関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

安達昭夫調教師

安達昭夫調教師


09~10年とJRA最優秀ダートホース賞を受賞するなど、いわずと知れたダート王者・エスポワールシチー。昨年はフェブラリーS、かしわ記念を連勝し、勇躍、アメリカのブリーダーズカップで歴史的名馬・ゼニヤッタらと相見えるも10着に終わった。
帰国後も動向に注目を浴びたフェブラリーSをパスし、いよいよ3月21日に行われる交流重賞・名古屋大賞典で、再びファンの前に姿をみせる同馬の過程を、管理する安達昭夫調教師に答えて頂いた。


-:これまでに、09年のJCダート、10年のフェブラリーS前とエスポワールシチーについて、お答え頂きましたが、今回は昨秋から振り返って頂きたいと思います。
まず、ブリーダーズカップ(以下、BC)のステップとして、アメリカのレースを使われるかと思いましたが、前哨戦が南部杯になった理由を教えていただけますか?


安達昭夫調教師(以下、安):本当はアメリカに行きたい気持ちはありましたが、乗馬の大会があるという話もあり、もし、そこで病気が出た場合、移動できなくなることもあり、前哨戦が不成立になる可能性は高いということで、南部杯を選択しました。(国内・アメリカ)どちらかでも前哨戦はどうしても使いたかったので。

-:結果的にはまさかの2着でした。

安:(体に)余裕を持って出たとはいえね、(オーロマイスター)負けてしまいましたね。オーロマイスターは同じゴールドアリュールの仔で、意識して見てはいましたから。(昨年の)フェブラリーSも出走取り消しにはなってしまったけれど、私的には怖い一頭の馬だと思っていましたし、注目していましたよ。

-:レース内容はどう感じられましたか。

安:負けはしましたけれど、自分の時計は走ってはいましたからね。(インで競馬をしたが)内側も砂が深かったようですし。

-:その後、BCのためにアメリカに行かれました。苦労されたこと、苦慮されたことはありますか?

安:行って、向こうの調教にも環境にも慣れていたので、大変だったとは思いませんが、帰ってきてからの方が普段より疲れが出ていました。

-:それは、(蹄)鉄の問題とかでしょうか?

安:スパイク鉄自体は問題がなかったと思いますが、結局、馬場も合わなかったと思いますし、ダートが日本みたいに深くなくて、薄いですよね。脚が沈まないので、芝みたいに時計が出ますし、芝でも勝ったことがある馬とはいえ、しょうがない部分もあったと思います。

-:日本の馬が行くとしたら、どんなタイプが合いそうでしょうか?

安:芝を走っている馬で全然大丈夫だと思います。ダート馬の方が難しいと思います。特殊な馬場なんですよね。アグネスデジタル(天皇賞(秋)、安田記念の芝のGⅠレースだけでなく、フェブラリーSも制覇)のように、どちらも走れる馬だったら、なお、いいんじゃないかと思います。

-:レッドディザイアが他のレースに出走されていましたが、芝の質はどうでしたか?

安:芝のレースも観ましたけれど、日本とはほとんど変わらないと思いますよ。

-:レース自体を振り返って頂いてどうでしょうか?

安:あれはあれで良かったと思います。人馬共に経験出来た事もありましたし。ただ、その後にトモに疲れが出てしまいましたけれどね。それを徐々に治しつつやってきました。

-:アメリカに行かれて、先生が経験出来たこと、収穫になった事とはどんなものでしょうか?

安:いい経験にはなったと思います。こっちの調教で役立つというわけではありませんが、また、行く機会があったり、誰かが海外に行く時に助言することも出来ると思います。馬を強くすることでいったら、向こうは日本のように坂路やウッドがなくて、ダート一本の調教でも強い馬が出てきますからね。

-:確かに考えてみると、そうですね。なぜ、強い馬が出てくると思いますか。

安:わからないですねぇ。暴れている馬もいないし、面子つけている馬もいないし。みんなが馬場の中でキャンターをやっている時も、他の馬は馬場の端っこで駐立してきちんと待っていますからね。ゼニヤッタ(牝馬初となるBCクラシック制覇をはじめ、デビューから19連勝でGⅠレースを13勝。エスポワールシチーと共に走ったBCで初めて2着になった)なんかは、耳に詰め物をしていましたけれど。

-:平均的に見て、日本の馬とアメリカの馬の馬っぷりなんかを比較するとどうでしたか。

安:日本の方が勝っているなと思いましたよ。向こうの馬は(アメリカらしく)ゴツゴツしたような馬は多かったですね。日本の馬が向こうの芝を使ったら、勝てると思いますよ。今年から、宝塚記念を勝った馬は、優先的に出走出来るようですし、是非、行って貰いたいと思いますね。



-:レースを観られて、アメリカの競馬の雰囲気はどうでしたか?

安:お酒を飲みながら楽しそうにしているファンが多くて、熱狂的でいいですよね。ゼニヤッタのファンも多かったし、私たちに応援してくれる人も多かったです。

-:競馬場はファンとの距離は近い環境でしたか。

安:パドックもお客さんの目の前でしたよね。そこで楽器を演奏していたり、盛り上がっていますし。競馬場の大きさ自体はそれほどでもないでしょうけれど、お客さんがぎゅうぎゅうになる程、入りますよね。

-:日本でいうと、どの競馬場くらいのスケールでしょうか。

安:盛岡はチャーチルダウンズを真似して造ったっていいますよね。新しいところもありますけれど、木の椅子だったりとか、昔の競馬場の姿を残していますね。

-:空気はどうでしたか?

安:あのね、唇がバリバリ(笑)。リップクリームを是非、持って行ってください。あと、料理がどれもおいしかったです。ドバイよりも良かったですよ。

-:どれが良かったですか?

安:どれも良かったですよ。昔はチャーチルダウンズは何もなかったと思いますけれど、ファーストフードも何でもおいしかったです。ファンが入れるエリアにあるお店で、量もありますし。

-:ドバイと比べて、どちらの方が調整しやすかったでしょうか。

安:アメリカで一回だけ、芝も走れるときがありましたけれど、ダートオンリーですからね。調整のしやすさでいえば、ドバイはオールウェザーも芝も両方使えますから。

-:日本では海外馬を招く際、至れり尽くせりといったら言い過ぎかもしれませんが、丁寧な対応をするといわれています。エスポワールシチーへの向こうの競馬会の対応はどうでしたか?

安:暖かく迎え入れてくれたと思いますね。向こうの海外の通訳さんにも色々と対応してもらいました。開業獣医さん、装蹄師さんも、皆、車で回っていましたし、その辺りは日本と変わりなく、(アウェイ的な雰囲気の)やりづらさはなかったですね。

-:このような遠征費はどこから捻出されるのでしょうか?

安:競馬会からG1馬には1000万円出るので、あとはシチーさんですね。

-:G1馬には出るものなんですね、ただし、1000万円で足りるものでしょうか。

安:足りないですねぇ。レース前にも佐藤ジョッキーと何度か(視察などに)行きましたし、輸送費もかなりかかるんじゃないでしょうか。



-:アメリカ遠征を終えて、いよいよ名古屋大賞典で復帰する事になります。ここまで時間がかかった経緯も教えていただけますか?

安:検疫所で腹痛も起こしましたし、トモに疲れも残りましたし、検疫所から移動できるようになったら、すぐに宇治田原に放牧に出しましたからね。そこでトモから背中にかけての治療を施しつつ、少しずつ良くなってきたと思います。ただ、今回は使ってみないとわからないところがありますからね。

-:使ってみて、いまがどれくらいの状態かわかると。

安:そうですねぇ。ワンダーアキュートなんかも、順調に使ってきていますからね。レースはジョッキーに任せますけれども。

-:今回、名古屋大賞典を選んだ理由はなんでしょうか。

安:シチーさんの方からはダイオライト記念という話もありましたけれど、2400mのあとに、かしわ記念の1600mは戸惑うところもあると思うので。名古屋なら輸送の疲れが残りにくいですし、1900mの名古屋大賞典かなということになりました。

-:ここを使って、かしわ記念に行くことになると思いますが、それ以降のプランはありますか。

安:それはもうシチーさんとの相談になると思います。

-:わかりました。最後に有力馬の近況を教えてください。

安:NHKマイルC以降、休養していたサウンドバリアーは阪神牝馬Sですね。キシュウグラシアは放牧に出ています。小さい骨折がありましたし、一年中使っていましたからね。秋はいいところまで行ってくれると思います。

-:ありがとうございます。有力馬の今後共に、エスポワールシチーの復帰を楽しみにしております。

16日の最終追い切りは佐藤哲三騎手を背に、坂路で51.0-37.2-24.5-12.3(一杯)でフィニッシュ。 追い切り後の同騎手は「去年の良くなかった頃より、いい状態だと思います。ちゃんとした姿勢で立てて、フットワークを上げられる状態には整ったと思います」と、語ってくれた。
ワンダーアキュートなども参戦してくるが、安達先生のコメント通り、本来の力を出し切れるかどうかが焦点となるだろう。


写真提供 Team Japan Keiba




【安達 昭夫】 Akio Adachi

1959年京都府出身
1999年に調教師免許を取得。
2000年に厩舎開業。
JRA通算成績は161勝(11/03/6現在)
初出走
00年3月4日1回阪神3日目10R ヤマトプリティ・2着
初勝利
00年4月23日1回福島2日目12R マルサンミッキー


■主な重賞勝利
・10年フェブラリーS/・09~10年かしわ記念
・09年JCダート/・09年南部杯
(全てエスポワールシチー号)
・10年フィリーズレビュー(サウンドバリアー号)


00年の開業以来、地道に勝ち星を積み重ね、チャクラ号、メイショウオスカル号、ヤマトマリオン号、バンブーエール号など、個性溢れるな活躍馬を輩出。
そして、エスポワールシチーで、フェブラリーSやJCダートなど、数々のビッグレースを射止め、昨年秋には、師自身ドバイ以来の海外遠征となる、アメリカ・ブリーダーズカップに海外遠征を行った。 奢ることのない姿勢にサークル内での人望も厚い。また、佐々木晶三調教師との仲が深いことでも知られている。