クローズアップ・ホースマン【小林慎一郎騎手】ドバイで見た夢

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 グロリアスノア(牡4、栗東・矢作厩舎)とともに、騎手人生11年目で初となるJRAのGⅠ、フェブラリーS(5着)に挑んだだけでなく、先週の27日にはドバイのメイダン競馬場で行われたゴドルフィン・マイル(GⅡ、オールウエザー1600m)に臨んだ小林慎一郎騎手。世界の大舞台で4着と健闘し、その存在を大きくアピールした。

「現地に着いてからも飼い葉をもりもり食べ、ノアの状態は絶好。攻め馬の感触から、初めてのコースもこなせると思っていましたよ。積極的に攻めていったんです。でも、さすがに厳しいレース。内から外から体当たりされ、『オーイ、入れてくれ』って叫びながら、道中は進みました。結果は残念でしたが、馬は持ち前の勝負根性を発揮してくれましたね。現状の力は出し切れたと思いますし、悔いは残っていません。まだ粗削りで、完成途上の段階。また挑戦したいですよ」

  父の常浩さんが元調教助手。中尾謙太郎厩舎よりデビューし、初年度は14勝をマークしたが、翌年以降は勝ち鞍が減り続けた。中尾師の引退(04年)に伴い、昆厩舎を経て、フリーとなる。
「あの年はついに0勝。もうやめようと、何度も思いましたね。翌年に矢作厩舎の一員になれたことが転機となりました。明るく、仕事熱心な人たちに囲まれ、やる気がわいてきましたよ」

  その直後には結婚。妻の恵さんもしっかり支えてくれる。美結ちゃん(2歳)、芽生ちゃん(8か月)と、二人の女の子にも恵まれ、父親としての自覚も深まっていった。
「結果がほしい正念場に、あきらめかけていた夢を運んでくれたのがノア。感謝の気持ちでいっぱいです。ドバイには妻も一緒に行きましたよ。ずいぶん遅くなりましたが、新婚旅行のつもりで。間近でレースを観戦し、感激していました。いい思い出となります」

  根岸Sでは、人馬ともに待望の初重賞制覇を成し遂げた。トモに不安が残るうえ、4か月ぶりの実戦。そんな厳しい状況でも、この道36年の腕利きである担当の池田康宏厩務員が、他馬の出走のために競馬場へ出向いた後でも夜遅くまでレーザー治療を繰り返す姿に、恥ずかしい騎乗はできないと心に誓っていたという。
「ドバイでは毎晩、池田さんと近くのホテルに見つけたベルギーパブへ通いましたね。ビールがおいしくて。もちろん、それだけでなく、明日はどんな調教をしようか、とことん打ち合わせるのが目的でした。いっしょにつくり上げてきた馬ですので、思い入れは格別ですし、それが今回の遠征でもっと深まりましたよ」

  これからの目標を訊くと、こんな力強い言葉が返ってきた。
「この貴重な体験を無駄にしたくないですからね。ノアに負けないよう、こちらも精一杯の努力をしないと。ひと鞍ひと鞍を大切にして、できるだけ長く乗り役でいたいんです。」過去に例がない奇跡の復活パターンを目指したい

小林 慎一郎
(こばやし しんいちろう)
1981年7月8日生まれ
[初免許年] 2000年
[所属] 栗東・矢作 芳人
[初騎乗] 2000年3月4日1回阪神3日目1R タキノルディー (8着/10頭)
[初勝利] 2000年3月19日1回阪神8日目12R リキアイフジ
[今年度成績] 15戦2勝
[生涯成績] 1129戦55勝(うち障害97戦1勝)