関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

西浦昌一調教助手

伏兵コパノリッキーの大駆けに遭い、悲願であった中央G1タイトルを取り逃したホッコータルマエ。しかし、聞けば陣営に悲観の色はなく、すでに視線はドバイワールドカップ制覇を見据えている。レース後の調整は至極順調で、無事に輸送をこなせば、昨年の予行演習(同厩舎のケイアイレオーネで経験)で勝手を知るスタッフが、万全の状態へと仕上げてくれるだろう。出国まで数時間に迫った西浦昌一調教助手が、大一番に向けてのメッセージを残してくれた。

2着も収穫があったフェブラリーS

-:ホッコータルマエ(牡5、栗東・西浦厩舎)がいよいよ明日(3/14)、ドバイへ出発となります。まずは、惜しくも負けてしまったフェブラリーSを振り返っていただけますか?

西浦昌一調教助手:敗因は勝った馬が強かったということですね。相手は自分のレースに徹することができるレース展開でしたが、競馬だからそれはしょうがないです。うちの馬はうちの馬で“スピードが足りない”とか“決め手に欠ける”という課題に取り組んできた結果、ああいうスピードを見せられるようになったので、収穫はあったと思います。

-:当日の馬場状態は、不凍液(凍結防止剤)が入っていて、前が止まりにくい馬場だったと思います。その有利・不利も若干ありましたか?

西:いいえ。2番人気でしたけど、強い馬が後ろから来ていたので、構えてソツなく、いい競馬をしてくれたと思います。

-:その後の疲れや、変化などはありませんか?

西:おそらく、今までの中で一番デキが良かったので、芝馬のような乗り味に変わってきたような躍動感のある状態でした。良い形でドバイに行けたらなと思います。

-:ドバイに向かうにあたって、昨年(ケイアイレオーネでUAEダービー挑戦)と今年で変化はありますか?

西:馬は初めてですが、検疫からの状態を見ていると少々の環境変化には対応はしてくれるはずだと思います。あとは馬場適性でしょうか。

-:厩舎としても経験がありますし、今回の遠征にあたってアレンジしているところはありますか?

西:輸送面に対しても早くから取り組んで準備はしてきたので。不安が全くないわけじゃないですけど、スタッフも馬も余裕を持って行けるかなと。

-:栗東で大体仕上げた状態で輸送して、ドバイでは軽い調整で使うという流れでしょうか?

西:レースの1週前ならばそういう感じなのでしょうが、今回は2週間前に行くことになったので、向こうの馬場のこなし方ひとつで、攻めても良いかなという状態ですね。まあまあ(体は)できているので、向こうで攻められる余裕は持って行けますよね。

-:その辺りも輸送に懸かっていそうですね。輸送さえ無事にクリアできれば、終いをサッと反応を確認するくらいの追い切りはできそうですか?



出そうで出ない“ココだけ”の話

-:向こうの追い切りの馬場はどのような感じですか。

西:キックバックと言いますか、跳ね上がりが大きく、グリップも利く馬場ですね。調教段階では軽かったのですが、競馬では重い馬場だったので、キックバックを考えて、スピードをしっかりと付けていかないとなという思いで、1年間取り組んできました。

-:オールウェザー特有のグリップの良い馬場で、調教時とレース当日で完全に違う馬場コンディションに作ってくる可能性もある、難解な馬場ですよね。蹄鉄について、日本との違いはありますか?

西:蹄鉄は同じですね。アメリカの馬場と違って、スパイクを履かせるということは一切しないです。グリップが利きすぎても、慣れていないのでね。タペタの場合、どこの馬もスパイクは履いていませんからね。

-:以前ウオッカが遠征した際に、日本の蹄鉄がレギュレーションに合っていないということで、急遽使えなくなったということがありましたが、今は日本製の蹄鉄が通っているわけですか。

西:許可されていますね。

-:獣医さんなどの事情はどうなっていますか?

西:獣医さんについても、向こうのレギュレーションに沿ってですね。通訳もいますし、昨年は熱発があったんですけど、しっかりケアしてくれました。僕らがしてもらいたい治療については、大概は(規則に)引っかからないです。

-:日本から獣医さんは帯同するんですか?

西:帯同は飛行機の中だけです。向こうに着いたあとは、日本の獣医は治療してはいけないことになっています。

-:では、その後はドバイに滞在せず……。

西:日本に帰ります。


「10リットルくらいの大きいペットボトルに入ったものを、1回に2本ずつ使います。それを朝・昼・晩の3回、合計6本ですね」


-:あとは飼い葉に関してでしょうか。

西:飼い葉はこちらのを持っていけますし、えん麦もカナダ産のものをドバイで用意してくれています。えん麦、切り草、乾草類は向こうのものを使ってくれ、ということだそうです。配合を食べなかったら競馬にならないので、昨年同様持って行けることはありがたいです。

-:一時、日本の配合飼料が持って行けないという話がありましたね。色々工夫をしていたら、結果的に可能になったということで、タルマエにとっては良かったですね。水はどうされますか?

西:向こうで市販のミネラルウォーターを使います。一昨年までは無料で提供してくれていたらしいのですが、昨年からは自分たちで買わなければいけなくなりました。「水道水を使いなさい」ということみたいで。

-:どれくらいの量を使うんですか?

西:10リットルくらいの大きいペットボトルに入ったものを、1回に2本ずつ使います。それを朝・昼・晩の3回、合計6本ですね。

-:水だけで結構費用がかかりますね……。

ホッコータルマエの西浦昌一調教助手インタビュー(後半)
「気になるオールウェザー適性は!?」はコチラ⇒

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【西浦 昌一】Syoichi Nishiura

昭和49年生まれ。西浦勝一調教師の3人兄弟の長男。当初はこの世界に入るつもりはなく、東京の大学に進学するつもりだったが「早く一人前になりたい」という思いから留まることに。当時はまだ西浦師の騎手時代で、父の思い出の馬を尋ねると「カツラギエースの時は小学校5年生くらいで、社宅の周りで自転車レースしていたんです。みんなおめでとうおめでとうって言って、何がおめでとうなんだろうなと。うちのオカンは騒いでるわで、凄いレース勝ったんだ位にしか思わなかった」と。

当初に所属したのは解散した星川厩舎で「当時ジョッキーだった本田さんと仲が良かったので、頼んだら入れてくれたという感じ。可愛がってもらえて、サンライズ系とか外車、サンデーなど走る馬ばっかりやらせてもらってました」。西浦厩舎は開業して1年後から15年間所属しており、現在は持ち乗り助手として活躍。毎日馬に接する時のモットーは「一緒に気持ちを分かってあげる、仲良くしているんだけど少しだけ優位に立っておきたい」。同世代に元騎手の飯田祐史調教師などがいる。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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