関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

角田晃一調教師

フィリーズレビューは戦前の厩舎サイドの不安をよそに、好位4番手から控える競馬で快勝。事情を知っていれば尚更、ユタカマジックに脱帽するしかなかったが、あの内容で桜花賞有力候補の一頭に数えられるようになったのは間違いない。厩舎として初めての重賞タイトルを獲得し、順風満帆で臨む一戦に映るが、角田晃一調教師の心境は果たして……。トライアル時の慎重な姿勢から変化はあるのかにご注目いただきたい。

控える競馬でフィリーズレビューを快勝

-:ベルカント(牝3、栗東・角田厩舎)についてお話を伺います。前回、フィリーズレビュー前に取材をさせていただいた時には、まだまだ課題も多いということで、先生も心配されていましたね。それでも、パドックから馬場入りにかけての雰囲気から、大人しかったと言いますか、想像よりも我慢できているという雰囲気でした。

角田晃一調教師:朝日杯FSの時と比較しても、装鞍所からパドックに向かう時でも“落ち着いたのかな”という感じでしたが、それでもフタを開けてみないことには、あの子の場合は分からないこともありますからね。パドックは想定内のイレ込みというか、いくらかチャカついているなという感じでしたが、その原因も分かっていました。(1番枠だったから)他に何も馬が前に居なかったので、そういうのも、ちょっと嫌がるところがありますね。

-:馬場入りする時には、スイッチが入って、飛んで行くような感じになるのかなと思っていましたが、それもなかったですね。

角:それも工夫をして、今回はリップチェーンを装着したまま返し馬に下ろしたんですけど、ユタカさん(武豊騎手)も、乗りやすかったとまでは言わないけど「前よりはマシになってる」と言ってくれました。ある種のごまかしですけどね。

-:ただ、レース前までテンションをコントロールできた点は、大きな収穫だったと思います。

角:調教も然りですが、ちょっと変わってきてくれていたのでね。ただ、結果に結びつくかは分からないのが勝負の世界ですけど、内容も良かったし、結果も出してくれたので、これ以上のことはないですね。



-:厩舎としても、初重賞制覇をもたらしてくれた馬ですし、ノースヒルズさんにとっても、桜花賞はベルカントで臨めますし、皐月賞、ダービーにはワンアンドオンリーが控えていますから、明るい話題になりますよね。レースの話題に戻りますが、まず先生が懸念されていた、スタートしてからのコントロールが利かないのではという部分がありました。そこも予想外のレースぶりでした。

角:クリアしたのか、前回だけなのか、というのもまだ分からないので……。1枠1番を引いたのは前走が3回目でしたが、朝日杯の時は、スタートしてから変な面も見せていたので、心配でした。

-:行きたがった点ですか?

角:いや、斜めにゲートを出て行った点です。馬がいる方に寄って行く面があるので、ユタカさんとも話して「気をつけておいて下さい」とは言っていたのですが、それもクリアしてくれましたし、折り合い面に関しても、そんなに行きたがりませんでした。それも、控えて無理やり折り合いを付けたわけじゃなくて、結構フワッとした感じで4コーナーまで来てくれましたね。ちょっと手応えが無いのかな、という風にも見えましたが、リラックスして走っている分、最後も伸びてくれたと思います。


「ユタカさんは『この結果なら行かなきゃ仕方ないやろ?』と言っていました。やっぱり、逃げて勝ったわけじゃないので、それは大きいですよね」


-:前回のインタビューを見たファンから、レースが終わってから「あんなに不安に思うほどの内容じゃなくて、全然楽にクリアできたじゃないですか」という意見も聞きました。

角:と言っても、それがまだまだ楽観視はできないからね。こればっかりは……。

-:次の桜花賞を見据えて考えると、前走のラップは、1400mにしては結構遅かったと思うんです。そのペースを我慢できたのはプラスじゃないですか?

角:淡々としたペースだったとは思いますけど、後ろから来た馬も2頭いますし、ハッキリとはつかめないレースでしたね。ベルカントが一番良い位置取りだったとは思います。

-:道中、内に控えていて、あそこから上手くさばけるかという不安もあったんじゃないですか?

角:あれだけ折り合いが付いていたので、もし出て来れなくても、どこかしらで脚は使ってくれるだろうし、良い内容の収穫だったと考えようかな、とは一瞬脳裏にありましたけど、内もスッと空いてくれましたね。仮に空いてなくても、外をこじ開けたとは思いますけど、その辺りもクリアしてくれました。

-:先生としては、嬉しい誤算でしたか?

角:控えて伸びてくれるとはね。調教でもやっているとはいっても、付け焼き刃というか、実戦と調教ではまるっきり違いますからね。競馬のデモンストレーションとして、併せ馬や、後ろから追いかけるとか、そういうこともやっていますけど、競馬は2、3頭でやるわけじゃないですから。後ろから来た馬に競られる可能性もあるし、馬体を当てられて、馬がエキサイトする場合もあるから、そういうことも想定してみると、やっぱり不安はありましたよね。

-:レース前は、桜花賞に向かうのか、先のローテーションに関しては流動的という話でしたが、フィリーズレビューを勝ったことで、胸を張って本番へ臨めそうですね。

角:ユタカさんは「この結果なら行かなきゃ仕方ないやろ?」と言っていました。やっぱり、逃げて勝ったわけじゃないので、それは大きいですよね。



桜花賞に向けての調整過程

-:今度の桜花賞では、内も若干荒れてきて、もう1回差す競馬をすることになると思いますが、この中間で馬が変わってきた部分はありますか?

角:馬場はそこまで変化してないとは思うんだけど、1回レースを使ったことで、どちらかと言えば、気が入りすぎるところもあると思うので、今週を本追い切りにして、来週は54~55秒くらいに収めて、リラックスできていたら、と思います。休み明けよりはテンションも上がると思うので、その辺りがどう出るかですね。1回放牧に出すという手もあったんですけど、中3週と期間も短いですから。

-:昨日(4/2)の追い切り後に、坂路の角馬場で運動している風景を見ましたが、それほどピリピリした感じは無さそうでしたね。

角:歩いている時は、全然そういう面を見せないんですけど、キャンターになると、ちょっとしたことですぐに……。スタッフも“ちょっと力んでるかな”という感じでしたね。力んで全然ダメだということはないですし、追い切りは悪くなかったので、休み明けの方が良いのか、2回目の方良いのか。1度使って、さらに馬体が締まってくるので、そちらの方が動ける態勢にはあると思いますし、休み明けを使ったことで息の入りも格段に良くなるのは確かなんです。それ以前に、気性が前向きになり過ぎないようにしなければいけないし、ただ、G1だから甘い仕上げでもダメなので、天秤にかけると難しいところがあります。



-:気性が勝ちすぎている部分を考慮して、来週の追い切りではそれほど時計は出さないと?

角:もう本当に控えて控えて、こちらがゴーサインを出した時にどのくらいの反応をするのかだけ確かめる程度です。テンから出して行けば、おそらく51秒台くらい出てしまいますが、その必要もないので。

-:追い切りの時間帯も、馬の少ない時間にズラして?

角:普段と変わりないようにしようかなと。ウチの厩舎は普段からちょっと遅い時間帯に出していますからね。今だと(7時開場で)7時半くらいです。

-:トレセンが少し落ち着いた時間ですね。

角:馬が多すぎると併せ馬もできませんからね。

-:昨日の追い切りを見て、先生はどのような感触を持たれましたか?

角:54秒前後くらいで行ってほしいと指示しましたが、4F53.7の終いは12.3秒でしたね。ラストは12秒台ちょうどくらいで動いてほしかったなという気持ちもあります。

-:0秒3、ちょっと物足りませんか?

角:はっきりと叩いていったわけじゃないですし、仕掛けた程度のアクションでしたけどね。

-:と言っても状態は問題なさそうですからね。

角:そうですね。前回よりも良いと思いますよ。体も締まってきましたし。

-:気持ちと肉体面のバランスがしっかり整えば……。

角:あとは枠順など、すべてが上手くいかないとG1は簡単には勝てませんね。甘くないですから。

ベルカントの角田晃一調教師インタビュー(後半)
「希望の枠順と道悪適性」はコチラ⇒

1 | 2



【角田 晃一】 Koichi Tsunoda

1970年鳥取県出身。
2010年に調教師免許を取得。
2011年に厩舎開業。
初出走
11年3月5日 1回阪神3日目1R サイキョウファスト(11着)
初勝利
11年4月24日 1回新潟2日目7R ロックンロール


栗東の渡辺栄厩舎所属として騎手デビュー。89年のデビューイヤーに43勝を挙げ、同年のJRA賞で最多勝利新人騎手として表彰されると、翌年のエプソムC(サマンサトウショウ)で重賞初勝利。3年目には桜花賞(シスタートウショウ)で初G1制覇。 その後もジャングルポケットでダービーを制覇など、ヒシミラクル、フジキセキ、ノースフライトなど、幾多の名馬と共にG1通算10勝をマーク。JRA通算8322戦713勝を挙げ、一時代を築いた。
2010年をもって騎手を引退すると、2011年3月から厩舎を開業。13年のファンタジーSをベルカントで制し、開業後の重賞初制覇。調教師としても騎手時代と変わらぬ活躍が期待されている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

■公式Twitter