重賞メモランダム【ダービー卿CT】

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春は名のみの風の寒さや。

桜の季節となり、例年は花見を兼ねて来場するファンで賑わう中山競馬場なのに、スタンドは空席が目立った。高松宮記念からスタートした春のGⅠシリーズの谷間とはいえ、日曜の入場人員は前年比で約90%の3万1千人余り。
ただし、混戦模様のレースは売り上げが伸びる。ダービー卿CTに限れば、売得金は昨年の99%。ドリームジャーニーが1・2倍の圧倒的な人気を集めた大阪杯は、76%と大幅に減少している。馬券的にはこちらに魅力を感じたファンが多かった。単勝10倍以下がずらりと6頭も並ぶ、難解なハンデ戦である。何を重視すべきなのか、実に悩ましかった。

勝負のポイントとなったのは、なんといってもペースだった。1分34秒3の勝ちタイム。馬場状態やメンバーを考えれば、いかにも平凡である。平均ペースで流れた前日の3歳未勝利との比較でも、コンマ4秒しか違わない。ラストが11秒4、11秒1、11秒5なのだから、後方からの追い込みが決まるわけはなく、上位4頭の位置取りは揃って先行、または好位。

1馬身差をつけ、先頭でゴールに飛び込んだのは、7番人気のショウワモダン(牡6、美浦・杉浦厩舎)。これで中山では5勝目となるコース巧者だが、重賞は14回目の挑戦にして初勝利である。
「きょうはパドックから違い、背中からやる気が伝わってきた。ビリビリしたものが」
と、後藤浩輝騎手は振り返った。確かに、気合い乗りの良さが目立ったが、キャリア37戦目の同馬が急上昇したわけではなく、このジョッキー特有の積極的な攻め方が功を奏したと見るべき。

マイネルファルケの逃げは想定内。インのサニーサンデーを押さえ込むことに集中した」
スタート直後には流れをつかみ、口を割って行きたがった3着馬のサニーサンデー(牡4、美浦・谷原厩舎)とは対照的に、2番手をのびのびと走った。
1馬身差の2着に粘ったマイネルファルケ(牡5、美浦・萱野厩舎)も、渋太さが身上のタイプ。今回はむしろスムーズすぎた。同馬としては精一杯の上がりを使っている。上位3頭は最内を走った利もあり、展開を味方にしての好走。
一方、2番人気のフィフスぺトル(牡4、美浦・加藤征厩舎)は、外枠が災い。前走と同様、前めで安定した走りができている。この負けで評価を下げる必要はない。

今後につながる走りを示したのが、5着に食い込んだセイクリッドバレー(牡4、美浦・高橋裕厩舎)。久々のマイルとなったが、そつなく立ち回れたうえ、末脚もしっかり。この路線への適性は高い。

1番人気のトライアンフマーチ(牡4、栗東・角居厩舎)は10着に敗退。大外を回し、33秒8の上がりを駆使しているものの、ショウワモダンのラスト3ハロンが33秒7。性格的にはずいぶん大人になり、調教でも常識的な負荷をかけられるようになっているが、逆に爆発力が薄らいでしまった。馬体のシルエットも少し淋しく映り、張りが物足りない。心と体のバランスが崩れている印象を受けた。

大きく期待を裏切ったのが、昨年の安田記念の3着馬であり、トップハンデを背負ったファリダット(牡5、栗東・松元茂厩舎)。最後方をぽつんと進み、いったんはぐんぐん差を詰めたが、なんと殿負け。調教パートナーの青木健二調教助手も、呆然とパトロールビデオを見つめていた。
「思い切った戦法を取るつもりだったが、それにしても。状態には自信を持っていたし、調教の走りからもトップクラスの実力を秘めていることは間違いないのに。どこかに走るスイッチがあるはず…。ただ、それが見出せない現状なんだ」
狙いどおりに賞金を加算できす、安田記念への道は険しくなったが、次にどんな手を打ってくるのか、引き続き注目したいと思う。