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クリストフ・ルメール騎手

クリストフ・ルメール騎手

~10年目となる来日へ向けて~


-:2002年の初来日から今年で10年目になります。あらためて日本の競馬の印象を教えてください。

ルメール:いまの日本はもう良血馬ばかりですから、本当にレベルが高い。レースの賞金も世界で類を見ない高額のものですし、JRAが管理する組織的な競馬は間違いなく世界一のひとつでしょう。O・ペリエ騎手が道筋を作ってくれて、いまはたくさんのトップジョッキーが日本で短期免許を獲得したいと願っていますから、日本に行くだけでも大変なんです。日本の競馬で何よりも素晴らしいところは、競馬界全体がファンを向いているところだと思います。

たとえば、東京や京都には映画館でも見たことのないような大きなターフビジョンがありますよね?あんなにすごいものは、フランスにはもちろん存在しません。信じられないかもしれませんが、ロンシャン競馬場ですらターフビジョンは移動式で、平日の開催の時は競馬場にターフビジョンがないんです。
日本では調教をはじめとする情報もきちんとメディアを通じてファンに開示されていて、そういうところが素晴らしい。ヨーロッパでは毛布をかけた馬がパドックを悠然と周回していますからね(笑)。


-:日本の競馬界に足りないところはありますか?

ルメール:ひとつだけ意見があるとするならば、ライセンスの問題。日本のジョッキーはユタカさんのように、フランスに好きな時に来て、好きなだけ滞在することができる。
でも、ボクたち外国人騎手には免許に有効期限がありますよね。これはいつかJRAと真剣に話し合ってみたい問題ですね。今年L・デットーリ騎手が日本ダービーに騎乗して、ヨーロッパでも話題になりました。ちょうど日本ダービーの週はフランスでも障害のGⅠしかないので、いつかボクも日本ダービーに騎乗してみたいですね。


-:昨年のジャパンカップをはじめ、外国人騎手の騎乗に対する裁決の問題が取り上げられることも増えています。

ルメール:裁決は国によって、それぞれの競馬文化があり、日本とフランスではまったく異なります。もちろんフランスとイギリスとを比較してみてもそうです。そして、ジョッキーが持つ考え方も国籍によって違います。
昨年のジャパンカップに関していえば、あの降着はフランスでも大きな話題となりましたが、あのケースですとフランスではまず降着にはならないでしょう。フランスではブエナビスタとローズキングダムが同馬主ということや、被害馬(ローズキングダム)にどの程度脚があったか?ということが考慮されるのです。でも、もちろんC・スミヨン騎手にとってそれは何の言い訳にもなりません。ジョッキーは騎乗する国の文化を尊重し、決められれたルールに従って騎乗しなければならないのですから。


-:ヨーロッパではムチの使用法とそれに対する騎手への罰則が大きな話題となっています。(注:10月10日英国競馬のルールが改定となって以降、騎乗停止処分や賞金を没収される騎手が続出。R・ヒューズ騎手が抗議の意味で引退を表明するなど、秋の欧州競馬界はこの話題で持ちきりとなっている)

ルメール:そうですね。ですが、日本ではムチの使用回数はほとんど話題にもなりませんよね?競馬文化というのはそのくらい、国によって違うんです。今回の問題に関して言えば、個人的には賞金全額没収という英国のルールは騎手にとって横暴すぎると思いますし、改善の方向で再び話し合いが行われていることに安心しています。ちなみに、ムチの過剰使用に対するフランスのペナルティーは、1度目は罰金、2度目はさらに大きい額の罰金。そして3度目で初めて騎乗停止となるんです。使用回数は8回までですね。




-:フランスの競走馬の強さはどこから来ると思われますか?

ルメール:競馬に携わるすべての関係者のプロ意識の高さ。シャンティーという素晴らしい環境。あとは積み重ねてきた歴史でしょうか?調教方法や馬の手入れの方法をフランス人は変えようとしませんし、馬の繊細さを理解した馬との接し方が確立されています。けれども、考えてみれば凱旋門賞では3年続けて外国勢にやられているんですよね。来年こそは奪回しなければいけません!

-:今年はフランスの19歳の若武者M・バルザロナ騎手が英国ダービーを勝ちました。リーディング争いも22歳のM・ギュイヨン騎手がC・スミヨン騎手をリードしています。

ルメール:彼らは先輩に対する遠慮が足りませんね(笑)。ふたりとも冬は香港で騎乗する予定だと聞いていますが、若手の活躍は頼もしい限りです。でも、日本人の若手騎手もがんばっていますよ。今フランスで修行中の田中博康騎手とは何度も食事したり、自宅にも遊びに来てもらったりして、すごく仲がいいのですが、ボクの自宅に木馬があって彼は勉強熱心でいつも色々聞いてきます。
毎朝シャンティーで調教もつけて、騎乗依頼があればどんな田舎にも乗りに行って、異国の地でよくがんばっていると思いますね。彼が5月にフランスで最初に勝ったときの2着もボクだったんです。彼に限らず経験を積んで、あとはきっかけさえ掴めば、伸びると思う若手騎手は日本にも何人もいるんですよ。


-:天皇賞(秋)ではエイシンフラッシュの騎乗依頼が舞い込みました。大きなチャンスが巡ってきましたね。

ルメール:すでに昨年の日本ダービーや今年の数戦をDVDで見ました。ダービーでの最後の末脚は衝撃的なものでしたね。東京コースがぴったり合いそうだな、というのが第一印象です。5年前の秋にハーツクライの騎乗依頼をいただいたときのことを強く思い出しています。ボクはジャパンカップと有馬記念を勝たせてもらっているけれど、天皇賞(秋)では2着が最高(04年ダンスインザムード)で何としても勝ちたいですね。ブエナビスタ、ローズキングダムなど相手も強力だと聞いていますが、ベストを尽くして1着を狙います。

-:日本での生活に不自由はありませんか?

ルメール:ええ、とても快適ですよ。日本では電車にも乗るんです。それも競馬新聞を読みながらね(笑)。カタカナと予想の印だけは意味がわかるんです。休日は京都か大阪で買い物をすることが多いのですが、以前にペリエ騎手と京都の清水寺に行って荘厳な雰囲気に感動しました。息子のルカが小学生になったので、今年は家族とずっと一緒にいれないことは残念ですが、ボクももう大人だから大丈夫(笑)。日本遠征が近づいてきて気持ちも高ぶっています。

-:ファンの方々へメッセージをお願いします。

ルメール:いつも日本では大勢のファンの人たちにたくさん応援してもらって、いつも心から感謝しています。皆さんにお会いできることが今から待ち遠しいです。昨年はGⅠを勝つことができなかったので、今年はその分もがんばりたいですね。いつも通りのボクで、今年も自分らしくがんばります!

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【クリストフ・パトリス・ルメール】
Christophe Patrice Lemaire

1979年 フランス国籍。
1999年 フランス騎手免許取得
JRA通算成績は161勝 (11/10/23現在)


■日本での主な重賞勝利
・2009年 ジャパンカップ(ウオッカ号)
・2008年 JCダート(カネヒキリ号)
・2008年 エリザベス女王杯(リトルアマポーラ号)
・2005年 有馬記念(ハーツクライ号)


父が騎手だったこともあり、1999年に騎手免許を取得すると、母国・フランスだけでなく、世界を股にかける活躍をみせる。現在は世界的オーナーであるアガ・カーン殿下の主戦騎手として契約。 また、2002年に日本で初騎乗を果たすと、日本馬で唯一、ディープインパクトに土をつけることになったハーツクライとのコンビでの有馬記念など、ファンの記憶に残る騎乗をみせている。今秋は天皇賞のエイシンフラッシュ、マイルCSのマルセリーナにも騎乗予定。