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波多野敬二厩務員

波多野敬二厩務員(船橋・川島正行厩舎)


昨年のかしわ記念以来、屈腱炎のため実戦から遠ざかっているフリオーソが川崎記念に挑む。一昨年以来、無敗街道をひた走るスマートファルコンなど、JRA勢も強力だが、故障明けの一戦。果たして、どんな状態でその雄姿をみせてくれるだろうか?また、東京2歳優駿牝馬では惜しくも2着に終わってしまったエミーズパラダイスも年が明け、今年は芝路線に挑むとのこと。地方を代表する有力馬2頭の動向について、両馬を担当する波多野敬二厩務員が答えてくれた。

-:フリオーソのお話の前に、前回話題にしていただいた昨年末のエミーズパラダイス(牝3、船橋・川島正厩舎)は残念な結果でしたね。最終追い切りから振り返ってもらえますか?

波:今思えば、最終追い切りが軽かったのかなと。ドラゴンシップと併せ馬をして、最後は突き放したにせよ、テンも遅くて少し楽な内容だったんじゃないかなと。

-:ドラゴンシップが動かなかったという話も聞きました。

波:それに僕の中では単走追い切りの方が良かったんじゃないかと思いましたね。勝った馬(エンジェルツイート)も併せ馬はしたけれど、併走馬が遅かったから、自分で動いてビュッとやっていたようですから。
僕が担当していたディラクエ(※)の時がそうですよ。東京ダービーの本追い切りの時に「もう馬は出来ているから、(4F)52くらいでいいよ~」なんて追い切りをしていて、その時のドリームスカイが48秒くらいで上がっていたんです。この前のレースを終えてから、そんなことが頭に浮かんできて、改めて、ここ一番の追い切りはしっかり負荷をかけないといけないと思いました。


()ディラクエ…07年の全日本2歳優駿で2着、翌年は京浜盃を圧勝するも、南関東クラシックで人気に推されながら勝ち切ることができなかった。

-:レース当日の雰囲気はいかがでしたか?

波:当日の雰囲気は悪くなかったですね。ただ、若干、まだ体に余裕はあったんですよ。馬体重も発表のプラス3キロではなくて、マイナス3キロくらい、470キロくらいで行ける予定だったんですよね。それもビックリしましたね。
こっちでも馬体重は量っているし、大井に比べて、船橋の厩舎地区の体重計の方が軽く出てしまうのかもしれないですね。フリオーソのこの前の調教試験もそうだったんです。520キロ前半で行けると思っていたのが528キロ。思ったよりも馬体重がありましたから。


-:機会といえど、体重計による誤差といえば、中央の競馬場でも誤差があるんじゃないか、という疑惑は一時ありましたからね。

波:冬場や梅雨時とか、多少出てくるかもしれないですね。やっぱり、体重計よりも、アバラの出方や、お腹のラインなどを自分の目で確かめているのが良いだろうからね。

-:とはいえ、確かにちょっと太い気もしましたが、それを差し引いても、エミーズパラダイスの雰囲気や毛ヅヤの良さは図抜けて見えました。

波:自信はあったんですけれどねえ(笑)。その前走が余裕の手応えで(ダート1600m)1分41秒台で勝って、今回は時計も短縮してくるだろうと思っていたんです。そうしたら、同じような時計でちょっとガッカリでしたね。レース後も牝馬なのに飼葉もペロっと平らげているし、そういう意味でも、もうちょっと仕上げても良かったのかと思いました。そこは反省でしたね。



-:脚元の硬さはどうでしたか?

波:そこは全然!もう解消できましたよ。前回は負けて勉強になりました。

-:東京2歳優駿牝馬というと、クラーベセクレタやネフェルメモリーを抜けば、あまり後に出世できないイメージのレースでしたが、今年に関しては相当レベルは高いように感じました。

波:高いと思いますね。今年は牝馬のレベルが高いと思いますよ。去年はクラーベ一頭だけでしたが。といっても、道営からの転厩組ばかりですけれどね(笑)。こっちの重賞を勝った馬も時計が遅かったから、そこには負けないと思いましたし。しかし、森下淳平(森下厩舎の勝ち馬・エンジェルツイート)のところの馬は速かったねえ。彼も厩舎を開業したばかりですが、川崎にいた頃からの知り合いなんだけれど。

-:あの馬も兄がオオエライジンで、その前走も強い内容でしたが、流石のパフォーマンスでしたね。

波:圭太(戸崎騎手)にも「アレが逃げたらなめるなよ」なんて言っていましたが、フリオーソがスマートファルコンに負けたパターン(2010年の東京大賞典)みたいなレースでしたね。ただ、エミーズもその前走で4コーナーではサッと抜けないところがあったので、抜かし切るまでの何かあるのかもしれないですね。3コーナーで前に出るような展開になっていたら、どうなっていたのかという思いもしないでもないけれど。

-:大晦日にあの結果も嫌なものですね(笑)。

波:そうですね(笑)。馬主の方々も期待していた馬ですからね。期待に応えられず残念でした。

-:話によれば、道営時代に騎乗していた服部騎手も芝適性があるようなことを言っていたそうです。

波:僕もそのつもりで、芝のレースに出すつもりで準備はしています。騎手ならわかるでしょうけれど、我々のような地方競馬の厩務員には、芝の適性がどれだけあるかはわかりませんが。もともと去年からそういうプランもあったし、中央競馬のパドックの映像を集めて、芝で勝つ馬の体はどんなスタイルをしているのか、研究しているところです。
芝ではスピードが求められるし、ダートにしても、地方のダートと中央のダートでは砂質も違いますからね。フリオーソにしても、その開催で時計がどれだけ出る馬場かを判断しながら、馬体重の微調整はしてきたりはしましたが、エミーズの次走に関しては、もっと絞っていこうと思ってはいます。


-:そして、フリオーソですが、4度目の年度代表馬選出おめでとうございます。

波:川島厩舎からはクラーベ(セクレタ)も(ナイキ)マドリードも選ばれましたが、タイトルが一つだけだったら、クラーベだったかもしれないねえ(笑)。レースに関しては8ヶ月の休み明け。「出来るだけ頑張ります」と言いたいところだけれど(笑)。

-:これだけの休み明けのレースに、持ち時計がある馬が出てくるというのも、厄介なところですね。

波:そうですね。(スマート)ファルコンもフリオーソを負かした東京大賞典のあとは疲れが残って、いきなりG1から出るのは避けたいということで、去年はダイオライト記念から始動したほどですから。
ただ、斤量を背負わないG2も今はないからね。それに歳が歳だし、出るレースを逃げて選ぶようなことはできないから。能力試験が終わっても、脚元はなんともないから、あとは追い切りを14日と21日に追い切りをやって、川崎記念に向かえるとは思います。
爆弾を抱えている馬だから、その後の事は何ともいえないけれど……、巷じゃあ、今回、屈腱炎って発表したから、もうダメだろなんて思う人は多いと思うかもしれないが、奇跡の復活をさせてあげたいね。


-:1月7日の能力試験の時の様子はいかがでしたか?

波:久々の競馬場だったし、馬運車から降りて、ギャンギャン鳴いていましたよ。うちらは船橋の追い切りがあって、誰もついていけなかったので、山崎尋美調教師の息子さん(山崎誠士騎手の兄弟)に乗り運動はお願いしていましたが、喜んでくれていました。

-:あれだけの馬に乗れる機会なんて、なかなかないですからね。

波:そうですね。攻め馬自体は圭太だったんだけれど、併せる相手のノースダンデーが辞めてしまったので、C1かC2の馬と走る形になりましたが、一頭だけでスーッと上がってきましたよ。1400mで1分32秒1だから、C3の勝ち時計みたいなものでしたね。それを馬なりで上がってこられましたし、その後の脚元も何ともありませんでした。

-:以前のお話では「輸送をすることで、体を絞りたい」とも言っておられましたが、目論見通りにいかない部分もありましたね。

波:さっきも言ったように、こっちの体重計と誤差があるだろうからねえ。だから、この後は誤差を加味した上で調整はしていかないといけないかな。だいぶ体は締まってきましたけれどね。

-:目方としては最終的にどれくらいになりそうですか?

波:本当は510キロを切りたいけれど、510の前半くらいかな。たぶん、516~517になると、腹がドテっとしてみえると思います。
でも、歳もくっているし、8ヶ月休んで筋肉は落ちているような気がするね。日本テレビ盃(出走取消)の時くらいまでは良かったけれど、調教を休んだ期間もありましたからね。まず、一戦消化してみないことには、なんとも言えないですね。




-:川崎記念といえば勝っている舞台ではありますね。

波:ただ、フリオーソだから、いくら休養明けでも、大差負けになるような仕上げには出来ない。ソコソコ走らないことには、「ダメだったのか」と言われてしまいますから。
ここ何年かで地方から中央に通用するような馬って出てないですし、あとちょっとでアブクマポーロを抜いて、地方競馬史上の最高収得賞金にもなるらしいし、なんとか一番にならせてあげたいね。


-:このあとの追い切りは2本ということ、どんな調整になりそうですか?

波:この前の能力試験も追い切り代わりみたいなものでしたけれどね。あとは追い切りの疲労度にもよりますよね。追い切りの翌日は運動をさせるようにしますけれど、足りなければ、もう一日やったり。あと、歩様が硬ければ、もう一日乗ったり。僕はレース一週前までには疲れをとった状態で馬を造れるようにはしています。
今度のフリオーソに関しては、マズマズの仕上がりで無事に回ってきて欲しいというのが一番。今は脚元に熱もないし、スッキリしていますけれどね。僕は勉強のために自腹でエコー検査の写真を、本追い切りの二日後に撮っているんです。どの馬でも同じスケジュールで撮っておけば、比較もできますからね。それを見る限り、もうスッキリしていますよ。


-:獣医さんのジャッジはどうですか?

波:面白いもので、うちの厩舎はそれぞれ担当馬は決まっていますが、2人の獣医にやってもらっているんですけれど、方や「いいね~」と言えば、「重いね~」と言われたり、その人それぞれによって、ジャッジは変わりますからね。
自分は聴診器を借りて、自分でどんな心臓の音がいいのか、わかるように確かめさせてもらっています。一頭一頭タイプは違うと思うけれど、どの馬でも理想の音に近づけるように調教をやろうと思っています。


-:ご自身で聞き始めて音で違いはわかるものですか?

波:力強さが違いますね。エミーズなんかは「トクントクン」と小さな感じだけれど、フリオーソなんかは「ドックン…!ドックン…!」と違いますからね。フリオーソは持って生まれたものがあるんでしょうね。
それを考えればエミーズはわからないですね。2回競馬に使っても、子供のようなものですから。心臓だけでいえば、「完成したらどれだけのものになるんだ?」って、思いますよ。あとはこれで芝をこなせればね(笑)。僕も芝は勝ってみたいな~。


-:わかりました。また、エミーズパラダイスのお話も、後日伺うとして、最後にフリオーソで挑む川崎記念へ向けて、最後に一言お願いします。

波:脚元との戦いはありますけれど、なんとか乗り越えて、フリオーソの名に恥じないよう、出来るだけいい状態に持っていってあげたいと思います。僕らの出来ることはそれしかないですからね。それにしても、競馬の世界は難しい。ナメてかかったら足元を掬われますよ。しっかり努力していきたいと思います。


【波多野 敬二】 Keiji Hatano

1962年3月31日生まれ。川島正行厩舎所属。
北海道の手島健児厩舎、川崎の内田勝義厩舎での厩務員を歴任して、08年より川島厩舎に移籍。現在はフリオーソと昨年末の東京2歳優駿牝馬(S1)でも、2着に好走したエミーズパラダイスを手掛ける。 これまでに川島正行厩舎ではJRAの重賞ウィナーのディープサマーなどを担当してきた。