馬の一番近くにいるから、様々な思いがある。厩舎を支える調教助手、厩務員にスポットライトを当てるインタビュー特別編「クローズアップ 厩舎人」の第1回は、2018年のダービー馬・ワグネリアンを担当する藤本純調教助手。2017年3月に「G1を勝ちたい」と友道厩舎に異動し、初めて新馬から担当した馬で挑んだ最初のダービーで夢を叶えた。ワグネリアンの意外な第一印象、ダービー直前の行動……。今だから話せるエピソードを競馬ラボだけに明かしてくれた。

(聞き手:競馬ラボ・小野田)

2戦目で描いたクラシックへの青写真

-:少し月日は流れましたが、ワグネリアン(牡3、栗東・友道厩舎)で日本ダービー(G1)制覇、おめでとうございました。

藤本純調教助手:ありがとうございます。

-:インタビューコーナーでは常日頃から数多くの調教助手さん、厩務員さんに登場いただいておりますが、厩舎スタッフの皆さんにスポットを当てる企画の第1回として、栄えある日本ダービーを制された藤本助手に伺えればと思います。ダービーに至るまでの過程を振り返っていただきたいのですが、担当されてからの印象はいかがでしたか?

藤:新馬の時はなにせ小さい馬でした。それに、細かったです。小柄な馬の多いディープ(インパクト産駒)の中でも小さい部類だなと思っていましたし、乗った時の感触も、“すごい!”とは思ったりしなかったのが本音 (苦笑)。調教の時計が出ているものの、今ほど評価が高かったわけではないのは事実です。

藤本純調教助手

▲この夏は函館滞在馬の調教を手がけていた藤本助手

-:でも、新馬戦は時計的にもそれを上回る内容でしたね。

藤:調教時計は出ていたので、やってくれると思っていたのですが…。

-:やっていく中で、見た目以上に成長していったと。

藤:そうですね。ゲート試験を受けて、1回放牧に出しました。それで、再入厩させた時にある程度体もボリュームアップしていたので。それで調教を積んでいったら、時計も出るので、まずまずやれるだろうとは思っていました。ただ、新馬戦にはヘンリーバローズがいて、調教の動きも半端じゃない、手強いと評判でした。

-:新馬戦は評判馬もいた中で好時計勝ち。2戦目の野路菊ステークスは重馬場。小柄だけに能力を疑う方も多かったと思うのですが、阪神の馬場はいかがでしたか。

藤:「重」というほど重いとは思わなかったですけどね。ただ、あの位置取りだったので、これは絶対に届かないと思っていたし、あの時はジョッキーも「ホンマ、届かへんと思ったわ」と言っていたのを覚えています。エンジンの掛かりが他とは違ったとレースだと思いますね。あの一戦で僕も“これは上を目指せるな”と感じましたし、ジョッキーもおそらく思ったはずですよ。新馬の時は上がりだけなので、分からないですよね。

藤本純調教助手

藤本純調教助手

▲厩舎一同も半信半疑だったという新馬戦
終わってみれば上がり32秒6の超高速上がりを繰り出して差し切り勝ちを決めた

-:続く東京スポーツ杯2歳Sも、馬場はあまり良くなかったですね。

藤:天気もそうですが、馬場は内も荒れていましたしね。ルーカスも札幌の新馬戦で評判でしたけど、蓋を開けてみれば完勝してくれました。

-:ルーカスが勝った新馬戦は、後々走った馬もいるのでレベルは低くなかったと思うのですが、それでも相手にしなかったですからね。あの時点で、来年に向けて期待、手応えは強くなりましたか。

藤:そうですね。あの時点で(自信が高まりました)。結果的には一番自信を持って送り出せたのが東スポ杯だったんですよね。というのも、先程と同じように新馬の時は未知数でしたし……。2戦目は、新馬を上がり勝負で差し切った競馬だけではわからないので。東スポ杯は順調に送り出せればいい勝負になると思っていましたけどね。実際にその通りになりましたから。

-:東スポ杯の輸送はどうでしたか?

藤:ものすごく大人しかったので、確か体重もプラス(4キロ)だったと思います。落ち着いていましたし、カイバも食べていたし、何の問題もないなと思いましたね。

「野路菊Sを勝って帰ってきた時に、先生が馬房で待っていてくれたのですが、その時に『今後のローテーションだけど、東スポ杯、弥生賞から皐月賞でいいよね?』と言われて、僕も『もちろんです』と答えました」


-:終わった時点で弥生賞直行というプランだったのですか?

藤:野路菊Sを勝って帰ってきた時に、先生(友道康夫調教師)が馬房で待っていてくれたのですが、その時に「今後のローテーションだけど、東スポ杯、弥生賞から皐月賞でいいよね?」と言われて、僕も「もちろんです」と答えました。

-:東スポ杯が終わった時点ではなく、野路菊S直後ですか。

藤:先生は「ダービーから逆算して、東京で1回使いたい」と言っていたので、野路菊Sの次のレースは、東スポ杯か共同通信杯で、共同通信杯は時期的なものもあって「雪などで中止になったり、アクシデントがあるかもしれないと考えて、東スポ杯にしよう」ということを言われましたね。

-:先生も藤本さんの意見も確認しているあたり、素晴らしいなと思いますが、前年秋から考えていたプランが見事にハマったわけですね。

藤:普通なら、ホープフルSに行きたいとも思いますよね? G1としての昇格第1回目なので、記念にはなるわけじゃないですか。そこに目もくれなかった辺り、すごいなと思いましたね。正直に言えば、僕はその時、ホープフルSに行ってほしいなと思ったんですよね。その時点だったら力が抜けていますし、やっぱりG1なので。いま振り返ってみれば、あの時の先生の決断はすごかったなと思いますしね。

藤本純調教助手

▲東京スポーツ杯2歳S直後、地下馬道でジョッキーとガッチリ握手

年が明けてからのワグネリアンの成長とは?
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