関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

昆貢調教師

昆貢調教師


「オリジナルインタビュー」でも昨年のダービー以来、幾度となく取り上げさせて頂いたヒルノダムール(牡4、栗東・昆厩舎)が、大阪杯で待望の重賞初制覇。昨年から4歳春の最大目標と明言していた天皇賞(春)に挑むにあたり、昆貢調教師に再びインタビューに答えて頂いた。

秘蔵っ子が待望の重賞初制覇


-:まず、前走は待望の重賞初勝利となりました。おめでとうございます。前走を振り返って頂けますか?

昆:ありがとうございます(笑)。馬の状態は凄く良かったので、ジョッキーに任せるだけでした。ペースも流れていたので、難しいポジションにいるな、とは思いました。

-:先生もレース後に「あんなペースになるとは思わなかった」とは仰っていましたね。

昆:そうですね、レコード決着ですからね。あんなに速くなるとは思わなかったです。

-:結果的にみると、時計勝負というのは、この馬にとっていい条件だったのでしょうか?

昆:どうでしょうね?まだ、あの馬にとってはデータが少ないので、わからないところもありますし、あんなレコード決着で走れるとは思っていなかったです(笑)。ビックリはしていますよ。

-:レース後、先生の表情を検量室前でみましたが、勝ったと思ったのか、あんまりリアクションがなかったですね。

昆:勝ったと思っていましたよ。ゴール坂で勝ったと思ったので、調教師席から降りてゆきましたよ。

-:表情が変わらなかったので、全く気持ちを察することが出来ませんでした(笑)。気分は高まっていたりはされていませんでしたか?

昆:そんなに高ぶってはいなかったですけれどね。ただ、気持ちは勝ったと、余裕はもっていましたよ。

-:ダムールのファンからしたら、ようやく勝ったと思うはずの結果だけに、ちょっとクールな表情だったのが意外でした(笑)。

昆:まぁ、そうでしょうね。実際、僕もやっと勝ってくれたのが、本心ですけれどもね。ただ、あの馬のこれはどうにもならないな、という負け方をしていないし、戦ってきたメンバーもいいわけで、いずれチャンスは来るだろうと思っていましたから。それが今回に繋がったというかね。

-:そのチャンスが来るのを待つまで、コンディションを維持できる馬も少ないですよね。

昆:この馬は余分なレースを使ったとか、一切していないわけですし、結果的には何度使ったと思われるかもしれないけれど、ゆったりしたローテーションでつかっているわけですから。

-:レース前の様子はどうだったでしょうか?

昆:完璧に近い状態で来たとは思いましたよ。

-:その調整に関しては、前回のレース前に坂路(調教に変えて)で「刺激を与えたい」と仰っていましたね。

昆:そうですね。今の4歳は力をつけていく段階ですので、攻めても大丈夫だと思ったので、坂路で鍛え上げたつもりです。

-:時期的にしっかりしてきたから、強めの調整もこなせるようになったという事でしょうか?

昆:去年までは調教で「鍛えていく」というより「レースに向けて整えていく」という追い切りをしていました。年明けを2回使っても、自分の中では万全なデキじゃないと思ったので、大阪杯くらいからビシッとやって、天皇賞に持っていきたいと考えていました。前回の仕上げに関しては上手くいったと思います。

-:そのプランは前々から考えていらっしゃったのでしょうか?

昆:そうですね。大阪杯から天皇賞まで時間はないし、この中間は調整程度でいいと思ったので、大阪杯で仕上がり具合を上げて、天皇賞へ向けてピークになるような感じにしたつもりです。

-:その大阪杯はパドックの雰囲気を見ると、けっこうな仕上がり具合だったようにみえました。

昆:そうですね。かなりの仕上がりだったと思います。あとは馬に余力が残っているかどうか、馬の走り方一つだと思っています。レース後も見た目には何ともないですからね。
真の疲れなんていうのは、誰にもわからないですから。ただ、僕は阪神大賞典を使って、3000mの長距離を走った疲れを残すよりは、大阪杯を選んで、上積みがあるように持ってきたつもりです。


-:パドックでの雰囲気は、幾分、テンションが高めにみえましたが、大阪杯の気配くらいでいいのでしょうか?

昆:そうですね。あれくらいで問題ないと思います。あの馬は普段は大人しいのに、歩くのが速いんです。だから、どうしても、ああいう隊列の中で歩くと、どんどんイライラしてくるんです。チャーンシャンクをつけているのも、そのせいで、歩くのを制御するためなのです。あれをつけた事でうるさくはないですから。

-:シャンクをつけているのは、中じゃなくて、外側の刺激で抑えているわけですね?

昆:速く歩こうとするから、ハミをとろうとするんです。ハミをとらなければ、泡食って速く歩くようなことはないですからね。
やっぱり、パドックの長さというのは、日本の競馬の良さでもあり、悪さでもありますからね。ファンサービスだから、しょうがないところもありますけれども。




大目標の天皇賞へ向けて


-:レコード決着というと、ファンやマスコミは喜びそうですが、管理する側からすれば、(状態の維持に)大変な面もあるのではないでしょうか?

昆:そうですね。あれだけは誤算だったですね。ただ、ケアするほど、あの馬は(前走も)走りきっていないと思うんです。何度も大阪杯の映像を見直しましたけれど、ゴール前、最後の3~4完歩は、キャプテントゥーレを抜いてフワッとしているんです。手前も換えたりもしていましたし。あそこは同じ手前で走り抜けられれば、あんな(詰め寄られるような)着差にはなっていないでしょうし、手前を換えたことでブレーキがかかっているかと思いましたし。

-:その分、天皇賞で上積みが見込めるということですね。

昆:僕はあると思っているんです。勝ったことで勢いもついた形で天皇賞に迎えるんじゃないかと思いますし。

-:ただ、レコードになるような流れの中でレースをしてから、長丁場というのは、難しいようにも感じます。

昆:まぁ、よくないでしょうね(笑)。他の馬の陣営も「引っ掛からなかった」とレース後に言っていましたが、あの流れだからだと思いますよ。だけれども、ダムールはどんなレースにも引っ掛からないですからね。

-:天皇賞はもちろん、この先にとっても前走は大きい一勝ですよね。

昆:よく、みんな「究極の仕上げ」というけれど、いい状態を高い位置でキープしてあげた方が、馬的にはプレッシャーがかからないですよね。GⅠだからといって、ガーッとやらない方が、いいような気がしますからね。その点、今回はいい形でもってこられたとは思います。

-:ヒルノダムールについては、乗り易さなどを以前からセールスポイントとして挙げられていたと思いますが、今回はレコード決着の中でも、そういうところをみせたのではないでしょうか?

昆:そうですね。一番いいレースをしたんじゃないかと思います。

-:前回、仰っていた青写真通りのローテーションということですよね?一般ファンからしたら、4歳世代が一頭でも賭けたら、盛り下がるわけじゃないですか?やっぱり、みんなが一番、いい舞台で臨めるのを待っていますよね。

昆:今回も豪華メンバーで盛り上がりそうですよね。

-:今回にあたって、理想とする展開や枠はありますか?

昆:ローレルゲレイロみたいな特殊なタイプでもないですし、そういう事は、あんまり考えたことがないんですよ。やっぱり、ジョッキーが菊花賞を勝つつもりで臨んでくれた、その気持ちを忘れずに、天皇賞にも臨んでもらいたいとは思います。
このクラスで、これだけ同世代の強い馬が勝つ中で、GⅠを勝つ事は凄く価値がありますからね。それに沿えるだけの成績を収めたから、恥ずかしくないレースをしてもらいたいと思いますね。ハッキリとはわからないですけれど、伸二君は前回と同じような乗り方をすると思います。僕には「天皇賞は1枠か2枠が欲しいな」とは言っていましたから。


-:来週の追い切りのプランを教えてください。

昆:水曜日に多分、坂路でやると思います。

-:この馬の調教をファンが映像などでみるにあたって、好サインなどはありますか?

昆:ダムールに関しては、特徴らしい特徴はないですね、大阪杯の追い切りも舌を出していて、指摘されましたが、問題ない程度ですし、極端に右にモタれなければ、大丈夫だと思います。ちょっと内にモタれるような口向きはしているのですが、調子がいい時は真っすぐ走りますからね。
1月の日経新春杯辺りでは、モタれていたのが、大阪杯辺りではなくなっていたので、そういう意味でも、かなり調子が上がっていると思います。


-:わかりました。GⅠ制覇へ向けて、最後にファンへ一言お願い致します。

昆:やっと、グレードレースをとったので、この勢いでGⅠにチャレンジして、いい結果が出せるように努力するだけです。応援よろしくお願い致します。

同年の大阪杯勝ち馬の天皇賞(春)成績(過去10年)
馬名 成績
2001 トーホウドリーム
02 サンライズペガサス 4番人気5着
03 タガノマイバッハ 6番人気8着
04 ネオユニヴァース 2番人気10着
05 サンライズペガサス 9番人気14着
06 カンパニー
07 メイショウサムソン 2番人気1着
08 ダイワスカーレット
09 ドリームジャーニー 5番人気3着
10 テイエムアンコール 8番人気11着
11 ヒルノダムール ???
07年のメイショウサムソンが大阪杯・天皇賞と連勝しているが、大阪杯で土がついて馬の好走が目立つのが天皇賞。ヒルノダムールにとっては、やや気になるデータだ。


【昆 貢】 Mitsugu Kon

1958年北海道出身。
1999年に調教師免許を取得。
2000年に厩舎開業。
JRA通算成績は201勝(11/4/24現在)
初出走:
00年3月5日 1回 阪神4日目 12R アルアラン(3着)
初勝利:
00年4月15日 2回阪神7日目 7R アルアラン


最近の主な重賞勝利
・11年大阪杯(ヒルノダムール号)
・09年高松宮記念/09年スプリンターズS (共にローレルゲレイロ号)


11年にわたる騎手生活を経て、2000年に厩舎開業。08年にJRA重賞初勝利を挙げると、同年にディープスカイがNHKマイルCと日本ダービーの変則2冠を達成。
また、09年にはローレルゲレイロで高松宮記念とスプリンターズSのスプリントGⅠを春秋制覇。
先日の大阪杯では「未完の大器」ヒルノダムールが待望の初重賞制覇を収めた。4月23日には厩舎通算200勝も達成。2011年は高確率で勝ち星を挙げている。
なお、栗東の庄野靖志調教師とは母方の親戚にあたる。