関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

竹中理調教助手

竹中理調教助手(ザレマを担当)


-:堅実にがんばってきたザレマが、いよいよ今週の中山牝馬Sでラストランを迎えます。愛すべきキャラクターで、熱心なファンが多い馬ですし、もっと素顔を知りたいという要望も寄せられています。そこで無理をお願いして、担当の竹中理調教助手に登場していただくことにしました。

■■■ 恐るべき食欲、男勝りの頑強さ ■■■

-:2歳の10月に入厩してから6歳の3月まで、ずっと一緒に歩んできた竹中さんにとって、ザレマはかけがえのない存在になっていると思うのですが。

竹:そうですね。まとまった休みも取らず、今度が33戦目になります。頭が下がりますよ。どの馬もかわいいですし、わけ隔てなく接していますが、一緒にいる時間が長かったですから。

-:改めてデータを見直すと、走ったことがないのは適したレースが組まれていない7月だけ。それ以外の月は、最低でも2回以上は走っています。12月は5戦も。最もレース間隔が開いたのは、オークス(10着)からローズS(6着)にかけての夏休みですが、それでもブランクは4か月です。これは驚異的な戦績ですよ。

竹:感心させられるのは、常に食欲が旺盛なことですね。飼い葉の時間となれば、桶に顔を突っ込んだまま。すごい勢いで平らげてしまいます。旋回癖があって、食べているとき以外はじっとしていないのに、エネルギー切れにはつながりません。

-:元気の源は、内臓の強さなんですね。これだけタフな牝馬なんて、めったにいません。しかも、弱い相手ではなく、早くからオープンで戦っている。レース後も消耗した様子はないのでしょうか。

竹:上がってきてもケロりとしていますし、疲れを知りませんね。調子に波が少なく、手脚も丈夫ですので、まったく手がかからないんですよ。

-:ある意味で、競走馬の理想形ですね。

竹:そう思いますよ。従順で乗りやすいうえ、精神面が強い。これだけコンスタントに出走していても、レースや調教を嫌にならず、淡々とこなしてくれます。

■■■ 衝撃の出会い、初のクラシックへ ■■■

-:デビュー前より、走る感触はありましたか。

竹:出会ったときのインパクトは強烈なものがありましたよ。『なんてでかいんだ』と驚きました。跨るのにも、他馬より体をもうひと伸びさせないといけない。もちろん、大きさだけでなく、乗り味も感じさせるものがありましたね。フットワークがダイナミックで、重量感たっぷり。排気量が違う高級外車みたいです。さすがに良血(父ダンスインザダーク、母シェンクはイタリア1000ギニーのレジナエレナ賞を制覇)だと思わされましたよ。

-:デビュー戦(06年11月の京都、芝1800m)は6着でしたが、次走は2着。3歳になって、1月の京都(芝2000m)で未勝利を脱しました。昇級後も差のない競馬をして、オープンの忘れな草賞を余裕の勝利。大きく夢がふくらんだのでは。

竹:体つきからして、使い込まないと動けないタイプに思えましたし、器用さに欠き、コーナーリングが苦手。それなのに、初勝利が想像以上の強さ(5馬身差の快勝)でしたからね。忘れな草賞の内容からも、重賞のタイトルも見えてきたなと。

-:そして、オークスへ向かいました。注目を集め、2番人気に推されましたね。

竹:緊張しました。担当馬がクラシックに出走したのは初めてなんです。参加できるだけでうれしかったです。

-:ダンスインザダーク産駒ですので、いかにも距離が延びて良さそうなイメージを抱いていたのですが。

竹:跳びも大きいですからね。当時は2400mも、広い東京もぴったりだと思っていましたよ。でも、全身に力を入れて走るのも特徴で、距離には限界がありました。半兄のマルカシェンクもマイル戦線で活躍していますし。試行錯誤を繰り返して、右回りの1600m前後がベストだと、だんだんつかめてきました。




■■■ よもやの13連敗、惜敗の理由 ■■■

-:重厚なマイラーという個性がはっきりしてからも、ユートピアSやターコイズSで2着しながら、3歳の後半は未勝利でした。その後も健闘するのに、なかなか勝ち切れない。歯がゆいレースが続きましたね。

竹:瞬時にギアを替えられませんし、手応えにもだまされがち。突き抜けそうな感触でありながら、いざ追い出しても弾けないんです。抜け出すタイミングが難しく、毎回、ジョッキーも首を傾げていましたよ。

-:走っていない競馬場は、小倉と函館のみ。竹中さんとザレマが移動した距離も、気が遠くなるほどですね。唯一のアクシデントといえば、一昨年のクイーンSをフレグモーネで取り消したことでしょうか。せっかく北海道まで行ったのに。

竹:ショックでしたね。苦い思い出ですよ。直前の感触は良く、自信を持っていたのですが。

-:ついに13連敗しました。惜敗にピリオドを打ったのは、4歳時のターコイズS。味のある逃げ切り勝ちでした。さぞ感激したのではと想像します。

竹:それはもう。ヒットスポットが非常に狭く、いろいろな条件がうまくかみ合わないと勝てないのですが、柴田善臣騎手とは相性が良く(ここまで7戦して71・4%の3着内率)、ようやく持ち味を生かすことができました。

-:この馬がユニークなのは、未勝利とオープンでしか勝っていないことです。

竹:3勝目も、準オープンから格上挑戦のかたちです。オープン出走は、今週の中山牝馬Sで23走目、重賞挑戦も20回目になるんですよ。これは誇れる記録だと思います。

■■■ 歓喜のGレース制覇、ラストランへの思い ■■■

-:5歳前半も詰めの甘さに泣き、6連敗。その後に大きな感動が待っていましたね。京成杯オータムHではついに初のタイトルを手中にしました。

竹:トレセンに入って10年目で、初めての重賞勝ちを体験しました。馬を信じていましたし、いつかはこの日が来ると思っていましたが、時間がかかりましたからね。ほっとしましたよ。直後は意外と冷静でいられたのに、時間が経つにつれて喜びがどんどんふくらんで。

-:もともと大人びた雰囲気でしたが、馬自身の成長もありましたか。

竹:完成の域に近付いたと感じたのは、5歳の夏くらいからです。一段と充実してきましたよ。富士Sは5着だったとはいえ、コンマ1秒差。マイルCS(11着)も敗因がはっきりしています。雨で上滑りする馬場にのめっていましたからね。阪神C(9着)も、出負けとごちゃつく不利で、競馬になりませんでした。体調自体は一貫していいんです。

-:京都牝馬Sは3回出走し、2着、3着、今年も3着です。牝馬限定だと、安定味を増しますね。

竹:小柄な牝は、馬体の迫力に威圧されるのかも。

-:フェブラリーS(14着)は、適性の差と考えていいですか。

竹:はい。ダートもこなせそうに思うのですが、不慣れな条件に加え、トップレベルのGⅠですので。仕方がないと割り切っています。

-:今回も調子落ちはありませんね。

竹:これまでと同様、前走も全力を出してない感じを受けるんです。この馬って、接戦に持ち込んでも、馬体を併せられると僅差で競り負けるでしょ。切れ味の差だけでなく、譲っているように映ります。豪快なイメージに反して、気持ちが優しすぎるのかもしれません。

-:そのじれったさも、ファンにはたまらなかったりします。だから、善戦止まりのタイプにもかかわらず、人気を背負うケースが多いのでは。

竹:パドックでも、熱い視線を感じていますし、応援していただいて、ありがたいですよ。幸せな馬ですね。こちらは負けるたび、みなさんに申し訳なくて。

-:今週は安藤勝己騎手の手綱です。このコンビで1着はないのですが、調教に跨ると、馬も張り切って動くように見えますし、レース前に話を訊くたび、アンカツさんの評価はすごく高い。ジョッキーも、この馬が大好きなのでしょう。

竹:乗りやすいといってもらえます。仕上げる立場としては、それが何よりもほめ言葉。安心して任せられますよ。

-:最後の最後に、馬も本気になるかもしれませんよ。ザレマの3着内率はトータルでも5割のハイアベレージですし、マイルだけでなく、芝1800mだって得意の舞台。昨年のクイーンS2着をはじめ、【0,4,3,3】と崩れません。直線に坂のある中山も【2,1,0,2】です。

竹:確かに条件は悪くありませんよ。去年の中山牝馬S(4着)は、1番人気を裏切ってしまいました。できれば、それ以上を期待したいですね。勝てれば最高ですが、2、3着であっても、この馬らしい気がします。結果はともかく、無事に競走生活を終えてくれることが第一ですよ。最終日まで気を抜かず、いい状態で牧場へ送り出したい。そのことに集中します。




■■■ 意外な意中の異性、夢の配合 ■■■

-:同い歳の代表、ウオッカの引退が発表されました。一足先にダイワスカーレットも繁殖入りしています。一緒に卒業レースを迎えるレインダンスなどもいて、レベルの高い世代。決まり(ザレマやレインダンスは、馬主を対象に出資を募る社台オーナーズクラブの所属馬。クラブの規約で、6歳の3月が引退の期限と決められている)があるといっても、また一頭、個性派がいなくなるのは、ファンとしては淋しい限りです。

竹:まだ実感はありませんが、別れはつらいですね。でも、繁殖として重要な役割が待っているわけですので。いろいろなことを教えてくれた恩馬ですし、思い出はたくさん。いい仔を産んでほしいですよ。いずれ産駒を手がけられたらと、夢見ています。

-:いかにも丈夫な子供を出しそうですね。どんな種牡馬との配合がベストだと思いますか。

竹:個人的に勝手な意見を言わせてもらえば、カンパニーかな。

-:音無厩舎としては、夢のカップリングですね。父の成長力と、母のタフさを兼ね備えていれば、10歳くらいでもGⅠが狙えそう。実際に、カンパニーに思いを寄せているふしなどはありましたか。

竹:いつもマイペースですからね。他馬にはあまり興味を示さないんです。もっぱら食い気ばかりで。ただ、サンライズバッカスのことは好きでしたね。運動で一緒になると、後を追い、すたすたと付いていこうとするんですよ。

-:お坊ちゃんタイプのカンパニーより、野性味にあふれる男ほうが好みなのかもしれませんね。

竹:なんだか不思議な関係でした。サンライズバッカスは嫌がってイレ込み、それに影響されてザレマも暴れたりして。近付かなければいいのに。

-:竹中さんは、ヴィクトリーも担当(3歳の秋シーズン以降)しましたが、あの馬との組み合わせはどうでしょうか。

竹:まさに夢の夢ですね。ヴィクトリーは、ザレマとは対照的な激しい気性。それが災いし、たぶん一度も能力を出し尽くすことなく引退しました。ザレマ特有の甘さとの相乗効果を想像すると、競走向きといえるのか、かなり危険な予感はしますが。

-:昨年のキストゥへヴンもラストランを勝利で飾りましたし、07年のマイネサマンサ(同馬は7歳で勝利。社台グループと同様のクラブの規定がありながら、特例で現役を1年延長させた)もそうでした。ぜひザレマにも、ハッピーエンドが訪れますように。

竹:ありがとうございます。でも、最後に笑うのは、同期のライバル、レインダンスだったりして。


【竹中 理】 Takenaka Osamu

京都府出身。1974年、馬匹輸送会社を経営する家庭の三男として生まれる。

家業の影響で、幼いころより競馬に興味を抱き、動物も大好きだったことから、馬を扱う仕事に就きたいと志す。
高校卒業後、北海道静内(現新ひだか町)のビッグレッドファームで育成に携わる。計7年に及ぶ在職期間中には、海外での実務も経験。アメリカ・サンタアニタ競馬場のリチャード・クロス厩舎で1年間、アイルランドの名門、ジョン・オックス厩舎でも1年間、競走馬の仕上げを学んだ。

競馬学校を経て、栗東・福島信晴厩舎の調教助手に。5年後に音無秀孝厩舎に移り、5年が経過したところ。
昨年の京成杯オータムHでは、ザレマが担当馬で初となる重賞制覇を成し遂げた。ザレマ以外の思い出の馬は、ヴィクトリー、牧場時代に跨ったマイネルエンペラー(共同通信杯3着)など。