一戦一戦がホースマン人生の総決算
2010/3/7(日)

池江泰郎調教師
■■■ トゥザグローリー ■■■
-:その他の3歳にも注目すべき伸び盛りがたくさんいますが、先生が管理された女傑、トゥザヴィクトリーの産駒であるトゥザグローリーについてもお聞きしたいと思います。父がキングカメハメハですし、キャロットクラブ(馬主法人はキャロットファーム)での募集総額も1億2000万円と破格です。いかにもスケールが大きそうですね。ファンもデビューを待ち望んでいます。
池:母親に思い出がいっぱいあるだけでなく、かなりの潜在能力を見込んでいるよ。とても大きな体で、骨格もがっちりしている。それでもバランスがいいので、無骨な感じがしないね。
-:超大型だけに、仕上げが大変だったのでしょうか。
池:9月にはノーザンファーム早来より移動して、10月初めにゲート試験に合格。徐々に体を絞り、暮れにデビュー間際までいったところで、筋肉痛を起こしてしまってね。山元トレセンで状態を整え直し、2月17日に戻ってきたんだ。現地でも速いところを消化していたが、もう歩様に違和感はない。ずいぶん馬は良くなってきたよ。心肺機能が向上し、トモの筋肉も張ってきた。
-:調教の走りを見ても、迫力満点ですね。
池:先週(3月3日のポリトラックコース)は6ハロンから追って、終いは12秒を切った。まだ体が重いし、戻って2本目なのに、見た目以上に速い時計が出るよ。出走をあせっているわけではないけど、最後の新馬(新馬戦は今開催で終了)に間に合うかもしれない。
-:とんとんといけば、この馬もダービーへ、というお気持ちもあるのでは。
池:う~ん。現実的には厳しいタイミングになってきたね。ただ、そのくらいの夢を抱かせる素材なのは確かだよ。
■■■ 最後のダービーに寄せる思い ■■■
-:先生は『ダービーが一年の締めくくり』だとよく言われます。『ダービーが終われば、また次のダービーへ、新しい一年が始まる』とも。それが、私たちも残念なことに、定年まであと1年となりました。最後となるダービーに寄せる意気込みは、並々ならぬものがあるのではと想像するのですが。
池:そう、もう次のダービーがないからね。なんとか参加したい。あのレースだけは特別だもの。牧場でいい馬が生まれたら、ついにダービー馬が出たと夢見るわけで、有馬記念とかジャパンCとかは言わないよ。ホースマンの誰もが全身全霊を賭けている一戦。まさに競馬の祭典やなぁ。雰囲気がまるで違う。騎手になったころも、調教師になっても、雲の上にあるレースだった。自分がその場にいるなんて、とても考えられなかったね。ディープインパクト(05年)で勝っても、本当に現実なのか信じられなくて、頬っぺたをつまんで表彰台に上がったよ。しばらくして落ち着いたら、じわじわ喜びがわいてきた。
-:憧れの頂点を極めても、何度でも勝ちたいと思うのでしょうね。
池:ダービーに勝ったら、やめてもいいと思っていた。でも、あの味を知ると、またもう一回と、新たな意欲がわいてくる。それがダービー。5月になって、どの馬がどうなっているかわからないが、幸せにも出走できるかもしれない馬が手元に何頭かいて、無事にたどり着くことを目標に1日1日を過ごしているよ。あっという間に時間が過ぎてしまう。
-:それだけ仕事に集中されているのでしょう。
池:スタッフも燃えてくれ、必死になっているよ。オーナーをはじめ、多くのみなさんの暖かい後押しもある。本当にありがたい。期間は短くなっても、現役である以上、最後まで真剣勝負やな。
■■■ ディープインパクトの子供たち ■■■
-:ダービーへは一緒に挑めないわけですが、預託予定の2歳についても少しお聞きします。
池:2歳だって、一生懸命にやらなきゃ。私はともかく、馬たちにとっては、まもなく来年のダービーへ向け厳しい戦いがスタートする。将来につながるよう、しっかり磨いてバトンタッチしたいし、これからの2歳重賞だって、どのレースもラストチャンスとなる。悔いが残らないよう、がんばりたいね。
-:話題が集るのは、この世代が初となるディープインパクト産駒です。
池:7頭が入厩する予定だよ。余分な贅肉がつかず、みんな軽さを持っているね。父譲りのバネも感じられる。繁殖もみなすばらしいんだ。ゴールデンサッシュ(ステイゴールドやレクレドールの母、2歳の競走馬名はザルグーン)、レディバラード(クイーン賞やTCK女王盃の勝ち馬で、産駒にロードアリエスなど)、リリオ(へクタープロテクターやシャンハイの近親)など。ディープの種牡馬としての評価をさらに高めてほしい。
-:初産駒の出世頭は、池江厩舎の出身であってほしいと思います。
■■■ フォゲッタブル ■■■
-:古馬勢も錚々たる管理馬が揃っていますが、フォゲッタブルが大将格に育ちました。
池:ダイヤモンドSが強い内容だった。完成されるのに時間が必要だったが、ようやく実が入ってきたね。
-:ハンデ差も、不利な展開も、楽々と跳ね除けました。今後の予定を教えてください。
池:まとまった休みを取らずにここまできたので、間隔を開けて天皇賞・春へ。大目標1本に的を絞り、最高の状態に仕上げて送り出したいと思っている。
-:春の盾も先生にとってはラストラン。思い出深いレースでもありますね。
池:メジロマックイーン(91年、92年と優勝)が父子3代制覇を果たした伝統の古馬のチャンピオン決定戦。重みがある舞台だよ。ステイゴールで3回も挑戦(98年~00年)したのも、つい最近のことのように思えるなぁ。
-:フォゲッタブルは、セレクトセール(07年1歳)の落札額が2億5000万円。父ダンスインザダーク、母エアグルーヴという超良血です。さすがに成長力がありますね。
池:いつかは走ると信じていたが、オーナーもクラシックを意識して購入されただけに、ずいぶん歯がゆい思いもしたね。それが、去年の秋になって変わってきた。力がなかったトモに筋肉が備わってきたよ。
-:2歳10月に入厩してからも時間をかけ、デビューは年明け。2戦目で勝ち上がったとはいえ、500万を勝ち上がるのに4戦を消化しています。セントライト記念(③着)で、ようやく菊花賞(②着)の出走権を手にした過去が嘘のようですね。
池:わずか1年の間で、ステイヤーズSに勝ったし、有馬記念(④着)にも駒を進めたんだ。たいした馬だよ。
-:これまで一度も放牧に出ず、丹精込めて鍛えてきた。傍から見ていても、なんとしても走らせるという執念が伝わってきました。
池:よく耐えてくれたよ。馬には感謝の気持ちでいっぱい。まだ奥は深いと思うし、もっと大きな勲章を獲らせたいね。

■■■ 古馬重賞も『全力投球でストライクを』 ■■■
-:京都牝馬Sで鮮やかな追い込みをみせてくれたヒカルアマランサスにはしびれました。
池:あせらずに発育を待っていた馬。ようやくしっかりしてきたところだね。阪神牝馬Sからヴィクトリアマイルを目指すよ。
-:サクラオリオンも、今週の中京記念に出走予定です。昨年に続く連覇もありそうですね。
池:古馬になって力をつけた典型。付き合いが長いぶん、愛着があるね。8歳になっても、衰えは感じられない。
-:将来が嘱望される一頭に、キングストリートがいます。
池:中山記念(⑦着)は馬場に泣いたね。いったん短期放牧でリフレッシュさせ、また重賞を狙っていくよ。
-:一緒に中山記念(⑤着)に挑んだドリームサンデーにも、初重賞の期待が高まります。
池:こちらもひと息入れ、様子を見ながら。ただ、夏に強い馬だし、ローカルでもがんばってもらいたいね。
-:すでにJRA重賞を66勝している名門厩舎ですが、ラストシーズンもどんどん勝ち鞍を積み重ねそうですね。やる気がひしひしと伝わってきました。最後にファンにメッセージをお願いします。
池:これからの一戦一戦がホースマン人生の総決算。全力で、ストライクを投げ込みたいと思います。ご声援をよろしくお願いします。
1 | 2
|
||
■最近の主な重賞勝利
|
||
これまでにメジロマックイーン、トゥザヴィクトリー、ステイゴールド、ゴールドアリュールなどの名馬を手掛けてきたが、05年にはディープインパクトで3冠を達成。また、6度の優秀調教師賞を受賞するなど、輝かしい実績を残してきた。 来年で定年を迎えるため、現3歳世代が最後の管理馬となる。兄は中央在籍時代のオグリキャップを担当した池江敏郎元厩務員。池江泰寿調教師は子。甥の池江敏行調教助手はディープインパクトなどを担当。 |
