阪神で施行されていた旧JCダートでは4回の出走で2着3回という実績を誇ったワンダーアキュート。無事これ名馬と言えば、まさに同馬のことだが、並床恵二調教助手の話を聞いても、8歳にしてこの直近実績はまさに驚異だ。馬体重の増減が激しいことでも有名で、開催場が変われども中京なら力を発揮できる舞台。初代チャンピオンに名を刻むのは超のつく古豪という結末が待っているかもしれない。

天才型の自分で体をつくってしまう馬

-:大ベテランのワンダーアキュート(牡8、栗東・佐藤正厩舎)ですが、JCダートから場所も名前も変わった中京1800mのチャンピオンズC(G1)に今年も挑戦します。前回のJBCクラシックの時の状態はいかがでしたか?

並床恵二調教助手:休養明けにしては良い状態でした。その通りの走りをしてくれたのですが、ちょっと意気込み過ぎていました。普段はボーっとしているタイプですが、ちょっとカリカリした感じがありました。

-:ワンダーアキュートは我々ファンには悩ましく、体重の増減が大きい馬です。午前中に馬券を買う人間からするとが怖い馬なのですが、前回は509キロというこの馬にしてはシェイプされた体で臨めましたよね。

並:遠征に行くと、その辺りの体重なんです。関西圏で使えば20前後です。使っている場所で見れば、安定はすると思います。

-:JBCに行かれた時は、片道12時間くらいですから、府中の倍くらいあります。それを考えると、距離に比例して減るほどではなかったのですか?

並:あれが減る限界なのだと思います。

ワンダーアキュート

-:栗東を出て行く時は、520キロ台だったのですか?

並:30超えでした。

-:530オーバーで行って、レースは509キロだったのですね。怖いですね。

並:もう、慣れっ子です(笑)。

-:この振れ幅自体が、ワンダーアキュートらしさなのでしょうか。

並:遠征に行った時の体重を比較すると、そんなに差はないと思います。ただ、関西圏で使っているのと比較すると、何十キロと差が出ます。こっちはこっち、遠征は遠征として見てもらいたいです。


「この馬は天才肌なので、自分でちゃんと体を作ります。走れるところまで、ちゃんと持って行きます。見た目や数字は関係ないです」


-:この一年で、関西圏で走らなかったことはないですよね。

並:そうなんですよね。昨年のJCダートくらいですね。

-:今回は久しぶりの近距離での競馬になります。

並:520前後になると思います。

-:プラス10キロを基準に見ればいいですか?

並:それを普通と思って欲しいです。

-:この馬がファンに難しいのは、普段からお腹がボテッと映ることです。シェイプしても、その体型はそのままな感じがします。それが太めに映る人もいると思います。

並:この馬は天才肌なので、自分でちゃんと体を作ります。走れるところまで、ちゃんと持って行きます。見た目や数字は関係ないです。

-:超天才型で、感覚型なんですね。

並:そうなんです(笑)。

8歳にして精神面はなおも充実

-:今週の坂路はとにかく馬場状態が悪かったですね。

並:明日(11/28)が追い切りなんです。一日でも置いたら、馬場が良くなるかなと思いまして。ウッドチップでは馬場が悪いのを嫌がるんです。

-:“天才”はそういうところに敏感なのですか?

並:そうなんです。悪いと走らないんですよ。

-:速い時計を出すのは、1週前の金曜日になるんですね。変則的なパターンですよね。

並:今週自体が変則ですからね。

-:通常で考えれば木曜日みたいなものですね。

並:あくまで馬場に合わせた感じです。

-:今朝も坂路を乗られていましたが、アキュートの動き自体はいかがでしたか?

並:活気もあり、前回使った時より筋肉も膨れ上がっています。


「ワンダーアキュートの5歳時みたいな馬が、同じレースに出走していたら負けるかもしれません。ただ、今のダートのレベルでは、仮に衰えがあったとしても十分に通用します」


-:年齢的なことを気にするファンもいると思います。実際にJBCクラシックの上位4頭くらいまでは、チャンピオンCに出ても人気になる馬ばかりです。ここで改めて年齢のことを聞くのも……ですが、並床さん自身が直接触って、皮膚で伝わってくる感覚はいかがですか?

並:ワンダーアキュートの5歳時みたいな馬が、同じレースに出走していたら負けるかもしれません。ただ、今のダートのレベルでは、仮に衰えがあったとしても十分に通用します。

-:馬は筋力的にはどこかでピークを迎えて落ちていきますが、それとは別に精神力の問題が出てきます。

並:精神力は前より良いと思います。

-:だからこそ持っているという部分もありますよね。

並:前回も展開ひとつで頭にきても不思議ではないレース内容でした。

-:勝ち馬の逃げ切りで、クリソライトとの追い比べになりました。

並:前がちょっと開かなかったですからね。

-:そこらへんは展開のあやですね。

並:よくある話です(笑)。逆転可能だと思います。今のダートのトップレベルとやり合える能力はまだ十分に備わっています。

-:チャンピオンズCで上位にくる能力がまだあるのですね。

並:もちろんです。

ワンダーアキュート

旧JCダートは3年連続の2着

-:これまでの阪神から中京に替わるということで、何か変化はありますか?

並:ワンダーアキュートは阪神が得意なので、できればそのままの方が良かったです。どこに行っても掲示板を外してはいないので、力は発揮できると思いますが。

-:右回りでも左回りでも大丈夫ですしね。

並:あとは、ほんの少しの運があれば十分に獲れるタイトルだと思います。

-:前走も乗った武豊騎手ですが、レース後はどんなコメントをされていましたか?

並:新聞記者が出していた様なコメントでした。全然老いた感じもなく、「元気があり過ぎて困る」と言っていました。前回はちょっと意気込み過ぎていました。

-:一度使ったことでガス抜きされていれば、中京の長い直線でも十分に太刀打ちできますね。

並:最後の伸びに少なからずの影響は出てくると思います。

-:この馬の特筆的なところで、何でも行けますが、ちょい差し系の方が僕はイメージが良いです。並床さんはいかがですか?

並:僕はあらゆる勝ちパターンを見ているので、どんな形でも、という感じです。差してきた時の方がインパクトはありますよね。


「中央場所になれば、脚のある馬もいますし、単騎逃げなんて簡単にできません。付け入る隙は十分にあると思います」


-:先行して、長く良い脚を使うイメージだったのですが、色々な展開のレースに対応する乗り方ができますよね。

並:何でも対応できます。武豊騎手がその時に思ったことをやってくれれば、言うことを聞きます。

-:アドリブが利くのですね。JBCクラシックの上位勢と、違う競馬場でもう一回戦うことになります。コパノリッキーという先行力のある馬がいるということで、何か意識されることはありますか?

並:特に意識はしませんが、若馬たちは絡まれると弱いとか、色々な弱点を持っています。ワンダーアキュートはそういうところが一つもないので、そこの隙を突きたいと思います。

-:ベテランのいやらしさですね(笑)。

並:中央場所になれば、脚のある馬もいますし、単騎逃げなんて簡単にできません。付け入る隙は十分にあると思います。

-:そこは天才の技ですし、“天才”に“天才(ジョッキー)”が乗るのですね。

並:そういうことです。この馬は中央場所を凄く走ります。

ワンダーアキュート

5度目の正直かつ初代チャンピオンに

-:時計の速い競馬にも対応できる馬ですが、馬場状態はパサパサと、ちょっと湿っているのと、どちらが良いのですか?

並:この馬がレースの時って、妙に雨が降るんですよね(笑)。あんまり乾いた馬場でやらせてもらえないですが、それでも勝っています。

-:欲を言えば、晴れていてほしいですか?

並:どちらでもいいです。重馬場でのレコードも持っています。あんまり注文がないんです。

-:この馬の競走馬としての天性の素質を見るのには、丁度良いレースだということですね。

並:このまま行けば、良い状態で出走できます。楽しみでしかないです。

ワンダーアキュート

大根が大好きなワンダーアキュート


-:いつも言いますが、改めて8歳となると、月日の流れる早さを感じますね。

並:ほとんどのG1に出ていますからね。まさに最優秀ダートホースです。全ての競馬場に行って盛り上げていますからね。

-:最初はワンダースピードの弟と言われていましたよね。引退されたアンカツさんも乗っていました。

並:そうですね。すっかりもう……。

-:JCダートはこれまで4回も出ています。

並:名前を変わりましたが、これで5回目です。3歳から出ていますからね。

-:恐れ入りました。なかなかこういう馬も出てこないですよね。ベテランの活躍を期待しています。

並:僕も祈っています。

-:中年の星ですね。今回もありがとうございました。

(取材・写真=高橋章夫)

ワンダーアキュート