3歳ダートの新星誕生となるか。ここまで5戦して、ニュージーランドトロフィーを制するなど3歳マイル路線の活躍馬として名を馳せたワイドファラオ。しかし、父の産駒はダートでの活躍が目立つヘニーヒューズということで、砂の可能性を感じざるを得ない。素質馬揃う今年のユニコーンSで、一躍ダート界に名乗りを挙げるのか。適性を探った。 (取材:競馬ラボ小野田)

兼ねてから秘めていたダート挑戦のプランも芝で好実績

-:ユニコーンS(G3)に挑むワイドファラオ(牡3、栗東・角居厩舎)について教えてください。お母さんこそ秋華賞にも出走した芝の馬でしたが、父がヘニーヒューズという血統を見させていただくと、いつかダートを使うのかな、と前々から思うこともありました。ただ、ニュージーランドTを勝たれて、自然な流れでNHKマイルCに行くことになったわけで、今回が初挑戦。デビューから携わられていて、ダートの適性を感じましたか?

高田建吾調教助手:どちらかと言えば、血統背景からも感触からも、ダートという気はしていたのは事実です。しかし、ダートから下ろしたところで2歳馬にとって近い目標がないということで、まずは芝から使うことになりました。血統的にも長い距離も厳しそうでしたし、芝1600あたりでその結果次第で次の矛先を、という考えで、芝の新馬戦を使ったんですけどね。結果、小差の2着でしたし、競馬が終わった後も元気が残っていたので、もう1回使ってみようということで、2戦目に向かいました。そこでも2着に負けてしまって、それでも、ジョッキーも「芝でもやれなくはなさそうだね」ということを言っていたので、もう1回、という感じでしたね。

ワイドファラオ

▲2005年のユニコーンS勝ち馬カネヒキリを担当していた高田助手

しかも、ゲート試験からずっと在厩したままでした。ウチの厩舎はゲート試験に受かったら1度、放牧に出すか、受かって1度使って出す、という方針が多いのですが、そこから3戦続戦するというのも、かなり稀なことなんですけどね。それでも、馬の方もカイ食いが良くて、元気も残っていたので、泣きの3戦目ではありませんが、向かったんですけどね。

-:中京のマイル戦ですね。先行勢が崩れる中、押し切る強い競馬でした。

高:左回りの方が良いかもしれない、という感覚もあったので、結果、勝てましたけどね。その後は放牧に出たのですが、芝でもやれるということで、引き続き芝のマイルを目標に行こうかとなりました。3歳春にはNHKマイルCという目標もあったので、理想としてそこに向かって行ければ良いかなという感じではあったんですけどね。そこで、放牧から帰ってきて、500万を使うか、ニュージーランドTを使うか、という二択はありつつも、重賞でも使えそうな状況でしたので、オーナーの確認のもと、ニュージーランドTに向かうことになりました。結果的には、恵まれた感もありつつも、勝つことが出来ましたね。

そして、勝ったことで、次はNHKマイルCということになりますからね。デビュー当初に思い描いていたNHKマイルCへの道が、流れ的にスムーズに辿り着くことが出来ましたね。さすがにメンバーも強かったですけど、直線でも一瞬オッと思わせるようなシーンもあったので、内容は悪くなかったですね(9着)。

ワイドファラオ

-:まず、左回りの方が良さそうだと思う部分というのは、具体的にはどんなところだったのですか。

高:あの馬は、右手前の方がけっこうパワフルな走りをするので。それだったら、直線を右手前で走れる左回りの方が良いんじゃないかなというイメージでしたね。

-:後ろ脚の走り方というのは、トモの送り出し方というのは真っ直ぐですか。坂路の追い切りを観た時に、ちょっと開いたような感じに見えたので。

高:まっすぐではないですね…。どうしても右が弱いので、右が弱いと左手前の走りがちょっと弱くなるんですよね。だから、左手前で走っている時は、右にモタれながら走るんですよね。

-:そういう意味では、ニュージーランドTを勝った時というのは、もともとスタートはかなり速い馬ですけど、ラチを頼れたというのも一つ良かったのですね。

高:ええ、良かったとは思います。

-:今回に関しては左回りなので、その辺はあまり関係ないかなという感じはしますけどね。客観的に、僕もいつダートに使うのかなと思っていたのですが、NHKマイルCというのは、マイル路線の3歳馬にとっては一つの区切りになる訳じゃないですか。そこで、秋まで休まずにユニコーンSというのは、すぐに決まったのでしょうか。

ワイドファラオ

▲NHKマイルC前の追い切り

高:春の目標としていたレースが終わってしまったので、次はどうしようかということになりました。今までずっとマイルにこだわって使ってきていたので、それだったらダートでもいけそうですし、距離もマイルなので、自然な感じでユニコーンSという選択肢が出てきた感じですかね。もちろんNHKマイルCの後に牧場に出て、馬の様子を診てからのことでしたが、続戦するなら出来る感じだったので。そこでガタッと来ているようじゃ、夏休みでも良かったんですけどね。それだったら、ユニコーンSまで1カ月ちょっとあるので、ローテーション的にも。

-:そこは、先ほどおっしゃっていただいたように、この馬のタフな性質というのも大きいですね。

高:それはあると思いますね。

ダート転向に向けた練習も 持ち前のスタートの速さをどう活かすか

-:繰り返しになりますけど、スタートの速さはこの馬の武器なのかと思います。

高:良いですね。逃げにはこだわらないのですが、前回のNHKマイルCの時は、戦前から他馬が行くと主張していました。ジョッキーには「行かせるのだったら、ハナに行かしてくれと。ただし、控えても問題ないから、無理にハナを叩くのだったら、その後ろでも」という話はしていたんですけどね。

-:決してハナにこだわるということではないと。

高:ないですね。ただ、スタートが速いから、行っちゃうというだけで。

-:砂を被った時の不安は初ダートの馬にとって、懸念すべきポイントかと思います。

高:ありますね。ただ、今日(6月12日)でもそうなのですが、キックバックを浴びるようにしながら追い切りを行ったのですが、それくらいじゃ、怯みはしないんですけどね。

ワイドファラオ

▲12日の最終追い切り 高田助手が騎乗

-:やっぱりレースのキックバックとは違うと言いますからね。

高:追い切りだと1頭分しかチップが飛んでこないですけど、競馬となると、何頭分も一気に砂がバサッと来るので。それでどれだけ怯むか分からないですけど、そう考えたら、ハナに行ってしまっても良いのかな、という気もします。

-:ちなみに、チップが当たるのは人間も同じですよね。

高:人間もけっこう痛いですけど、僕はジョッキーではないのでダートのキックバックを食らったことがないので。ただ、ジョッキーに言わせたら「チップと同じくらい痛い」と言いますけどね。それがどう出るかという不安もありますけどね。

-:今朝の追い切りはどんな内容でしたか。

高:先程と重複しますが、前に馬を置いて、ちょっとキックバックを受けさせながら、という感じでした。3~4角から並びかけていって、直線は併走しながら、最後は相手の脚が衰えてしまい、抜ける形にはなっちゃいましたけど、内容的にも、乗っている感じ的にも悪くはなかったかなと思うので、良い状態で向かえるとは思います。

ワイドファラオ

-:状態面は、ここ一連安定した感じで送り出せていますか。

高:そうですね。大きくバテていたり、疲れている感じもないですし、前走くらいのデキでは行けるかなと思います。

-:あのスタートなので、枠はあまり関係ないですかね。

高:そうですね。前に行くのであれば、やっぱり真ん中より内の方が良いかなと思いますし、砂を被らないようにと思ったら、外側の方が良いのかなという気もしますし、そう考えたら、枠はどこでも良いのかなと。

-:今週末は雨予報なのですが、感覚的に乾いたダートが良いのか、雨が降った方が良いのか、どうでしょう。僕は降った方が良いのかなと思うのですが、いかがですか。

高:降った方が良いんじゃないかなと思うのですが、割と芝でも走れるくらいだから、ちょっと降って、締まっている方が良いような気はしますね。雨がマイナスになるということはないと思います。

ワイドファラオ

-:走り方自体の跳びは綺麗じゃないですか。

高:まずまず綺麗ですけどね。先程も言ったように、右手前、左手前で走りが違います。右手前は割とダイナミックに走れるので、そんなにダートが深い、締めっているとか関係なく走れるんじゃないかなと思いますけどね。

-:左回りの走りを見ていたら、ダートが良いのかなと思っていたのですが、芝でも綺麗な走りをするのだなという感じはしたので、もちろん両方こなせるような特性を持っているということですね。

高:芝も決してダメじゃないです。ジョッキーは内田さんも(福永)祐一さんも「芝も走れる」というニュアンスでしたね。

現状の距離適性はマイルが限界か 可能性を探る闘いが続く

-:高田さん的には、この馬の未来をどういう路線で描いていますか。

高:距離は持たなさそうな感触があるのは事実です。もし、仮にここを勝てたとしても、次の選択肢的にはもうジャパンダートダービーというプランも出るでしょうね。それに、地方交流の短距離がいいんじゃないか、という気はしますよね。

-:立ち写真を見させていただくと、やっぱり1600くらいなのかなという感じがしました。

高:そうですね。祐一さんも「1600がギリギリじゃないかなぁ」ということは言っていました。ゆくゆくは1400あたりを走ってくるのかなという気はしますけど、交流重賞を使っていけたらなと思いますね。ただ、そんなことを言う前に、まずは今回、勝つことですけどね。

-:今回も輸送になりますけど、そこらは気にしなくて良いですか。

高:輸送は何回もしているので、その辺は問題ないと思いますね。

ワイドファラオ

-:ほぼ懸念すべきポイントというのは、初ダートくらいですね。

高:そうですね。初ダートで相手が強いですし、その相手にどこまで迫れるのか、自身としてもどこまでダートをこなせるのか。

-:普段の馬の性格というのは、どんなタイプでしょうか。

高:けっこう気が強いですね。まだ幼い部分があるので、すごく人間にはちょっかいを出してきます。それも競馬に行ったら、良い方に出ているんじゃないかなと。走り出したら、前向きに走っていって、あまり気を抜こうとするところもないですし、走りに対して前向きなのはすごくプラスなことだと思うので。

-:よくよく思えば、ヘニーヒューズと言えば、芝もダートも両方走る馬もけっこういますからね。

高:そうですね。そういう意味でも期待しています。

-:放牧に出る時は、いつもどこに出ているのですか。

高:放牧は吉澤ステーブルWESTに出ています。割とカイ食いの良い馬ですからね。そういうカイ食いに良い馬は疲れが取れやすいと思うので、食べられるということは体質的に大きいと思いますね。

-:高田さんは、以前にダートで大活躍した馬を…。ダートで活躍するような馬の感覚も持っていらっしゃるかなと思うので。カネヒキリのカイ食いはどうだったのですか。

高:ハハハ、過去の栄光ですけどね…。メチャクチャ良かったですよ。似ているかと言われたら、どうかという気はするのですが、カネヒキリの3歳時には近いものがあるのかなという気はするんですけどね。カネヒキリも古馬になって随分落ち着きましたから。3歳の時はけっこうカッとする面がまだあった馬なので、そう考えたら近いものはあるのかなという気はしますけどね。

ワイドファラオ

-:カネヒキリの乗り味はどうだったのでしょうか。

高:カネヒキリは決して乗り味が良くないんですよ。

-:あそこまで活躍するというのは。ダートの歴史的名馬ですからね。

高:あれ程、走るとは思っていなかったですからね。なぜあんなに走るのかなと思うくらいの馬でしたね。古馬になってから、すごく安定した走りというか、バランスの良い走りにはなっていたので、3歳時ほど力むこともなかったですからね。

-:精神面というのは、勝負根性のようなものはあったのですか。

高:カネヒキリはメチャクチャありましたね。オン、オフがすごくハッキリしていたので、普段は絶対無駄に力を使わない馬だったんですよね。本当に、競馬の時だけ闘志を出して走るタイプで、あれほど賢い馬は今まで見たことないかなと。やっぱり走る馬は賢さも兼ね備えているのかなというのは思いましたね。

ワイドファラオ

-:路線はちょっと違いますけど、まだ第二のダート活躍馬を手掛けたいですね。

高:せめて1800まで持てば良いんですけどね。だいぶ幅が広がるんですけど。

-:大井の大きなレースも2000ですし、1600が限界だとレースが限られてしまいますからね。

高:そうそう。ただ、かしわ記念、南部杯はカネヒキリも勝っていないから、その分も、という思いはあります。

-:1600までだと、1600か1400の路線になっちゃいますよね。

高:1600は使えるところも少ないですもんね。とりあえず今週の結果次第になると思いますけど、1600以上はまだ使っていないので、未知な部分はありつつも、今週勝てるようなら、ジャパンダートダービーにもトライしたい意識はありますね。

-:コーナー4つになるということは、イメージ的にはどうですか。

高:どうなんですかねぇ。コーナーで上手く息が入れば、距離も持つのかなという気がしないでもないですけどね。

-:折り合いはそんなに問題ないですね。

高:競馬に行っても、大丈夫そうですね。ただ、道中であまり揉まれたことがないので、しっかり揉まれたりしたら、という不安はありますが…。現状、大丈夫だろうという方が強いです。

-:今年のユニコーンSは、例年以上にけっこう面白いメンバーが出ているのかなという感じがするのですが、その中で、新たな世代のトップホースに。

高:そうですね。名乗りを上げたいですね。

-:ありがとうございます。

高:ありがとうございます。