マンハッタンカフェ産駒も2頭のタイプは全く別
2010/10/14(木)
昆貢調教師
昆:こちらこそお願いします。
遅生まれの成長力と菊花賞を勝つための秘策
-:まずはダービー前にも取材をお願いしたヒルノダムールからですが、外枠からスタートがスムーズではなく、追い込み届かずの⑨着という結果でした。
昆:全能力が出せなかったのは、栗東で484キロだった体が当日10キロくらい減ってもという読みでやっていた中、結局は22キロ減ってしまったこと。それがまず当てはまる敗因だと思います。競馬場に着いた時は470キロあって計算どおりだと思ったんですが、まさかそこから10キロ以上も減るとは…。当日は馬体重を見て「走れないかな」と思いました。
-:それでは出走する前にある程度…。
昆:惨敗するかもという覚悟はしていました。流れもウチの馬には向かなくなってしまって、ダブルで能力を出し切れなかったのは悔やまれるところです。
-:そのダービーを経て、古馬が相手の札幌記念をステップレースに選ばれたわけですが、その真意を教えてください。
昆:やっぱり体を減らさないことをテーマに。秋に繋げるためにもステップレースで減らすわけにはいかないので、とにかくプラス体重で出すことを考えました。神戸新聞杯から菊花賞というのは、この馬にとって間隔が短すぎるとも思いましたので。
-:札幌記念もやはりゲートが悪く、後方からいかにもステップというレース運びで追い込んだわけですが、内容を振り返ってどのような感想をお持ちですか。
昆:五分にスタートを切っていたら、前目でレースを運ぶイメージだったようなので、ポジションが取れなかったのはジョッキーからすれば痛かったようです。ただ、調教時計は出ていたもののダービーほどの雰囲気ではありませんでしたし、斤量が軽かったので色気こそ持っていましたけど、ステップとすればあそこまで追い込めれば上々でしょう。先着されたメンバーもメンバーなので、恥ずかしい競馬ではなかったかと。あれで満足かといわれればそうではありませんが、無事に体重は減りませんでしたし、第一段階はクリアと見て良いのではないでしょうか。
-:その後は菊花賞に向けて、涼しい北海道で調整して余裕を持って栗東に戻ってきた形ですが、中間の状態と過程はいかがでしょうか。
昆:輸送でまた少し減ったんですが、間隔は十分にあったので問題ありません。今はうまいこと回復させられて、ダービーの時のように攻め攻めでいい状態に持ってこられています。
-:菊花賞は春当時からおっしゃっていた目標のレースになると思うのですが、何か意識して変えている調整などはありますか。
昆:栗東に帰ってきた当時は坂路を多用していたのですが、ここ3週はずっとコース追いで。日曜は坂路を使わないケースも珍しいんですが、先週はCWでやりました。時計は出ていませんが、普通は取らない場所から行っていますし、長め長めで持久力をつけていくように調教内容を変えています。
-:ヒルノダムールは素質として瞬発力を持っているものとして、あとはスタミナ面を強化しているわけですね。
昆:使う陣営は誰もが3000Mは不安だと思います。絶対大丈夫なんて言い切れませんよ。今まで皐月賞馬やダービー馬が菊花賞で負けるシーンも見ていますし、特殊なレースだからこそ、そのイメージづくりはしておかなくてはいけません。必ずしもプラスかどうかは分かりませんが、何とか菊花賞で結果を出したいがための工夫です。
-:時計が出ていなくても、イメージ的に負荷がかかりそうですね。

昆:3000Mは瞬発力だけでは勝てない、持久力戦だと思っていますので。もうひと頑張りできるようにするための調教です。伸二君もダービーを勝ちたかったって言っているし、負けた悔しさを菊花賞にぶつけたいという意気込みが感じられます。今日の調教後も凄い笑顔で帰ってきましたから、彼もかなりの手応えをつかんでいるのではないでしょうか。
結果的には5月の遅生まれなので、自分たちが思っているより成長が2.3ヶ月遅れているのかなと思わないでもありませんが、今回に関しては現時点で480キロありますし、輸送が短い京都でコース自体も2戦2勝です。能力的にも世代のトップクラスと渡り合える下地があるわけですから。そして、ここ一番という時に体が減らないということは重要です。そういう意味で、NHKマイルC後に攻めて、また増えたディープスカイなんかは、ダービーを勝つ資格があったんでしょうね。
-:ちょうど名前が出てきたところで、夏を越してからのディープスカイとヒルノダムールの成長力を比べることなどはできますか。
昆:ディープスカイも早くに引退してしまいましたが、まだ良くなりそうな雰囲気を持っていましたし、全体のいい緩さと言いますか、これから伸びていきそうだなと思える部分はヒルノダムールも共通していますよ。
-:目の前の目標は菊花賞ですが、この先もまだまだ活躍していくということですね。
昆:古馬になってからも十分GⅠ戦線で戦えると思います。毎日王冠を見てのとおり、今年の3歳は本当にレベルも高いですしね。だからこそ、獲るタイトルにも価値がありますよ。
-:課題のゲート、今回はどうでしょうか。
昆:ゲート練習は春先に“中に入って平常心でいられる”というテーマでずっとやっていました。出す練習というのは、馬のセンスに任せるしかないと。ここを練習すると馬に精神的なダメージを与えてしまいますから。このクラスの馬の場合、出遅れしたら出遅れしたで、腹を括るしかないでしょう。偶数番でも奇数番でも構いません。上手に脚を上げてくれればいいことですから。問題ないと思っています。
-:理想の馬体重を教えてください。やはり増えていれば増えているほど…。
昆:そんなこともありませんが、理想は470キロ台で競馬ができればなと。減っても468キロくらいだと見ていますが、これが10キロも減るようだと怪しいかもしれません。ダービーの時に栗東にいた体が惚れ惚れするほどだったので、私的にはその体に近づけてレースに臨むことが理想ですね。
もう一頭の刺客シルクオールディー
-:続きまして、伏兵として怖い一頭シルクオールディーについて聞かせてください。
昆:神戸新聞杯は⑩着でしたか。結果だけ見れば惨敗ですが、度外視していいと思っています。というのも、この馬は2400M向きではないんです。マラソンランナーっぽいというか、適性は3000M以上といっても過言ではありません。現時点で神戸新聞杯のような瞬発力勝負ではキツイです。ただ、持久力勝負になれば一発があっても不思議ではありません。
-:2走前、阿寒湖特別(1000万下)を勝った時点で、菊花賞への賞金は足りていました。
昆:大体、出れるかなと思いましたけどね。しかし、この馬は間隔を空けすぎるとボケてくるところがあるんです。少し強行軍なのは分かっていましたが、神戸新聞杯を使っておけば菊花賞に向けて気持ちを乗せていけると思ったものですから。ジョッキーには本番をイメージして乗ってほしいという注文をつけました。
-:当然、あの競馬ですから反動はありませんでしたよね。
昆:ズブさがあるし、殆ど走っていないですよ。もうちょっと真面目に走ってほしい部分もありますが、3000Mの菊花賞が目標という意味ではこちらもいい感じできています。差す脚はシッカリしていますし、京都のように加速がつきだす時に、下り坂でエンジンをかけられるコースは向いているでしょうね。
-:札幌から帰って来たときに輸送熱が出たと聞きました。普通は自力で回復するまでにある程度は時間がかかります。それにも関らず神戸新聞杯を使えたというのは…。
昆:大きいですよね。この馬に関しては、あそこをステップにしないと菊花賞を使えませんから。今はダムール同様、攻めの調教ができていますよ。そして、気持ちも間違いなく前走より向いています。2走前だけ走れれば、ひと波乱を十分に起こせる条件ではないでしょうか。

-:初勝利がダービーの1週前だった馬ですが、菊花賞に向けてその当時から長距離適性は見出していたのでしょうか。
昆:ちょっと遅咲きっぽいなと思っていた程度で、1800Mあたりから徐々に延ばしていけばゆくゆくは勝てるかと。そうしたところ、想像よりも速く結果を出してくれました。菊花賞を使おうと思ったのは阿寒湖特別を勝ってからですよ。あの走りは見所がありましたからね。
-:前走だけを見ていた競馬ファンでは、早くにジョッキーの手も動いていましたし、怖くて買えないかも知れませんが…。
昆:帰ってきてからも息が全然乱れていませんでした。この馬は、ちゃんと走ってきたときは上がってきてすぐに水を飲むんですよ。走らなかった時は水を飲みません。まさに神戸新聞杯がそれでしたから。
-:ヒルノダムールとシルクオールディー。同じマンハッタンカフェ産駒で母父はラムタラとクリスエスですか。
昆:ウチの2頭の配合はどちらかというと長距離向きですよね。
-:タイプこそ違いますが、共通点もあります。人気はやはりヒルノダムールでしょうが、長距離適性が高いシルクオールディー。先生の中では、あくまで3000Mに関してという意味で人気ほどの差は2頭にあるのでしょうか。
昆:3000Mに関していえば、それほどの差はないと思います。切れ味・瞬発力勝負ならヒルノダムール、持久力戦になった時はシルクオールディーが来ても驚きません。四位君もヤル気になってくれていると思いますよ。いずれにせよ、GⅠに2頭を出すというのはなかなかできることではありませんから。
-:この2頭出しは本当に楽しみです。競馬ファンに向けて、菊花賞を盛り上げるという意味で最後にメッセージをお願いします。
昆:3冠最後のレースなので2頭とも最高の状態に仕上げたいと思います。出す以上はワンツーフィニッシュまで狙っていきますので、応援よろしくお願いします。
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■最近の主な重賞勝利
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11年にわたる騎手生活を経て、2000年に厩舎開業。着実に成績を積み重ねると、08年にJRA重賞初勝利を挙げると、同年にディープスカイがNHKマイルCと東京優駿の変則2冠を達成。また、09年にはローレルゲレイロで高松宮記念とスプリンターズSのスプリントGⅠを春秋制覇。新たなエース・ヒルノダムールと、上がり馬・シルクオールディーの2頭でクラシック最終戦の戴冠を狙う。 |








