関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

梅田智之調教師

有馬記念はオルフェーヴル、ゴールドシップに続く3番人気。結果11着と人気を裏切ったものの、2走前のジャパンカップ4着から、あの競馬が実力ではないことは明らか。昨年4着だった天皇賞(春)で悲願のG1制覇を果たすべく、アドマイヤラクティが阪神大賞典から始動する。梅田智之調教師が前走の敗因から2014年の展望まで包み隠さず語ってくれた。

改めて、差してこそ持ち味が出る馬

-:阪神大賞典のアドマイヤラクティ(牡6、栗東・梅田智厩舎)についてお伺いします。前走の有馬記念では先行する手もあり、後ろから行く手もありだったと思います。

梅田智之調教師:前に行くのが好きな乗り役でしたし、「後ろから行って脚を余すことがないように前々で、勝つかビリになるかの競馬をしたい」オーナーに言いました。結果は残念だったけど、悲観はしていません。秋は4戦しているし、それも強いところで毎回全力で走っていたから、多少疲れもあったかなと思います。あんなに負ける馬ではないですからね。

-:戦前は3番人気ということで、あの競馬で敗れたことで、差した方がこの馬の持ち味が出るということが改めてわかったと思います。

梅:元々、終いで勝負に行ってもキレるというタイプではなく、じわじわ脚を使うという感じでした。それなら一回前に行こう、となったけど、結果的に自分の競馬に徹したほうが良いということがわかったし、今度からああいう競馬はしないように、と思いました。

-:京都大賞典で小牧騎手が乗ったときもちょっと前に行きましたね。あの時も同じように、後ろから行ったほうがいいな、と見ていて思いました。

梅:あの時は休み明けだったから、それがいいのかわからなかったです。その次のアルゼンチン共和国杯とジャパンカップは終い勝負で、直線でちょっとエンジンのかかりが遅くて、それが2回続いたので、イチかバチか前でやらせてくれ、とオーナーに言うことになったんです。それがハマらなかっただけです。

-:陣営としてはハメに行ったんですね。

梅:そうです。着狙いの競馬だったら、いつもの様に後ろから行きましたが、そういう競馬をしていたら、また結果も違っていたんでしょう。有馬記念は、前に行った馬は全滅しましたからね。結果的には、いつもの競馬をしておけばよかったと思いますが、それも競馬ですからね。


「一回前に行こう、となったけど、結果的に自分の競馬に徹したほうが良いということがわかったし、今度からああいう競馬はしないように、と思いました」


-:あれがラクティの本当の力ではないということは誰もがわかっていますからね。ここで2014年の仕切り直しになります。昨日、馬体を見せていただいたんですけれど、相変わらずキレイですね。

梅:毛艶はいいし、本当に言うことはないです。欲を言えば、若干調整が遅れているからもう一週間くらい欲しいかな。目標はその先の天皇賞なので、叩き台としては多少余裕残しでいいんだろうけど。

-:でも、有馬記念の時の連戦の疲れというのを考えたら、リフレッシュした効果は確実にあるでしょう。

梅:お釣りを残して行った方がいいですね。そういう風に、良い方に捉えていきます。

-:有馬記念のレースぶりを考えると、ラクティはラクティの競馬をしてほしい、というファンも多いと思います。

梅:今度はそうしようと思っています。この間はちょっと色気を持ちすぎました(笑)。

-:形にハメきるタイプというよりかは、この馬の良さを引き出して上げる競馬のほうが、結果的には着順も上になるようなタイプですもんね。

梅:今までがそうだからね。この前は一か八か、今までのジリジリのもどかしさをここで晴らしてやろう、という感じで、早めに抜けだしてそのまま押し切るというイメージでレースをしましたが、ちょっと抜け出すタイミングが早すぎたというか、全体的なペースが速かったから、最後は一杯になってしまいました。



長距離戦に向いている所以

-:今朝(3/13)は雨の中での1週前追い切りでしたが、動きはどうでしたか?

梅:若干足りないなという感じだったので、いつもならCWコースを正面から1周半するところを、向正面から2周乗っての追い切りで、少し強めに調整をしました。動きは2周乗っている分、終いはもう少し弾けてほしかったなというところはありました。良い時計は出ているけど、見た感じは良い時と比べると、まだ物足りないなと思います。でも、もう1週間あるからね。

-:この追い切りの狙いは時計を出すことではなく、負荷を掛けていいコンディションでレースに行くことですね。

梅:いきなり3000mを走るので、ある程度距離を乗り込んでおかなければ息がもたないと思いますし、そういう意図もありました。

-:息を整える面と、馬体を絞るという面があったんですね。今、体重はどれくらいですか?

梅:そんなに変わっていないと思います。500キロ前後かな。この年なので、成長で大きくなるということもないですし。牧場でも休まずにある程度乗っていてくれているので、帰ってきた時に太いという感じは全くなかったです。



-:この馬は、あまり体重変化がないのが特徴ですね。

梅:常にその辺の体重で競馬をしているし、体重に関しては調整しやすいです。

-:そういう馬はそんなに珍しくないかもしれなませんけど、この馬は少し気が勝ったところがあるから、普段の動きを見ていると、すぐ体重が減るんじゃないかと思います。

梅:案外そうでもないんです。飼い葉はいつも食べますし。手入れ中とか運動中は本当にうるさいし、走っている時もオープン馬だから多少行きたがるけど、調整自体はそんなに難しい馬ではないです。この馬でいつも頭を抱えるところは、蹄だけです。自分の後ろ脚を自分の前脚にぶつけてしまうんです。「追突」と言うんですけど。

-:いわゆる「シンザン蹄鉄」みたいな話ですよね。

梅:はい。いろいろ、その辺を調整してやっています。


「操縦しやすく、距離が長ければ長いほど折り合いがついて、無駄な走りをしないところは長距離に向いているなと思います」


-:ハーツクライの産駒というのは、落ち着きがなかったり、気性的にうるさい馬も多いと思いますが、それほどあの馬にとっては悪さをしているという訳ではないですよね。

梅:性格がまだ子供っぽいし、遊んでるんでしょうね。でも、攻め馬や競馬でズブいところがあるから、逆にもうちょっと競馬でも元気なところを見せて欲しいなと。普段はあれだけ元気一杯なのに、レースではいつもじりじりとしか伸びずに、ワンパンチ足らない感じなので。

-:ああいうじりじりと伸びる面は、長距離を走る上ではこの馬の長所の一つだとも思います。

梅:操縦しやすく、距離が長ければ長いほど折り合いがついて、無駄な走りをしないところは長距離に向いているなと思います。

-:阪神大賞典で一緒に走る相手として、ゴールドシップというやや似たタイプの馬もいます。

梅:ウチの厩舎の馬ではないけど、あれはちょっとケタ外れな馬ですよね(笑)。最後方から行って、3コーナーから捲ってそのまま突き抜ける。あんなのは頭二つくらい抜けてないとできない芸当だからね。それでずっと今まで勝ってきてる馬だから、ああいう馬が自分の競馬をすれば、楽ではないなと思うし、潜在的な実力は及ばないんだろうけど、競馬はやってみないと分からないですから。



-:ハーツクライ産駒ということで、晩成型のイメージもあります。

梅:それはあると思いますね。ウチもハーツクライ産駒を何頭か預かっているけど、どれも新馬向きじゃないです。促さないと進んでいかないし、調教でも自分からハミを取って走ろうとする馬が、あまり多くない。言い換えたら成長すれば、それだけ伸びしろがあるという事だとも思うし、ラクティに関しては、まだそんなにレースも使っていないですからね。蹄をぶつけるような走法から、脚元には注意を払っているけど、そこはあんまり気にしたことがない丈夫な馬なんで、これから鍛えていったら、まだまだ強くなってくれるかなと思っています。

-:年齢的な衰えも身体からは全然感じないですしね。

梅:まだないですね。長距離はけっこう年をとっても走っている馬が今までも多くいるから、そう考えたら毎年無理をさせずに、狙ったレースでローテーションを組んでいければ、年をとっても、末長く上のクラスで活躍できるんじゃないかな。

-:長距離には12歳まで第一線で活躍していたトウカイトリックなんかもいましたからね。

梅:そうそう。ハーツクライという血統的な晩生傾向もあって、それくらい長く活躍できるかなと思います。

馬場状態は不問。課題は右回り

-:大型馬ではないので、長距離を走る上では負担が少ない面もプラスに働きますね。今の阪神競馬場の馬場に関しては、どのように感じていますか?

梅:先々週(開催1週目)は内の芝丈が短くて、内の馬が有利に思えたんですけど、先週辺りから外が伸びるようになっていて、良く分からない感じです。今週と来週のレースを見ながら、どこら辺が伸びるのか探っていこうと思います。

-:馬場の硬さというのが、阪神競馬場にしてはあるなと思います。その辺りはラクティにとってはどうですか?

梅:ラクティは時計勝負でも対応できるし、道悪もこなすオールマイティーなタイプなので、あんまり馬場は気にしてないですね。天気よりも、この馬はどちらかと言うと左回りの方がスムーズに走るので、そっちの方が気になるかな。

-:そうは言っても。阪神大賞典も、本番の天皇賞も、右回りですからね(笑)。

梅:それは仕方ないんですけどね(笑)。距離と馬場状態に関しては、この馬はそんなに気にならないです。

-:ただこの馬は京都の下り坂があまり得意じゃない印象がありますね。

梅:いつもあそこでもたついて、置いて行かれますからね。それで勝負付けが済んだ頃に3着とか4着に入る感じだから。逆にあの辺の反応が鈍い分、終いは伸びるのかなとも思うけど。

-:本番の天皇賞はその部分が課題になりそうですね。

梅:それでも、去年4着には来ていますからね。



-:去年一年間、強い馬と戦ってきた経験というのも生かしていきたいですね。

梅:それは絶対ありますね。例え負けていても、強い馬たちと戦ってきた経験は、後々に生きてくるはずです。

-:この馬は安定して走れるので、あとは1着が欲しいところですね。

梅:着には来るけど、勝ち味に遅い部分があるから。まあそれだけ強いところとやっていると言えば、そうなんだけですが。もう少しメンバーを見て、弱いところで走らせれば、もっと勝ち星をあげられたかなとも思います。

-:強いところと戦ってきても、大崩れはしてないですからね。

梅:崩れないですね。前回の有馬記念は崩れましたけど、その後遺症もないだろうし、阪神大賞典で始動して、そこからまた1年間崩れないように行けたらなと思っています。

-:昔の日本馬を見ているような、懐かしいジリジリとした伸び脚を、レース本番で楽しめるように期待しています。ありがとうございました。

●有馬記念前・アドマイヤラクティについてのインタビューはコチラ⇒



【梅田智之】 Tomoyuki ueda

1969年滋賀県出身。
2006年に調教師免許を取得。
2007年に厩舎開業。
初出走
07年3月10日 1回中京3日目11R エミネンツァベルタ(14着)
初勝利
07年4月7日 2回阪神5日目5R メイショウハナミチ


競馬学校厩務員課程を経て、96年から西橋豊治厩舎に調教厩務員、調教助手として所属。06年から厩舎を開業。12年の大阪杯をショウナンマイティで制して重賞初制覇。昨年のダイヤモンドSをアドマイヤラクティで制し重賞2勝目を挙げた。今年も看板馬のアドマイヤラクティ、ショウナンマイティでG1制覇へと挑む。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

■公式Twitter