ラッキーライラックが”歴史的名牝”への階段を上っていく。クラシックを見据えてのデビューから4戦4勝。阪神ジュベナイルF(G1)を含む重賞3勝を挙げるなど順風満帆に見えるが、デビュー前と昨年(2017年)秋に『試練』を乗り越えていた。担当の丸内永舟調教助手は「チャンピオンになれる器」と手応え十分。知られざる過去と強さの要因を聞いた。

「ある程度つくって出走」の前哨戦から上積み十分

-:4戦全勝で桜花賞(G1)に向かうラッキーライラック(牝3、栗東・松永幹厩舎)ですが、まずは前回のチューリップ賞を振り返ってもらいたのですが、思ったより先行したように見えました。

丸内永舟調教助手:元々スタートが良くて、逆に良過ぎるぐらいなんですよ。アルテミスSの時は出が良すぎてハナを切るぐらいに出てしまい、抑えようとしたらハミを噛んで力んじゃった。それで阪神ジュベナイルFはソロッと出したら、今度はあまりスタートが良くなかったんですよね。乗り手の思い通り自由自在に出せるんですよ。チューリップ賞は出たなりで、あの位置になった、という感じでしょうね。

ラッキーライラック

ヘヴンリーロマンス、アウォーディーなど数々の名馬を 手がけてきた丸内助手

-:その出たなりから、人気に応えて楽々と抜けてくる内容でした。次のレースを見据えると。

丸:JRA賞の時に、ちょうど先生(松永幹夫調教師)とジョッキー(石橋脩騎手)と僕とで、ジョッキーは関東なので、そんなに密に連絡を取ることもないので「チューリップ賞はどうしようか?」という話があったんですよね。それで、ある程度つくって出走させることにしました。チューリップ賞のゴール前で、追われてもヘコたれない感じにはなっていたので、予定通りでした。今回、牧場(ノーザンファームしがらき)から戻ってきた時に、馬もフックラして成長していました。成長させていけば緩やかだけど上積みがある。本番前にデキが落ちることは避けたいので。

-:体重もプラス10キロでしたね。

丸:それも、人それぞれ見方があって「余裕があった」という人もいれば「まだまだ細い」という人もいました。

-:細いとは思わないですけどね。

丸:でも、完成した時の体から言うと、まだ細いのかなとは思います。

ラッキーライラック

今年初戦のチューリップ賞(G2)も危な気なく勝利した

「新馬を使う時も、これは絶対に勝てるからという感じで下ろしたんですよね。これまでだと、アルテミスSが一番しんどかった。状態は正直なところ良くはなかったけど、勝ってくれました」


-:現実に4戦4勝なわけで、これ以上求めることもあまりないのかなと思っているのですが。

丸:本当に新馬を使う時も、これは絶対に勝てるからという感じで下ろしたんですよね。先生は「オークス向き」と言っていたんですよ。新馬戦でも「新潟の1600mは短いんじゃないか」と。「確かに新潟の2000mはあるけど、内回りコースで、小回りになる」と。「マイル戦は外回りでワンターンだし、ゲートを出てから直線だから、そんなに紛れもないし、戸惑うこともないだろう」と。ウチには昔、評価は高かった馬がいたんですけど、1400mで下ろしから1600mというのはしんどい気がしたんです。だから、牝馬にとって桜花賞というのは避けて通れないだろうから、1600mでも戸惑いがないようにデビューさせたんです。

-:今、振り返ってラッキーライラックに不安で臨んだレースはありましたか。

丸:アルテミスSは、状態は正直なところ良くはなかったけど、勝ってくれました。これまでだとアルテミスSが一番しんどかった。

-:具体的に言うと、どこがしんどかったのですか。

丸:帰厩した時点で、新馬戦よりも体重がなかったんですよね。レースまで3週間しかなかったんです。3回しかない追い切りできないような状況で、しかも輸送がある。追い切りは、やらないといけないけど、思ったほど食べてくれませんでした。

-:そのわりに輸送して、プラス6キロの486キロで出られたのはなぜですか。

丸:賭けですね。エサを食べないで追い切りをするか、エサを食べないから調教を軽くするのか。この問題は、どの牝馬にもあると思うんですよね。アルテミスSの予定を延ばそうかとなった時に「普通に2周乗ろう」と。乗り出して動かすようになったら、食べるようになったんですよね。ようやく上向いてきたなというのが1週前で、そこから日増しに食べてくれるようになって、プラスで出走できたということですね。

ラッキーライラック

17年8月20日の新潟芝1600m戦で楽々と初勝利を決めた

入厩当初に見せた「危うさ」も解消

-:この馬の一つの不安点というのはオルフェーヴル産駒で、オルフェーヴル産駒というのは走る能力も秘めているけど、見る側からしたら危うさも同居していると思います。

丸:最初は危うい部分も見せていました。初めて入ってきて、3日目ぐらいまでは見せましたね。

-:それはどういう部分ですか。

丸:初日に坂路に行ったんですけど、誘導馬が前にいてくれて、後ろを付いていくという形で、とりあえず前の馬に付いていくというのが最優先で、前の馬がキャンターに行ったんですけど、行かないんですよね。坂路は左側がちょっと開けている所があって、そこに逃げていって、へばりついたんですよね。促しても行かない。たまたま夏の後半に乗っていたから、後ろに馬がいなかった。普通は邪魔だから、叩いてでも行かないといけない場面だったけど、いなかったんで馬に付いていこうと。走る気になるまで待っておこうと。本当に1分弱ぐらいウネウネしていて、落ちないようにだけしていて、一通り受け止めたら行ってくれたんですよね。

それで、2日目は左に逃げたから、今度は左に馬を置こうと思って、スタート地点に行って、左の馬がキャンターに行ったけどやっぱり行かない。でも、左に逃げずにその場でウネウネしている。また一通りゴネているのを受けたら、初日よりは短い時間でキャンターに行ったんですよね。3日目は、今度左と前に馬を置いて、挟むような感じで3頭でキャンターに出たんだけど、やっぱり行かない。2~3秒ぐらいですぐにキャンターに行ってくれたんですけど、ビュンと行くんですよね。でも、馬には近付かなかったので、怖かったんだと思いました。だから初日に叩かなくて良かったなと。悪さをしているんだったら、叩かないといけないけど、怖がっている馬を叩いて走らせても益々人間が嫌になっちゃうだろうし。そこが一番肝だったところで、ターニングポイントだったと思っています。

-:初日から3日ぐらいで、この馬のターニングポイントが訪れていたということですね。

丸:だから、初日にあの挙動を見た時には、(父オルフェーヴルが)阪神大賞典で逸走したのがやっぱり頭によぎったし、最初のゲート練習も出る馬と一緒に行ったけど、やっぱりゲートが開く音でビクンとしたし、今度は横の馬が出ていくのでまたビックリして、全然出ていかない。それで、いざ出たら左に逃げるような感じになっていたので、やっぱりオルフェの子で左に逃げるんだという感じは持っていました。1回ゲート試験に落ちたんですけど、これじゃダメだということで、出す気で出そうとしたら出たんですよね。出す気で出せば出るんだというのも分かったから。そういう部分もあって、極力追い切りではオンになるか、ならないかぐらいでゴールに入っていくというのをずっとやっています。やれば動くんですけど、MAXまで行かない。ちょっと手前ぐらいがゴールで抑えられるということをやっています。

前走とは中身が違う「これが牝馬か、という体」
ラッキーライラック陣営インタビュー(2P)はコチラ⇒