復活のカギは「落ち着き」 凱旋門賞へ夢をつなぐ キセキ
2018/6/18(月)
-:父ルーラーシップも角居厩舎から出た種牡馬で、そのルーラーシップの種牡馬としての価値を一層高めたのもキセキで、そう考えるとキセキの中には角居厩舎が詰まっている感じですね。
清:初年度からそういう形で貢献できたというのは嬉しいですね。お父さんを知っているスタッフ、僕らからすると、そういう種牡馬としての産駒を預かることで思い入れは当然出てきますし、それがなおかつ初年度で、初重賞がG1。もともとお父さんがいた厩舎で、というのは、報われた感覚にもなりますし、夢のある形と思うので。
-:ルーラーシップ自身も重が上手かった馬ですし、キセキもそういう条件で菊花賞を勝てた訳ですからね。
清:僕らサークルの中では定説で大跳びの馬というのは、重馬場があまり得意ではないという感覚があるのですが、お父さんも不良馬場でも関係なく結果を出していましたし、キセキも同じように菊花賞の馬場でもクリアしてくれたのでね。
-:単に身体能力が高かったということでしょうね。ルーラーシップと言えば、ゲートで強烈な出遅れというか、ジャンプスタートといいますか、ありました。キセキのゲートに関してはいかがですか。
清:あんまり速くはないですね。速くはないけども、父親ほどではなく、今のところ問題にするほどではないですね。
-:でも、綺麗な走りは受け継いでいるんじゃないですか。
清:そうですね。見るからに綺麗な走りをしていますしね。
-:ずっとトライアビットですか。
清:いや、今は水勒の普通のハミですね。トライアビットは菊花賞の前ですね。だいぶ前から、競馬の時はトライアビットにしていたのですが、普段の調教の時も水勒ハミにしながら、やっぱりテンションが高くなってくると、乗り手の意思を越えていってしまうくらいエネルギッシュになってしまうことがあったので。それを制御するためにキツめのトライアビットを使って、なおかつ競馬も、となっていたのですが、前回が普段の調教からだいぶ落ち着いていたので、水勒でそのままレースに行きました。今回はミルコに確認を取ったら「どっちでも良いよ」と言うので、今のところ、敢えてそういう強いハミにしなくても良いのかなと。ただ、レースに行って、それだけテンションが高くなるとやっぱりエキサイトしてしまうかなと思うので、レースだけ替えようかと思う気もあったりするのですが…。
-:それは、流動的に直前の雰囲気を見て、という感じですか。
清:そうですね。
-:この馬の体重に関してなのですが、一時は490kgくらいで走っていて、すみれSや神戸新聞杯で-10キロ、-12キロ減っていることがあるのですが、あれは敢えて減らしていたのですか。
清:神戸新聞杯の時は夏場を使いながら、レースで萎んだ体を膨らましても、夏の暑い時期で代謝が良かったですからね。ただ、神戸新聞杯も結果を出さないと意味がない訳で、しっかり攻めていたので、厳しい環境下で出走させる形になったので、ああいう数字になりましたね。その前走が新潟の滞在競馬で、現地は暑かったのですが、輸送はスムーズな方でカイバを食べてくれるので、体重が減らない状態で行けましたからね。その差が出たのかなと思いますけどね。
▲ミルコ・デムーロ騎手が騎乗した1週前追い切り
-:今回はどれくらいで出られそうですか?
清:今回は日経賞と一緒か、日経賞よりもプラスの形になると思いますけど、見てもらった通り、体もああいう大人の体にドンドン近付いてきているところもあるのでね。ガッチリと大きくなっているところもあるので、それはプラスになっても、ミルコも「全然そういうところは気にしなくて良い。このままで行ってくれたら数字は関係ないよ」と言ってくれたので。
-:見た目で判断して良いということですね。
清:そういうことですね。レースまでに少し速いところ(追い切り)もまだ入れられるので。
-:追い切りは次の日曜日と来週の水曜日ですね。
清:レースには、もう少しピシッとした締まった形で出られると思うので。
-:ファンの人はこの時季なので、重になっても晴れでもキセキにとって良いんじゃないかと思います。
清:確かにキセキにとっては、馬場は当然不問ということになりますよね。良馬場の時も当然勝っていますし、菊花賞のあれだけの馬場もこなしていますし、馬場だけは言い訳ができないですね。どれがダメということはないですよね。
-:でも、乗られていると感触は良馬場でこその馬、ということですね。
清:そうですね。
-:ルーラーシップ自身との違いは何か感じられますか。
清:岸本君(同じ角居厩舎の調教助手)がルーラーシップも担当していて、この間までキセキも乗ってくれていて「やっぱりルーラーシップの方が体の使い方のうねりがすごかった」と言っていました。キセキがどういう風に変化していくのか分からないですけど、確かに現段階でもそういうしなやかな走りをしていますし、それ以上のお父さんの域までというのは血統背景もあったりもしますし、そういう体のつくりもあったりもするので。現状でもやっぱり素晴らしい乗り味をしていますしね。
-:僕が見ている感じで言うと、ゴルフでたとえるとルーラーシップの方がオーバースイング気味で、キセキの方がコンパクトでインパクト率が高いみたいな印象があるのですが、それが当たっているかどうか分からないですけど、ルーラーシップの方が前はけっこう強かったですからね。なかなかいきなりここまでの子供を出すということはすごい種牡馬ですね。最後に色々期待しているファンがいると思うので、メッセージをいただけますか。
清:ここ数戦期待を裏切っている形なので、少しでも期待を裏切らないと言いますか、本当のキセキの走りを見せられる状態を求めて、日々努力しながら、ファンと一緒にキセキの走りを見て喜べればと思っています。少しでも応援していただけると、キセキの走りの後押しになると思うのでね。
-:もしここで勝っても、別に「キセキ」じゃないですね。
清:そうですね。そういう風に思いたいですね。先の話ですけど、凱旋門賞の登録はしているので、ここを上手くクリアしてくれると、違う意味で夢もまだ見られる可能性も高いと思うので、そういう夢を持ちながら、目の前のことをしっかりクリアしないとそこまで行けないので、僕が思うには少しでもキセキの走りを応援してくれるファンの期待に応えて、またしっかりとしたキセキの走りを一緒に見たいというのが正直な思いなのでね。
-:仁川でそれを見させてもらいます。
清:一緒に見られたら良いなと思いますね。
-:暑い中で大変だと思いますけど、あと10日間頑張ってください。
清:はい、ありがとうございました。
プロフィール
【清山 宏明】Hiroaki Kiyoyama
鹿児島県出身。競馬学校騎手課程第2期生で、同期には横山典弘騎手や松永幹夫調教師がいる。騎手としては重賞4勝を含むJRA通算141勝の 成績を残し、2002年に引退。重賞の舞台で、人気薄ながら2度の逃げ切り勝ちを決めたロンシャンボーイとの個性派コンビでも名を馳せた。引退後は領家政蔵厩舎の調教助手になり、その後角居厩舎へと移る。これまでにウオッカやディアデラノビアなど厩舎の看板ホースの調教を担当。トップステーブルを支え続け、数多くの取材を受ける厩舎のスポークスマンとしても広く知られている。