角居厩舎3頭出しの中で一番のキャリアがあるキャトルフィーユ。早くから活躍する傾向があるディープインパクト産駒では奥手の口で、昨秋からの牝馬限定重賞では無類の安定感を誇っている。インタビュー中に松田全史調教助手が語ってくれたように京都は鬼門のコースではあるものの、その矯正こそが名門厩舎の真骨頂。背中には頼もしい援軍ルメール騎手を配し、激走への下準備は整った。

5歳秋にして進化している走り

-:かねてから大変お世話になっている松田助手です。キャトルフィーユ(牝5、栗東・角居厩舎)ですが、府中牝馬Sからのローテーションとなりました。脚質的に勝ち味に遅いところもあるイメージですが、ここまでを振り返って、松田さんから見た印象を教えて下さい。

松田全史調教助手:若い時は飼い葉の食いも細かったですし、調教するとすぐに体が減ってしまい、なかなか攻められなかったのです。最近は馬体重を見てもらっても分かるように、大きな変動もありませんし、むしろ前走に関しては470キロまで来ています。スタートで少し遅れて、瞬発力勝負になってしまいましたが、それでも、ラスト1Fからの競馬でも良い伸びを見せていたと思っています。

-:それでは、これから本格化と見ていいでしょうか。

松:成長と経験も積んできている馬なので、その相乗効果で今があると思っています。

-:最近のレースで印象的だったのは北海道でのレースです。洋芝で、時計のかかる舞台でしぶとさを生かすレースで勝ちました。あの時はスマートレイアーやアロマティコなど、末脚自慢の馬たちを封じて、接戦を粘り切ったという形でした。今回は京都の外回り2200mが舞台となるので、適性が少し気になるところです。

松:そうですね。確かに小回りを中心として成績を残してきた馬ですし、北海道の時も前々で競馬をして粘りこみという内容でした。ただ、クイーンSを勝ってからはエリザベス女王杯を大目標としてやってきているので、適性や走りの面で微調整ができるように、毎日調教ではやってきたつもりです。対応しなくてはいけない立場だと思っています。


「ルメール騎手にすべて任せた上で、馬の全能力を発揮してもらうような騎乗をしてもらうのが一番だと思いますが、それ以前に新しく脚質の幅を、と言いますか、前走を見てもらっても、タメたらある程度キレるようになってきているのかなと思います」


-:脚質的にはある程度先行するタイプなので、展開利は見込めそうですね。

松:その辺りも、ルメール騎手にすべて任せた上で、馬の全能力を発揮してもらうような騎乗をしてもらうのが一番だと思いますが、それ以前に新しく脚質の幅を、と言いますか……。前走を見てもらっても、ラスト1Fまで前が壁になって、分が悪いレース内容でしたが、その後の伸びはゴール板を過ぎてからディアデラマドレを交わしていくくらいの勢いがありました。タメたらある程度キレるようになってきているのかなと思います。

-:先週の1週前追い切りを見させていただいた時も、ゴール板を過ぎてからもかなり負荷をかけていた点が印象的でした。瞬発力とともに、最後まで諦めないで走らせることを意識しているのでしょうか。

松:この馬があれくらいの時計で走れる状態にあったのと、今回は輸送を挟まないので、馬体をベストに持っていくためにも終いまでしっかりとやりました。

-:この馬はディープインパクト産駒の中でも、お母さんがヨーロッパ系の血筋を持っていますよね。

松:そうです。ディープっぽくないですよね。

-:この馬の馬体の特徴はどこにあるでしょうか。

松:全体的にストライドも大きくて、ゆったりとした走りなのですが、ヨーロッパの馬のような掻き込むフォームになってきたと最近は感じますよね。今までは高い姿勢からの走りだったのですが、先週の追い切りでも分かりやすいように、最近は馬体が沈んでいくので、少しずつ走り方も変わってきたのかなと思います。

-:ルメール騎手の好きな、瞬発力を生かした形で、やや前目のポジション取りという理想的な競馬が、新たな一面が出るかもしれませんね。

松:今回はG1勝利の最後のチャンスなので、何とかしないといけないなと。

キャトルフィーユ

松田一門に縁のあるタイトル

-:先週は雨の中で開催が行われましたが、1200mのオープン特別で1分7秒台が出る馬場です。

松:雨が降ったとは思えない速さですね。

-:それでも、歩いてみると結構クッションがあったので、ああいう馬場はキャトルフィーユが好きなのではないかと。

松:馬場に関してはどういう状態になってもいいようになってきています。以前なら馬場が湿ったほうが良いとか、小回りが良い、時計がかかった方が良いなどの注文がありましたが、この中間はどういう馬場であろうが、たとえ速い時計で決着しても大丈夫なように作ってきているつもりではあります。

-:おそらくこの馬はそんなに上位人気じゃないと思います。

松:人気はファンの人が決めてくれるし、厩舎に他に2頭もいるので、それらとの張り合いもあるし、そういう意味ではやりがいのある一戦だと思うし、結果は、どれかが1着になればいいでしょうし、1・2・3着になればもっといいでしょうし。どれが1着になってもいいですけど、今は、プロセスというか競馬に向かう姿勢が心地いいですね。


「僕の祖父も勝っていますし、親父は2度も勝っています。その意味では、家系的に僕も勝たなければいけない立場と言いますか、勝たないと家に帰れないくらいの状態です


-:エリザベス女王杯は、松田さんにとっても気合の入る一戦ですね。

松:このレース自体、僕の祖父(松田由太郎元調教師)も勝っていますし、親父(松田幸春元騎手)は2度も勝っています。その意味では、家系的に僕も勝たなければいけない立場と言いますか、勝たないと家に帰れないくらいの状態です。良いチャンスが巡ってきたと思って、精一杯頑張ります。

-:しかし、同厩舎にも手強いライバルがいますね。

松:逆に、マドレにしてもラキシスにしても、彼女らが居てくれるので「頑張らなアカンな、こういう風にせなアカンな」と色々考えられるので、良い刺激をもらって、張りあいになっています。

キャトルフィーユ

京都コース攻略への隠し味

-:この馬の特徴として、乗り手を選ばないというところが能力の高さですよね。

松:いろんなジョッキーが乗っていますし、コントロールもしやすいのかなと思います。

-:その辺は普段調教で乗られてても、もともとコントロールが良かったプラス、パワーアップしてきたという部分は感じられますか?

松:調教のスピードではしんどいかなという気がします。日曜日の昼も長めに追い切りをしたのですが、札幌でクイーンSを勝った時に乗ってた助手が乗りました。前よりもだいぶコントロールが利くし、良くなっていると言ってくれたので、どんなジョッキーでもいいですし、特に外国人ジョッキーは合うのかなとは思っています。

-:実際、京都の修学院Sではテン乗りのバルザローナ騎手で3着でした。それ以来の京都ですね。

松:だけど、京都はあまり相性良くないんですよ(笑)。

-:そこをどう攻略しましょう?

松:今のこの馬の持ち味としては、長くいい脚を使うことだと思うので、自分から競馬を作ってもらえればいいかなと思います。当然、前に馬を置いてでもいいですし、逃げてもいいですし、レースを見る限り中団から競馬もできますし、どんな展開でも競馬ができるので、長所は発揮できるのかなという状態には来ています。

-:あと、好走の第一歩としては、ちゃんとゲートを出ることですね。

松:そうそうそう(笑)。物見をしないということです。

-:そこが、我々馬券を買う側としては気になるところです。この中間でなにか修正された点はありますか?

松:いつも坂路を上がっていまして、ラスト100メートルくらいに来るとフワーっとしてくるのですが、あえてそこでは集中させるようにして、ずっと集中力を高めるようにしてきました。逆に、今まではラスト1Fの方がハミが抜けて楽だったんですよね。集中力も切れていたんでしょうけど、ラスト1Fの方が今はしんどいですね。中間の坂路の時計を見てもらってもわかるように、最後が速くなっていますし、結構引っ張って上がってきているところがあります。あとは、東京の1800はちょっとコーナーがあって特殊なコースなのでそこで物見をしただけで、今回は京都2200なのでそんなに心配はないと思います。

キャトルフィーユ

-:それと、パドックにたくさん人がいるとか、お客さんが多いなど、今までと違うところだと思うのですが、その辺はもうキャリアを重ねている馬なので心配しなくていいですか?

松:大丈夫ですよ。大人しいです。

-:松田さんでも調教で持っていかれるくらいのスピードが、この馬には備わっているということですよね。

松:そうですね。パワーがやっぱりあるので、その辺だと思います。

-:角居厩舎3頭の中でも組み立てやすい1頭ですからね。

松:ラキシスも競馬は上手ですし、ディアデラマドレも最近は引っかからなくなっていい競馬が続いていますし、それらに少しでも近づけられたらいいと思います。

-:では、キャトルフィーユのファンに本番に向けてのメッセージをお願いします。

松:4コーナー先頭に立った時には、切れ味ではないですが、渋太さを生かす馬です。交わされそうで交わされないのがキャトルなので、その時に応援してもらえればその声でもうひと伸びできるのかなと思います。

-:では、僕らが声を振り絞って応援することで、キャトルフィーユが走ってくれるのですね。

松:そうですね。そう思って僕も頑張ってやります。

-:分かりました。ありがとうございます。

(取材・写真=高橋章夫)