レッツゴードンキが、2年連続2ケタ着順に敗れたレースで金メダルを取りにきた。前走の高松宮記念はハナ差で惜敗。ダートのJBCレディスクラシックを含めて、G1での2着は5度目だった。当初予定されていた香港遠征を取りやめ、『鬼門』に挑む理由とは……。厩舎スタッフに、レッツゴードンキの素顔と3年ぶりのG1制覇にかける思いを聞いた。

ハナ差逃したG1タイトル 環境に苦労した香港遠征

-:ヴィクトリアマイル(G1)に挑むレッツゴードンキ(牝6、栗東・梅田智厩舎)ですが、本来ならば、ファインニードルも出走した香港(チェアマンズスプリントプライズ)に向かうという話でしたよね。

寺田義明調教助手:本当はそうだったんですよね。招待もされていましたからね。ただ、前回の遠征(香港スプリント6着)があまりいい状態ではなかったので。体重も大きく減りましたし、カイバも食べられなかったし、具合は良くなかったです。あれが、体重もちゃんとキープ出来ていて、出遅れすることもなくちゃんとレースができていれば「今年の春もまた行こうか」という話になったと思うんですけど。

-:そういう経緯を踏まえての回避だったのですね。前走の高松宮記念(2着)の状態はどうでしたか?

寺:状態は良かったですよ。フェブラリーS(5着)から高松宮記念は放牧を挟まずに直行だったのですが、あの時は良かったですよ。

レッツゴードンキ

▲スプリントG1では3戦連続2着 6歳ながら衰え知らずのレッツゴードンキ

-:惜しくも2着でした……。

寺:惜しかったですね。しかし、(G1の2着は)本当に何回目だろうかというほどですが、勝ったかと思ったんですけどね。ちょっとした部分の差ですね。(岩田)ジョッキーは「早仕掛けしてしまった」と言っていましたけど、仕方ないですよね。勝とうと思ってやったことですから、あれで残ることもあり得たわけですからね。勝ち馬がいい脚を使えて、決め手があったというだけで誰も悪くないですよ。

-:レースの時はゲートに行かれていたと思います。

寺:ゲートに行っていて観られなかったのですが、遠くからゴール前の直線が見えたし、僅かながら実況音声も聞こえていたんですよ。勝負服でわかって、“前に出ているな、勝った!”と思った時に交わされたのが見えたんですよ。ただ、そういう時でも見る場所の角度の差で差されたと思っても残っている場合もあるので、わずかな期待をしながら検量室に行ったのですが……負けていましたね。

-:その後の様子はどうでしょうか?

寺:そうですね。4月末から(坂路で)速いところをやり出しました。中6週ですし、今年2度も使っているので、2週前追い切りくらいからやれればちょうどいいという見立てですね。

-:改めて伺うと、香港の際は遠征の疲れが出てしまったのでしょうか?

寺:香港遠征の何が良くなかったかと言うと、環境に馴染めなかったことが一番ですね。香港の馬房の造りが独特で、ちょっと独房っぽいんですよね。(日本では)こうして馬が顔を出せる、そういう安心感が馬にはあるんですよ。ところが、香港の場合は扉も閉めないといけないし、広い厩舎にポツン、ポツンとしかいないので、寂しがるんですよね。それで、窓もないんですよね。景色も見えないし、薄暗い雰囲気で。

レッツゴードンキ

▲昨年の香港にて 右が担当の寺田助手
レッツゴードンキの追い切りに騎乗したのが前原助手

-:香港の厩舎は我々も入れませんでしたが、馬房の作りだけでなく、それぞれの馬が分かれて入っていると。

寺:広い厩舎にポツン、ポツンなので、姿が見えなくて一人ぼっちになっている感じですね。薬物のチェックなどもすごく厳しくて、頻繁に採血や検尿があるんですよね。獣医さんにはいつもサポートしていただいているので悪口を言うわけではありませんが、馬は獣医を嫌うことがあるのですごくストレスですよね。白衣を来た人に注射をされたり、痛いことをされるじゃないですか。白衣を来た人が来ることがストレスになるし、その格好で分かるんですよね。薬の匂いもあるでしょうね。

-:レース時の状態としてはどれくらいでしたか?

寺:高松宮記念を100%としたら、それこそ60%くらいですかね。出来た体が萎んでいったという感じですね。検疫に入った時点でもう良くなかったんですよ。検疫馬房も独特な造りで、隔離されているのですが、外の世界から遮断された、それこそ監獄に似た雰囲気ですから。

-:やっぱり海外遠征は輸送がどうこういうより、そういう環境に慣れる、対応することが難しいわけですね。

寺:輸送自体はここから何度も北海道に行ったり、来たりしているので慣れているんですよ。香港だったら時間的には福島に行くのと変わらないですから。やっぱり独特な厩舎の雰囲気ですよね。

レッツゴードンキ

-:そういうチャレンジを乗り越えなければいけないのが海外挑戦というわけで。

寺:精神的に強い馬やあるいは帯同馬を連れていって、馬房を隣同士にして、常に一緒に行動できるような雰囲気にしてやったら、また違うのでしょうが、香港国際競走は招待されないといけないので。

-:それで、他厩舎の馬を恋しがっていたと。

寺:そうそう。スマートレイアーと前回一緒に行ったのですが、スマートレイアーに頼ってしまうんですよ。それで、厩舎も違うから調教も違うし、動かす時間もどうしても違ってくるので、大久保龍志さんにウチの時間に合わせてもらうことは無理なわけだから、どうしても1頭になったり、孤独な時間や出てきて、あんまり上手くいかなかったですね。

-:それは、寺田さんや同じく遠征していた前原助手や先生(調教師)がいても違うことで、馬がいないと(いけない)、ということですね。

寺:そうですね。

-:その後は一旦放牧に出て、フェブラリーSに挑んだと。

寺:吉澤(ステーブルWEST)さんに出して、帰ってきた時は非常に良い状態で帰ってきましたね。思いの外、回復は早かったように思いますね。香港から帰ってきて、兵庫県の三木に検疫所(三木ホースランドパーク)があるのですが、そこに入った時に、あまりにも馬が小さくなっていたので、高松宮記念は間に合わないんじゃないかと一時は思いました。でも、1カ月くらいですごく良くなって帰ってきたので、吉澤さんもすごいし、この馬もすごいなと思いましたね。

息の長い大活躍「誰も予想していなかった」

-:ここ最近はすっかり安定してきた印象ですが、もともとは北海道でデビューしたことを思い出します。当時の印象はどうでしたか?

寺:お父さんがキンカメで大種牡馬ではありますが、お母さん(マルトク)がマーベラスサンデーの産駒でダートの短いところで準オープンまで行った馬でした。

-:お母さんは厩舎ゆかりの血統ですよね。

寺:そうですね。(梅田智之調教師の父である)梅田康雄先生が管理していた馬で。しかし、ここまでになるとは思っていなかったのが本音ですけどね。

「攻め馬の動きは良くて、それなりには走るなと思っていました。ただ、当時はまだ脚元が固まっていなくてモヤモヤしていたから、いつまで持つのかなとは思っていましたね」


-:こういう路線で走る馬だとは思っていなかったわけですね。僕も桜花賞を勝ったとはいえ、将来的には短いところ一辺倒になるのかと思っていました。

寺:札幌の芝1800でデビューしたのが良かったですよね。ただ、攻め馬の動きは良くて、それなりには走るなと思っていました。ただ、当時はまだ脚元が固まっていなくてモヤモヤしていたから、いつまで持つのかなとは思っていましたね。新馬で楽勝しても長続きしない馬は山ほどいるので、その時はそうなる可能性も感じていました。その後、間隔を詰めて(札幌)2歳Sに行ったのですが、3着と。一定の手応えは感じていました。

-:その脚元の感触を思えば、今これだけ持っているというのは想定外というか、予想以上ですね。

寺:そうですね。2歳馬は「脚元が固まる、固まらない」という表現をするのですが、固まらない馬が多いので、そこは心配でしたけどね。脚元は毎日心配していました。

-:ここまでのキャリアを考えたら……。

寺:予想以上ですよ。誰も予想していなかったですよ。

レッツゴードンキ

-:長きにわたって活躍してきた馬でファンの多い馬だと思うのですけど、普段の素顔はどうですか?

寺:普段は大人しいですね。ウチはけっこうオープンな厩舎だから、カメラマンの人やテレビ局の人がいっぱい来るんですよ。高松宮記念の前もたくさん来てくれましたからね。本当は例えばレース当週の追い切りをビッシリやった後はダメなのですが、この子はそういうのは気にしていないので。

-:馬によって負担になるわけですね。

寺:馬もレースが近付いているのが分かるので、ちょっとピリピリする馬もいるんじゃないですか。この子は常にお客さんが来ているから、取材の人以外でも誰か友達を連れて来たり、この前も力士の方も来ていましたからね。そういう環境なので、もう慣れていますよ。

-:そういう配慮から、一部の厩舎では立ち入り禁止にしているところもあると。

寺:そうですね。馬も慣れますよ。取材をしてもらって、競馬ファンが喜んでくれるのもありますからね。

-:競馬場での様子はどうですか?

寺:ちょっとはイレ込みますけど、もう慣れたもんですよ。大概のことは跳ね返してくれます。

-:基本的にはレースでの折り合いだけと。

寺:調整もそんなに難しくないですから。毎日引っ掛かるわけでもないので、普段は落ち着いているので。

3度目の挑戦となる春の牝馬決戦 課題は折り合い
レッツゴードンキ陣営インタビュー(2P)はコチラ⇒