JCダートは3年連続2着 天性の資質は健在ワンダーアキュート
2014/11/30(日)
天才型の自分で体をつくってしまう馬
-:大ベテランのワンダーアキュート(牡8、栗東・佐藤正厩舎)ですが、JCダートから場所も名前も変わった中京1800mのチャンピオンズC(G1)に今年も挑戦します。前回のJBCクラシックの時の状態はいかがでしたか?
並床恵二調教助手:休養明けにしては良い状態でした。その通りの走りをしてくれたのですが、ちょっと意気込み過ぎていました。普段はボーっとしているタイプですが、ちょっとカリカリした感じがありました。
-:ワンダーアキュートは我々ファンには悩ましく、体重の増減が大きい馬です。午前中に馬券を買う人間からするとが怖い馬なのですが、前回は509キロというこの馬にしてはシェイプされた体で臨めましたよね。
並:遠征に行くと、その辺りの体重なんです。関西圏で使えば20前後です。使っている場所で見れば、安定はすると思います。
-:JBCに行かれた時は、片道12時間くらいですから、府中の倍くらいあります。それを考えると、距離に比例して減るほどではなかったのですか?
並:あれが減る限界なのだと思います。
-:栗東を出て行く時は、520キロ台だったのですか?
並:30超えでした。
-:530オーバーで行って、レースは509キロだったのですね。怖いですね。
並:もう、慣れっ子です(笑)。
-:この振れ幅自体が、ワンダーアキュートらしさなのでしょうか。
並:遠征に行った時の体重を比較すると、そんなに差はないと思います。ただ、関西圏で使っているのと比較すると、何十キロと差が出ます。こっちはこっち、遠征は遠征として見てもらいたいです。
「この馬は天才肌なので、自分でちゃんと体を作ります。走れるところまで、ちゃんと持って行きます。見た目や数字は関係ないです」
-:この一年で、関西圏で走らなかったことはないですよね。
並:そうなんですよね。昨年のJCダートくらいですね。
-:今回は久しぶりの近距離での競馬になります。
並:520前後になると思います。
-:プラス10キロを基準に見ればいいですか?
並:それを普通と思って欲しいです。
-:この馬がファンに難しいのは、普段からお腹がボテッと映ることです。シェイプしても、その体型はそのままな感じがします。それが太めに映る人もいると思います。
並:この馬は天才肌なので、自分でちゃんと体を作ります。走れるところまで、ちゃんと持って行きます。見た目や数字は関係ないです。
-:超天才型で、感覚型なんですね。
並:そうなんです(笑)。
8歳にして精神面はなおも充実
-:今週の坂路はとにかく馬場状態が悪かったですね。
並:明日(11/28)が追い切りなんです。一日でも置いたら、馬場が良くなるかなと思いまして。ウッドチップでは馬場が悪いのを嫌がるんです。
-:“天才”はそういうところに敏感なのですか?
並:そうなんです。悪いと走らないんですよ。
-:速い時計を出すのは、1週前の金曜日になるんですね。変則的なパターンですよね。
並:今週自体が変則ですからね。
-:通常で考えれば木曜日みたいなものですね。
並:あくまで馬場に合わせた感じです。
-:今朝も坂路を乗られていましたが、アキュートの動き自体はいかがでしたか?
並:活気もあり、前回使った時より筋肉も膨れ上がっています。
「ワンダーアキュートの5歳時みたいな馬が、同じレースに出走していたら負けるかもしれません。ただ、今のダートのレベルでは、仮に衰えがあったとしても十分に通用します」
-:年齢的なことを気にするファンもいると思います。実際にJBCクラシックの上位4頭くらいまでは、チャンピオンCに出ても人気になる馬ばかりです。ここで改めて年齢のことを聞くのも……ですが、並床さん自身が直接触って、皮膚で伝わってくる感覚はいかがですか?
並:ワンダーアキュートの5歳時みたいな馬が、同じレースに出走していたら負けるかもしれません。ただ、今のダートのレベルでは、仮に衰えがあったとしても十分に通用します。
-:馬は筋力的にはどこかでピークを迎えて落ちていきますが、それとは別に精神力の問題が出てきます。
並:精神力は前より良いと思います。
-:だからこそ持っているという部分もありますよね。
並:前回も展開ひとつで頭にきても不思議ではないレース内容でした。
-:勝ち馬の逃げ切りで、クリソライトとの追い比べになりました。
並:前がちょっと開かなかったですからね。
-:そこらへんは展開のあやですね。
並:よくある話です(笑)。逆転可能だと思います。今のダートのトップレベルとやり合える能力はまだ十分に備わっています。
-:チャンピオンズCで上位にくる能力がまだあるのですね。
並:もちろんです。
旧JCダートは3年連続の2着
-:これまでの阪神から中京に替わるということで、何か変化はありますか?
並:ワンダーアキュートは阪神が得意なので、できればそのままの方が良かったです。どこに行っても掲示板を外してはいないので、力は発揮できると思いますが。
-:右回りでも左回りでも大丈夫ですしね。
並:あとは、ほんの少しの運があれば十分に獲れるタイトルだと思います。
-:前走も乗った武豊騎手ですが、レース後はどんなコメントをされていましたか?
並:新聞記者が出していた様なコメントでした。全然老いた感じもなく、「元気があり過ぎて困る」と言っていました。前回はちょっと意気込み過ぎていました。
-:一度使ったことでガス抜きされていれば、中京の長い直線でも十分に太刀打ちできますね。
並:最後の伸びに少なからずの影響は出てくると思います。
-:この馬の特筆的なところで、何でも行けますが、ちょい差し系の方が僕はイメージが良いです。並床さんはいかがですか?
並:僕はあらゆる勝ちパターンを見ているので、どんな形でも、という感じです。差してきた時の方がインパクトはありますよね。
「中央場所になれば、脚のある馬もいますし、単騎逃げなんて簡単にできません。付け入る隙は十分にあると思います」
-:先行して、長く良い脚を使うイメージだったのですが、色々な展開のレースに対応する乗り方ができますよね。
並:何でも対応できます。武豊騎手がその時に思ったことをやってくれれば、言うことを聞きます。
-:アドリブが利くのですね。JBCクラシックの上位勢と、違う競馬場でもう一回戦うことになります。コパノリッキーという先行力のある馬がいるということで、何か意識されることはありますか?
並:特に意識はしませんが、若馬たちは絡まれると弱いとか、色々な弱点を持っています。ワンダーアキュートはそういうところが一つもないので、そこの隙を突きたいと思います。
-:ベテランのいやらしさですね(笑)。
並:中央場所になれば、脚のある馬もいますし、単騎逃げなんて簡単にできません。付け入る隙は十分にあると思います。
-:そこは天才の技ですし、“天才”に“天才(ジョッキー)”が乗るのですね。
並:そういうことです。この馬は中央場所を凄く走ります。
5度目の正直かつ初代チャンピオンに
-:時計の速い競馬にも対応できる馬ですが、馬場状態はパサパサと、ちょっと湿っているのと、どちらが良いのですか?
並:この馬がレースの時って、妙に雨が降るんですよね(笑)。あんまり乾いた馬場でやらせてもらえないですが、それでも勝っています。
-:欲を言えば、晴れていてほしいですか?
並:どちらでもいいです。重馬場でのレコードも持っています。あんまり注文がないんです。
-:この馬の競走馬としての天性の素質を見るのには、丁度良いレースだということですね。
並:このまま行けば、良い状態で出走できます。楽しみでしかないです。
大根が大好きなワンダーアキュート
-:いつも言いますが、改めて8歳となると、月日の流れる早さを感じますね。
並:ほとんどのG1に出ていますからね。まさに最優秀ダートホースです。全ての競馬場に行って盛り上げていますからね。
-:最初はワンダースピードの弟と言われていましたよね。引退されたアンカツさんも乗っていました。
並:そうですね。すっかりもう……。
-:JCダートはこれまで4回も出ています。
並:名前を変わりましたが、これで5回目です。3歳から出ていますからね。
-:恐れ入りました。なかなかこういう馬も出てこないですよね。ベテランの活躍を期待しています。
並:僕も祈っています。
-:中年の星ですね。今回もありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫)
プロフィール
【並床 恵二】Keiji Namitoko
トレセン歴18年目。競馬好きの父の影響と、「自分も体を動かすことが好きだった」こともあり、競馬の道へ。中学校を卒業して京都の京北牧場へ。トレセンで従事することになってからは吉永忍厩舎に勤務。当時は重賞4勝を挙げたタマモストロングを担当した。 吉永厩舎の解散に伴い、佐藤正雄厩舎に移籍し、現在に至る。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
■公式Twitter
@aklab0328さんをフォロー