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桜花賞特別対談・佐々木晶三調教師VS安達昭夫調教師

桜花賞特別対談

佐々木晶三調教師VS安達昭夫調教師


■■■ 仲良しコンビが一緒に挑む初のクラシック ■■■

安達昭夫調教師:いよいよクラシック第一弾の桜花賞が近付いてきました。今年は関東馬が優勢と伝えられていますが、こちらでも大舞台に強い我らがショウちゃんが、ショウリュウムーンを送り出します。栗東の代表としてがんばってほしいですね。みんな応援してます。早速、インタビューしてみましょう。

佐々木晶三調教師:そのポーカーフェイスで、さらっと冗談いわれてもなぁ。笑うの忘れてた。これは対談。レポーターになろうとしてもダメやで。アダチくんのサウンドバリアーのほうが強いやろ。内心は簡単に負かせるって思っているはずや。

安:なにをおっしゃいますか。一応、オークスの出走経験(04年メイショウオスカル・13着、06年ヤマトマリオン・13着、07年ザリーン・16着)はありますが、初めての桜花賞なんです。一緒に出られて心強い。いろいろ教えてもらわないと。佐々木先生のすごいのは、どこから仕入れるのか、あらゆる方面の情報に通じているところ。おいしいレストランから電車の出発時刻まで、なんでも頭に入ってる。もちろん、馬のことだって。だから頼りになるんです。

佐:エスポワールシチーで、かしわ記念・南部杯・JCダート・フェブラリーSとGⅠを立て続けに勝ち、飛ぶ鳥を落とす勢いのトレーナーがいうと、嫌味に聞こえるなぁ。安達厩舎はダートだけやなく、牝馬の扱いも抜群にうまい。ハートに敏感やからね。人間の女性だってそう。

安:あっ、いまのカットしておいてください。誤解されるわ。

佐:こっちは男馬の依頼が多いもの。馬主さんも調教がきついイメージを持っているみたいで。実際はそうでもないのにね。桜花賞はオルカインパルス(98年・15着)以来、2回目や。牝馬GⅠは、すべて縁が薄い。調べてみようか(携帯を取り出してデータ検索を始める)。…ほら、オークス出走はゼロ、秋華賞も0戦、エリザベス女王杯0戦、ヴィクトリアマイル0戦。

安:(携帯をのぞき込み)有馬記念6回、宝塚記念が6回(04年にタップダンスシチーで優勝)。ジャパンCだって4回(93年のタップダンスシチーが勝利)も出走してる。やっぱりキャリア豊富です。テッちゃん(エスポワールシチーの主戦である佐藤哲三騎手)とつながりができたのだって、先生がいたからこそ。レースは必ず見て、応援してますよ。

佐:それはこちらも同様やね。そういえば、一緒にGⅠに出るのは初めて。GⅡだと、目黒記念(05年)で対戦したことがあったけど。

安:あのレースも先生のオペラシチーが勝ち、うちのチャクラは5着。だいたい、そういう結果に落ち着くんです。

佐:いやいや、女性に好かれるアダチくんがうらやましい。勝利の女神も微笑むやろ。

■■■ 佐々木師は桜花賞ジョッキー ■■■

安:いまのもカットで。桜が似合う男といえば、先生でしょ。騎手時代も自分よりはるかに上の存在で、桜花賞(79年、ホースメンテスコで優勝)ジョッキーになりましたし。

佐:初めての乗ったクラシックで、いきなり初勝ち。単勝の配当が4000円もついた(22頭の出走馬中で15番人気)が、自信はあったよ。すごく怖がりで、洋一さん(福永洋一元騎手)をはじめ、乗った誰もが振り落とされた馬。それまではラチにぴったり付けないと、どこへ行くかわからない。アブミがラチをガリガリこすって、くにゃくにゃになったくらい。それが、直前になったら物見もしなくなり、まっすぐに走れるようになって。具合は良かったなぁ。返し馬の時点で、これは勝ちよるって思ったわ。乗ったもんにしかわからない感触やね。減量に苦労していたから、あの日は55キロのひと鞍だったのも助かった。オークス(21着)はゆっくり構えすぎ、斤量をオーバーしそうなところ。レース直前まで汗取りや。くらくらめまいがしてなぁ。あの苦しさは忘れられへん。

安:当時は、サウナの中にストーブまでありましたよね。私は減量の必要もなかったし、よく入ってられるなって、感心してました。そんなふうに追い詰められても、普段どおりの笑顔でしたし、芯が強い人ですよ。とても真似できません。

佐:アダチくんだって、いつも変わらない。エスポワールシチーが頂点を極めても、冷静なのには驚かされた。あれは真似できません。こっちのほうがはしゃいじゃって、傍から見たら不自然や。

■■■ いまが伸び盛りのショウリュウムーン ■■■

安:そろそろ本題に移りましょうか。ショウリュウムーンについて。どんな馬なのか教えてください。

佐:ほんまにかわいい。乗ったら、きついところもあるけど。女の子らしい馬や。

安:爆発的に走っているキングカメハメハの仔で、母父はダンスインザダーク。かなり奥が深そうです。ずいぶん遅生まれですし、今後の成長も見込めますね。

佐:誕生日が6月7日で、初めて見たのは生まれて2週間後くらい。当時からええ馬やったけど、ちょっとヒザの付き方がずれていて、不安なところもあってね。いまでもバランスは良くなくて、斜めになって走ってる。慎重に育てたいと思っていたよ。それが、ノーザンファーム空港での育成も意外とスムーズに進み、10月下旬に入厩。気がいいから、やれば動くけど、実質2本のタイムを馬なりで出しただけでデビュー(11月22日、京都の芝1400m)させた。そしたら、2着にきたんや。

安:2戦目の阪神(12月6日、芝1400m)は3着でしたが、牡馬相手によく伸びています。

佐:使いたいのを我慢して、いったん放牧へ。良くなるのはまだ先という思いがあったからね。帰ってきたら、体もずいぶん引き締まり、より走れる態勢になった。あせらずに、目標も定めず調整し、京都の牝馬限定(2月14日、芝1600m)を使ったら、思いのほか、強いメンバー。それでも勝ってくれた。少し硬めのタイプやし、負けたらダートへ行こうかとも考えていたのに。馬はわからんもんや。

安:見る目が鋭い先生でも、想像できないほどの潜在能力を秘めていたんですね。桜花賞へ直結するチューリップ賞も、一気に連勝してしまった。

佐:せっかくのチャンス。出れればいいなと思い、軽い気持ちで投票したまで。抽選を通った時点で運があった。フィリーズレビューも除外されたら、自己条件へ行ったわけで、桜花賞なんて夢の夢。レースも恵まれた。アパパネが外枠を引いたうえに引っかかり、ベストクルーズらは不利を受け、他のライバルもスムーズさを欠いた。ちょうど本命馬(アパパネ)がいて、いい目標になったと思う。我々がジョッキーだったころやったら、タケクニさん(武邦彦元騎手)や洋一さんが前にいたようなもん。気楽に付いていき、夢中で追ったら、勝っていたってやつ。まさに無欲の勝利や。

安:先生のとこ、弱気のときは結構、走りますから。怖いんですよ。当日は中山競馬場へ行っていたんですよね。

佐:そうなんや。無事に走ってくれたらいいなと、のんびりモニターを見てたら、あれっ、なんか来たぞ、おっ、うちの馬やんって、そりゃもう驚いたわ。できすぎやで。実力馬たちは、前哨戦らしく、みな余裕を残していた。本番から逆算してつくっているよ。変わりそうな馬がいっぱいいて、今度は反撃されるやろ。

安:でも、いいセンスしてますね。あの抜け出し方は良かった。重馬場で上がり34秒7の脚を使っています。力は十分に示していますよ。まぐれじゃない。

佐:本来、道悪は向かないはずなのにね。体は減っていた(-8キロの450キロ)けど、あれくらいでちょうどいいかもしれないし、いまが伸び盛りの勢いに期待やな。鍛えていなかった馬だけに、うまくいけば、上積みはかなり見込めると思うが。




■■■ タフでオールマイティーなサウンドバリアー ■■■

佐:名レポーターに誘導され、一方的にしゃべってばかりや。サウンドバリアーのことも訊かないと。フィリーズレビューの末脚は本物。着差以上の強さを感じさせる内容だもの。あの馬こそフロックやない。

安:確かに、ステッキも使わずに大外を伸びてきましたが、チューリップ賞組は強力ですよ。今回も挑戦者のつもりで挑みます。1歳で馬主さんから預託を打診されたときも、しっかりした馬体をしていましたし、目がかわいくて、かわいくて。惹かれるものがありました。母系(祖母のレディーズシークレットは『鉄の女』と呼ばれ、アメリカのGⅠを11勝した名馬)もいい。それでも、まさか重賞ウイナーになるとは、予測できなかったですよ。

佐:腹袋もあるし、タフなイメージ。混戦になりそうな今年は、いかにも持ち味が生きそうや。

安:育成先のグランデファームで順調に乗り込まれ、栗東へやってきたのが昨年の9月。それ以来、ずっと手元にいるのに、使い減りしませんね。前走は、これまでの最低体重(466キロ)でした。それでも背中が割れていたくらい。もっと引き締まりそうですよ。飼い葉も上がりませんし、レースが堪えている感じはない。ときどきごねて動かなかったり、ダクで飛び跳ねたりする気の強さがあっても、普段は大人しく、どっしりした雰囲気です。扱いやすいですね。

佐:未勝利脱出まで5戦かかったけど、見どころがある馬やって思ってた。大きく崩れへん。

安:父がアグネスデジタルですし、万能型ですね。芝1400mで2回、好位での競馬をして2着、3着。ダート1200mの2戦(2着・4着)ではハナへ行っているように、もともとゲートは速かったんです。ところが、行き切ると満足してしまうところがあって。いろいろ経験したことで、脚の使い方を覚えてきました。

佐:それにしても、初勝利(1月9日、京都の芝1600m)は鮮やか。豪快な後方一気や。

安:オーナーからも控えてほしいとのリクエストがあって。ジョッキーにも作戦を伝えましたが、あそこまで下げるとは思わなかった。相手も揃っていましたし、届かないだろうなって見ていましたよ。終わってみれば、能力を再認識させられたわけですが。一瞬の切れというより、じわじわと伸びますので、馬場が渋っても大丈夫。根性で走るところもありますよ。

佐:不利があったエルフィンS(9着)は参考外でしょ。

安:直線は行き場がなくて。外に持ち出したときは、時すでに遅しでした。騎乗した和田くん(竜二騎手)も『前に馬がいればやる気になり、弾けそうだったのに』って。

佐:よう飼い葉を食べる馬にはかなわない。食べへん牝は、調教を軽くしても食べへんし、上っ面をふっくらさせても中身伴ってなかったら、とても通用する舞台やない。やっぱ、結論はサウンドバリアーが強いってことや。

安:そうやって油断させておいて、あとでにっこりがこの人のパターン。ああ怖い、怖い。




■■■ 鍵を握るのはペース、そして… ■■■


佐:いずれにしても、上位5・6頭の力は拮抗している。うちらは4・5番人気を競い合う関係やな。

安:気になるのはペースなんです。逃げ馬が見当たらないでしょ。あまり後ろからでは間に合わない。うちのも、もう少し前で競馬ができるでしょうが。上がりはかかったほうがいい。自在味がある先生の勝ちです。

佐:展開も鍵やね。それぞれのジョッキーがどう勝負に出るか。

安:牡馬ばかりでなく、テッちゃんは繊細な牝の特徴をつかむのも巧い。ショウリュウムーンとのコンビは手ごわいですが、うちは当たりが柔らかいナベちゃん(渡辺薫彦騎手)にがんばってもらいますよ。

佐:ホースメンテスコみたいに、直前にがらっと良くなる馬もいる。運も味方にしないとなぁ。全部の条件がうまいことかみ合って、ようやく勝てるわけや。なんぼうまいこと仕上げても、当日にパニックになってしまうこともあるし。

安:大レースになると、競馬場の事務所で、ブラスバンドがファンファーレを練習しているでしょ。装鞍所にも響くんですよ。あれは影響が大きいと思います。

佐:アパパネみたいに早くから栗東へ来ていればいいけど、関東勢はしんどいと思うで。出張馬房の位置がハンデ。診療所の傍にあって、朝から晩までじゃり道を歩く馬の足音が聞こえてくる。中山や東京の関西馬ブロックは静かなところにあるのに。

安:名馬はそんな障害も乗り越えるんでしょうけど、関西に有利なレースだけに、恥ずかしい競馬はできませんね。

佐:2頭ともボロボロだったらどうしよ。そしたら、傷をなめ合おう。

安:対談までしたんですから、責任は重大。成績はともかく、応援してくれるファンのため、精一杯やりましょう。


【佐々木 晶三】 Sasaki Syozo

1956年山口県出身。
1994年に調教師免許を取得。
1994年に厩舎開業。
JRA通算成績は341勝(10/4/4現在)
初出走:
1994年11月26日1回京都7日目1Rヤマトタイトル(3着)
初勝利:
1994年12月25日7回阪神8日目2Rヤマトタイトル


■最近の主な重賞勝利
・10年 チューリップ賞 (ショウリュウムーン号)
・09年 中日新聞杯 (アーネストリー号)


騎手としては桜花賞などを制し通算137勝。94年に厩舎を開業させると、タップダンスシチー(ジャパンカップなど)、インティライミ(重賞3勝)などの活躍馬を輩出している。今回が競馬ラボ初登場。



【安達 昭夫】 Adachi Akio

1959年京都府出身
1999年に調教師免許を取得。
2000年に厩舎開業。
JRA通算成績は148勝(10/4/4現在)
初出走:
2000年3月4日1回阪神3日目10R ヤマトプリティ(2着)
初勝利:
2000年4月23日1回福島2日目12R マルサンミッキー


■最近の主な重賞勝利
・10年フィリーズレビュー(サウンドバリアー号)
・10年フェブラリーS ・09年JCダート(共にエスポワールシチー号)


今年は厩舎の看板馬ともいえるエスポワールシチーでフェブラリーSを制覇。名実共に日本ダート界の看板馬にまで育て挙げた。そして、フィリーズレビューをサウンドバリアーで制覇と、コンスタントに活躍馬を輩出している。