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加藤征弘調教師

加藤征弘調教師(水口優也騎手が所属)


-:先生、今日は所属の水口優也騎手についてお話を聞かせてください。先週デビューされましたけど、競馬をご覧になってどういう印象でした?

加:まだまだだな、と思いましたけどね。やっと厳しさが分かったんじゃないですか?

-:何か変わった反応はありましたか?キリッとしたり。

加:キリッとしたというか、これじゃちょっととてもじゃないけど「今の自分じゃ無理だぞ」と思ったんじゃないかな。ちょっと気が付くのが遅いですけどね(笑)。

-:もっと早く気付かないと。

加:そう、もっと早く気が付かなきゃ。子供だとか大人だとか言ってる場合じゃないですからね、ハッキリ言って。

-:実際にプロの騎手としてデビューしているわけですからね。

加:そうですよ。競馬学校に入った以上は「辛い」とか「3年間頑張りました」っていう世界じゃないですからね。

-:結果が全てで、甘い気持ちではやっていけない世界で。

加:そうですよ。

-:水口騎手も先週レースに騎乗して、そういう点を感じたのではないか、と。

加:多分、分かってきていますよ。まだ自分には足りない所ばっかりだと思ったんじゃないですか?まだ反射的に動けない自分の身体能力を感じたり。

-:考えを瞬時にパッと決めて、それをその通りに体動かすとか。ところで先生にとって、水口騎手は初めての弟子になる訳ですが、この社会で上手くやっていくには、どういうところが大切になると思われますか?

加:やっぱりジョッキーも気が付く能力があるかどうかですよ。周りが見えてない子は何をやってもダメですよね。馬乗りだけじゃなくて、目の前にある事が分からない子では、レースで馬を15頭も捌けないよね。これは競馬がどうこうという以前の話でしょう。

-:日常生活でもいろいろな事に気付けなければ、競馬で出来るわけが…。

加:ないですね。

-:そういう点で、水口騎手はどうだったんですか?

加:どうでしょうね。まだちょっとしばらく時間がかかるかな。競馬は1分30秒ぐらいの世界だけど、水口はまだ1時間30分かかる感じかなあ(笑)。

-:まだマイペースですね(笑)。

加:そんなに時間がかかったんじゃ、大変ですよ(笑)。「瞬き1つで、答えを出せ」って言っているんですけどね。やっぱりパッと見た瞬間に判断していかないと。それは僕たち調教師も一緒ですよ。スタンドで調教を見ていて、バッと目の前を通り過ぎた瞬間に「今週この動きじゃ厳しいから、来週にしよう」とかさ。僕はそういうタイプですから。

-:瞬時に。

加:調教を見た瞬間に「今週あれじゃあ足りないな」「これなら行けるな」で終わりですよ。

-:その位のスピードで判断していかなければいけないんですね。

加:そう思いますよ。そうなるには、まだ訓練が必要でしょうね。

-:先生としても水口騎手には、もっと早い進歩を促したい、と。ところで、南スタンドの部屋の壁に、水口騎手の騎乗予定競馬場のスケジュールと、連絡先を載せた張り紙がしてありますよね?

加:そうですね。予定をキチッと立てて、皆にそれを公示しないと。騎乗依頼をしてもらった時に「その日は福島です」とか「その日に限って中山なんです」となると、頼んだ方は嫌になっちゃうもんね。やっぱりそれは大事でしょう。

-:自分の予定を公示して、皆さんに騎乗依頼をしていただける時スムーズに行くように、と。

加:はい。だから一応、基本ベースとして最初5週間は中山でね。まだ競馬に慣れないから、そんなに最初からせわしない競馬で対応出来るとも思えなかったので。1週間に1つでも2つでも乗れればいいと思っています。あとは今後どれだけ地道に努力出来るか、ですよ。

-:なるほど。



加:同期に上手い子たちもいますからね。全員のレースを見ていましたけど、西村君にしても、高倉君にしても、現状では彼らの方が競馬に対応していましたね。勝ち負けは別として、流れに乗っていましたからね。コース取りがどうのこうのじゃなくて、とりあえずレースの速度に乗っていましたよ。

-:先生からご覧になって、水口騎手はその辺が。

加:まだまだ。全然足りていませんね。だから本人も「頑張ろう」と思ったんじゃないですか?現状の騎乗を見ると、まだ1番人気の馬に乗せても良い結果を残せませんよ。もし今、単勝1倍台の人気になるような馬に乗せても、それで勝てなければ、逆に彼にとってはマイナスになりますからね。その辺は考えてあげていきたいですね。

-:今のタイミングで、人気になるような馬にたくさん乗せても得策ではない、と。

加:そうですね。もうちょっと時期を見て、これなら行けるという時にパッと乗せた方が良いでしょう。よく時期を考えないで失敗すると、彼にとっても命取りですから。

-:そういう、どういう馬に乗せていくかというのも、水口騎手を育てるポイントとして重要なところなんですね。

加:そう思いますよ。時期は大切ですからね。だから僕はデビューをもう1年待ってもいい、と思っていたくらいです。

-:そうなんですか。

加:1番人気の馬に掴まっていれば勝てるというレベルの実力があれば、そういう馬に乗せてあげればボンと勝てますけど、それ以前のレベルでは厳しいですよ。納得のいく騎乗技術レベルまで上げるためには、あと1年は必要だと思います。レースに乗る以前に、競走馬に乗る技術という点で、もうちょっと上手くなればね。そうすれば自信を持って乗れるから、レースの流れにも乗れますしね。馬が多少引っかかってもしっかり押さえられるとか、そういう自信がなければ、結局外を回ったり、消極的な乗り方になってしまいますから。

-:そうするとどんどんリズムも悪くなってしまって。

加:そうなんですよ。だから僕は本当にあと1年、学校や研修で頑張って、もうちょっと上手くなるまで待っても良かったかな、と思います。

-:今の辛抱が後の飛躍に繋がる、と。

加:絶対そう思うんですよね。1年2年遅れたってどうって事ないと思いますよ。騎手がデビューする、調教師が開業するといった時に「自分の中で今の段階ではこれ以上は出来ない」っていう、100だと思える所からデビューしなかったら、調教師も騎手もその時点から負けちゃいますよ。

-:「まだデビューしたてだからしょうがない」などとは言っていられないんですね。

加:そう。徐々に体制を整えて行こうとか、そんな悠長なことを言ってちゃダメだって事ですよ。厳しい世界ですからね。今は調教師だって3年間結果が出なかったら良い馬を預けてもらえませんから。本当に厳しくて気を抜けないし、みんな必死だと思いますよ。

-:しっかりと自分の考えを持つというか、確固たるものを築いた状態で、スタートをしなければいけない、と。

加:僕はそういう風に思いますよ。そうやってしっかり準備をして「自分にとって100だ」と思える所からデビュー出来れば、勝ち鞍だってすぐに伸びますよ。

-:なるほど。

加:1番人気の馬に乗って、ただ掴まっているだけで勝てるようになれば、すぐですから。水口はまだレースの流れに乗れなかったりしますから、1番人気の馬に乗せるまでは少し時間がかかるでしょうね。

-:まだ成長の余地は大いにあって。

加:もちろんですよ。まだ若いし、腐らずに一生懸命やれば、どんどんどんどん上手くなると思いますよ。

-:あとは本人の心がけ次第ですね。

加:そうですね。それは調教師も一緒ですよ。

-:新人ジョッキーに限らず、調教師もいつでも努力を途絶えてはいけない、と。

加:そういう風に思いますよ。

-:そろそろお時間になりますので、最後に先生から見て「水口騎手の良い点」はどこになるのか、教えてください。

加:いい意味で、変に腐らないっていうか、そういう所がありますね。やる気はありますよ。

-:そうですか。では、あとはとにかく馬に乗って経験を積めよ、と。馬乗りを覚えなさいよ、という事ですね。

加:そう。皆に頭を下げながら、ね。

-:頭を下げるといえば、去年、私が田村厩舎にお邪魔している時に、ちょうど先生と水口騎手がジュースを持って、一緒に来ていらっしゃったんですよね。厩舎実習が終わる頃だったと思いますけど。

加:ああ、ありましたね。田村先生と戸田先生には、実習に入ってから、もうずっと頼んで1年間通して調教に乗せてもらっていましたし、レースでも乗せてもらっているので、そういうお礼の意味も込めてね。

-:やっぱりそういう礼儀は大切なんですね。

加:そうですね。

-:分かりました。先生、今日はありがとうございました。


【加藤 征弘】 Kato Yukihiro

1965年東京都出身
2001年に調教師免許を取得。
2002年に厩舎開業。
JRA通算成績は231勝(10/03/10現在)
初出走 2002年3月3日1回中山4日目8Rエビスイーグル・3着
初勝利 2002年6月2日4回東京6日目3Rソプランマンボ


開業翌年の2003から昨年2009年まで7年連続で優秀調教師賞を受賞するなど、調教師リーディングの常連。今年、初めての弟子となる水口優也騎手をデビューさせる。