関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

房野陽介調教助手

房野陽介調教助手


トゥザグローリーやローズキングダムのような血統的な華やかさはない。調教も一流馬の其とは思えないほど、手を焼く性格の個性派・ナムラクレセント(牡6、栗東・福島厩舎)が阪神大賞典で遂にタイトルを掴んだ。
馬も個性派だが、同馬の日々の育成を手掛ける房野陽介調教助手も負けないくらいの個性派で論客家。インタビューの全ては掲載しきれなかったが、昨年の天皇賞に続いて、ナムラクレセントの変化について語って頂いた。


和田騎手とのコンビで素質が開花


-:前走で重賞初制覇となりましたが、振り返ると、昨年の天皇賞も4着とはいえ、展開面を考慮すれば、もっと上の着順を望めそうな内容でした。昨年を振り返って頂けますか?

房:昨年はマイネルキッツみたいな競馬をしていたら、3着には来られていたと思います。前にいっても使える脚は変わらないタイプですから。

-:ここ3走前以前のレースでの敗因を挙げるとしたら、どんな点でしょうか?

房:福島記念は最内で出るところがなくて、中日新聞杯はスローで外を回して…。スローって、どこかでペースが落ちるからスローなだけで、ペースが落ちたところで、早目に動いて対応してほしかったんです。いわば「まくり」の形です。その点、中日新聞杯のトゥザグローリーは完璧なレース運びでしたよね。

-:前々走の日経新春杯は意外に斤量を背負わされました。このレースに関しては、どうみられましたか?

房:そうなんですよ。思ったより背負わされたんです。この時も直線に向く時に、向く前からエンジンをかけて行きたいんですよ。そこで前が壁になって追い出せなくて、そこで置かれるんです。この勝ち馬からの着差の3馬身も、後になって付けられた着差じゃなくて、そのコーナーで離されたものなんです。
そこの部分を前々でトップスピードに乗せていく形じゃないといけないわけで。それは和田(騎手)さんも言っている事で、わかっていると思うんです。だから、道中は、前には1~2頭くらいしかいない方がいいわけですね。


-:前走の最終追い切りは坂路だったと思いますが、この馬はコース主体だと思っていたので意外にも感じました。

房:僕はウッドだから坂路だからと、追い切るコースは気にはしていないですよ。

-:去年、伺った際、「追い切りで自分の姿を気にする」と仰っていたので、あの日経新春杯の追い切り映像はビックリしました。
(もともとコース調教で駄々をこねて走るのを止める事があるナムラクレセントだが、日経新春杯の最終追い切りでは、放送された追い切り映像で、気の悪さをみせて走るのを止めたシーンだけが流された)


房:あの時は相当嫌だったんです。このまま消えてしまいたいくらいでした(笑)。しかも、馬がごねて、完全に走るのを止めたところを映されていたわけですからね。本当は追い切りの初めから撮って、馬がごねているところを流して欲しかったです。世間一般だったら、あの映像をみたら、馬がガタガタになったと勘違いするわけじゃないですか?
でも、そういうわけではなく、普段からコースではこういう馬なわけですから。そもそも、自分は追い切りをそんな気にしていないです。普段、溜まったものを発散させるような意味合いだけで。今回の最終追い切りは和田さんに乗ってもらう予定ですが、スムーズにこなすと思いますよ。


-:展開を考えたら、前回のような競馬がベストじゃないでしょうか?

房:和田さんは、「また、コスモラピュタが出てきて欲しい」と、言っていたらしいですけれども、別にあの馬がいなくても、ああいう競馬をすればいいと思うんです。結果的に世間一般で「逃げ」という形のものであったとしても、ラップ的にこいつがああいう感じで行ければいいんです。それが前に馬が10頭いれば、見た目は「差し」でしょうし、それだけの事なんです。こいつは自分のラップで走ればいいわけで、展開は出たなりでやれればいいですし。和田さんにもいつも「出たなりでお願いします」と言っていて、わかってくれているから、無理に抑える様なこともしていないですからね。

-:やっぱり、切れ味勝負じゃない方がいいですね。

房:それは勿論です!今回のメンバーじゃなくても、オープン特別だってキレ味勝負じゃ、無理ですからね。




パートナーと格闘していた日々にも変化が


-:この一年間で課題としていた折り合いについての変化は感じられますか?

房:どうなんですかね…。僕が調教に乗る時は、いいとも悪いとも思わないのですが、お互いに妥協点をみつけられたような気がします。でも、レースならば、今なら折り合いは付けやすくなった気はします。

-:この一年で肉体的な変化はありましたか?

房:Cウッドを回るようにして、全然違いますよ。前は角馬場で距離だけ乗って、追い切りだけ馬場に入れていたんですけれど、正直、角馬場で走り方がよろしくなくなってきたので、これを続けていたら、制御不能になって、馬も怪我をするな、と思ったので、少々、引っ掛かることを我慢しても、Cコースを2周することにしたんです。僕が我慢さえすればいいわけで。今みたいにCだけだと、馬もグワーッて走りたがるわけで、前に進もうとするわけですから、それだけで角馬場とは違いますよね。
要は13(1ハロン13秒)くらいで走りたいところを、15で抑える走り方の15-15と、馬がそんなに走りたくない17くらいでしか走れないのを15くらいで走る走り方。あとは本当に15-15で走る走り方。3段階あると思うんです。そこで、無理に馬の気持ちを抑えて走らせた場合と、馬の気持ちよりも走らせなかった場合、その差は大きいと思います。
だから、僕は普段、「我慢、我慢」とさせて、それを追い切りで「ほら、いけっ!」とさせるわけです。精神的に鍛えるわけでなく、走りたいように走る、健全な方向ですよね。この一年で僕も腕は明らかに太くなりましたよ(笑)。


-:馬の本質を活かすということですね。

房:調教の時計を見て「いい動きだったでしょ?」ということでなくて、いい動きをすると思います。今週も来週も。

-:ずいぶん厩舎とは違う地区でナムラクレセントに乗られているのをみかけましたが、どういう意図があるのでしょうか?

房:厩舎の近くに帰ってきて、上がり運動が足りなくて、厩舎の周りのブロックをぐるぐる回るのが嫌なんです。こいつは厩舎の近くに帰ってきたら、「もう終わり」だと思うわけじゃないですか?
最近、思っているのは、走る気のある未勝利馬より、走る気のないオープン馬の方が絶対走らないですよ。だって、ゴネる力はオープン馬の方があるわけで、気持ちがおかしくなってしまったら、それがマイナスのパワーになってしまうわけですからね。だから、馬の気持ちは大事にしたいと思っています。


-:ビートブラックの林調教助手にも取材をさせて頂きましたが、今年は菊花賞3着馬が伏兵的な存在になりそうですね。

房:そうなんです(笑)。彼とはマイナー種牡馬の盟友ですから。

-:といっても、どちらもサンデーサイレンス系種牡馬なんですよね。

房:そう、「マイナー、マイナー」と言われるけれど、結局はサンデーなんですよ。(ナムラクレセントのお父さんの)ヤマニンセラフィムだって、実績がないだけであって超良血ですから。世界的な血統馬ですし、もっと種付けすれば、いい馬が産まれると思いますね。

-:3000mを走ったばかりですが、現在のデキはどうでしょうか?

房:今回は阪神大賞典の時より、絶対、具合がいいので楽しみなんです。正直、ソコソコやれると思っているんです。あとは、他の馬がどれだけ強いかですよね(笑)。僕の思っている以上なのか。

-:最後にナムラクレセントのファンへ向けて、一言よろしくお願い致します。

房:馬のことを考えると、どの馬場がいいとかはあるでしょうけれど、やっぱりGⅠレースですからね。レースが終わって、(各馬の敗因が)馬場のせいにならないように、良馬場がいいんじゃないでしょうか?ビッグレースなので。そういう中で戦いたいですね。
前回も「トーセンジョーダンが回避したから勝てた」とか、言われるのも、馬に可哀そうですから。皆、対等に力が発揮できる舞台で、レースが出来ればいいのかと思います。応援して下さい!


同年の阪神大賞典勝ち馬の天皇賞(春)での成績(過去10年)
馬名 成績
2001 ナリタトップロード 2番人気3着
02 ナリタトップロード 1番人気3着
03 ダイタクバートラム 1番人気3着
04 リンカーン 1番人気13着
05 マイソールサウンド 11番人気8着
06 ディープインパクト 1番人気1着
07 アイポッパー 1番人気4着
08 アドマイヤジュピタ 3番人気1着
09 アサクサキングス 1番人気9着
10 トウカイトリック 6番人気9着
11 ナムラクレセント ???
約半数が馬券圏内に入線しているように、阪神大賞典は好相性のステップレース。ナムラクレセント自身、昨年も日経賞からの臨戦で天皇賞に挑んだが、今年は昨年以上の結果を残しての臨戦。相手こそ違えど、データからも昨年以上の期待が窺える。


【房野 陽介】 Yousuke Fusano

1979年神戸市出身。競馬に縁のない生活を送っていたが、大学3年の終わりに中退を決意。
厩務員という仕事すら知らない中で、イクタトレーニングファームで牧場勤務を始めると、4年半の在籍後、JRAの厩務員課程に合格。卒業後、再びイクタを経て、栗東の福島信晴厩舎に所属。
これまでにタケイチゼット(フィリーズレビュー出走)などを手掛け、現在はナムラクレセントと、準オープン馬のユメイッポを担当している。ナムラクレセントについての今年の楽しみは「(宝塚記念の)ファン投票でどれだけ順位が上がるかが楽しみです」