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国枝栄調教師

国枝栄調教師


-:アパパネを管理する国枝栄調教師にお話を伺います。先生、よろしくお願いします。

国:よろしくお願いします。

-:アパパネは、母親のソルティビッドも先生が管理されていて、とても縁の深い馬なんですよね。

国:そうです。アパパネはソルティビッドの3番仔になるんですけど、兄弟のトムトムも預からせてもらっています。元々アパパネは金子オーナーの自家生産みたいな馬なんですよね。父親も母親もオーナーの馬で。生まれたときから良い格好でしたよ。

-:兄弟馬と比べて違う点はありますか?

国:トムトムはジャンポケ産駒ですけど、母親似のちょっと詰まったスプリント色が強い体型なんです。でも、アパパネはキンカメの影響なのかは分からないけど、伸びの良い馬なんですよね。いい感じの出来ですよ。

-:なるほど。ところで母親のソルティビッドも02年の阪神ジュベナイルフィリーズに出走したんですよね。

国:そうですね。

-:その頃から既に栗東留学をされていらっしゃったようですが。

国:まあ、最近よく栗東留学と言われますよね。でも、僕は昭和53年に美浦トレセンが出来たときから助手として働いていましたけど、昔はアラブの馬でさえ、関西のレースを使うときは栗東に滞在していたんですよ。

-:そうなんですか。

国:昔は輸送事情も今ほどは発達していなかったし、馬も今ほどいなかったから、のんびりしたような感じだったんですよね。それで関東馬が関西圏のレースに出るときは栗東に入ってから使っていたんです。逆に直前輸送というのはあまり無かったんですよ。

-:なるほど。

国:それが輸送時間が短くなって、輸送に対する考え方が変わって来たり、馬が増えたということもあって、どんどん直前輸送をするケースが増えて来たんですよ。

-:そうなんですか。

国:面白いデータとしてあるのは、昭和44年に栗東トレセンが出来て、昭和53年に美浦トレセンが出来たんですけど、その間の9年間、桜花賞で関東馬が6勝(昭和45年タマミ、昭和46年ナスノカオリ、昭和48年ニットウチドリ、昭和49年タカエノカオリ、昭和50年テスコガビー、昭和51年テイタニヤ)しているんですよ。それで昭和63年から関西の方が成績が良くなるんですけど、美浦トレセンが出来た昭和53年から昭和63年までの10年間で関東馬は4勝(昭和56年ブロケード、昭和57年リーゼングロス、昭和60年エルプス、昭和61年メジロラモーヌ)しているんですよね。ほぼ五分の競馬をしているわけです。

-:はい。

国:それでその後は17連敗をしているんです。平成になって17連敗をして、その後に勝ったのがダンスインザムードとキストゥヘヴンなんですよ。

-:昔は五分だったのに、なぜそこまで差が付いたんでしょうね?

国:なぜ差が付いたのかと考えると、やはり一番単純な理由は直前輸送だと思うんですよ。多分、直前輸送で馬を持っていって競馬をすることが、この時期の牝馬にとって負担がかかっているんじゃないかな、と思うんですよね。大体、平成の始めの頃までは、関西圏のG1に出走する馬たちは栗東トレセンに入っていたんです。まあ、今で言う栗東留学なんですけど、栗東から競馬に使っていたんですよ。

-:では、早めに栗東へ移動する理由は、栗東トレセンの施設がどうこう、というよりも。

国:競馬に臨むアプローチとしてそれが一番合理的なんじゃないかと思います。現実に昔はそうして結果を残していたわけですしね。あと、例えば馬が100%の状態で桜花賞に向かうときに、栗東から行くのと美浦から行くのでは、美浦から行く方がプラスになるっていうことはありませんからね。

-:そういうお考えがあったんですね。では、アパパネについてお聞きしたいのですが、デビュー前はどのような印象をお持ちになっていましたか?

国:バランスの良い馬だと思いましたけど、デビュー前の時期は「まだこれから良くなるだろうな」という感じでした。

-:なるほど。実際にレースを使ってみて感じた印象はいかがでしたか?

国:乗りやすい馬というか、あまりレースでも舞い上がっていなかったし、落ち着いた馬だなと思いました。

-:そして2戦目まで少し間が開きましたが。

国:デビュー戦のあとに脚元が少しモヤついたので、夏は北海道へ放牧に出しました。それで戻ってきたら体重が24キロ増えていましたね。

-:その数字に関しては、先生はどうお考えですか?

国:特に太くなったわけではありませんし、成長したんだな、という感じですね。「筋肉も付いてパワーアップしたな」と思いました。だから2戦目は休み明けでしたけど、いい競馬が出来るだろうなと思っていました。

-:その手応え通り、見事に勝利をおさめましたね。

国:そうですね。その後は赤松賞へ行きましたけど、そのときも手応えからして「何とかなるんじゃないのかな」と思っていました。

-:赤松賞のときだけ、マイナス体重での出走ですね。

国:24キロ増でレースを使って、ちょっと絞れたんでしょうね。

-:なるほど。その赤松賞でレコード勝ちをされましたが、レース後の状態はいかがでした?

国:何も問題はありませんでしたよ。

-:赤松賞を勝ったあとにすぐ「阪神ジュべナイルに行こう」とお考えになられて。

国:はい。特に赤松賞は一昨年にダノンベルベールでも勝っていますし、その前にはタカラサイレンスも勝っていますからね。2頭とも赤松賞を勝って阪神ジュべナイルに向かったので、もう「赤松賞を勝てば阪神ジュべナイルに行く」という流れですよね。

-:そして赤松賞後は厩舎で疲れをとってから、栗東トレセンへ移動、と。2歳牝馬には厳しいスケジュールではありませんか?

国:いえ、それこそ今は育成場や牧場へ頻繁に輸送をしていますから、そんなに影響はありませんよ。もちろん馬によっては影響のある馬もいますけど、アパパネは大丈夫です。

-:輸送をしても、環境が変わっても問題がない、と。

国:少しは体重が落ちますけど、ずっと尾を引くことはないですね。環境に馴染んできます。

-:普段、厩舎にいるときの様子はどんな感じですか?

国:大人しいですよ。母親のソルティビッドも大人しくて落ち着いた馬でしたから。その辺は母親の良いところを引き継いでいますよね。



-:そうですか。では、話を阪神ジュべナイルに戻しまして、レースを振り返っていただけますか?

国:まあ、外枠を引いて「折り合いがどうかな」と思っていましたけど、その点も上手いこといってくれて、直線も内から上手く抜けて、全て上手くいって勝てたという感じですよね。

-:大外枠を克服したというのは、心強いですよね。

国:もう、ここ3戦連続で大外枠ですよ(笑)。ただね、競馬に臨むにあたって、余計なことを気にしないで済む枠順が欲しいですよね。真ん中くらいの枠なら、普通に出れば「行く馬がいればその後ろにつけよう」という感じで済みますからね。乗り役にしても余計なことを考えない方がいいので。

-:大外枠も克服は出来るけど、余計なことを気にしないで済む枠順であるに越したことはない、と。阪神ジュべナイルでG1タイトルを手にして、年明け初戦はチューリップ賞からになりました。

国:もう阪神ジュべナイルを勝ってすぐ「来年どうしましょうか」という話になりまして、マイルより距離を短くすることもないだろうし、東京ではもう使っているから走らせる必要はないし、ということでいろいろ考えて「チューリップ賞から栗東へ行ってそのまま桜花賞まで滞在すればいいだろう」となったんです。

-:なるほど。

国:もう桜花賞の出走権利はありますし、どこでも使えますから「一番良いところへ行こう」ということでチューリップ賞を使いました。

-:そのチューリップ賞ですが、レースをご覧になっていかがでしたか?

国:馬場が悪かったですけど、こなしてはいたと思います。ちょっと道中でぶつけられて、かかる面がありましたし、まあ、いろいろなことがありましたね。体もちょっと重かったかもしれません。でも、負けはしましたけど「合格点かな」と思います。

-:トライアルとしては、悪い内容ではなかった、と。

国:むしろあそこで強い競馬をして、本番で受けて立つような立場になるよりは、気楽な立場になってかえって良かったんじゃないですか。

-:マークもキツくなり過ぎず。チューリップ賞後の状態はいかがですか?

国:全然問題ありませんよ。昨日(3/31・水)も栗東へ見に行って来ましたけど、順調に進んでいます。

-:一週前の追い切りとなる昨日の内容は、坂路で行われましたね。

国:そうですね。チューリップ賞から間も開いていますし、ちょっと立派に見えるので、昨日は少しやって51秒を出しました。

-:来週はどのような予定をお考えですか?

国:来週はマサヨシ(蛯名正義騎手)が乗る予定ですけど、時計は気にしませんが、それなりのところをやろうと思っています。

-:分かりました。では最後に、桜花賞へ向けての展望をお聞かせください。

国:もう、我々が出来る範囲のところはやっていくので、あとはそれ以外の部分ですよね。競馬会が決める枠順や、競馬の当日の乗り役ですよね(笑)。

-:アハハ(笑)。厩舎としては自分たちでやれることをやるだけなんですね。

国:そう。出来るだけのことをやって、ほとんど100に近い状態で来ているつもりですから。あとは、我々にはどうにも出来ない部分がどう転がってくれるか、だけですね。

-:なるほど。

国:あとはアクシデントですね。馬は生き物ですから、熱発や腹痛など体調を崩すこともあるかもしれないので、そういうのもクリアしていかないといけないな、と思います。

-:もう一つだけ聞かせてください。先生から見て、アパパネの良い点はどういうところになりますか?

国:やっぱりトータル面での能力の高さでしょうね。性格も良いしスピードもあるし、心身ともに良いところですね。人の言うことを受け入れますし。

-:レースでは少し行きたがる素振りを見せることもあるようですが。

国:行きたがるところはありますけど、なだめればなだめられますからね。ムキになって行っているわけではありませんから。

-:ちゃんと制御は出来る、と。

国:そうです。あとはそれをキチンとやりやすいような枠順や流れが欲しいですね。やっぱりある程度、終いを生かす競馬をしたいですからね。

-:分かりました。では、桜花賞を楽しみにしています。今日はお忙しいところありがとうございました。




【国枝 栄】 Kunieda Sakae

1955年岐阜県出身。
1989年に調教師免許を取得。
1990年に厩舎開業。
JRA通算成績は509勝(10/4/4現在)
初出走:1990年2月4日 1回 東京4日  3R シャインハード(11着)
初勝利:1990年 3月10日 2回 中山5日  10R リュウカムイ


■最近の主な重賞勝利
・09年阪神ジュベナイルF (アパパネ号)
・10年日経賞 ・09年天皇賞(春)(共にマイネルキッツ号)


昨年は通算500勝を達成。また、天皇賞(春)、阪神JFのGⅠも制覇。今年も日経賞をマイネルキッツで制し、波に乗っている。桜花賞には、2歳チャンピオン・アパパネを送りこむ。