2018年上半期最大の上り馬ではないか。日経賞を制したガンコが天皇賞・春へ挑む。3歳時、芝では未勝利に終わった馬がダートでも頭打ちに……。そこから芝に舞い戻ると、4戦3勝と一変。ご存知の通り、前走の日経賞は並み居る強豪を蹴散らした。古馬になってからの成長曲線は父ナカヤマフェスタを彷彿とさせるが、一時のスランプを脱した要因とは?かつては担当馬を天皇賞にも送り出したことのある厩舎スタッフに語ってもらった。

5走前はダートで大敗していた馬がまたたく間に芝重賞ウィナーへ!

-:天皇賞・春(G1)に挑むガンコ(牡5、栗東・松元茂厩舎)の前走、日経賞(G2)は見事なレースだったと思います。振り返っていただいてどうでしたか?

中村周平調教助手:ビックリしましたね。感じていた以上に、走る度に力をつけていることを感じましたし、想像以上の結果だったのは本音です。

-:やや渋った馬場こそガンコにとってプラス条件だったと思いますが、あのメンバーで他馬にマクられる展開を考えると、なかなか簡単なレースではなかったと思います。レース前の手応えとしてはどうでしたか。

中:その前(松籟S)も良いパフォーマンスで勝ってくれて、前走と同じくらいの調子に維持できたとは思っていました。馬の活気も感じていましたので、結果こそ未知数ですが、自分の力は出してくれるんじゃないかと思っていました。ただ、この馬は障害を練習していて、そこからずっと緩ませずというか、一戦一戦仕上げてきているから、見えない疲れが出ないか、そこは怖かったですね。

ガンコ

▲ガンコを担当する中村助手(馬右) 左は松元茂樹調教師

-:その点で、今の疲れはどうですか。

中:前走後は今までで一番息が入らなかったです。獣医さんに診てもらっても「腰からトモにかけても、シッカリ走ってきたことを感じさせる。楽をさせた方が良いよ」ということでした。前回は久々に輸送も長かったですからね。

-:条件的にも良かったですか。

中:良かったと思います。行く前から(藤岡)佑介君も「この時期の中山は合うんじゃないか」と言っていたので。春の中山芝はパワーがいることと、坂もそんなに苦にしないので。

-:レース展開は途中でキセキがマクってくる難しい流れでしたね。

中:その辺は、ジョッキーがこの馬の強みも弱いところも分かって乗ってくれているので。強みを活かせる乗り方をしてくれたので、良かったかなと。観ている方は、調教でもたまに引っ掛かる時があるので、心配したのですが、ジョッキーは「上手くコントロール出来た。無理に追わなかったというか、付いていかずに、楽なペースだったら行っても良かったし、ちょっとオーバーペースだったから控えた」と言っていたので。折り合いも付いていていいレースだったと思います。

ガンコ

-:中村さん自身の、レース中のハラハラ度みたいなものはどうでしたか?

中:ちょっとビックリはしましたけどね。ゴール前は興奮していて、あまり余韻はなかったですけど(笑)。

-:去年の夏に函館の取材で伺った時も馬房にいたのがガンコでしたね。

中:その時は吉田さん(マキシマムドパリも担当していた吉田貴昭助手)の担当で、僕はやっていなかったですね。

-:その時は吉田さんがやっていたのですが、中村さんとも話して「活躍する馬を作るのはなかなか簡単ではないですね……」と謙遜していたのを覚えています。

中:そうですね(笑)。

-:それがここまでの大出世ですから。

覚醒の理由は障害練習による精神面の上向き

-:昨夏はダートに使っていたガンコですが、活躍した要因は障害練習と言うことでしょうか?

中:一応、そう紐付けられている感じがしますね。もちろんそれだけじゃないでしょうけど、(芝転向前の)ダートの2戦で大敗した時は、いま思えば調子が下降気味だったんですよね。でも、障害をやろうかということになって、前向きになってきたので。

-:走る気の問題だったんですね。

中:5走前はダートで小牧(太)さんが乗って12着だったのですが、小牧さんも乗って勝ったことがあるから「これまでの勝ちパターンくらいの競馬で、直線に向いてサッパリだったから、いつもの感じじゃないね」と言っていたほどです。普段、走っている時は併せ馬でも良い雰囲気で行くのですが、負けている時は動かなかったですね。それが段々キツくなっていって。

その後、吉田さんとも「ちょっと調子が良くなっているんじゃないか」としゃべっていたら、レースでも一変してくれて……。先々、障害を使うために芝の長いところを使った感じだったのですが、そうしたら(4走前の江坂特別を)勝ってくれたんです。

ガンコ

-:芝自体は昔、走っていたんですね。

中:デビュー当初だけですね。考えたら(父が)ナカヤマフェスタなので、血統も完全に芝なので。

-:ナカヤマフェスタの子にしてはオットリし過ぎていますよね。

中:ナカヤマフェスタは難しいらしいですね。最後は調教も出来なかったと耳にします。でも、僕も傍から見ていて、最初はヤンチャで危ないことをしていたんですよね。でも、僕がもらった時はもうこんな感じでオットリしていましたね。障害練習をつけてくれた北沢(伸也騎手)さんも背中が良いから気に入ってくれていて、平地で勝って戻る時は「おお、ちょっと待ってくれよ……」みたいな感じで(笑)。

-:(江坂特別で)勝った時は、ラヴィエベールなどけっこう良い相手がいましたね。

中:そうですね。芝が2年振りの馬が逃げて、(後続が)牽制し合ってそのまま逃げ切っちゃって……。みんなビックリしたのですが、時計は2分25秒0で速かったんですよね。“もしかしたら”と思っていたんですよね。佑介君も「余裕があったね。ハンデが軽いと自分は乗れないけど、日経新春杯に行った方が良いですよ」と言ってくれました。52キロだったから酒井学さんで行ったんですけど、3着に来たので、その辺から“これは(やれるのでは)”と感じる部分がありました。

-:この馬はダート色のある時計の出し方をしますよね。

中:ダートもけっこう安定して走っていましたからね。パンパンの高速馬場じゃなかったから、今まで走った芝も条件が良かったんですよね。その点、天皇賞(春)は例年の傾向からはどうかな……という感じはしますね。

-:日経賞も3~4コーナーでゴチャつくシーンがありましたね。周りに惑わされていないというか。

中:普段からそうなんですよ。周りが暴れていても、あんまり反応しないんですよね。勝手に自分で反応する時はあるのですが、周りの挙動で反応することはあまりないから。

-:マイペースですね。

中:併せ馬で周りが来た時はちょっとビュンと行ったりするのですが、基本的にはマイペースですね。

「吉田さんが教えてきたから、こうなっているんでしょうけどね。マキシマムドパリもやっていたけど、あの馬も繊細だから。ちょうど良い時に僕に回って来たんでしょうね」


-:担当者が良かったからじゃないですか?担当者によってはうるさくなりますからね。

中:それはありますよね。吉田さんが教えてきたから、こうなっているんでしょうけどね。マキシマムドパリもやっていたけど、あの馬も繊細だから。ちょうど良い時に僕に回って来たんでしょうね。

-:去年の秋から、肉体的に大きく変わったところはありますか?

中:体重は増えているんですよ。大体480後半くらいがベストで走っていたのですが、今は500を超えて走っているから。

-:中、長距離を走る芝馬はもうちょっと細い感じで、500は超えないようなイメージはありますけどね。でも、この馬は大型でも長距離を走りますね。

中:スタミナもあるので。

ガンコ

-:今は折り合いに不安はないですか?

中:ないと思いますね。佑介君が手の内に入れてくれているので、そこまでちゃんと持っていければ、あとはお任せ、という感じですけど。

-:ナカヤマフェスタで一番走った馬になるんじゃないですか。

中:ナカヤマフェスタの産駒が中山の芝で初めて勝った訳ですからね。競馬の前に、ファンが「ナカヤマフェスタはまだ中山の芝で勝ったことがないけど、大丈夫か」とネットに書いていました(笑)。調べてみたら、確かに1勝もしていなかったので。ナカヤマフェスタ自身もそうでしたが、4歳くらいから成長してグッと良くなるんじゃないですか?その良い成長曲線と合ったんじゃないかと勝手に解釈しています。

「障害は自分の意志で飛ぶ訳じゃないですか。段々と自分の意志で飛ばないといけなくなって……。それが前向きさに繋がったんじゃないですかね」


-:大敗していた時から回復させるキッカケみたいなものがあったのではないでしょうか。

中:それに関しては、障害だったんじゃないでしょうかね。障害は自分の意志で飛ぶ訳じゃないですか。初日は追っても飛ばなくて、障害を跨ぐのも相当ビビっていて、もともと怖がりなところがあるんですよね。以降はそれが何ともないと思って飛び始めて、段々と自分の意志で飛ばないといけなくなって……。それが前向きさに繋がったんじゃないですかね。障害の練習はそういう効果もあるみたいですね。

-:ガムシャラに走っているだけだったら、嫌になって疲れたから止めたとなるかもしれないですからね。

中:そうなんですよね。

-:怖がりだけに気を付けていることはあるのですか。

中:怖がりと言っても、それほどの怖がりではないので。

ガンコ
来年で解散の厩舎 最後に大輪を

-:ここからは直前の気配を伺いたいです。最終追い切りは19日(木)、栗東坂路で52.7-38.1-24.5-12.2秒をマークしていましたね。追い切りの評価をいただけますか?

中:前走、しっかり走ったことで背腰に疲れがあって、それを一旦緩ませてから、戻してきました。さすがに連戦続きで状態面は気になりますが、1度目のハロー掛けが終わったばかりの時間帯を考えれば、悪い時計・内容ではなかったと思います。ビシッとやったので、来週は軽めの調整に留めるはずです。

-:現時点では、京都も開幕しておらず、どんな馬場になるかはわかりませんが……。

中:例年を考えると、天皇賞・春、菊花賞と内枠や先行脚質とはいえますよね。内が欲しいところです。レース当日はわかりませんが、来週週中の関西は雨予報みたいで、雨がなるべく残ってほしいですね。条件がつきまとうのは事実です。

-:ちょっと前ならマキシマムドパリ、今はガンコやカフジバンガードと活躍馬がおりますが、松元茂樹調教師は引退が迫っており、厩舎にとっては来年2月までの付き合いとなりますね。

中:そうですね……。何とか先生のためにも、とは思いますし、先生も楽しみにしているようなのでね。

ガンコ

▲19日の1週前追い切りの様子 藤岡佑介騎手が手綱をとった

-:中村助手にとっても、天皇賞・春は2010年に3番人気に推されたジャミールと挑まれました。そのリベンジの機会ですね。

中:いや、やっぱり馬が違うのでね。あの馬をもっと走らせたかった思いはありますし、ガンコにもこれから頑張ってほしいですし、思いは別です。

-:最後に意気込みをお願いします。

中:そんなえらそうなことは言えません。これだけの大レースに出られるだけでありがたい思いで一杯です。可能な限り、いい状態で送り出せるよう、あと数日がんばります。

-:ちなみに、オットリ系の中村助手ですが、頑固ですか?

中:いや、そんなことは……。たぶん違いますよ。

-:ありがとうございました(笑)。