経験豊富なベテランに次はたのしみと言わしめたアノ馬

先週はアーモンドアイが桁違いの豪脚を繰り出して牝馬三冠を達成。今週は牡馬三冠の最終戦菊花賞だ。そんな菊花賞週、ここで新コーナー『振り返りれば馬券になる!』をお届けする。

レース後、ジョッキーたちから発されるコメントは様々である。
「うまくいった」
「調子が良かった」
「馬が強かった」
etc…

もちろんこれらのコメントも非常に重要ではあるのだが、よりオイシイのは、負けたジョッキーのコメントだろう。検量室に引き上げてくるジョッキーの表情はそれぞれ違う。悔しそうな表情を浮かべて戻ってくるジョッキーも多い。道中の不利、自身のミス、理由は様々だが、彼らのコメントこそ、次に繋がる。このコーナーでは現場にいたからこそ知りえる敗因、そしてジョッキーの表情などを取り上げながら、次走以降妙味のある馬を挙げていきたい。

検量室前での囲み取材。コメントの長さやタイミング、そして内容は当然ジョッキーによって異なる。簡単に、シンプルな内容のジョッキーもいれば、レースをスタートから話してくれるジョッキーもいる。筆者が『内田先生』と敬愛する内田博幸騎手は後者の代表格だろう。馬の性格やレースの流れについて、これまでの膨大な経験を元に丁寧に話してくれるその姿勢はまさに『先生』そのもの。

先週末に内田先生が悔しそうに振りかえったレースがある。日曜東京8R・3歳上1000万で1番人気ながら4着に敗れたコーカスだ。「切れないと聞いていたので3コーナーから無理せずに上がっていったが、4コーナーで手応えが悪くなってしまった」と唇を噛む。レース上がり3Fを見ると33.8。上がり3F35秒台を使って好走歴のあるコーカスにとっては確かに上がりが速く、その分反応が鈍ってしまったのだろう。 唇を噛んだものの、その直後、先々に向けての話をする点も先生らしい。「いいレースはしていました。遊ぶ面があるというから、今回はしっかり追ったよ。次は楽しみ」と前を向く。先生に気合いを注入されたコーカスが次走、更に絞れて、かつ上がりがもう少し掛かるレースに出てきた時が楽しみでならない。

障害を専門に乗っているジョッキーは、先生と同じくじっくり説明してくれるタイプが多い。飛越やペースに加えコースの特色などまで話してくれる分、聞いているこちらも非常に勉強になる。どのジョッキーのコメントも好きだが、その中でも、個人的に特に好きなのは関東の金子光希騎手と関西の西谷誠騎手のコメント。

日曜東京9R・東京ハイジャンプで2着になったヨカグラに騎乗した西谷騎手がいつもと同様じっくり、聞き取りやすい声で話し始めた。「頑張りましたね。安定してきましたよ。東京のこの距離はコーナーでスタートするので、大外は不利。腹をくくって馬場のいいところを回ってきました」と語ったように、東京の3110mは圧倒的に外枠が不利。大外でただでさえ厳しいレースだった中、もう一つ、西谷騎手に誤算があった。「最後の障害でタマモプラネットが落馬してしまって…」そう、5番人気タマモプラネットが最終障害で崩れ落ちるように躓き、騎乗した小坂騎手が落馬して競走中止になったのだ。一見ヨカグラとは関係ない落馬である。

西谷騎手は続ける。「賢い馬なので、落馬を見て驚いてしまったんです」…確かにもう一度レース映像を見ると、ヨカグラは最終障害を飛越した直後、タマモプラネットの落馬に驚いて外に逃避、隣を走っていた勝ち馬のサーストンコラルドと接触して減速している。この出来事がなければ勝っていたのはヨカグラだったかもしれない。

「道中は障害を適当に跳んでいたんですよ(笑)ずっと声を出していましたからね。それでもラストは反応してくれましたし、まだまだ上積みがある馬です。大障害コースが向いているタイプだと思います」と笑いながら話した障害G1を4勝している名手。暮れの障害G1が楽しみと言わしめる素質馬のこの先に期待したい。