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高阪陽祐調教助手

安田記念との両睨みの登録ではあったものの、結果的に鳴尾記念を選択。施工条件からも前走の産経大阪杯のリベンジマッチに挑むカレンミロティック。昨年の金鯱賞が鮮やかだっただけに、その後は物足りない面もあるが、聞けば、敗因は明確なもの。敗れてもすぐに切り替えられる特性を武器に、陣営は返り咲きを誓っている。

クラシックには乗れず、せん馬に転身

-:よろしくお願いします。平田厩舎といえば、せん馬が多く存在するイメージがありますが、カレンミロティック(セ6、栗東・平田厩舎)がせん馬になった理由としては、ハーツクライ産駒特有の激しさが要因でしょうか?

高阪陽祐調教助手:2歳で入厩した時に牧場から「この馬は相当うるさいから」と言われていて、馬っ気だけではなく、自分のプライベートスペースに他馬が入ろうとしたら、すぐに立ち上がって威嚇するような、我の強いタイプでした。ウチの厩舎は集団調教でやっているんですけど、色々な厩舎の沢山の馬に遭遇するので、常に側について居なければいけなかったし、思ったような調教はできなかったです。体もなかなか絞れなかったのですが、「能力はある」という話はしていたので、とりあえずクラシックシーズンの間は、去勢は極力しないという方向で進めました。

-:クラシックを目指していたんですね。

高:そうだったんですけど、結果的には辿り着けませんでした。シーズン後に放牧に出て、秋に帰ってきた時はまだ去勢してなかったのですが、1000万クラスではワンパンチ足りないな、ということになって、相変わらずうるさいところを見せていました。ただ、競馬はマジメに走っていましたし、持っている能力は出している感じはあったので、去勢は可哀想だなあ、という気持ちもありましたね。

-:どのタイミングで去勢されたんですか?

高:4歳の頭ですね。1月のレースに出た後の、体重がガクッと減っている時期です。

-:次走の紫野特別は、-24キロでしたね。

高:去勢してすぐだったので、体も頼りなかったし、緩んだ感じで帰ってきて、全く良さそうなところが見られませんでした。ただ、走ってみるとそれなりに好走したんです。

-:その後は降級を挟んで、500万下はアッサリと勝ちましたし、常に2着3着には来ていましたね。

高:それでも、やっぱりワンパンチ足りませんでしたよね。その当時、平田先生に「京都は止めましょう、絶対に阪神が合います」と言っていたんですが、日程の巡り合わせが悪くて、京都での出走が多かったんですよね(笑)。番手に付ける競馬でも、長い直線で何かに差されることが多かったんですけど、結局1000万の特別戦は京都で勝ちました(笑)。



-:ハーツクライ産駒の特徴として、他馬が苦しくなる、スタミナを求められる展開で良さが生きますよね。舞台として、スタミナが求められる阪神のほうが合うということでしょうか。

高:力があるのは500万下の勝ちっぷりで分かっていましたからね。

-:昨年暮れには金鯱賞を勝って、ようやくタイトルホースとなりました。有馬記念でも、中山2500mで上手く立ち回れたら、オルフェーヴル相手でも前残りになるんじゃないかと期待したファンが多かったと思いますよ。

高:そうでしたね。ただ、ハミを噛む分、2500mはベストではなかったと思います。こなせなくはないでしょうけど。

-:やはり1800~2000mでしょうか。

高:そこが一番いいと思うんです。その割にはよく頑張ったし、自分の競馬でしっかり走ってくれました。3コーナーから4コーナーにかけて、一瞬夢を見ましたよ。力を付けているんだな、と思いました。

理想の展開とは

-:その後、休んで、4月の産経大阪杯はキズナ、エピファネイア、ショウナンマイティ、メイショウマンボと、少頭数ながらメンバーの濃い産経大阪杯でしたが、ここは正直もうちょっと走ってほしかったですね。

高:そうですね。物足りないですね。担当者的にも、エピファネイアがあんなに走らなかったのなら、勝つならここしかなかったような感じはします。当然キズナは後ろから行くのはわかっていたから、カレンミロティックが押さえ込めるなら少頭数のあの舞台です。期待はしていたけど、逃げる形になったというか、逃げることを選択しました。初めて逃げたわけですし、それもあるのかなという気はしますけどね。

-:そう考えると、やっぱり番手で、トウカイパラダイスとのポジションが逆になっていたら、もうちょっとやれていた可能性もありますね。

高:ベストは番手ですね。逃げて抜かれたけど、ズルっとは下がっていないわけだから、力はやっぱりそれなりに通用するんだろうけど、ああいう競馬は初めてだったので。ただ、この馬が逃げなくて、誰も行かずにスローになっていたら、全然面白くなかっただろうから、それはもう仕方ないのかなって気はしますけど。

-:そう考えると、自力で行っても良さは出ないし、若干他力本願で流れてくれて、上がりもかかってくれて、スタミナ勝負になるのを待ちたいですね。今度の鳴尾記念では、メンバー的にどれが行くかというのはわからないけども、行ってもらって、2番手から行けたら、もう少し巻き返せそうですね。

高:十分あると思います。頭数は多いほうがいいですし、それで何かが行ってくれたら、言うことない気はしますね。だた、小回りよりは大回りのほうがいい気がしますね。小回りだと、どうももう一つだな、という気がします。


「謙一(池添騎手)も言っていたけど、行ってくれる馬がいれば、シメシメですよ。前を交わすだけで、後は凌ぎきる。あの競馬が一番です」


-:ハーツクライ産駒自体が、特に若い時期にコーナリングが下手な馬が多いですが、ミロティックの場合は十分成長もしているし、骨も完成されているから、僕はそこまでこの馬は大回りじゃないと走らないとは思わないです。

高:パフォーマンスが一番いいのは外回りですね。戦法的には内回りが向くはずなんですけど。

-:僕は阪神の競馬場を見て小回りだと思わないです。十分デカイです。

高:どんだけ大きくなかったらアカンねんと(笑)。言い出したらキリがないですね。

-:器用さには欠けるけど、平均的に流れて渋太さを生かせる流れにさえなれば、というところでしょうか。

高:そうですね。そういう風にならなかったら自分で行くしかないんだろうし、行ったら終いは怪しくなるでしょうけどね。ただ、そのペースに付き合うこともないですよね。それで凌いでくれたらいいわけだし、凌げるくらいの状態にもっていけたら言うことありません。

-:だから、右回り左回りの差はあるけども、金鯱賞でのレースの勝ち方がベストですね。

高:謙一(池添騎手)も言っていたけど、行ってくれる馬がいれば、シメシメですよ。前を交わすだけで、後は凌ぎきる。あの競馬が一番ですけど、そうそうないだろう、と思っていたら、そういう競馬になっていました。大阪杯はそうはいかなかったですね。



道悪はマイナス材料

-:その分、人気がちょっと落ちるかもしれないですね。あとは体調と最近の動きの変化について、大阪杯から上積みはありそうですか?

高:中山記念がまだ冬毛ボーボーで、(状態は)もうひとつだなって感じで行ったんですよ。中山記念を使って、暖かくなって冬毛も抜けてきて、ようやく良くなってきたなというのが大阪杯でした。それで、予定通り1ヶ月くらい牧場に出して、帰ってきて、暖かくなったのがいいのかも知れないけど、馬に活気が出てきました。金鯱賞で大駆けした時みたいな馬の元気の良さが出てきた感じがしますね。元気はいいけど、息遣いとか息の入りはもうひとつピリッとはしていないです。ただ、やる毎に良くなっている感じがしました。

-:レースまであと10日もないですね。

高:もう1周週末にCウッドに乗って、ちょっと伸ばしてやって、来週ジョッキーがピシッとやればいいと思います。

-:では、中山記念の14着というのは、せん馬特有のアップダウンということじゃなくて、ただ単に状態がよくなかったのですか?

高:状態も良くなかったし、あれは馬場に尽きますけどね。雨はもうからっきしダメなので。それは、今回鳴尾記念を使うにしても、開幕週でも雨がザッと降られ過ぎてしまうと、厳しい闘いになると思います。雨はさっぱりのタイプでしょうね。バタバタバタバタと泳ぐようで、前にも行かないし、進んでいかないんです。

-:それだけ重が苦手というのも珍しいですね。ハーツクライ産駒は結構重が得意な馬が多いですが……。

高:この子は、不思議とからっきしダメですね。

カレンミロティックの高阪陽祐調教助手インタビュー(後半)
「去勢で体質にも変化が」はコチラ⇒

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【高阪 陽祐】Yosuke Takasaka

幼少の頃から競馬に親しむ。大学卒業後に軽種馬育成調教センター(BTC)の育成調教技術者研修へと進み、修了後は栄進牧場、ノースヒルズ、馬の温泉などを転々。年齢制限ギリギリで厩務員課程に合格した。
最初に所属したのは湯浅三郎厩舎で、ワンダースピード(後に転厩)などを担当。湯浅厩舎解散後に平田厩舎へと移った。「自分の馬乗りが達者だとは思っていないから、馬の能力をスポイルしないように。マイナスを極力減らすことを考えている」と、謙虚な姿勢で馬と接することがモットー。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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