続・北北の話(12/26)

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 東京六本木のJRA本部記者クラブ室が、いつになく盛り上がっています。大一番、有馬記念の追い切りを翌日に控えた23日、テレビの前に陣取ったOB連の輪の中心でA氏が奇声を発しながら見守っていたのは、競艇の最高峰レース、賞金王決定戦でした。

 「結局は王者かいな。展開に恵まれたよな~」どうやらA氏の舟券は外れたようです。優勝賞金1億円をかけての争いは、艇界のトップに君臨する松井繁が鮮やかな差しを決めてこのレース3勝目をもぎ取りました。

 「いやね、オレは瓜生から買っていたんだよ。展示の気配がやけに良かったから。まくりに行かないで差していればなぁ~」と残念そうなA氏ですが、そこは筋金入りのギャンブラー。切り替えも早いのです。

 「さあさあ、有馬記念だよ。それに東京大賞典、競輪グランプリだ」

 A氏は現役時代、競馬はもちろん、麻雀、競輪、競艇、オートなんでもOKで鳴らした打ち手でした。さすがに年金暮らしとなってからは勢いが止まりましたが、それでもまだまだオールマイティーぶりは健在です。そんなA氏が言うように、この時期はビッグファイトの連続です。現役を退いて10年以上も経つというのに、A氏が変わらず意気軒昂なのは、レースが活力源になっているようです。

 「今年の有馬記念は難解だな。美浦や栗東からの情報をかき集めんと…」A氏はあちこちに電話攻勢です。不肖・ミスターYも現役時代に洗礼を受けましたが、これがまたやっかいなのです。その日の原稿でバタバタしている時に、A氏からの電話が入るのです。記者クラブの大先輩ですから、無視する訳にもいきません。出走馬全頭の情報を「取材」されるのです。

 「まあ、今のところブエナビスタを軸にしようとは思っているんだが、後は追い切りを取材してからの話だ」とA氏は美浦と栗東への電話攻勢を終えてニンマリしています。

 「参ったよ、オジイにつかまっちゃってさ」2日後、TC紙のN記者が、不機嫌そうな声で電話をかけてきました。どうやら、A氏の取材攻勢をまともに浴びてしまったようです。N記者は、今週は金曜日まで栗東に居残りです。ぎりぎりまで出走馬を追いかけて情報を提供する、というのが競馬記者の使命。しかし、N記者の場合は自分の馬券が最優先です。地獄の秋のGIシリーズもようやくゴール。ベテラン記者にはつらい3カ月間でしたが、最後の気力を振り絞っているようです。

 「フォゲッタブルだな、勝負は。追い切りで唸りを上げていた。すごい出来だよ」とN記者は、ここにきてスポーツ各紙の1面を飾るようになった3歳馬を指名しました。

 このフォゲッタブルはエアグルーヴの子として注目されていましたが、春のクラシックには無縁でした。しかし、夏から秋にかけて一気に台頭、菊花賞2着、ステイヤーズS優勝というステップで挑んできた上がり馬です。所属は池江泰厩舎、鞍上はルメール騎手。

 「因果は巡るってことさ。ルメールと言えば2005年の有馬記念、ハーツクライでディープインパクトに初めて土をつけたよな。それが今度は池江さんの馬に乗って有馬記念を狙うんだから。この馬が勝てばヒーロー原稿もあっという間に書けるよ」とN記者。仕事で楽ができるというのはおまけとしても、どうやらドカンと踏み込んで馬券勝負に出るようです。

 「しばれてますよ、札幌は。特に店長氏は、今にも凍え死にそうです」すすきの馬券連の学生君が相変わらず皮肉たっぷりのレポートです。東京生まれの北大生、来春から都内の某社に就職が決まっている学生君にとっては、北海道での最後の年末年始とあって、帰省するのは年が明けてからとのこと。

 「有馬記念はずっと続きますが、すすきの場外で見守るのはこれが最後ですからね」と学生君。先週の朝日杯FS、ローズキングダムの馬券をしっかりゲットしているから、自信満々です。

 「横山ブエナビスタに今年の競馬を締めくくってもらいますよ。店長氏は中山のトリッキーなコースじゃ、男馬には通用しないって消しにかかっていますけど、そんなの無視ですよ」

 クリスマスイブだというのに、競馬に全神経を集中させている学生君です。ちなみに破れかぶれ、今にも凍死しそうな店長氏はミヤビランベリに狙いをつけているとのこと。日本列島が勝負の2文字に染まる歳末の大一番、北で、西で、有馬記念へ向けての熱い思いが飛び交っています。(第69話終了)