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森泰斗騎手

森泰斗騎手 ロングインタビュー(下)


怒涛の騎手人生を送ってきた森騎手は、昨年は南関東リーディングでも戸崎圭太騎手、御神本訓史騎手に次いで、年間3位にランクイン。飛躍の一年のキッカケにもなったエンジェルツイートとの出会いや、今後の展望も語ってくれました。

~飛躍の2011年~

-:そして、去年、一年間は森騎手にとって、明らかに飛躍された一年だったと思います。振り返っていただけますか?

森:さっきも触れたように仕事をして、寝て……。そんな繰り返しの毎日でした(笑)。週末は基本、マッサージをして、夜は家か近所でビールを飲んで。遊びらしい遊びはなく、買い物にちょこちょこ行くくらいで、一昨年、去年はひたすら働いていました。今年になって、調教を減らしてもらったことで、少しはゆとりが出ましたけれど。そうしたら、船橋の先生の反応がめちゃくちゃ冷たくなってきたんです……。言葉では言われてはいないのですが、「朝も遅くなって、天狗になってんじゃないのか」と。勘違いかも知れませんが、そういう雰囲気を感じるというか……。でも、僕はそんなつもりは全くないし、一昨年、去年のような日々を過ごしていたら、死ぬんじゃないかと思うくらい。

-:先に言われた睡眠時間もうかがう限り、そうですよね。

森:そうなんです。でも、冷たいんですよね……(苦笑)。だから、今年、船橋競馬に関してはいい馬に乗れないかもしれないですね。ただ、自分の体と相談しながら決めたことなので、仕方ないかと思いますが。今年は自分のペースで働こうと思います。基本、体調はすごくいいですけれど、昔は睡眠不足がきつかったですから。

-:“体との相談”というと、これまでに大怪我された経験はありますか?

森:二回ですね。宇都宮の時にスタ直で落っこちて、背骨の横の横突起を折ったのと、腕ですね。そっちは3年くらい前かな?大井で落ちて左肘の手術をしました。全治三カ月くらいだったのが、手術して、そこの骨を針金で縛って、一ヶ月で競馬に乗っちゃったから、全然くっつかなくて、針金を抜くまでに一年は掛かりました。「これじゃあ、一生、針金は抜けませんよ」と医者にも言われて、野球の松井選手が使っていたレーザーの器具を家にレンタルして取り寄せて、それで骨の合間を刺激する処置をして、やっとくっついて、それでもう一回開いて。針金をとったのは一昨年だったかな?大きな怪我はそれくらいですね。だいぶ少ない方だと思います。

-:去年の話題で言えば、エンジェルツイートという馬とのいい出会いがありましたね。そもそも乗るまでの経緯を振り返ってもらえますか?

森:当時は北海道から船橋の平和賞に使いにきたのですが、本当は大井の真島君が乗る予定だったんです。そこで彼が怪我で騎乗変更でになって、僕がたまたま空いていて、声が掛かって、乗ったら勝ってしまった……。そんな程度ですよ(笑)。騎手って運がいい時は乗せてもらえるし。

-:とはいえ、あの馬の将来性を考えれば、貴重な出会いですよね。エンジェルツイートのセールスポイントはどこでしょうか。

森:“スピード”ですね。スタートも速いし、テンのダッシュも速い。南関東の同世代じゃ、ついてこられる馬がいないんじゃないですかね。現状、距離は千六くらいがいいと思いますね。それ以上の距離となると、未知の領域。タイキシャトル産駒だし、競馬もスピードが勝って、バーンと行くタイプだから。

-:フットワーク的にその距離の限界はどう思いますか。



森:やはり、やってみないとわからないですよね。ただ、マイルまではこの前(東京2歳優駿牝馬)を勝ったので、証明できましたよね。そこからはわからないけれど、感触的には大丈夫じゃないかと思います。

-:近年の南関東の流れだと、(浦和の)桜花賞の結果次第では牡馬路線もあるんじゃないですか?

森:たぶん、牝馬路線と先生は明言しているので、東京プリンセス賞じゃないでしょうか。ただ、僕が決めることではないですし、陣営の方が決めることですから、わからないですけれどね。

-:手前はどちらが好きだとかはありますか?

森:現段階では右回りの方がいいんじゃないでしょうか。ただ、スピードの乗り方としての手前はどちらも変わらないと思います。平和賞は初めての左回りで千六。それもあって、走り方はちょっと良くはなかったですけれどね。今度の桜花賞は左回りが二回目だし、そのへんでどうイメージと印象が変わってくるのかは、わからないですし。あくまで今のイメージでは右回りがベターですかね。

-:去年の暮れの時計も過去10年ではクラーベセクレタに次ぐ時計でした。時計面でも楽しみになる内容でした。

森:そうなんですか?ペースや馬場差もあるので、一概には言えないとは思いますが、今年の3歳牝馬は過去最高レベルと言っても過言ではないんじゃないでしょうか。ショコラヴェリーヌやゴールドキャヴィアとか、ハイレベルですよね。でも、エンジェルがちょっとだけ抜けているかとも思いますが、今後の成長次第でわからないです。中央に使いに行っていたら、桜花賞の権利獲ることくらいは出来たんじゃないかとは思います。

-:芝も行けそうと。

森:行けると思います!逆に芝向きじゃないかと思うくらい。手先も軽いし、スピードもあるし。難しいところですけれどね。権利を獲れていたとしても、こちらで使っていた方が賞金も稼げるし、手堅くいけますから。そのへんは僕が言うことではないですし。

-:性格的にはどんな子ですか?

森:けっこう気が強いですねえ。でも、それなりには乗り手の言うことを聞くというか。上手く言い現し辛いですが、一つ間違えば、危うさもあるというか。

-:暮れに勝った時の口取りを見ていると、大人しそうにも見えました。

森:落ち着きはありますよ。イレ込んだり全くしないし。でも、鞍置きとかで近づくと、耳を絞って、怒ってみたりとか、そういう面はありますね。「何だよ」みたいな感じで急に怒り出したりしますから。でも、レースに向かうと、パドックでチャカつくところはなくて、堂々と歩いていますよ。そのへんの切り替えは出来るんじゃないでしょうか。ただ、まだ2回しか乗っていないから、知り尽くせたというほどではないですが。

-:森さん自身についても話を聞かせてほしいと思います。先日はJRAでも初勝利を挙げられましたね。

森:素直に嬉しかったですね。新聞を見た際に印が集まっていたので、「チャンスがあるかも」とは期待していました。東京コースで乗れるのも気持ち良かったですね。

-:普段、小回りのコースで乗られていて、東京競馬場となると、仕掛け処など、難しいところもあるかと思います。

森:う~ん……、そんなことはないと思いますよ。勿論、あれだけの大きいコースでも紛れはありますが、東京ほど力通りに決まるフェアなコースはないと思います。それに調整ルームが凄く綺麗ですね。各個人の部屋も広くて、ビジネスホテルのようですから。ああいう環境で競馬ができることは羨ましく思います。

-:そして、先ほど、「以前よりも技術は身についてきた」と仰っていましたが、自身から見たセールスポイントを教えてもらえますか?

森:僕はレースの流れに馬を乗せるのが、巧い方なのかと思ってはいるんです。“流れ”って、そのレースによって違うと思いますが、それをすぐに把握して、その時の最善のポジションを獲るとか、そういうことは少し人より長けているのかと。でも、それくらいです。追えるわけでもないですし。



-:地方特有というか、ガリガリやるようなところはないですよね。

森:そうですね。僕は馬のリズムを崩さないようにしたいと思っていて……。そうすると、いい結果が出ない時もあるんですよね。そういうことで本当にハナに行かないと駄目な馬もいますけれど、大概は馬のリズムで走らせた方がいいんです。要は自分の馬のリズムでいっていて、それでハナを切れる時もあるし。逆に来る馬がいれば、控える形になってもいい。その辺は考えて乗っているつもりです。でも、そうすると「何で、あそこで下げてしまうんだ」と怒ってしまう人もいて、それは直線もまだまだ長いし、馬のリズムで行ければ、盛り返せるという事を言っても、わかる先生はわかってくれたり、わかってくれない先生もいますよ。

-:結果論で位置取りとかは言えないですからね。

森:結果だけで言われることは多いですよ。それは結果を求められる世界だから、当然なんだろうけれど。でも、乗り役あがりの先生はわかってくれる事が多いです。我々、騎手だって、勝とうと思って乗っているわけだし、その時、その時で最善の策を選択して乗ろうと思って乗っているつもりだし。難しいですけれど。地方競馬は、小回りで千四なんか、バーンと行けば勝てるだろうと思う人がいるかもしれませんが、その中に幾つもポイントはありますからね。

-:レースの大小問わず。

森:そうです。どのレースも一緒ですよ!大レースがどうこうではなく。中央競馬に行っても、本当に同じです。毎レース毎レース全然違うから、それを対応していかないといけないですよ。そういうところに合わせられるのが、僕はいい方なのかもしれません。が、他は全然駄目です。人間性も良くないし(笑)。

-:いえいえ(苦笑)、じゃあ、あえて聞けば、騎手として良くなっていく為に直す部分はありますか?

森:まずは人間性ですね(笑)。けっこう誤解を受ける事が多いようですから。どうすればいいですかねえ?丸坊主にするとか?余計怖く見えるか(笑)。

-:そうですねえ……。この前、始めたブログもいいキッカケになるんじゃないですか。

森:そうです。最近、始めたんですよ。そういうところを見てもらって、少し印象も変わればいいですけれど、人に好かれるようになりたいですね。

-:最後にこれから、騎手・森泰斗をファンに観てほしいというところはありますか?

森:観てほしいところ……。(長い沈黙の後)特に考えてもないですし、毎日頑張っているので、僕に注目するよりも、馬の走りを観てほしいです。競馬は馬が主役、エンジンがなければ、走れないですからね。強いてあげるならば、僕も毎日頑張っていて、いい馬にも乗せてもらえるので、その馬の走りを観てほしいです。

南関東の森泰斗騎手ロングインタビュー(中)→

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【森 泰斗】 Taito Mori

1981年 千葉県出身。
地方初勝利
1998年4月18日 宇都宮競馬3R ツルマイローレンス
JRA初勝利
2012年2月4日 1回東京3日2R ユーロビート
地方通算成績は761勝(12/3/9現在)


■重賞勝利
・2011年 東京2歳優駿牝馬/・2011年 平和賞
(共にエンジェルツイート号)


戸崎圭太、繁田健一騎手等、現在の南関東のトップジョッキーらと同期として競馬学校に入学。1998年に足利競馬からデビューを果たすも、一時は騎手免許を返上して引退。その後、2001年に再デビューを果たすと、03年には足利競馬の廃止に伴い、宇都宮競馬へ移籍。
しかし、05年に所属した宇都宮競馬がまたしても廃止となり、船橋競馬へ移籍。移籍当初は南関東の中でも影を潜めていたが、2010~11年と台頭。昨年は南関東リーディング3位に輝き、南関東重賞初制覇も達成した。近年の南関東において、最も急成長を遂げたジョッキーの一人といえる。
先日開設した公式ブログは「森泰斗 Dirt Dreamer」 (http://plaza.rakuten.co.jp/moritaito/)