12月24日(日)に迫った日本競馬界を締めくくるビッグレース・有馬記念。競馬ラボではグランプリに挑む有力馬陣営を徹底特集。連日にわたって独占インタビューをお届けする。まずは、前哨戦のアルゼンチン共和国杯を圧勝し、一躍、世代交代を アピールしたスワーヴリチャードの庄野靖志調教師を直撃。秋初戦の前走は3歳ながら56キロのハンデを背負い、歴戦の古馬を相手に完勝。ダービーで接戦を演じたレイデオロもジャパンカップで2着と、世代レベルの高さは証明している。あえて菊花賞を使わず、余裕を持った臨戦過程でグランプリへ送り出す庄野師に、ローテーションを決めた経緯と手応えを聞いた。

ダービー後は「満身創痍で走り切ったという感じ」

-:有馬記念(G1)に出走するスワーヴリチャード(牡3、栗東・庄野厩舎)ですが、日本ダービー2着の後はどういった状況で秋に備えられていたのですか。

庄野靖志調教師:ダービーが終わってすぐにノーザンファーム空港に放牧に出したんですけど、けっこう疲れていたというか、本当に満身創痍で走り切ったという感じの、本当に若馬が一生懸命頑張りましたというような感じで、だいぶ疲れていましたね。結局どこが目標というのも決めずに来ていたんですけど、そこから乗り出しをいつからにしようだとか様子を見ながらも含めて、牧場でも十分にケアをしてくれたし、乗り出しのタイミングであるとかメニューの組み方も含めて、体も1回戻して上手くリセットできるように持っていってくれました。使い出しをどこにしようかというのも特に決めないで、逆算したわけでもなく、馬が良くなってきたところでレースを決めようという感じでしたね。

スワーヴリチャード

庄野靖志調教師に甘えるスワーヴリチャード

-:3歳の牡馬ですし、菊花賞というのが目標になっていたかとは思うのですが?

庄:菊花賞はどうしても走らせたいとは思っていなかったですし、菊花賞を使おうと思えば、どうしてもその前に1回ステップ(レース)が欲しかったでしょうから、そうなると馬にもだいぶ負担が掛ってきたでしょうし、夏の状態を考えると、そこまでにはないかなと。

-:栗東に帰厩したのはいつでしたか?

庄:アルゼンチン共和国杯の1カ月半くらい前ですね。それくらいは欲しかったので、都合6週間ほどは(調整期間として)見ていましたね

-:アルゼンチン共和国杯に出走するというニュースが出た時に、意外にもう使うのかなと思った記憶があります。

庄:それも、本当に馬の状態に合わせてということだけで、その時点で神戸新聞杯から菊花賞というのは全然頭になかったので、帰厩してくるちょっと前あたり、アルゼンチン共和国杯くらいからかな、という感じで見ていました。オーナーや牧場とも相談をして、このへんから行きましょうかという感じでしたね。特にそこに合わせに行ったわけでもないし、帰厩してからの状態はすごく良かったので、順調に進めてこられたかなと思いますね。

「(アルゼンチン共和国杯の前は) 7~8割かなという感じでしたが、僕が思っているより強くなったなという感じはします。(成長度合いは)もうちょっとゆっくりかなと思ったんですけどね」


-:実際にレースを迎えて、周囲が思っている以上のパフォーマンスを見せてくれたというのが、正直なところでした。

庄:デキとしてはまだまだ余裕があるのかなという、本当に7~8割かなという感じでいたんです。古馬相手になりますし、斤量(56キロ)も周りから比べるとそんなに軽くなかったですし、古馬に換算したら58キロになる計算ですからね。

-:アルバート(4着)が58.5キロでしたからね。

庄:58.5キロはさすがになぁ。ハンデだからしょうがないですけど、2500mを走らせるのはちょっとかわいそうだなと思いながら見ていましたけどね。そのぶん、ウチの馬も56キロで、実際にダービーとかでも57キロを背負っているので、見込まれたかなと思っても、まあまあ56キロなら走ってくれるだろうなと思って見ていました。僕の見立てよりは完勝というか、やっぱり走らせる前はいろいろと100点満点にはちょっと届かないかなというところでした。古馬相手だし、半年ぐらいブランクがありましたからね。それを考えると、どこまでやれるのかなと思った中では本当によく頑張ってくれたと思いますね。

スワーヴリチャード

-:ダービーの後に満身創痍になって、立て直した馬のレースじゃないなというように見えましたけどね。

庄:本当に、かなり成長したかなという感じがしますよね。いま思えばだけど、結局、菊花賞も天皇賞(秋)もああいう馬場(道悪)になってしまいましたので、走らせなくて良かったなと思っているし、やっぱりいろいろな負担を考えると良かったんじゃないかなと思いますけどね。

-:天も味方したということですね。

庄:ハハハ(笑)。

-:先生の言われた馬の成長についてですが、一番はスタートからちょっと違ってきたのかなという印象はありますか?

庄:共同通信杯あたりから、ゲートは割と上手く出ていけるようになっていたし、その辺は四位騎手がいろいろと試しながら、教えながらやってくれていたので、共同通信杯の時も先を見据えて少し出していこうかという感じのレースでしたし、ゲートに関しては本当にずいぶん成長したかなと。東京も2400mと違って2500mなんで、みんなゲートが開いてからそんなに慌てないで行くんで、ポジションも取りやすかったですしね。

-:ゲートからジョッキーが出していってポジションを取れるか取れないかという部分は、馬の背腰の成長度合いというのが大きく関わってくると思います。秋になって、そのあたりが一段と安定して成長しているなという感覚はありますか?

庄:ありますよね。さらに言えば、僕が思っているより強くなったなという感じはしますよね。(成長度合いは)もうちょっとゆっくりかなと思ったんですけどね。どうしてもハーツクライ(産駒)だから晩成という考えを誰しも持つんでしょうけど、晩成だとかは僕もあまり考えないで、馬とずっと向き合ってやってきています。どれくらい成長して帰ってくるかなと思った時は、本当にこっちが思ったよりは成長してきましたよね。

スワーヴリチャード
東京得意の印象も「今だったら右回り、左回りは関係ない」

-:アルゼンチン共和国杯を使ってから次のローテーションを考えられる時に、どれくらいで有馬記念という決断を下されましたか?

庄:割と早かったですよ。もっと言えば、アルゼンチン共和国杯の前からどうしてもジャパンCに行きたいという気持ちは全然なかったですし、アルゼンチン共和国杯から有馬記念というのは何となく頭の中では思っていたので。

-:スワーヴリチャードのレースを振り返ると、イメージが左回りの府中で強いという印象がありますが、有馬記念に向かうに当たって、右回りの2500mでちょっとトリッキーなコースというのは、どう見ていますか?

庄:右回り、左回りを考えたら、東京コースが一番合っているというのは、デビュー戦、東京スポーツ杯、共同通信杯から見てもわかっていましたけど、今だったら関係ないかなとは思いますけどね。体幹とか背腰の強さが良くなってきたので。皐月賞(6着)の時もどうしても左回りの時の成績が良くて、初めての中山になるし、「中山よりは東京」というのがちょっと頭から拭えないものがありましたけどね。でも、今なら本当に右でも左でも、どこでも走れるんじゃないかなと思います。

-:皐月賞は3歳の春ということもありますし、その後にダービーという大一番が控えているということ考えると、今回とはちょっと(状況が)違いますね?

庄:クラシックですから、やっぱり勝ちたいですけどね。皐月賞も勝ちたかったし、ダービーも勝ちたかったし、勝たせてあげたかったしね。ただ、あの頃よりは本当に馬が強くなってきたので、やっぱり3歳春の時点ではダービーが最終目標になってくると思うので、そこに向けて上向いてくればというのがずっとありました。皐月賞はレース内容としても着順としても、悲観してはいないですけどね。ただ、馬体だけを見ると、ダービーの時よりは皐月賞の時のほうがまだ少し余裕があったのかなとは感じていましたね。

-:今回はアルゼンチン共和国杯からワンランク締めていかれますか?

庄:それが「天高く馬肥ゆる秋」とはよく言ったもので、馬が立派なんですよね。

「もっと良くなるんじゃないかと考えた上での調教メニューであったり、いろいろとアドバイスをいただいたりしてやってきて、今はこの馬に合ったやり方が一つ出来上がったなと思います」


-:ここ最近は、木曜日はどのように調整をされているのですか?

庄:ずっと併せ馬ですね。

-:どのようなテーマですか?

庄:まだ言えないなぁ(笑)。すごく元気が良い馬なので、いろいろと牧場の方とか先輩とも話をして、こういう風にしていったらもっと良くなるんじゃないかと考えた上での調教メニューであったりだとか、体力を付けるのにはこうしたら良いかなとか、いろいろとアドバイスをいただいたりしてやってきたんで、それで今があると思っています。まだまだこの先いろいろな考え方も出てくると思うので、また違った調教メニューの組み方も出てくるでしょうけど、今はこの馬に合ったやり方が一つ出来上がったなと思います。

-:それは、具体的には教えていただけないですか?

庄:教えていただけないです、フフフ(笑)。

-:1週前追い切りが明日(12月14日)に迫っていますが、どのような形でやる予定ですか?

庄:時計だけで言うと、やればやっぱり出てしまうので、先週や先々週でもやっぱりちょっと促しただけで、Cウッドの終い1ハロンも11秒台で楽々来てしまうんですよね。速い時計を求めることが追い切りではないと思っているので、来週に向けて少しずつ上向いていくような、それでいてある程度は今週のうちに仕上がったら良いなと。来週はそんなに目一杯行かなくても、今週のうちに仕上がったら良いなという感じではいますね。

スワーヴリチャード

1週前はM.デムーロ騎手を背にCWコースで7F95.8-11.8秒と長めの追い切りを消化

-:追い切りと言っても1分半ぐらいの運動で、それ以外にも歩かせるということも含めて全体の調教だと思うのですが、どのようにお考えですか?

庄:それも結局は日々の積み重ねであったり、月曜日は休みですけど1週間のうち6日間をどう過ごすかという中で、どういう風なメニューを組んでいこうか、どれぐらいの時計を求めていこうかとか、馬と相談しながらなんでしょうけど、なかなか追い切りだけで馬をつくることは難しいですね。

-:歩いている時間のほうが長いでしょうし、心肺的なトレーニングになっているでしょうからね。現時点での体重は何キロぐらいですか?

庄:前走よりもプラスになっているので、前回が502キロですから、今回ももう少し増えていくんじゃないかなという印象はありますよね。

-:それは、成長の過程での変化ですか?

庄:ここに来てよく食べるので、食べたものが身になっているのでしょうけど、本当に体がすごくドッシリしてきたというか、古馬になってきたなという感じですよね。

ぶれない信念「数をこなすのは今ではない」
スワーヴリチャード陣営インタビュー(後編)はコチラ⇒