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安田景一朗調教助手

安田景一朗調教助手(栗東・安田隆行厩舎)


昨年暮れのJCダート、今年のフェブラリーSと国内GⅠを連勝したトランセンドがドバイに挑戦する。今年のドバイワールドカップ(以下、ドバイWC)に出走するのはトランセンドの他、ブエナビスタ、ヴィクトワールピサの3頭。日本のトレセンにもポリトラックコースはあるが、タぺタと呼ばれるオールウェザー(AW)コースの適性も気になるところ。栗東の検疫専用厩舎から出発した直後の心境を安田景一郎助手に聞いた。

-:トランセンドがドバイに出発したわけですが、改めて、ドバイWCに招待された心境をお聞かせください。

安:正直、言葉に出来ない感じです。もちろんドバイWCといえば歴代の勝ち馬を見ればわかる通り、凄い馬たちばかりです。シガー、シングスピール、シルヴァーチャーム、ドバイミレニアムやエレクトロキューショニストにカーリンなど、きりがないほど名馬の名が連なります。そんな夢の大レースに自分たちが行くのかと思うと、実感がわかないのが本音ですね。

-:検疫は同じ栗東トレセンの敷地内の専用厩舎に隔離され、馬場入りする時間も完全に分けられた状況でした。この辺の環境の変化に戸惑うことはなかったですか。

安:トランセンドは精神的にもしっかりした馬ですから、環境の変化にはまったく動じません。今回のドバイにはブエナビスタ、ヴィクトワールピサ、ルーラーシップという仲間がいますから、馬が寂しがることもなく順調でした。さすがに日本でも超一流の馬たちばかりです。一緒に運動するだけでもトランセンドにとってプラスになりました。精神面で馬が成長したような気がします。緊張感のある検疫での1週間でした。

-:やはり国際GⅠに出走するようなレベルの馬には独特のオーラがあるんですね。

安:そりゃあ、全然違いますね。4頭とも雰囲気があって、運動していてもピリッとするんです。もちろんその中に入ってもトランセンドも見劣りしませんでした。だいぶ成長してくれたなぁと感心しました。

-:デビュー前から精神的に強かったわけではないんでしょうか。

安:今とデビュー前では全然違いますよ(笑)。入厩したころはちょっとしたことに驚いてパニックになったり、ゲートを嫌がったり幼い面がありました。レースを重ねて行くうちに、少しずつ成長してくれたんです。幸いなことにトランセンドは脚元の丈夫な馬で、ケガで休むことなく来れたのも大きいと思います。特に去年11月のみやこS辺りからしっかりしてきました。フェブラリーSのパドックでも王様気取りで歩いていましたよ(笑)。

-:ドバイへ出発する馬運車に乗り込む時も落ち着いていました。

安:本当に凄い精神力ですよね、堂々と歩いて馬運車に乗ってくれていました。気持ちの切り替えがしっかりできる馬ですから、レースに行けばキツイ眼になるし、オフの時は余計な事をしない。賢い馬です。

-:ドバイWCというとAWコースでタぺタという素材の馬場になります。適応に気を使う点はありますか。

安:「日本のポリトラックとは違う」と聞いています。タぺタの方がよりグリップが強いようです。ダート時代のドバイWCならスパイク鉄をはかせていたようですが、今回は日本で着けている蹄鉄で行けると思います。スパイク鉄でなくても、グリップの強い馬場なら変える必要はないと思っています。

-:日本から行くブエナビスタ、ヴィクトワールピサと同じ舞台で戦う心境はいかがですか。



安:フェブラリーSの後、藤田騎手の自宅に呼んでいただいて食事会をしたんです。その時に『ドバイは一流の馬、一流の騎手が揃うからすっきりした競馬になる。その中で先行して後続に脚を使わせるようなレースが出来ればおもしろい。そういう気構えで行こう!』と言われたんです。ジョッキーからそんな言葉をもらえると嬉しいです。チームというか団結力を感じました。この人と一緒に大きなタイトルを取りたいと思いました。

-:厩舎、スタッフ、騎手が団結して挑むなんて凄いことですね。

安:本当に藤田騎手には感謝しています。当初、ゴドルフィンマイルに招待されていて、遅れてドバイWCの招待状が届いたんです。藤田騎手もマイルより1800~2000mのほうがトランセンドの良さが活きると言ってくれましたし、自分もワクワクしてきました。

-:普段、調教に乗っている人にしかわからないトランセンドとは。

安:トビが大きくて乗っていても速さを感じない馬ですよ。結構な時計が出ているのにそうは感じないんです。でも、このクラスの馬に大切なのは何秒で走ったか?なんていう次元じゃないんですよ。馬がリズム良く走れていれば、少々時計が速くても気にしません。逆に時計を気にして、手綱を引っ張って馬の走りを邪魔するほうが怖いです。それに、乗り味は硬いほうですが、硬いとか柔らかいとか言うレベルではないんだと思います。実際、トランセンドより乗り味の良い馬はいます。それでもトランセンドのようには勝てない。僕に馬の奥深さを教えてくれたのはトランセンドなんです。

-:レースまで時間も僅かですが、ドバイに着いてからの調整はどうされる予定ですか。

安:こちらでも乗っていましたし、向こうへ行って特別強い追い切りはしなくても良いと思っています。ドバイには馬主のノースヒルズさんもスタッフの方を派遣してくださっていますので安心しています。それに、ドバイには松田博資、角居厩舎とも海外に精通しているスタッフが行っています。その中でトランセンド担当の山下さんも良い刺激をもらいながら頑張っていると思います。

-:レースではやはり展開がカギになると思うのですが。

安:タぺタは追い込み有利だと聞いたんのすが、去年勝ったグロリアデカンペオンは逃げ切りでしたし、トランセンドにもチャンスはあると思います。特に海外の馬はスタートが速くないのでトランセンドなら楽に3コーナーまで行けると思うんです。良いリズムで行ってどこまで頑張れるか?とにかくいろんなデータに惑わされず、トランセンドを良い状態で出す!それだけです。

-:日本からトランセンドを応援するファンへ、メッセージをお願いします。

安:ドバイというと遠い世界で、今まではファンと同じように日本馬を応援してきました。今年は自分の厩舎からトランセンドがドバイに出走します。とても光栄なことで今でも夢のようです。向こうに着いてからもトランセンドは順調のようなので、どんなレースになるか楽しみにしてください。奥のある馬ですから今の状態で、世界の一流馬とどこまでやれるのか一緒に応援してください。

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【安田 景一朗】 Keiichirou Yasuda

弟の翔伍氏と共に調教助手として、父である安田隆行調教師をサポートしている。