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続・北北の話(12/18)
2009/12/18(金)
歳末ムードが日増しに強くなってきていますが、東京・六本木のJRA本部記者クラブは相変わらずの風情です。記者クラブOBが数人、お茶を飲みながら、松井秀喜のエンゼルス入りの話題に花が咲いています。
「守備にこだわったんだが、DHだけの方が楽でいいんじゃないの?」
「いや、ヤンキースの処遇があまりにも冷たいんで、仕方がないだろう」
「年俸が半分になったと言っても、5億円オーバーだからなあ。まあ、あと何年かの勝負だろうけど」
「5億円ねぇ~。私たちは年末ジャンボに期待だな」
そんな大先輩たちの話の輪には背を向けて、TC紙のN記者がいつもながらの横柄な態度でソファーに深々と腰を下ろしていました。仕事のついでに覗いてみた不肖・ミスターYの姿を見ると、さっそく切り出してきました。
「ヤマテキ一門の連発だよ。これから美浦入りだけど、今週はタカキに張り付こうと思っているんだ」
「ヤマテキ」とは、山崎彰義元調教師。2002年に引退されましたが、現役時代はN記者はもちろん、不肖・ミスターYも何かとお世話になった御仁です。先週の阪神JFを勝ったアパパネの国枝栄調教師は、ヤマテキの元で調教助手をしていました。そして「タカキ」こと、岩戸孝樹調教師は山崎厩舎の所属騎手でした。その岩戸厩舎から、今週の朝日杯FSにフローライゼが出走します。
ヤマテキは新聞記者が大好き。活躍馬はそれほどいませんでしたが、厩舎にはいつも記者が集まっていました。福島競馬に出張の際には「どうせホテル暮らしでろくなもん食っていないんだろ?」と、大半の記者連中を引き連れて居酒屋に繰り出すのが常でした。そんないつもの酒席で、ちょっとした事件がありました。記者の中の一人がよせばいいのに、デビューして間もない岩戸騎手の行状を「密告」したのです。
「いや、タカキ君、男前だから福島の夜の町でモテているようですよ」と、可愛い弟子を持ち上げようとしての言葉でした。しかし、常日頃「オレは鉄工所の息子だから、ヤワなことは大嫌いだ」と豪語していたヤマテキの逆鱗に触れたのです。おかげで岩戸騎手、大目玉を食らいました。「密告」の張本人がN記者でした。
「栄ちゃん(国枝調教師)に続いて、タカキもこれで男になるんだ」とN記者。昔の事件の罪を償おうということではないのでしょうが、何かと岩戸厩舎には肩入れしているようです。
フローライゼは新潟2歳Sでシンメイフジの2着に入った後、前走のデイリー杯2歳Sでは3番人気に推されながら8着に敗れています。
「レースが中途半端だったんだよ。新潟のように末脚勝負に徹した方がいいと、オレは睨んでいるんだ」とN記者は、どこまでもこの伏兵馬で勝負に出るようです。
美浦トレセンに向かうN記者と一緒に地下鉄の駅へ向かっていると、すすきの馬券連の学生君から電話が入りました。
「ドカ雪ですよ!!こっちは。僕にとっては最後の北海道での冬ですからね。しっかりと体感しておきますよ」といつも通りの元気な声です。
「で、朝日杯、ローズ一族が今度こそ、ですよね」どうやら、学生君の狙いはローズキングダムのようです。
フランス産の名牝ローザネイを基礎牝馬とする一族は、活躍馬の宝庫。ロゼカラー、ロサード、ヴィータローザ、ローゼンクロイツ、ローズバド…。これらはすべて橋口弘次郎調教師が管理し、勝ち取った重賞は15。しかし、なぜかGIタイトルにはまだ手が届いていません。
「これが競馬ですよね。脈々とつながる血統のドラマ。一族初のGI制覇なんて、最高です」と学生君はローズキングダムの優勝を信じて疑わない口ぶりです。
「ヤマテキ一門」の連勝か、「ローズ一族」の悲願成就か、残すところ2週となった今年の中央競馬も、厳しい冷え込みとは好対照に熱く盛り上がってきました。(第68話終了)
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