ゴールデンホーンの凄いところ[和田栄司コラム]

ジョン・ゴスデン調教師は1日、凱旋門賞に追加登録料を払ってゴールデンホーンを出走させ、イーグルトップにはバックアップの意味で出走を命じ、ジャックホッブズを最終エントリーから外した。直線で一悶着あった愛チャンピオンS、凡人の私には分からなかったがゴスデン調教師はゴールデンホーンの凱旋門賞での勝利を確信していたようだ。一方トレヴはペースメーカーにG3勝馬のシャアーを用意、出走馬18頭が揃ったが、当日G3勝馬のメデアグロスが出走を取り消し、17頭によって争われた。

人気は史上初の3連覇に向かうトレヴ(牝5歳/父モーティヴェーター)1.8倍、ダービー馬ゴールデンホーン(牡3歳/父ケープクロス)と仏ダービー馬ニューベイ(牡3歳/父ドバウィ)が並んで6.5倍で続く。負担重量は、古馬59.5キロ、3歳馬は56キロ、牝馬は1.5キロ減になる。1着賞金285万7000ユーロ(約3億8283万円)をかけた戦いは日本時間の4日、午後10時55分にロンシャン競馬場の通称ムーラン(風車)からスタートした。

2番枠に恵まれたペースメーカーがまず自分の仕事をする。同じ馬主になるニューベイとフリントシャーが好位を追走、対照的に14番枠から発走したゴールデンホーンは一旦馬群から離れるように馬場の中央部を1頭で進む作戦である。フランキーがこんな作戦に出た頃、8番枠から出たトレヴは馬群の中で揉まれるようにして後退、一旦は13番手まで下がった。ちょうどゴールデンホーンが上がって行った時、外から順位を上げようとしたが9番手までの上昇が限度だった。

ペースメーカーの流れは極端なスローペース、ゴールデンホーンにはこれが幸いしたか、プチボワまでに絶好位の2番手に入れた。それから坂を登り、3コーナーを廻ってフォルスストリートに入る。1400mの通過は1分28秒78、心配された雨も降らずボン(良)表示の馬場で行なわれている今年の凱旋門賞、ところがペースは遅い。こうなると前で競馬をしていないと、後ろからでの挽回は効かない。トレヴ3連覇が一転難しくなって来た。

ペースメーカーは直線の入口まで仕事をして、ゴールデンホーンが先頭に立った。その内からニューベイがここぞとばかり追い上げ、ゴールデンホーンの外からはフリントシャーも追いかけて3頭が抜け出す。トレヴはどこにいるのだろう。残り400mで次の集団の外にようやくトレヴの姿が見えたが、4番手に上がったのは残り300mといつものトレヴよりは仕掛けが遅く映った。

レースはゴールデンホーンが2馬身のリードを保って2分27秒23のタイムで優勝、フリントシャーが2着、その後ろはフリントシャーの大きな体を挟んで、内ニューベイ、外トレヴの写真判定、私には勢いのあるトレヴが最後に差したと思えた。しかし、これは単なる希望的観測で、判定の結果はニューベイが残り、トレヴはクビ、ハナ差の4着に終わった。

「14番枠を引いて思わず嘆いたが、速い段階で劣勢を挽回出来た」とフランキーは語る。コーラルエクリプスと直前の愛チャンピオンSを逃げ切ったゴールデンホーンの先行策がスローペースにも助けられ実を結んだ。フランキーは、95年ラムタラ、01年サキー、02年マリエンバードに次ぐ4度目の優勝、現役のオリビエ・ペリエ騎手やティエリ・ジャルネ騎手に並ぶ7人目の4勝ジョッキーの仲間入りを果たした。

レースは、ラスト600mが34秒26、400mが22秒31、200mが11秒55、トレヴのトレードマークとも言えるスピードの爆発は観ることが出来なかったが、スローペースでの不利な位置取りから思えば良く伸びている。史上初の3連覇が達成されず、2015年カルティエ賞年度代表馬争いは、トレヴ凱旋門賞4着でどんでん返し、G1・4勝のゴールデンホーンになりそうである。パーフェクトの1年が一瞬にして消える、勝負事の厳しさを改めて痛感する思いだ。

ゴールデンホーンは来季からダーレーで種牡馬生活に入る。オーナーのアンソニー・オッペンハイマー氏は権利の半分を譲る契約を済ませた。しかし、オーナーはゴールデンホーンの走りをもう一度観たい意向である。選択肢はアスコット競馬場のチャンピオンSと米キーンランド競馬場のブリーダーズカップの二つ。特にオッペンハイマー氏はブリーダーズカップを夢見ていることから、ゴスデン調教師はブリーダーズカップターフに目標を絞った。


海外競馬評論家 和田栄司
ラジオ日本のチーフディレクターとして競馬番組の制作に携わり、多岐にわたる人脈を形成。かつ音楽ライターとしても数々の名盤のライナーを手掛け、海外競馬の密な情報を把握している日本における第一人者、言わば生き字引である。外国馬の動向・海外競馬レポートはかねてからマスメディアで好評を博しており、それらをよりアップグレードして競馬ラボで独占公開中。