一戦一戦がホースマン人生の総決算
2010/3/7(日)

池江泰郎調教師
■■■ レディアルバローザ ■■■
-:今週のフィリーズレビューには、レディアルバローザがエントリーしています。
池:牝馬にとっては桜花賞が夢だからね。中1週とローテーションはきついけど、なんとか晴れ舞台に近付きたいと思っているよ。
-:前走(2月27日、阪神の芝1400m)は強い勝ち方でしたが、反動はありませんか。
池:飼い葉も食べているし、順調だね。体はできているから、さっと追えば態勢が整う。この馬がめずらしいのは、詰めて使っても体重が減らないこと。ここまでの5戦とも、ぴたりと同じ466キロなんだよ。装鞍所で担当スタッフが『馬房でボロをいっぱいしていた。自分で重さを調節してるんじゃないか』って。思わず笑ったなぁ。ほんと不思議。
-:タフな体質なんでしょうね。
池:そう。馬格があり、走りもパワフルだしね。性格もとびきりの優等生なんだよ。この時期の牝は繊細で、慎重な扱いが必要となるが、よく耐え、がんばっている。
-:早い時期から走る手応えがありましたか。
池:生まれて間もないころに見ても、いい雰囲気だった。トモが大きくて、たくましかったね。そのイメージのまま、まっすぐに成長したんだ。三石のケイアイファームでの育成時もトラブルとは無縁だったし、手元に来てからも手がかからない。
-:新馬戦(11月21日の京都、芝1600m)は逃げ粘って③着。続く阪神(12月19日の芝1600m)も逃げ切りでした。紅梅S(④着)では差す競馬もでき、イメージが一変したのですが。
池:スタートが上手でね。自分でレースがつくれる。行こうと思えば、速いラップを刻めるんだ。ただ、スピードにものを言わせ、行くだけのタイプではなく、競馬がしやすいのが持ち味。流れ次第ではある程度、控えても大丈夫だよ。
-:京都の500万下(1月31日の芝1400m)は、厳しいペースでハナを切って②着でしたが、前走は好位で折り合いもつき、確かに味がある内容でした。
池:3回負けているとはいえ、体重と同様、走りは安定しているよ。どんな相手でも崩れないのが立派なところ。
-:この世代で一気にブレイクしたキングカメハメハの産駒ですね。
池:母も優秀だよ。ワンフォーローズは、カナダの牝馬チャンピオン(最優秀古牝馬を3回受賞、メイプルリーフS・GⅢ2回、シーグラムカップS・GⅢなど)だもの。
-:血統背景からも、まだまだ奥が深そうな予感がします。
池:そう期待している。実際に、レースを重ねるたび、着実に強くなっているしね。
-:体重だけでなく、力強いパフォーマンスに注目したいと思います。

■■■ バーディバーディ ■■■
-:バーディバーディも見逃せません。来週の皐月賞トライアル・スプリングSに向かうとのことですが。
池:芝の路線でも結果が残せたら、楽しみがぐっとふくらむ。かつて手がけたゴールドアリュールだって、ダートのオープンを勝ち、ダービー(02年、⑤着)へ向かったよ。いったん先頭に殴り込むような走りをして、おっと思わせた。もちろん、ダートでの強さはわかっているが、この馬も一生に一度しかチャンスがないクラシックを意識してきたんだ。オーナーや生産者にとっても、夢の舞台だからね。
-:セレクトセール(07年当歳)出身の良血です。
池:セール時もすばらしいバランスをしていた。ブライアンズタイム産駒らしい力強さもあってね。ひと目で惹かれた一頭だよ。母系もいいんだ(母ホームスイートホームの全姉であるプレザントホームがBCディスタフ・GⅠの覇者)。高額(落札額は6600万円)だったし、縁があって預かれた馬。千代田牧場での育成も順調だった。なんとか走らせないとと、入厩を楽しみに待っていたね。
-:9月下旬に入厩して以来、調教でもいい動きをしていましたね。ただし、1番人気で迎えたデビュー戦(11月1日の京都、芝1600m)は、出負けして脚を使い、⑥着でした。
池:最後に止まってしまったね。もともとスタートはうまいのに、まだあのころは馬が若かった。その後にひと息入れたら、見違えるように変わったよ。鍛錬するごとに筋肉が備わり、ぐっとたくましくなったし、毛艶も冴えてきた。
-:2戦目(12月12日の阪神)のダート1400mでは、いきなり砂適性の高さを見せて快勝。続く樅の木賞はわずかハナ差に泣いて②着でしたが、この馬はすごいと実感させられたのは、その後の2戦です。
池:はこべら賞は、②着馬(子息の池江泰寿師が管理するパルラメンターレ)が1本人気。あの馬も走るからね。堂々と負かしたことで、これは伊達じゃないと思ったなぁ。外枠なのに前へ行けるセンスの良さ。なんといっても機敏で速いもの。しかも、スタミナの強化が明らかで、あの勢いが最後まで持続するんだから。
-:ヒヤシンスSは見応えのあるレースでしたね。
池:この世代のトップクラスが集って、層が厚かったよ。新聞を見ても、どの馬にもまんべんなく印がついている。あのなかから何頭も重賞ウイナーが出るんじゃないかな。長く脚を使えるから、東京は合うと思っていた。想像したとおりのレースができたよ。
-:松岡正海騎手はレース後、『芝でも走れる』って言っていました。
池:うん。そうあってほしいなぁ。
-:先生が管理したブライアンズタイムの仔といえば、ノーリーズン(02年皐月賞に優勝)が思い出されます。
池:この馬もいい根性をしている。パワーもあるし、道悪になっても我慢が利きそうだよ。すっと流れに乗れることは、これまでの戦いでも証明されているし、より融通が利くようになっているからね。ジョッキーも乗りやすいと思う。そんな特徴が芝で生きてほしいよ。

■■■ リルダヴァル ■■■
-:ここまでの2戦だけで、強烈なインパクトを残しているのがリルダヴァルです。いよいよ再出発が近いとお聞きしました。
池:ノーザンファーム早来から山元トレセンを経由して、2月11日、栗東に戻ってきた。順調にピッチを上げているところだよ。毎日杯で復帰できる見込みなんだ。ぜひクラシックの権利を取っておきたいね。間に合えばダービーで、皐月賞はとても無理だと思っていたが、予想より早く態勢が整ってきた。
-:野路菊S(①着)で右前のヒザを剥離骨折して全治6か月の診断が下っていました。先生もさぞがっかりされたと思います。それでも、こんなに早く復帰できるなんて、ファンにとってもうれしいニュースですし、ますますクラシックが楽しみになりますよ。
池:飛んだ骨片を手術できれいに除去して、しばらく回復を待った。ノーザンファームに滞在中は、何度もレントゲン検査しながら慎重に乗り進めてきたし、現地で時計を出す段階まで、スムーズにきていたんだ。
-:サンデーサラブレッドクラブ(馬主法人はサンデーレーシング)での募集価格は総額1億円。期待馬だけに、放牧先でも丁寧に立て直されたのですね。
池:帰厩後もレントゲンで再確認したが、骨膜などの不安もない。さあこれからだと、胸が高鳴るなぁ。
-:新馬(8月23日の小倉、芝1800m)で、いきなり一気の差し切り勝ち。野路菊Sも上がり3ハロンが33秒2と、桁違いの瞬発力を見せました。
池:デビュー前から攻め馬が抜けていた。背中が柔らかく、乗り味がいいと、調教助手もほめていたし、手応えを感じていたよ。休養中に、一緒に走った仲間から重賞勝ち馬も出ている(野路菊S④着のエイシンアポロンが京王杯2歳Sに優勝、同レースを②着したコスモファントムもラジオNIKKEI杯2歳Sの②着馬に)し、メンバーに恵まれて連勝したわけではないからね。
-:母のヴェイルオブアヴァロンは、先生が手がけた数々の名馬のなかでもモンスター級のディープインパクトの半姉です。父はサンデーサイレンス系でもトップクラスの実績を誇るアグネスタキオン。似通った血のディープインパクトと共通するものがありますか。
池:ディープは「飛んだ」馬でね。あんなタイプは奇跡的。こちらは馬格があって、パワーもあるね。それでいて重さはなく、瞬発力がすごいのは、血統のなせる業なんだろう。やはり重なる部分が多いよ。
-:成長が大いに見込める時期ですし、お話を聞けば聞くほど、わくわくしてきます。仕上がりも良さそうですね。
池:先週(3月3日)の追い切りも反応が良かった。ポリトラックコースを馬なりで、終いは11秒台(採時者によっては10秒台)。なかなか巡り会えない才能の持ち主だよ。この馬なら、久々も克服してくれるんじゃないかと期待している。
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■最近の主な重賞勝利
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これまでにメジロマックイーン、トゥザヴィクトリー、ステイゴールド、ゴールドアリュールなどの名馬を手掛けてきたが、05年にはディープインパクトで3冠を達成。また、6度の優秀調教師賞を受賞するなど、輝かしい実績を残してきた。 来年で定年を迎えるため、現3歳世代が最後の管理馬となる。兄は中央在籍時代のオグリキャップを担当した池江敏郎元厩務員。池江泰寿調教師は子。甥の池江敏行調教助手はディープインパクトなどを担当。 |
