重賞メモランダム【ヴィクトリアマイル】

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ウオッカが引退しても、競馬界は牝馬の時代。ヴィクトリアマイルには、日本を代表する2強、ブエナビスタ(牝4、栗東・松田博厩舎)とレッドディザイア(牝4、栗東・松永幹厩舎)が顔を揃えた。
その姿をひと目見ようと、昨年の130%強の6万6千人余りの入場人員を記録。レースの売得金こそ99.6%に止まったとはいえ、スターがいれば競馬は盛り上がる。

レース自体も実にスリリングなものだった。ゴール前は、9着のプロミナージュ(牝5、美浦・小島茂厩舎)までがコンマ2秒差内に固まって入線。ただし、強力な先行勢がいなかったことが、手に汗握る接戦をもたらしたともいえる。
勝ちタイムは1分32秒4。レースの前半5ハロンは57秒5だが、GⅠとしてはさほど速いペースではない。前日の京王杯スプリングCでもレコードが飛び出した高速馬場である。先週のNHKマイルCが、5ハロンを56秒3で通過し、1分31秒4の決着。同日の古馬500万下では、57秒0のハイラップを先行したクリールトルネードが、1分32秒9で駆け抜けているのだから。

単勝1.5倍の人気を背負い、ブエナビスタが4つ目となるGⅠのタイトルを奪取した。圧倒的な支持に反して、わずかクビ差の勝利だったが、振り返れば昨春のオークスも絶体絶命のピンチを跳ね除けた。運だけでなく、苦しい状況でこそ持ち味を発揮する。横山典弘騎手も、「本当にすごい馬。底力が違った」と馬を称えた。
「ドバイ遠征の後だけに、馬もたいへんだったろう。状態としては、やはり本物じゃなかった。いつもどおりに落ち着いていたが、ちょっと身のこなしが硬かったもの。案の定、ゲートを出ず、ひやっとしたよ。それで後方からの競馬になったが、逆に腹をくくるしかなかったからね。馬を信じて、直線に賭けたんだ」

これでマイルでは5戦5勝となったが、桜花賞以来となる距離。ドバイシーマクラシック(芝2410m)で2着に健闘した後だけに、異なった条件に対応するのは容易ではなかったはずだ。今回は、日程的にも余裕のない仕上げを強いられた。着差以上に抜けた能力を示し、また、大いに魅せるパフォーマンスだったといえる。
JRA G1を4勝以上した牝馬は、他にウオッカ(7勝)、メジロドーベル(5勝)、ダイワスカーレット(4勝)しかいない。すでに牝馬の枠を超えた実力を誇るだけに、先に見据える最適の舞台、宝塚記念でも、当然、勝ち負けが期待できる。ただし、現状のデキで通用するほど甘くはないだろう。今後も調教状態が注目される。
リーディングのトップを独走する横山典騎手は、自身最速となる年間重賞10勝目をGⅠで飾った。今週のオークス(サンテミリオン)、そして、ダービー(ペルーサ)と、その冴え渡る手腕から目が離せない。

直線でいったん抜け出し、場内を沸かせたのが、2着のヒカルアマランサス(牝4、栗東・池江郎厩舎)。もともと稀有な才能を見込まれていたとはいえ、ずっと飼い食いの細さに泣いてきた。
「前走時は状態が戻り切らなかった。京都牝馬Sの反動は大きく、しばらく微熱が続きましたし、回復が遅かったですからね。今回はしっかり乗り込め、調教の反応も違う」(担当の川辺賢一郎調教助手)
とのことだったが、今回もマイナス体重。それでも、厳しく仕上げる名門厩舎の執念に磨かれ、馬体の張りは明らかに良化していた。

内田博幸騎手の好判断も光る。
「出たなりで競馬をしようと思っていた。いい位置に付けられたし、それをキープしながらでも脚をためることに注意して、うまく追走できた」
前半の手応え以上に息が入っていた。追い出しのタイミングにも狂いはない。それでも差されたのは、完成度の違いである。繊細な体質がポイントとなるタイプではあっても、将来性はかなり。

3着は、横一線からハナだけ出たニシノブルームーン(牝6、美浦・鈴木伸厩舎)が確保。大切に使われてきただけに、年齢以上に若々しく、イメージ以上に奥がある。
「次々に前に入られ、厳しい展開。この馬も苦しい手応えのなか、よく盛り返してくれた」
と、北村宏司騎手は愛馬をねぎらう。いよいよ本格化。すっかり走りが安定してきた。

2番人気のレッドディザイアは馬券圏外の4着に終わった。しかし、外枠から勝ちにいっての結果であり、僅差の惜敗。
「枠のせいにはしたくないが、前が止まらない馬場だから、ある程度は出してインへ導きたかった。希望どおりの中団を進めたけど、ちょっと力んでいたね。そのぶん、最後は止まってしまった」
四位洋文騎手は悔しさを隠そうとしなかったが、ドバイで世界の強豪と2戦を消化して帰国。ブエナビスタ以上に酷なローテーションともいえた。本来はもっと距離があったほうがいい。崩れなかったのは立派であり、宝塚記念につながる内容だった。再度の対決でリベンジを果たしても不思議はない。

4歳には役者が揃っている。5着のブロードストリート(牝4、栗東・藤原英厩舎)や6着ミクロコスモス(牝4、栗東・角居厩舎)も、内容的には見どころがたっぷり。トップが強ければ強いほど、脇役も力を付けていく。序列はまだまだ変動するし、流れや条件が違えば、一気に台頭するケースもあるだろう。これからの牝馬戦線に、楽しみがふくらむ一戦となった。