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松田全史調教助手

松田全史調教助手


春は圧倒的なパフォーマンスで皐月賞を制し、続く日本ダービーは③着。その後は菊花賞でも国内の古馬との対戦でもなく、チーム角居がヴィクトワールピサに課したローテは凱旋門賞を目標としたフランス遠征。今回はその遠征に帯同し、日頃から同馬の調教を担当する松田全史助手に、現地での調整過程とレースの回顧、国内復帰戦となるジャパンカップに向けての意気込みを語ってもらった。

-:まずは、フランス遠征が決定した後、前哨戦として選ばれたニエル賞出走のいきさつからお聞きしていきます。よろしくお願いします。

松:こちらこそよろしくお願いします。正直、ニエル賞を迎えるまで、現地で分からないことばかりでした。現地の調教師さんである小林師に色々とサポートしていただきながら、すべてが手探り状態で迎える前哨戦でした。

-:そこで④着という結果が待っているわけですが、レース内容を振り返るといかがでしたか?

松:もう完敗だったなと。大負けしてしまったので、かえって“これじゃアカンな”と気を引き締めるというか、すっきりすることができました。



-:その敗戦後に叩いたことで良くなりそうな雰囲気というか、明確にいえる敗因はあったのでしょうか。

松:レースを終えるまではまず手探りの部分が多く、どれが正解か見えなかったのですが、ニエル賞を使ったことで“調教はこうしなければならない”ということや“餌はこうしたほうがいいだろう”ということが明確に見えるようになりました。

-:逆に、慣れない環境でレースを使ったことによる反動というのはありませんでしたか。

松:馬は全然よくなりました。弾み方が違うし、ということは一完歩も大きくなったということです。現地での慣れというのは明らかでした。

-:レースに乗った豊さんとも様々なやり取りがあったと思うのですが。

松:豊さんからは“長くいい脚を使えるつくりがいい”という意見がありましたし、先生からも“こういう馬づくりをしたい”ということも聞いていたので、そのリクエストに応えられるように、できるだけそのイメージに近づけて馬をつくるようにしました。

-:その後、目標としていた凱旋門賞に向けての調整は良い方向に進んでいったと。

松:もう思ったとおりにいきました。どちらかといえばニエル賞は手加減していたところがありましたが、凱旋門賞に関しては悔いを残したくありませんでしたし、僕らができる目一杯のことをやったという充実感はあります。

-:レースの着順は⑦着でしたが、それ以上に得たものは大きかったようですね。

松:悔いは勝てば残らないものなので、悔いがないといえば嘘になりますが、折り合い面に関しては前哨戦の反省を生かせたと思いますし、結果⑦着でしたが、来年・再来年と例えばこの馬や違う馬が挑戦していく中で、もっといい着順がこの経験で出せるようになるはずです。積み重ねというか、今回はその第一歩でもありましたので。



-:3歳馬で凱旋門賞に挑戦するというのは想像もできないくらい難しいことだと思いますが、そんな中で斤量面のアドバンテージなどもあります。

松:有利な部分もありますからね。そういう意味では、道しるべ的な遠征ができたと思います。今回はそんな遠征に行かせていただいて、先生をはじめとするチームの皆はもちろん、オーナーやたくさんの関係者がサポートしてくださったことに、心から感謝しています。結果が伴わなかったことへの悔しさ、申し訳なさは持っていますが、一番は行けたということに感謝しています。

-:同じくジャパンカップにも出走を予定しているナカヤマフェスタは本当に惜しい②着でした。ライバルとして、同じ日本馬として感じるものはありましたか。

松:僕らはやることはやってきたし、ナカヤマ陣営もやることをやってきたのを知っています。もちろん負けるのは悔しいですけど、直線はヴィクトワールと位置取りが違っていたので、一緒に日本代表として行っている同士として応援しましたよ。

-:その凱旋門賞を終えまして、レースにおける反動というのはありませんでしたか。

松:一番心配する部分ではありますが、疲れや大きなダメージはありませんでした。

-:それでは、帰国してジャパンカップ出走に至るまでのいきさつを教えてください。

松:11月5日に栗東に戻ってきて、そこからコンスタントに時計を出してきました。方向性が決まったのは、そこでダメージが少ないことをもう一度確認してからですね。その後は、こちらが組んだ調教メニューを順調に消化できています。



-:このジャパンカップは、同じ3歳馬でもダービー後にローテをわけたエイシンフラッシュやローズキングダム、ペルーサが出走してきます。ファンはこの再戦を非常に楽しみにしていますが。

松:ヴィクトワールピサは自分との戦いですね。例えば折り合いだったり、瞬発力だったり、もともと大人しい馬ではありますが、また違った一面をレースで見せられたらいいなと思っています。もっとも気を配っているのがオンとオフです。距離云々に不安があるという記事を目にしたことがありますが、折り合うので3000mだって走れる馬ですよ。

-:以前からお伺いしてみたかったのですが、松田さんはスウィフトカレントやトーセンモナークという、この馬の兄弟馬の背中を知っています。共通する部分、タイプが違うなと思う部分はありますか。

松:いい意味で大人しいですよ。スウィフトカレントはちょっと違うけど、トーセンモナークとは似てる部分もありますね。そうそう、仕草なんかも。ヴィクトワールが秀でているのは先ほども言いましたが、オンとオフがハッキリしていること。その点火の早さです。

-:あと変わっている部分といえば、ヴィクトワールピサ以外は、割と遅咲きの血統なんですよね。そういう意味で、まだまだ上が望めるのではないでしょうか。

松:馬体は緩いようなところはありましたが、スウィフトカレントのようにカイ食いは悪くなかったし、トーセンモナークのように脚元のアクシデントもありませんでしたから。兄弟馬に乗れるというのはたまたまで、チームの協力があるからこそ早い段階からここまで活躍できています。僕が調教担当になったのは運だけで、ヴィクトワールがこの先どうなっていくのかは、僕だけでなく馬だけでもなく、チームとしての課題だと思っています。

-:先程の馬のつくりの話ではありませんが、やはりフランス用と日本用、また使う距離によって仕上げ方に違いはありますか。

松:そうですね。変えていっています。今回はどちらかというとピリッと、東京2400M用に仕上げる感じですかね。そうそう。こないだのエリザベス女王杯のスノーフェアリーの脚は見本になりますよ。本当はすごく切れているのに、末脚が持続しているようにも見えます。日本の馬はバーンと弾けてシュッと終わることも多いのですが、世界を見据える上で改めてあのような末脚を使えるような馬をつくりたいですよね。まぁ、ご飯じゃないですけど、ヴィクトワールは素材がいいからこそこんなことも言えるのですが。

-:それでは、結果云々だけではなく、ジャパンカップを見据える上でファンの皆さんにメッセージをよろしくお願いします。

松:凱旋門賞では結果を残せなかったものの、本当にたくさんの関係者に感謝しています。その気持ちをひとつでも上の着順で恩返ししたいと思いますし、ファンの皆さんには“あれがヴィクトワールピサじゃない”という姿をお見せしたいです。




【松田 全史】 Matsuda Masafumi

父は鮫島厩舎で助手を務める松田幸春元騎手。両親の影響(母の父も元調教師)もあって中学より乗馬を始め、必然的に競馬の世界に入る。アイルランド・イギリスなどに留学経験もある角居厩舎の躍進を支える調教助手で、スタッフや騎手から人望を集める。

森厩舎所属時代にはアグネスワールドやエアシャカール、その他も幾多の名馬の背中を知っており、今年はヴィクトワールピサの担当助手としてフランス遠征に帯同。類いまれなる経験で身につけた技術を、日々の調教に注ぎ込む。