ステイフーリッシュが、馬名のとおり常識にとらわれず頂点を狙う。前走の京都新聞杯は調教量が足りない中、陣営も驚く先行策で快勝。共同通信杯で大敗した雪辱を果たすと同時に、あらためて能力の高さを証明した。大一番は母カウアイレーンの主戦だった横山典弘騎手との初コンビ。キャリア2戦目でG1(ホープフルS)3着という結果を残した素質馬への手応えを陣営に聞いた。

リハビリの京都新聞杯 隠れた神騎乗で重賞初制覇

-:日本ダービー(G1)に挑むステイフーリッシュ(牡3、栗東・矢作厩舎)ですが、前走の京都新聞杯(G2)はおめでとうございました。レースを振り返ってもらえますか?

藤田俊介調教助手:ありがとうございます。やっぱりこの子の能力があったのだなと再確認しました。1度、新馬で良い勝ち方をして、ホープフルSで3着に来たけど、その後の共同通信杯(10着)でちょっとかわいそうなことをして、評価を落としたといいますか、我ながらこの子の能力を疑うようなところもあったので……。それでもやっぱり走る馬と確認出来たのが良かったかなと思いますね。もちろん能力があると思ったからこそ、先生(矢作芳人調教師)も含めて周りも「ダービーに出たい」という話があったから、ダービーに間に合って、そこにいられることにホッとしましたね。

-:レースはああいう位置から競馬をすることは、ちょっと意外に映りました。

藤:僕も意外でしたね。

-:そこは、事前にそういう話があったのですか。

ステイフーリッシュ

▲京都新聞杯の口取り撮影 右が担当の藤田助手

藤:ホープフルSの時に後ろから行って、すごく良い脚を使いましたよね。当時乗っていた雄太(中谷騎手)が言うには「追い込みに気持ちが行った」けど、新馬戦ではそうでもないレースをしたんですよ。どちらかと言うと、本質的には差す競馬がこの馬の競馬かなと思っていたので。なぜならこの馬はメッチャ跳びがデカいんですよ。他の馬よりもすごく跳びが綺麗で大きい分、無理して引っ張ってもロスになるんですよね。「出たとこで流れに乗れるところだったら、どこでも良いよ。12月の新馬戦のようなレースをして欲しいな」ということは(藤岡)佑介には伝えていました。調教にも2回乗ってくれたので、馬のことも色々掴んでくれたし、跳びの大きい馬だということなど色々掴んでくれた上で「馬が自然に走れる場ところで、馬を邪魔しないようなところで行こう」と思ってくれたらしいです。佑介の感覚で言えば、あのレースではたまたま2番手だっただけで、ペースが速かったら、もうちょっと後ろだっただろうし、あそこの位置がこの馬なりの良いポジションだったんでしょうね。どこかの媒体で記事にもなっていましたが、先生は東京の方でモニターを観ながら「何してんねん!?」と思ったみたいだけど、僕も“この競馬で大丈夫かな”と思いましたね。

-:僕も個人的に注目させていただいていたのですが、時計的に大丈夫なのかな、と。

藤:いや、僕らは時計のことは分からない。競馬で引っ張りにいっていたから、(数字まで)観ていないし。ただ、2番手に行っていることは実況で聞こえてくるし、勝手に(ペースが)遅いから2番手なんだろうな、と良い風に言い聞かせていたので。多分、競馬の中継をキッチリ観ていたら、もっと不安だったと思うなあ(笑)。僕らは託したら、ぶっちゃけジョッキーを信じるしかないので。

「あのレースはある意味“リハビリ”だったと思うんですよ。共同通信杯の敗戦を払拭する中で勝ってくれたし、競馬も教えてくれたし、後に引かないようにしてくれたし、本当に“神騎乗”だと思うんですよ」


-:前走後の疲労はどうでしたか?

藤:あるとは思いますけど、良い感じですね。煮詰まってはいないですよ。ただ、気合いは入っていますけど、共同通信杯の時と比べたら違います。あの時はすごく馬に不安感があったし、苦しくなっちゃって、それに比べたら全然マシですね。馬も成長してくれたみたいだし、それこそ佑介が負担のないようにレースをしてくれたので、そんなに苦しくなかったみたいですね。京都新聞杯の直線を観てもらえば分かるけど、佑介はハミを掛けて、ハミを掛けて真っ直ぐした後に、一発だけ鞭を入れているんですよ。そうしたらちょっとだけヨレているんですけど、もう1回立て直して真っ直ぐにしてから、今度は左鞭だけ軽くいれているんですけど、やっぱりちょっとだけヨレて、今度も真っ直ぐにしてあげた後、見せ鞭でゴールしているんですよ。佑介はムチャクチャ丁寧に、この子のことを思ってソフトにやってくれたから。

あのレースはある意味“リハビリ”だったと思うんですよ。共同通信杯の敗戦を払拭する中で勝ってくれたし、競馬も教えてくれたし、後に引かないようにしてくれたし、本当に“神騎乗”だと思うんですよ。ファンには分からないと思うんだけど、あのレースは佑介に感謝しているし、佑介さまさま。翌日もNHKマイルカップを勝っていたしね。(佑介が)この子の追い切りに最初に乗った時に、けっこうこの子の気が悪いことも知っているし、当時は半信半疑だったから、ウチの岡(助手)と2人で佑介に負けた時の話をずっとしていたんですよ。そうしたら佑介が「勝つ気で乗るから、そんな負けた時の話をしなくていいですよ」と。あの時はさすが佑介だなと思わされましたね。

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人が“求め過ぎた”共同通信杯 調整方法を見直すキッカケに

-:もう少し振り返らせていただくと、共同通信杯で体調を崩してしまったというのは、どういった理由があるのですか?

藤:結果的には人間が悪かった。もともと僕らが悪いんですよ。新馬で良い勝ち方をしたし、ホープフルSに中1週で行こうということになって、ホープフルSで権利を獲れなかったら、今度は若駒Sに行こうとして使おうとしたら、関係者に「若駒Sは……」と言われたから、共同通信杯になったのです。1週間で牧場に返して、共同通信杯に行こう、という時にはもう馬が煮詰まっちゃって。しかも、その時、僕の体調が悪くて調教に乗れなかったんですよね。結果、馬も攻め過ぎて煮詰まっちゃって、嫌気をさしてしまいましたね。

その後に牧場(グリーンウッドトレーニング)に1回出したら、馬が体重を戻して帰ってきてくれて、こちらはそれを知っているから、今は全部自分で乗っているんですよ。ただ、競馬の直前だけは横山(典弘)さんに追い切りに乗ってもらう予定だけど、それ以外は全部自分でやって、何とか馬をリラックスさせて行こうと思っていますね。

-:確かに、共同通信杯の時は客観的に見ていても、すぐに使うんだなという印象も受けましたが、クラシック参戦には賞金を加算しないといけないですからね。

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藤:雄太はかなり勝てると踏んでいて、僕もそれに乗っかったんですけど、ダメなものはダメでしたね。その反省点を活かして、先生も「リラックスして、お前が楽に乗れる馬をつくれ」みたいなことを言ってくれたし、こちらはそういう風にやり方を変えて、本当に馬にヨシヨシして、リラックスさせてあげました。先生も任してくれたので、今回は良い方に出ているとは思いますよ。まだちょっと細身だし、アバラは出ていますけど、ちょっとフックラして良い筋肉で丸みが付いたと思いますね。

-:その頃はもっと尖っていましたね。

藤:この前の京都新聞杯の時でさえ細かったけど、ちょっとお尻に肉が付いたと思うから。実は(もう一頭の担当馬)ホウオウドリームより食っているんですよ。同じ量(のカイバを)付けているので。

-:それだけ心が穏やかだということですね。

藤:そうそう。

「ホープフルSの3着で、人間が欲に走っちゃったからね。がめつくなっちゃったから、馬にかわいそうなことをしましたね」


-:京都新聞杯の2週前追い切りの時に「坂路でユックリ走れているのが良い」という話をしていましたからね。

藤:今、状態が良くなってきたので、僕が坂路で乗るのはしんどいですね。メッチャ引っ張っていますからね。馬は余裕があるので、良い方に受け取っていますけど。

-:それくらいのモノを持っているんですね。

藤:ただ、この馬の場合は、ポテンシャルを発揮するのが難しいというか、正直、いつでも安定して走れるような馬ではないと思います。その辺をこちらが助けてあげて、レースで良いパフォーマンスが出来るように持っていきたいなと思って、色々やっていますけどね。本当に馬が色々と我慢してくれているので。苦しい時は本当に触れなかったんですよ。人間のことが大嫌いになっちゃって、写真を撮るのも難しかったほど。今回は、火曜日に僕がたまたま乗り終わった後に、「写真どうします?」とカメラマンの方に言ったら「そのままの流れで(立ち写真を)撮っちゃいましょう」ということで立ち写真の撮影がありましたけど、もし水、木で撮れなかったら嫌だったから。馬もレースを使って、ちょっとだけ気合いが入ったけど、本当に眼は穏やかだよね。

-:一番精神的に苦しかったのは共同通信杯の辺りでしたか。

藤:1~2月ですね。ホープフルSの3着で、人間が欲に走っちゃったからね。がめつくなっちゃったから、馬にかわいそうなことをしましたね。

母の主戦と共に日本ダービーへ
ステイフーリッシュ陣営インタビュー(2P)はコチラ⇒

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