田:全然緊張しませんでした。しいて言えば、ゲートの中でいたずらする馬なので、それを気を付けていたくらいですね。

高:そうなんですか。

田:それが原因で過去にも出遅れた事があったので、それだけは絶対にしないように、と。あとはリズムだけですね。

高:ちなみに、何でクィーンスプマンテって逃げた方がいいんですか?

田:何でですかね…、藤岡佑介先輩も「この馬は逃げなきゃダメだ」って言っていましたけど…。やっぱり、モマれ弱さはあるかもしれないです。周りに馬がいると力を発揮出来ないのか…。エリザベスの追い切りも、前に馬を置いて後ろから付いて行ったんですけど、遅れちゃったんですよ。一旦は先に出たんですけどね。「もっと力を発揮出来るのにこんな感じだから、何か精神的なものがあるんだろうね」って、スタッフさんとも話をしました。

高:別にバテているわけでもなく。

田:そういう感じではないですからね。何か気を使うんじゃないですか。

高:本当、エリザベスは逃げられて良かったですね(笑)。

田:そうですね。僕の馬の方がプリキュアよりも内でしたから、無理なく行けましたしね。もちろん外からでも行くつもりでしたけど、内から楽に行けたっていうのは良かったですね。

高:G1ジョッキーの仲間入りですよ。

田:そうですね(笑)。G1を取れるとは思っていなかったですけど、西高東低といわれる中、関東馬でG1を勝たせていただいたというのも嬉しいです。

高:G1を取れると思っていなかった、というのは、自分がG1を勝つ日が来るとは思わなかった、という事ですか?

田:はい、それくらい遠い存在でしたね。これまでG1には何度か乗せていただいていますけど、全然違うな、と思って。今年の秋華賞でホクトグレインに乗せていただいた時も、自分の中では期待をしていたんですけど勝てませんでしたし…。でも、今までそうやってG1に乗せていただいて来た事や、シルクメビウスのような馬に乗せていただいている経験も生きていると思います。ジャパンダートダービーのような大きな舞台を経験させていただいて。

高:そういう積み重ねが大一番で生きたんですね。

田:あとは、師匠(高橋祥泰調教師)の教えがここで生きたなって。これはレースが終わった後、ウチの助手さんに言われたんですけど。

高:どんな教えなんですか?

田:競馬はハナに行け、っていう、積極的な競馬をしなさいという事ですね。僕も2年目にイケイケの積極的な競馬でたくさん勝たせていただきました。ほとんど逃げ先行ばかりで。

高:そういう教えをされてきた高橋先生でしたら、今回の勝ち方は更に喜んでいらっしゃったんじゃないですか?

田:師匠にはすぐに電話をしましたけど、多分今回は喜んでくれていたような…

高:気がする、と(笑)。G1を勝った事によって周りの目が変わってくるんじゃないか、と思いますか?

田:そうなるって周から聞いているので、負けないように頑張らないとダメですね。自分が変わって、相手から求められるものに付いて行かなきゃいけないというか「G1ジョッキーだ」という目で見られて、ヘンなレースをするのもマズいですからね。それがプレッシャーにもなりますけど、ここで頑張らないと、せっかく勝たせていただいた事が無駄になってしまいますから。

高:このチャンスを生かして、次なる飛躍を、と。

田:そうですね。

高:でも、G1を勝ってもマイペースさは変わらないというか、落ち着いたオーラが変わっていなくて良かったと思いました。急に目がギラギラしていたらどうしよう、と思っていたんですけど(笑)。

田:アハハ(笑)。それは変わらないですね、もう。どんなに大きなレースを勝っても、人格までは変わらないです(笑)。これで終わりではないですし、また頑張り続けるしかないですから。

高:そうですよね。では、これからもそのマイペースな感じで頑張ってください。今日はありがとうございました。

田:ありがとうございました。


田中 博康
(たなか ひろやす)
1985年12月5日生まれ
[初免許年] 2006年
[所属] 美浦・フリー
[初騎乗] 2006年3月4日1回中京1日目5R ペイルローズ (13着/16頭)
[初勝利] 2006年3月18日1回中京5日目6R タイキエンデバー
[今年度成績] 502戦24勝
[生涯成績] 2149戦94勝