皐月賞4着後はダービーの有力候補と目されたブライトエンブレムだが、右前脚の裂蹄により回避。その後は夏場を休養に充て、今期の大目標を菊花賞に定めて調整が進められてきた。秋緒戦のセントライト記念10着は陣営にとっても想定外だったに違いないが、同厩舎だった母ブラックエンブレムはローズS・15着から秋華賞で戴冠の実績あり。大一番で激変するための修正点などを小島茂之調教師に聞かせてもらった。

敗戦にも光明が見えたセントライト記念

-:菊花賞(G1)に出走するブライトエンブレム(牡3、美浦・小島茂厩舎)について、セントライト記念(G2)の過程からお伺いしたいと思います。まずはレースに向けての調整に関して教えていただけますか?

小島茂之調教師:基本的には北海道の早来でやってもらって、雰囲気も良く「休み明けになるから早めに(トレセンへ)戻してはどうでしょう?」と言ってもらいました。函館に入れてから1本追い切って、美浦に戻しました。早来でだいぶ乗ってもらっていたので、そういう意味では仕上げは難しくなかったですし、動きも悪くありませんでしたが、休み明けだった分、馬に張りが出てきませんでした。(馬体重の)数字もそんなに変わらないのですが、見た目が昨年の暮れの朝日杯や春の皐月賞の時と比べると、もうひとつかなとは感じていました。しかし、それは仕方がないところでもありますし、ジョッキーが乗って「動きは悪くない」と言っていましたからね。

-:セントライト記念のレース当日の馬の状態はいかがでしたか?

茂:普段どおりに装鞍所でカッカしていたくらいで、特別なことは何もなかったですね。ジョッキーもコメントしていたように、休み明けにしては良いんじゃないかなと思っていたし、十分勝負になると思っていました。

-:実際、レースをご覧になっていかがでしたか?

茂:ちょっと大味なレースをしてしまいましたね。まずは、思った以上に負けたというのが最初の印象ですね。あそこから伸びてきてもいいのに、と……。レースのビデオを見ながら「ペースが遅かったので向正面から早めに動いた方がいいと思った」と、田辺騎手は言っていましたね。田辺騎手は、札幌を大味な競馬で勝っているからそういうイメージが強いのかもしれないけど、僕の中では、あの競馬をして勝つ馬はディープインパクト級だと思うので。さすがに、あの子の力はディープインパクト級ではないと思っていますし、あのセントライト記念の展開のなかで自分から動いていって勝てる馬ではないかな、と。G1ではやっぱりもっとキチンとした競馬というか、きっちりハマった時に勝てる馬だと思います。

とは言っても、僕もジョッキー経験者じゃないから悶々としていたんですよね。でも、元ジョッキーの先生と話したら「あの競馬では勝てない」と言ってくれましたし、ある現役ジョッキーとたまたま話す機会があったので聞いてみたら「小島先生の馬が勝つと思っていた」と言ってくれたんですよ。「あれだけ追い切りで良い動きをしていて、札幌であんな勝ち方をできる馬はなかなかいない」と言ってくれて。

それで僕も「田辺はペースが遅かったからマクッていったって言うんだけど、もう少し待つべきだったと思うんだよね」と聞いてみたら、その現役ジョッキーも「そう思う」って返すんですよ。0.4秒差の10着という結果だったけど、動くのをもう少し待っていれば、勝てないまでもあと0.1秒か0.2秒前には来られたんじゃないか、と。それは現役ジョッキーも同じ見解でした。田辺騎手とも話をしましたが、札幌でああいう勝ち方をしたから、あの競馬しかないのかな?という思いがあったみたいですし、毎回勝ちに行かなければならないというプレッシャーもあったみたいなんですよね。でも、僕が思っている感触だったり、色々な人の意見を伝えたら、田辺騎手も色々見えてきたみたいです。


ブライトエンブレム

▲雪辱に燃えるブライトエンブレム


-:トライアルであのようなレースをしたから、本番でどう戦っていこうというのが見えた。

茂:そうですね。“この馬の持ち味はこうだ”という大雑把なレースをしてG1を勝てるかというと、まだそこまでの力を持っていないと、お互いの共通の意識を持てました。冷静に考えても0.4秒しか負けていませんし、一番大味なレースをしたうえでその差ですから、逆に力があるなというのも分かりました。次は人気も落ちて、田辺騎手も「勝たなきゃいけない」ではなくて気楽に乗れるでしょうからね。

-:そういった意味でもセントライト記念は……。

茂:すごく収穫があったレースですね。あれで勝っていたら、菊花賞でも大味な、3600mくらい走る競馬をしていたと思いますけど、もう少し丁寧な競馬をしようという共通認識を持つことが出来ましたからね。正直、僕はあの負け方を見て菊花賞を勝てる感じがしなくなってしまいましたが、田辺騎手としっかり話し合って、こういう競馬をしようという共通認識を持てたこともあって「やっぱり菊花賞を勝てるかもな」と。

レース当週は自ら栗東で最終チェック

-:セントライト記念後は、まっすぐ栗東に向かったわけですか?

茂:いや、1週間ちょっと美浦に置きました。栗東に移動してからも、すぐ体重も増えて飼葉もしっかり食べているみたいですし、またちょっと良くなっているみたいです。

-:栗東滞在は朝日杯のときに続いて2回目ですよね。

茂:2回目ですね。もちろん菊花賞を意識して、去年の暮れに行ったのもあって。

-:環境に慣れさせておこう、ということですね。栗東へ移動してからの調整過程についてお聞かせください。

茂:先週末に、菊花賞を意識して長いところも乗りました。その時は息もまだ良くなかったみたいですが、獣医さんと話したら「もうちょっと負荷かけてもいいかも」と言われましたし、助手も「先生が乗ってしっかり追ってくれませんか?」と言うので、昨日の1週前追い切りはしっかり乗りました。若干重さは感じましたが、先週よりも息はだいぶ良かったですよ。

-:その1週前追い切りはCWで乗られましたが、予定していた内容と実際の動きを比較していただけますか?

茂:予定外として、課題が残ったのは、少し気負っていますね。もっとリラックスして簡単に折り合いがつく馬だったのに、ちょっと気負っているのが気になりますね。今まではそういうことをちゃんと出来た馬だったので、なぜ、あれだけ気負っているのかなと。そこを戻せるように、僕も来週もう一回栗東に行かなければと思っています。

ブライトエンブレム

▲栗東滞在で輸送の負担を軽減


茂:先ほど栗東から連絡が来ましたが、馬の動き自体は良くなったみたいです。さすがにあれだけビッシリ追われてカイ食いは細くなったようですが、大丈夫そうということなので、来週までに折り合い面を調整したいですね。馬の後ろに入れていたらスッと抜ける馬だったのに、後ろに入れても気負っていたので、そこは気になりますね。

-:今までとは違うという感じですか。

茂:そうですね。競馬くらいのスピードになれば、そうでもないかもしれないですけどね。でも、これまでは調教でも折り合いがついていた馬ですから。

-:現時点ではそこが気になると。そういう調整を進められて、今回は3000mの菊花賞ということですが、先生はこのレースに対してどのようなイメージをお持ちですか?

茂:僕も助手のときに所属していた厩舎の馬を使いましたが、結局、外々を回らされて力出せなかったという感じだったりしましたからね。距離の長さがカギを握ってくると思いますし、そこをどう折り合って立ち回れるかだと思いますね。トライアルから距離が800m延びるじゃないですか。その800mでふるいにかけられる馬がいると思いますけど、ウチの馬はかかったりしなければ、そのふるいに残るはずです。3000mがベストではないですが、上手く乗れば3000mをこなせると思います。

今、長距離クラシックの3冠目というのは、そんなに重要視されていなくて、これから世界的にもそういう流れになっていくのでしょうが、天皇賞(春)や京都の長いレースは杉本清さんが実況をされていたから好きだったんですよ。だから、そういうレースを勝てれば嬉しいなって思いますね。当然クラシックですしね。


-:そのレースにブライトエンブレムで向かう意気込みを最後に聞かせてもらえますか?

茂:良いコンディションで出すことしかないかな、と思います。さっきも言ったように、距離でふるいにかけられるでしょうし、おそらくどの馬も「折り合いは大丈夫」って言うと思いますが、実際はどの馬も折り合いに不安を持っていると思いますよ。折り合いさえつけば、距離適性が抜けた馬がいなければ、ウチのも前で争うだけの力は持っていると思います。残り1週間でそれをしっかりやっていくことですね。

-:ありがとうございました。