関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

大竹寛央調教助手

超スローのデビュー戦を快勝すると、良血馬が集った続く黄菊賞はレコードでの4着。さらに葉牡丹賞では、関東圏の500万では力が違うところを見せつけたキングズオブザサン。不振が続いていたチチカステナンゴ産駒に、ヒーローが誕生した瞬間と見ていいだろう。試走を済ませて臨むレースは再度の中山2000mとなる京成杯。皐月賞候補に躍り出る一戦への意気込みを大林寛央調教助手に伺った。

出会った当時から違った感触

-:キングズオブザサン(牡3、栗東・荒川厩舎)は、お母さんがスティンガーという超良血馬ですね。最初に見た時の印象を教えて下さい。

大林寛央調教助手:バランスのいい、まとまった体つきの馬だなと思いました。

-:その後、乗ってみた感触というのはいかがでしたか?

大:最初からすごく良かったです。"全然違う"と思いましたね。馬体の柔軟性と、その柔軟性を生かす筋力を備えていました。

-:スティンガーというと、どちらかと言えば直線一気のイメージがある馬ですが、キングズオブザサンは先行力を生かして、長くいい脚を使うようなイメージですね。

大:そうですね。お母さんのタイプとは少し違うような感じがしますが、お父さんはこの馬と似た、長めに脚を使う、スタミナタイプのような印象があります。

-:チチカステナンゴの子供というのは、結構気が悪い馬もいるじゃないですか。キングズオブザサンはどうでしょうか?

大:気は悪いですね(笑)。幼さからくる気の悪さという感じなのですが、扱いやすい馬というわけではないです。他の馬が悪さをしていたら“じゃあボクも!”って感じで悪さを始めますし、環境の変化にも影響されやすいです。

-:今朝(1/10)は雪が降っていました。馬の目線で見ると、景色が変わると思いますが、やっぱりその辺りの影響はありましたか。

大:今朝はやっぱり少しうるさかったですね。もともとの運動自体も、おとなしい馬ではないんですけど。



中山のスタミナ勝負は望むところ

-:前走の葉牡丹賞と、前々走の黄菊賞では、少し馬の印象が違いました。

大:レースの流れも全然違いましたし、黄菊賞はスピード決着になりましたからね。それでも前に行って、それなりに脚を使ってきたので、改めて能力を感じた部分もありました。

-:葉牡丹賞は芝の荒れてきた中山でのスタミナ勝負で、キングズオブザサンには合ったレースだったということですね。

大:走りからも中山などの小回りは合うだろうなと思っていましたし、チチカステナンゴの傾向として「中山でよく走る」というのも聞いていて、その部分もマッチしていたので、けっこう自信はありましたね。

-:キングズオブザサンの性格的な事を考えると、輸送が向くとは思えない印象がありました。実際に輸送をしてみてどうでしたか。

大:新馬は新潟、前回は中山に輸送しまして、輸送自体は大人しいのですが、前泊するので、体力が有り余るという点ではどうなのかな、と思います。1日置くことで、逆に環境に慣れることができるというのもあるのですが、それでプラスマイナスゼロくらいかなと思っています。



-:今回も中山ということで、相性の良い舞台で期待が持てますね。前走からの上積みという点ではどうでしょうか。

大:前走の後に1ヶ月弱くらい放牧に出していて、今回は年末から追い切りを重ねて、前走くらいのデキには持ってきているのかなと思います。大きな上積みだとか、馬体の成長とかは特に無いかも知れませんが、順調には来ていますね。

-:では目イチの仕上がりになるのは、もう少し先になりますか?

大:馬体の成長という面では、そうなるかもしれないです。ただ前走から1ヶ月半の間ではありますが、気性面での成長というのは窺えますよ。普段、調教に乗っていても、悪さをする回数も減っています。

-:精神的な成長はあるということですね。顔が可愛いくて、幼さの残る馬ですよね。

大:そうですね。顔の通りまだ幼さはあります。

-:その分、これからまだまだ成長していくという伸びしろも感じます。

大:完成したらどのくらい強くなるのか、という楽しみが残っていますよね。


「持久力勝負の方が良さは生きると思っていますね」


-:2歳時に2勝できたというのは、この馬の能力の証だと思います。あとはどの辺りが成長してほしいと思いますか?

大:普段はヤンチャな面はありますけど、レースに行くと、ホントに上手な競馬をしてくれるので、精神的にはそこまで注文はないですね。敢えて言うなら、まだ下見所などで幼さや馬っ気を出したりするので、その辺りはもうちょっと大人びてくれたらいいかな、とは思っています。

-:でも、馬っ気を出したりするっていうのは、逆に言えばそこではオフになっているということですよね。イレ込んでレース前に終わってるという最悪のパターンではないですから、その辺りの余裕はあるんでしょうね。

大:そうですね。イレ込む感じとかはまだ無いです。

-:レースで好走するとしたら、スローになって切れ勝負になるよりかは、ある程度流れた中で上がりがかかるような展開が向いてそうですね。

大:それは間違いないと思います。持久力勝負の方が良さは生きると思っていますね。

-:だとしたら、出ることができれば、日本ダービーが楽しみになりますね。

大:まだそんなことを言える段階じゃないんで(笑)。まだキャリアも浅いですし、色々覚えてもらわなきゃいけないことも多くて、チャレンジャーの立場です。



理想の馬体重と当日の雰囲気

-:今週の追い切りについてですが、どんな動きでしたか?

大:坂路でシンザン記念を使うクリノカンパニーと併せて、4F54.0-13.2秒でした。「しっかりやっておけ」という話だったので、ステッキも入れて反応を確かめました。遅れはしましたが、1週前でビシッとやれたので、これで変わってくると思います。

-:相手は今週に使う馬ですものね。この馬の、坂路での水準的な時計というのはどれくらいですか?

大:抜群に動く方ではないですが、54秒から53秒ぐらいでは動けると思います。終いも13秒を切るぐらいですかね。

-:来週の追い切りにはジョッキー(大野拓弥騎手)も駆けつけて。

大:はい。ジョッキー騎乗で、感触を確かめてもらう形になると思います。

-:馬場状態にもよりますが、いい時計が期待できそうですね。最近は雪が降ったり、急に寒くなったりして、中山の芝コースも少し重くなる傾向にあり、よりこの馬の注目度がアップされると思います。

大:それはプラスになると思いますね。

-:注文がつくとしたら、マークされやすいポジションで競馬をしているので、目標にされた時にどうかという部分でしょうか。

大:それはしょうがないですね。

-:スタミナ比べに持ち込んで、ねじ伏せられたらいいですね。今の体重と、京成杯に向けて狙っている体重があったら教えて下さい。

大:今日、量って474キロで、プラス6キロ前走から増えているのかな。来週また追い切って輸送になるので、前走と同じか、ちょいプラスぐらいで出られると思います。

-:ということは、輸送ではそんなに減らないのですか?

大:減らないですね。飼い葉が全然落ちない馬なので。

-:精神的にピリピリしてる馬はカイ食いが細くなったりする場合もありますが、この馬はよく食べるんですね。

大:よく食べますね。神経質になって食が細くなるような面は、まだ見せてないですね。頼もしいです。

-:そういう面でも基礎体力や回復力はありそうで、一層楽しみですね。パドックを見ているファンに、良い時はこんな風だよ、と教えてください。

大:まだ、キャリアも浅いので、はっきりとしたことは分からないですが、変に馬っ気など出してなければ大丈夫だと思います。若干遊びながら、こっちにちょっかいをかけながら歩いていますね。

-:じゃあ、困らされてるぐらいの方がいいですか。

大:それが普段通りのあの馬なので。



-:昨日、写真を撮って、僕のツイッターに投稿したんですが、可愛いですよね。

大:競馬ラボのツイッターをちょくちょく見ていたので、僕もその写真を見ましたよ。可愛い感じでしたね。

-:ありがとうございます。まさか知っているとは思わなかったです。

大:いやいや(笑)。確かカメラマンの人もいたなと思って。”高橋さん”って名前までは、ちょっと覚えてなかったんですが。

-:私でした。

大:ハハハ(笑)

-:最後に、可愛いキングズオブザサンを応援してるファンにメッセージをお願いします。

大:まだキャリアも浅いですし、競馬もこれからどんどん覚えていく段階です。相手は結構揃いますけど、クラシックを目指す上で負けられないつもりでいるので、いい競馬をお見せしたいですね。

-:多分、キングズオブザサンのファンの中には、スティンガーの熱烈なファンもいると思いますが、お母さんとはタイプが違いますからね。色も違うし、脚質も違うという。また違う面で応援してくれたらいいですね。これからクラシックシーズンはまだまだ先が長いですけど、頑張って仕上げて下さい。ありがとうございました。

大:まず毛色が違いますからね。実績はお母さんに追いつけるように頑張りたいと思います。応援してください。



中山芝のチチカステナンゴ産駒通算成績(2014/1/12終了時点)
成績 勝率 連対率 複勝率 単勝回収率 複勝回収率
(9-8-2-38) 15.8% 29.8% 33.3% 149% 107%
インタビュー中で触れられたチチカステナンゴ産駒の中山コースへの相性の良さは、数値としても如実に表れており、ここまで単勝・複勝ともに回収率は100%を上回っている。キングズオブザサン自身も前走は中山2000mの葉牡丹賞を快勝。今回が初の重賞挑戦となるが、産駒得意の中山コースで連勝と行きたいところだ。


【大林 寛央】 Hiroo Obayashi

高校、大学と馬術部に所属。卒業後は一般企業に就職したものの「やっぱり馬の仕事をやりたい」と、社台ファームで働くことに。千歳で2年、山元トレセンで1年ほど過ごした後に競馬学校進学。その後はグリーンウッドで働きつつ待機し、荒川厩舎への所属が決定。トレセンに入って4年目を迎えている。これまでの担当馬は社台ファーム繋がりでクリノヒマラヤオーやサヴァーレなど。馬に乗るときのモットーは「とにかくいい面を引き出してあげること」。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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